親友に会いに行ったら何故か異世界召喚されたんだが...   作:晴月

4 / 4
おまたせしました! 続きになります!


第四話 新たな奴隷(なかま)

「さて、着いたのはいいものの.....どうしようか。」

 

ノリと勢いだけで奴隷商から二人の亜人を奴隷として購入したことに今更ながら冬馬は後悔していた。

 

「まぁ、今更だし....別にいいか。」

 

気持ちを切り替え、キャット種の少女に向ける。

 

「始めまして、俺がお前の主人....かな?渡辺冬馬だ...宜しくな。」

 

冬馬は少女に握手を求める....だが、

 

「フシャー!!!」

 

少女はまるで猫のように冬馬に威嚇し、これ以上近付くなと警告してきた。

 

(そういえばこの子、人間恐怖症だったな...すっかり忘れてた。)

 

しまった、と思いつつ彼女に近寄るも彼女は怯えた表情で近くの木の上に登ってしまう。

 

「あーやっちまった。」

 

今更だが、奴隷商の言葉を思い出す。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━

 

「よいですかなお客様、この街では亜人は差別の対象とされており、この街にいる亜人は全て奴隷という扱いにされております。」

 

「何で亜人が奴隷になってるんだ?....もしかして、自分達人間とは違うから...とかそういう理由か?」

 

冬馬の質問に奴隷商は頷く。

 

「全くもってその通りでございます。」

 

「成る程。」

 

何処の世界でも差別というのは無くならないらしいという事実を再認識し、彼女達をこれからどう育てていこうかと考えていたが、

 

「なぁ冬馬?」

 

突然、尚文に声を掛けられて振り向く。

 

「ん?どした尚文。」

 

「そろそろ王様が俺達に仲間を紹介するという約束の時間じゃないか?」

 

「え?......あ!」

 

視界の端を見て、そろそろ時間が近付いてきている事に気付き急いで城へと走っていく。

 

「悪い、また金が入ったら宜しく頼む!」

 

「ほう、それはつまり....ご贔屓にしていただくということで?」

 

「そう捉えてくれて構わない、行くぞ尚文!」

 

キャット種の少女をお姫様抱っこしながら走っていく。

 

その際、腕に噛みつかれてしまう。

 

「イテッ!....今は少しだけ我慢してくれ!」

 

「あっおい冬馬!?.....ハァ...仕方ないな...ほら」

 

「えっ?」

 

尚文はしゃがむとラクーン種の少女に背中を向ける。

 

「何してる、早く乗れ。」

 

「は、はい。」

 

少女を背中に乗せて冬馬の後を追いかける尚文、

 

その後、王様に彼女達を仲間として紹介し、そして再び街の外へとやって来ている。

 

「さて、どうしたもんか...」

 

自分の奴隷となった少女の怒りを買ってしまい、どうすべきかと思考を巡らせる。

 

「冬馬、俺達はあっちで少しレベリングしてくる。」

 

「分かった、俺はもう少し此処にいる。」

 

尚文はラフタリアを連れて、別の場所へと歩いていった。

 

対して冬馬は、木に登って此方をずっと威嚇し続けている少女をどう下ろしたものかと考えていた時、

 

「ん?」

 

「.....」

 

少女の四肢がプルプル震えているのが分かった。

 

「お前....もしかして、降りられないのか?」

 

「!....そ、そんな事は...無い。」

 

顔を赤くしてそっぽを向く。どうやら図星だったみたいだ。

 

「だったら何で登ったんだよ?」

 

「そ、それは....その...」

 

「それは?」

 

「....ううう...うるさいうるさいうるさい!お前が悪いんだ!」

 

「な、何だ急に!?」

 

「と、兎に角!私はここから絶対に降りないからな!」

 

「降りられないの間違いじゃないのか...?」

 

「ヘ、屁理屈言うな!」

 

「いや言ってるのお前なんだが...?」

 

これ以上はキリがないが、こんな会話を尚文達がレベリングしている間、延々と続けていた。

 

━━━━━━━━━━━━━━━

「どうだそっちは....って聞くまでもないか。」

 

「ああ、見ての通りだ。」

 

