キーンコーンカーンコーン
授業終了のチャイムが鳴るが自称ベテランなおじちゃん先生は娘が冷たいだの孫が冷たいだのといった身の回りの世間話をしたことで長引いた授業。
この鐘は昼休みに入る合図でもあるため、飢えた男子高校生達が殺気立っておじちゃん先生を見つめていた。この時ばかりは普段寝ている生徒も同様だ。
「それでなー、婆さんも小遣いを減らしおってキャバ───」
「先生、授業は終わりです」
「お?おぉすまん都築。助かった」
不穏な単語が出てきたため先生のため、そして皆のために、僕はエロジジイの話を遮った。
ナイスだ都築!とクラスメイト達が労いの視線を送ると、我先にと学食もしくは購買に直行している。
学園内だと男子校故に変な気を使う必要のない。ウチは校則も緩い方なので特に顕著にそれがあらわれる。
殆どのクラスメイトが教室から飛び出したため残る生徒は僅か。その僅かな生徒は弁当組。
勿論、僕も弁当だ。
いや、弁当って言うよりパンだが。
「お、山吹ベーカリーのパンじゃん」
「おお、わかるのか田中」
同じ弁当組のクラスメイトがなんの文字も書いてない透明なビニール袋から取り出した惣菜パンを見て答える。
山吹ベーカリーは通学路で使用する商店街にあるパン屋であり、味はパン好きのモカが認める程の美味しさだ。
僕もその美味しさに幼い頃からリピーターとして買っている。知り合いいるから入りやすいし。
「いいよなーあそこ」
「そうだな」
「店員さん可愛いし」
学校内に出逢いがない男子校ならではのあるあるだ。
放課後に出逢いを求めるために地元の隅から隅まで探索しているそうだ。
悲しきかな。食より女な年頃なのだ。
え、僕?
この前よくよく考えたら精神年齢にアラサーなのだよ。寧ろバリバリに働かないと落ち着かないのだ。
それが血筋なのか、歳によるものなのかは神のみぞ知る。
『儂、興味ないから知らんぞ?』
────あ、そだねー
何やらお茶を飲む音がしますが、何度も聞きたくなるような音でもないのでゆっくりしてから来てください。
そんなことを考えてながら田中と一緒にパンを頬張っていると、何故か校内放送で呼び出しがあった。
慣れないよね。自分のクラスが呼ばれるだけでバカ騒ぎしていた男だけの教室がシーンっと静かになるから。
「呼ばれたぞ都築」
「みたいだな。すまないが鈴木、次の授業に間に合わなかったら先生に報告しておいてくれ」
「おう。後、俺は佐藤だ」
あらやだ失礼。
でもウチのクラス、何故か田中三人、鈴木四人、佐藤二人いるんだよね。
それでも名前を間違えてることに変わりない。それを怒らない田なーー佐藤に痺れる憧れるぅ!!
『ただの鳥頭じゃろ』
────ふっふっふ!これでも学年首席なのだよ!頭はいい方だ!
『お主は知らんか?頭が良くてもアホはアホじゃ』
失礼なじいさんだこと。
ついでに、それ誰の台詞?
『ウチの部下。何か儂、実力ある癖に頭の中煩悩だらけって。さらに部下の天使達に合わせられないって』
その部下の人、やるな。
ぼりぼりとせんべいを食べながら哀愁漂う雰囲気でしんみりと語り始めたじいさんを無視して、見たこともないじいさんの部下達を労った。
***
「突然だが皆に大切な話がある」
職員室に招かれて担任と色々話をした僕は時間通りに教室に戻ってきた。
次の時間もエロジジイ先生の持ち時間だったが腰を痛めたらしく自習となった。
これ幸いに、本来なら放課後に無謀な冒険に出掛ける学友達に待ったをかけて話すところだったが、時間を繰り上げてこの時間に話すこととした。
一応、生真面目と言われている僕はこのクラスの委員長でもある。入学当時に変化しない強化顔面を担任に買われ、今に至る。
名前を間違えることが多々ある僕もクラスに馴染んでおり、頼りにされている。
だから、最近女子バンドが熱いと語り合っていた皆も真剣な様子の僕の方へ顔を向けた。
これから考える騒ぎを配慮して、僕は廊下に接するドアを全て閉じて教壇に立った。
「都築ー話ってなんだー?」
「焦るな田中(正解)。お前達には冷静になって聞いて欲しい」
ごくり、と。誰かが空気を読んで喉を鳴らした。
僕はこのクラスの委員長だ。
名前があやふやでも彼らの性格は短期間だがよく知っている。
だから、落ち着かせなければならないと考えている。
「高校生活がスタートして早一ヶ月。中高一貫として男子校でない我が校の生活に慣れてきたであろうこの頃。一週間後には更なる親睦を深めるための林間学校があることを皆知っているな?」
「あー………まぁ、な」
「でもなー……」
「男だけで行くのも、なんか、なぁ?」
佐藤、じゃなくて田中が全員不満の声を漏らす。
別に男だけでも楽しくはなる。
だが、女子がいないことを少し物足りなく思う節がある。
「本来なら例年通りの場所に向かう予定だったが、どうやら昨年の先輩方が『女子がいないなら』という理由で部屋に引きこもったらしい」
「わかるー」
「俺らもそうしようか?」
二人の佐藤が賛成の声を上げる。
その声は伝染してゲーム機何台持っていくかなど、軽く学級崩壊となった。
いや、そもそも先輩方のボイコット理由もかなり頭が痛いものだが置いといて、っと。
「静かにしろ。説明中だ」
「だってよー都築。お前だって女子といちゃつきたくねぇのか?」
珍しい苗字の京極が尋ねてくるが、僕が誰かとイチャついたら後が怖いのでやめときます。
一人を除いて
「皆、何故僕が林間学校の話をしたと思う?」
「「「なんでって………まさか!」」」
意外と偏差値が高いうちの学校。
普段は女子の尻を追うアホが揃っているが頭だけはいい。
『だからお主ここを第一志望にしたのか』
じいさんの声を無視して、机に上半身を乗せて話を聞く体勢をとった全員に哀れみの視線を向けないよう気をつけて、しっかりと見渡した。
「この度、宿泊予定だった旅館が経営困難で廃業したことと昨年の事例を配慮して、学校側はある提案をした。その結果、案は決議された」
「「「……………」」」
一言一句逃さないかのように耳を傾けるクラスメイト達。
以前から一学年の生徒代表として話し合いをしていた最終決定が先程呼び出された時に聞かされた。
僕もまさか案が通るとは思っても見なかったが、意外と乗り気だった学園長なら妥当だろうと思っているさなかだ。
っと、これ以上は焦らさない方がいい。
結論だけを述べよう。
「今回の林間学校、隣の羽丘女子学園と合同となった」
「「「いよぉっしゃぁあああああああッ!!女子と林間学校だああああーーー!!」」」
飢えた男子校の男子生徒に極上の蜜を。
僕の予測通り、大合唱で喜びを露わにするクラスメイト達を見ながら小さく微笑む。
ドアを閉めていたとしても男子生徒の叫びは抑えられず、聞こえた隣クラスも歓喜の叫びを上げて授業が潰れた。
そして放課後。
僕の目的である授業中止によるサボりの魂胆が担任に見透かされていてこっぴどく怒られた。
評価してくださった皆様。
毎回ユーザー名を載せていましたが人数が増えて処理が大変となりましたので中止にさせてもらいます。
これも皆様のおかげです。
これからもよろしくお願いします。