"命令"して木の上から降ろす事には成功したものの、それによって冬馬の顔には少女から受けた引っ掻き傷が幾つも出来ていた。

 

「今からでも返品しに行くか?」

 

尚文が冬馬の身を案じて、そう切り出す。

 

しかし、

 

「却下だ....俺は、そういう風に"生き物"を物扱いするのが嫌いなんだ....だからこそ、俺が責任持って最後まで面倒を見るさ。」

 

「そうか....分かった。」

 

冬馬の言葉を聞き、尚文は納得した様子で先に行ってしまった。

 

「さて、俺らも....って、どうした?」

 

「.....何でもない。」

 

少女は、冬馬の言葉を聞いていたのか、何も言わずに尚文の後を追い掛ける。

 

「.....?」

 

そんな少女の反応に首を傾げるしかない冬馬であった。

 

━━━━━━━━━━━━

 

「いらっしゃい!」

 

冬馬達は、武器屋へと来ていた。

 

「実は俺ら、冒険を始めたばかりなんです。なので...色々商品を見せてもらえないでしょうか?」

 

冬馬が店主の男性にそう声を掛けた。

 

「兄ちゃん、随分礼儀正しいな....でも、俺にそんな気遣いは無用だぜ。」

 

「...そうか、なら色々見させてくれ。」

 

「あいよ、好きに見ていってくれ。」

 

店内を隈無く見ていく冬馬と尚文

 

すると、

 

「これは...短剣か?」

 

棚に設置されている短剣を見つけると手に取り、まじまじと眺める。

 

「俺のとはかなり作りが違うな...やっぱり俺のは、伝説の武器だからか?」

 

右手に自分のダガーを持ち、商品の短剣と見比べてみる。すると、

 

《ショートダガーが登録されました》

 

新しいウインドウが表示された。

 

「ん?」

 

(何だ今のウインドウ?....もしかして...!)

 

試しに、他の短剣を自分のダガーに翳してみる。

 

《ウッドダガーが登録されました》

 

《アイアンダガーが登録されました》

 

《スチールダガーが登録されました》

といった感じで複数の短剣が冬馬の短剣に登録されていった。

 

(成る程、伝説の武器と同じ形の武具に翳すと、それが伝説の武器に情報として登録されるって事か...)

 

まるで、電子機器のようだと思った。

 

「尚文。」

 

「どうした?冬馬。」

 

盾をまじまじと見ていた尚文に声を掛け、試しに自分の盾を商品の盾に翳すように伝える。

 

「......本当に登録された。」

 

「やっぱりな。」

 

尚文の言葉を聞き、冬馬はふと何か考え始めた。

 

「...もしかして...?」

 

ふと思い付いた事が出来るのかどうか店主を見つけて訪ねてみた。

 

「ちょっといいか?」

 

「ん?どうした?」

 

「魔物を倒した後に残る素材って...武器とか防具にできるのか?」

 

「おお、出来るぞ....ただし、量はこちらが指定した数を用意してもらう事になるがな。」

 

「成る程。」

 

此処まで来ると最早ゲームの世界のようにも思えた。しかし、実際に冬馬自身が感じ取っているこの感覚は紛れもなく現実のものであると彼に理解させる。

 

━━━━━━━━━━━━━━━

 

「さて...」

 

あの後、冬馬は尚文 ラフタリアと一時別行動をとって"波"に備えての準備をしていた....のだが、

 

「あれ?...尚文は?」

 

約束の時間になっても一向に来ない尚文に「何かあったのか?」と首を傾げる。

 

「た、大変です...!!!」

 

「あれ?ラフタリア...?尚文は?」

 

「それが...兵士の人に連れていかれて...」

 

「なんだって!?」

 

それを聞いた冬馬は慌てて城へと走って行く

 

「ラフタリア、その娘と一緒に武器屋で待ってろ!!」

 

「は、はい。」

 

それだけ伝えて走っていった

 

(あの糞野郎....俺から別れた途端に強行手段に出やがって....許さねぇ...!!!)

 

冬馬は怒りで我を忘れそうになるが、慌てて正気に戻り尚文を助けるべく走るのだった

 

━━━━━━━━━━━━━━━

 

「以上の事から『盾の勇者』岩谷 尚文を刑罰に処する。」

 

「俺は無実だ!!!」

 

突然見知らぬ女に痴漢呼ばわりされ、兵士に城へと連行された尚文。

 

「」

 

(クソッ!コイツら....!!!)

 

最早、自分を犯罪者と決めつけて判決に入る王達に沸々と怒りが込み上げてくる。

 

(もう駄目なのか....!!!)

 

その時、

 

「いやいや、幾らなんでも判決が早いでしょうよ」

 

「!!!」

 

「な、何故此所にいる!?」

 

其処には『双剣の勇者』である冬馬がヒラヒラと手を振っていた。

 

「今は神聖な裁判の審議中だぞ!!!立場を弁えろ!!!」

 

「神聖な裁判...ねぇ...」

 

何か言いたげな様子で王と尚文 そして他の勇者達を一瞥する。

 

「俺には冤罪をでっち上げようとする姑息な手段にしか見えないな。」

 

「き、貴様...!!!」

 

「それに、証拠はあるのか?」

 

「し、証拠?」

 

「そうだ証拠だ....尚文は?犯罪を犯したという根拠になり得る証拠があってこんな事をしているんだろう?」

 

「あ...当たり前だ!!!」

 

王の言葉に「へぇ...」と試すように冬馬は笑みを溢す。

 

「なら、どんな証拠なのかを教えてくれませんかね?」

 

「証人を此所に。」

 

王が呼んできたのは赤髪の女性であった。

 

「アンタか。」

 

「ええ。」

 

女性はまるで自分は被害者だと言いたげな様子で俯いている。

 

「話してくれ...どんな風に被害を受けたのかを。」

 

「はい....実は···」

 

女性は話し始めたが、その話を聞いて冬馬は 「は...?」

 

としか言えなかった。

 

何せ言っている事がまるで最初から尚文が悪い と言っているような内容を並べただけのものだったからだ。

 

「どうです?これで分かっていただけたでしょうか?」

 

女性は尚文を更に貶めることができると内心喜んでいる事は冬馬にも分かった。

 

「あぁ....よ~く分かったよ....アンタらがとんだペテン師だってことがな!!!」

 

冬馬は女性と王を睨み付けてそう言い放った。

 

「な!?」

 

「な、何を言っている!!」

 

これに対し、王は憤慨した。しかし、冬馬は続ける。

 

「仮に尚文が犯罪を犯したと仮定しよう...そしたら、目撃者がいる筈だ。」

 

「目撃者?」

 

「そうだ、でなければこんな所に尚文が連れてこられて檻に閉じ込められてるなんておかしいからな....」

 

冬馬は尚文に『俺に任せとけ』とアイコンタクトで伝えた。

 

「先ずは其処から洗っていこうか....先ずはアンタ。」

 

「え、私?」

 

「街中で痴漢されたと言っていたが...それは何処でだ?」

 

「それは....大通りです。」

 

「なら、益々おかしい」

 

「な、何がおかしいって言うのよ!!」

 

「あの時間帯、その場所は人通りが多い。ならば少なくとも目撃者の一人や二人は居てもおかしくはない筈だ....それなのにアンタはまるで目撃者なんて一人も居ないと言った....その時点で矛盾が発生する。」

 

「!?」

 

「それに、あんたの言い分からして妙だ···」

 

「な、何が妙だって言うのよ!?」

 

「痴漢犯罪は、“必ず”証拠が残る犯罪なんだ。今の言い分だと、その証拠が無い。だけど尚文は犯人だと勝手に決めつけてそのまま進めようとしているように聞こえる。」

 

「な···!?」

 

女の反応から察するにどうやら図星のようだ。

 

「そ、そこまで言うなら証拠を出しなさいよ!」

 

すると女は、突然捲し立てて冬馬に詰め寄った。

 

「いいだろう。なら『スキル』を使わせてもらう。」

 

「ス、『スキル』···?」

 

「待てい!」

 

「突然、何だ?」

 

冬馬が『スキル』を発動しようとした矢先、国王が待ったをかけた。

 

「これ以上は裁判の邪魔になる!双剣の勇者殿は即刻退場願おうか。」

 

どうやら、核心に迫られそうになって焦っている様子。

 

「ほう?そうきたか···だけどいいのかな?国王?」

 

「な、何がだ?」

 

「このまま俺を退場させれば、俺はあんたの株を落とすことになるぞ?」

 

「な、何を言い出すかと思えば···そんなこと···!」

 

「或るはずがない···と?そう言いたいんだろうが、それも出来ちゃうんだよなぁ。」

 

「な、何を根拠にそんなことを···」

 

「いやいや、よく考えてみなよ···俺は“双剣の勇者”だ。“波”が発生する数百年に一度、現れるか現れないかの特殊な存在なんだぜ?それを国王であるあんたが城から追い出した···な〜んて話が城下町に広がってみなよ···少なくともあんたの信用、ガタ落ちだぞ?いいのか?」

 

軽く脅しを掛け、国王を揺さぶる冬馬。

 

「ぐ、ぐぐぐ···!!!」

 

国王も冬馬の言っている事の意味を理解しているからこそ歯噛みしているのである。

 

「そういう訳で、『スキル』を発動させてもらう。異論は無いな?」

 

国王は、、暫く拳を握りしめて俯いていたがゆっくりと頷くのだった。

 

「では、許可が降りた所で···!」

 

 (スキル 『鑑定』発動!)

 

スキルを発動したと同時に冬馬の両眼に同サイズの魔法陣が展開される。

 

「······」

 

「な、何よ···?」

 

女は自分の周囲を回りながら自分を凝視する冬馬を訝しげに見る。

 

「なる程。」

 

何かに納得した様子で次は尚文へと近付く。

 

「尚文、両手を見せてくれ。」

 

「あ、あぁ。」

 

言われるがまま尚文は両手を冬馬に見せ、それをじっと見つめる冬馬。

 

「その手で何処か触ったか?」

 

「そういえば、檻の鉄柱を···」

 

「コレか?」

 

「そうだ。」

 

「······なる程ね。」

 

じっと檻の中も入念に確認すると、冬馬はやはりな···と呟いた。

 

「『スキル』を発動した結果、尚文が冤罪だと分かった。」

 

「馬鹿な!?一体、何を根拠に···!」

 

「証拠なら、その女の衣服と尚文の手にある。」

 

「?···一体、何を···言ってるの?」

 

「痴漢ってのは加害者が被害者の身体に直接触れる事で発生する犯罪だ。···ならば、被害者の触られた箇所には加害者の手の皮膚片が付着しており、対する加害者の手には衣類の繊維片が付着していなければこの犯罪は成立しない。」

 

「「!?」」

 

どうやら国王と女は冬馬の言いたいことを理解したようだ。

 

「だが、スキルを使って二人の衣類と手を確認したが、どちらにも証拠となり得るものなんて付着していなかった···つまり、この痴漢犯罪はデタラメ···冤罪事件と言うわけだ!!!」

 

「で、デタラメだ····そんな···そんなことが···!」

 

冬馬が核心を突いた事で国王は動揺を隠しきれず、女もあたふたとするばかりである。

 

「さて、これは痴漢犯罪ではなく冤罪事件にすり替わった···では、話を戻そうか···」

 

すると、冬馬は尚文に背を向けて二人に対峙する。

 

「俺たちのいた世界では、冤罪事件は詐欺罪として裁判を行われる···が、」

 

「?」

 

すると尚文を一瞥してから再び二人に向き直る冬馬。

 

「今回は傷害罪と暴行罪および逮捕・監禁罪も含まれるため、彼女には慰謝料として金貨を···そうですね····金貨10枚ほどで手を打ちましょう。」

 

「な!?···そんな馬鹿げた話が通るか!!」

 

「おや?ご不満で?」

 

「当たり前だ!そんな道理、通ると思って···!」

 

「いやいや、通るんですよこれが。」

 

「な、なに···!?」

 

「さっきも言いましたけど俺たちのいた世界での話···あれは、罪人を裁く際に適応される方法として懲役刑と罰金刑が存在する。···今回は冤罪事件ということだからそちらの女性には懲役刑で数年間、王城内の牢に幽閉する···もしくは慰謝料として金貨を10枚ほどこちらに払ってもらうかの二択があります。」

 

しかし、と付け加えて話を続ける。

 

「今回、彼女が犯した冤罪事件···詐欺罪に該当する犯罪です。···更に、国王···あんたは傷害罪、暴行罪に逮捕・監禁罪とまぁ多くの罪を犯した訳だ···あんたにも牢屋に入ってもらいたいところだが···腐ってもあんたは国王だ。牢屋になんて入れられない。」

 

だからこそ、と付け加えて更に話を続ける。

 

「あんたらには罰金刑···つまり、慰謝料として金貨十枚での支払いを請求する···これが妥当な判決だ。」

 

「···!····!」

 

怒涛の展開に国王は、もはや絶句することしか出来ない。

 

「さてと···まずは、あんたに支払ってもらおうか?」

 

そう言って女を見やる冬馬。

 

「む、無理よ!そんな額···払えないわよ!?」

 

「いや?払えるだろ···だってあんた···」

 

次に冬馬が発した言葉でその場にいた全員が驚くことになる。

 

「この国の···第一王女(・・・・)···だろ?」

 

「!?」

 

女は何故バレたのか分からなかった。それもそのはず、自分の正体を知っているのは国王と城の兵士達だけなのだから、冬馬が自分の素性に気付くはずなどないと高を括っていたのだから。

 

「何故バレたって顔してるな···いいだろう、ネタバラシしてやるよ。」

 

したり顔で話を続けだす冬馬。

 

「実はこの部屋に入る前に、この国の()の支配者である王女様の絵を見てしまってね。」

 

『え!?』

 

これに驚いたのは冬馬と尚文以外の勇者達三人であった。どうやら彼らはこの王がこの国を治めているのだと思っていたようだ。

 

冬馬の言葉に王は今にも爆発しそうなほど顔を真っ赤にしていた。

 

「そして、此処に来たとき証人として出てきたアンタを見たら···この国の女王様そっくりじゃないかと思ってね···だから、コレはアンタ等親子が尚文を迫害しようと仕組んだ冤罪事件だと

思ったのさ。」

 

と、女を見ながらそう答え、やってやったぞと言わんばかりに顔を綻ばせる冬馬。

 

「アンタ等王族については城下町で詳しく教えてくれた人()がいてな、それでアンタが第一王女だと知ったのさ。」

 

この達というのはこの後、このバカ王が国民に対して罰を与えないようにするため敢えて誤魔化すように冬馬が口からでまかせを言っただけである。

 

「さて、ネタバラシしたし···本題に戻るとしますか、金貨十枚···払ってもらおうか。」

 

「ぐ···グググググ···!!!」

 

その後、忌々しげに冬馬達を睨んでいた国王であったが、尽く冬馬に論破されてしまいもはや何も言い返せないと理解すると冬馬の要求を呑み、金貨を払ったのだった。そして冬馬は、尚文を連れて再び街の外へと戻るのだった。

 

━━━━━━━━━━━━━━━

 

それから数時間後、

 

「...何で助けたの?」

 

「ん?何だ、突然...」

 

もしもの時の為に準備をしている冬馬の元に少女が訪ねてくる。

 

「だから、何であの尚文とかいう人を助けたのか聞いてるの。」

 

どうやら少女は冬馬が尚文を助けた事が理解出来ない様子である。

 

「何でって、そりゃ......友達だから?」

 

当たり前だろ?と言いたげに少女を見て言い放つ。

 

「理解出来ない....例え、友達でも裏切る時は裏切るのに...」

 

少女の言葉に冬馬は何かを感じたのか、少女との距離を縮める。

 

「な、なに...?」

 

「......」

 

少女は冬馬の行動に疑問を感じたが、冬馬は黙ったまま少女の隣に座り込んだ。

 

「ちょうどいい、昔話をしよう。」

 

「昔話...?」

 

こんな時に一体何を言っているのだろう? 少女は冬馬の事が益々分からなくなった。

 

「今から約10年以上前、此所とは違う異世界で一人の少年が家族と幸せに暮らしていました。」

 

唐突に始まった昔話に「?」の文字が浮かぶ少女。しかし、何故か分からないがその話は聞くべきだと感じていた。

 

「しかし、ある時少年を残して家族は全員死んでしまいました。」

 

「え...!?」

 

「少年には身寄りがなく、仕方なく施設へと預けられました....其処から彼の地獄は始まりました。」

 

「......」

 

「施設に入って暫くして他の子供達が彼を虐め始めました。...最初はほんの些細な事だったのかもしれません...少年にも理由が分からなかったからです。」

 

「....周りの大人は?」

 

「...!」

 

少女が昔話に興味を持って質問してきたことに冬馬は驚いた。

 

人間不信だと聞かされていた少女が身を乗り出してこちらを見ているからである。

 

「....残念ながら、そのまま大人達も少年を虐めていたのです。....そんなことがあり、少年は心を閉ざしてしまいました。」

 

「......」(同じだ...私と...)

 

少女は奴隷になる前の事を思い出していた。

 

この世界では絶命したとされていたキャット族の生き残りというだけで見せ物扱いされたり酷い時には殴る蹴る等の暴行を受けたりしてきた暗い過去を。

 

「それから10年の月日が経ちました...少年は学校と呼ばれる施設に入り、黙々と勉強を頑張っていました...いつか自分を誰にも虐められないようにその世界で一番偉い人になろうと考えていました。」

 

「....それで?」

 

「しかし、虐めというのは何処へ行っても無くならないものなのです...その学校でも少年は再び虐めを受け、誰も信用出来ないと思い、一人孤独に生活していました....しかし、進学してから彼の生活は変わりました。」

 

「!!!」

 

「少年が何時ものように虐められていると...」

 

冬馬はその時の事を思い出す。

 

━━━━━━━━━━━━━━━

 

『オイ!何やってんだお前ら!!!』

 

「....誰....だ?」

 

複数人で冬馬を囲むように暴行を加えていた人物達に一人の少年が立ち向かった。

━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

「まさか...!」

 

「そう、その少年の正体は...盾の勇者と喚ばれた男 『岩谷 尚文』だったのです。」

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

「何で助けた....!」

 

『は?』

 

「何で助けたのかって聞いてんだよ!!!あれか!?虐められてる俺を助けた俺格好いいとかそんなんだろ!?」

 

『お、オイ...落ち着けって....』

 

んで......

 

『ん?』

 

「何で誰も....助けてくれないんだよ....!」

 

ひたすら泣き続ける冬馬にどうしたもんかと悩む尚文。

 

悔しげに顔を歪ませ、俯く冬馬に対して尚文が取った行動は、

 

「えい。」

 

デコピンだった。

 

「な、何すんだよ!?」

 

「お前さ···色々と抱え込みすぎなんだよ。だからさ、その重い荷物俺にも背負わせろよ。」

 

そして、この出来事から尚文と冬馬の関係が始まった。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━

 

「それから数年間、少年は親友として尚文と仲良くしており、現在は彼に助けられ、救われたことに感謝して今度は自分が彼を助けよう...そう心に決めたからこそ....『俺』は尚文を助けた...続く。」

 

「はぁ......はあ!?」

 

「まぁそういう訳だ...俺はアイツに救われた...だからこそ、俺は尚文を助けた....例え、世界中の誰もがアイツを非難しても...俺だけでもアイツを信じてやらないと...」

 

拳を力強く握って冬馬は呟いた。

 

「そっか...」

 

少女は冬馬の昔話を聞いて、

 

「えい。」

 

ポスッ、と彼の膝の上に乗った。

 

「······何してんの?」

 

突然の行動に、意味が分からないと冬馬は首を傾げる。

 

「いや...その.....」

 

少女もどう言ったものかと考え、

 

「あーもう!!!....とにかく!私はアンタに協力する...それだけよ!」

 

「え?....あ、あぁ....ありがとう....?」

 

「何よその不思議そうな顔は....兎に角、私はアンタに協力する...いいわね?」

 

「あぁ....うん、こちらとしても願ったりだ....え~っと...」

 

「...シオンよ。」

 

「え?」

 

「だからシオン!私の名前!」

 

「あぁシオンね...俺は 冬馬。『双剣の勇者』だ...宜しく頼むぞ。」

 

「此方こそ。」

 

二人は互いに握手を交わした。これから来たるであろう“波”を互いに乗り越える為に···

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。