【PSO2外伝】バトル・アリーナ・Girl's!   作:万年レート1000

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息抜き


地球からの留学生

 オラクル船団航宙艦第128番艦テミス。

 かつてダーカーの大群に襲われて相当ダメージを受けたこの艦も、今やすっかりかつての街並みを取り戻していた。

 

 【深遠なる闇】を打倒し、ダーカーが絶滅してから数年。

 闇の害虫共が残した傷跡なんて一つも見えない、平和な市街地を頬杖ついて見下ろす少女が一人いた。

 

 アークスにならない・なれない一般人が通う小中高一貫の普通学校の二十四階教室窓際席。

 

 縁の厚い眼鏡と、大きなマフラーで口元を隠していることで顔の殆どが隠れている金髪ロングヘアの女の子だ。

 白色を基調として、黒いボーダーの入ったこの学校の制服を着ているものの、教室に居る他の生徒とはまるで無関係の存在であるかのように一人教室の隅で朝のホームルームが始まるのを黙って待っているようだった。

 

 彼女の名前は『メロディルーナ』。

 長ったらしい名前だが、オラクルではわりとよくあることである。

 

「ねえねえ聞いた? 今日留学生がやってくるんだって!」

「留学生~? 何処から?」

「知らな~い、まあ女子高だから、素敵な出会いとかは無さそうだなー」

 

 クラスメイト達の仲良さそうな会話に、悲しいことにメロディルーナは交ざっていない。

 

 別に一人で居ることは寂しく無い。

 というより、一人で居ることにはもう慣れてる。

 

 現代なら誰でも持っている通信端末で基本プレイ無料のゲームを遊んでいれば暇なんてあっという間に潰れてるのだ。

 友達というのは聞いたところによれば一緒に遊ぶ相手のことらしい。ならば一人で遊んでいても充分楽しい私には友達だとかそんなものは要らないのである。

 

 なんて、強がり半分本音半分の独白を脳内で呟いていると教壇に備え付けられたテレパイプから先生が姿を現した。

 

 髪にウェーブの掛かった茶髪の優しそうなニューマンの女教師である。

 実際優しく、生徒からの人気は非常に高いのか生徒たちは皆先生が来たことに気付いた瞬間、何も言われずとも静かにそれぞれの席に着いた。

 

「は~い皆さんおはようございます。さて、今日はホームルームを始める前に大ニュースがありますよ~」

 

 妙に間延びした喋り方が特徴的な先生だ。

 大ニュース、というのはさっきクラスメイトが話していた留学生のことだろう。

 

(留学生、って言っても私には関係ないや)

(クラスメイトが一人増えたところで、何も)

 

「留学生がやってくる~、ということは知ってる子もいるかもしれませんが……ふっふっふ~留学生の出身地を聞いたら皆びっくりしますよ~?」

 

 さ、入ってきてくださ~い、と先生が通信端末で何処かに喋りかけると、教壇のテレパイプが起動して中から女の子が一人教室に入ってきた。

 

 オラクルでは割と珍しい、艶のある綺麗な黒髪に明日への希望に満ちているような光沢のある黒眼。

 凛々しさと可愛らしさが同居している、不思議な雰囲気を纏った美少女だ。

 

「初めまして! オラクルの皆さん! あたしは地球から来た宮本(ひかり)……っと、オラクルには名字が無いんだったわね! だったらヒカリ……『ヒカリ』と呼んで頂戴! 今日からよろしくね!」

 

 美少女は、とびきりの笑顔でそう言い放った。

 

 まるで恒星のように、眩しく光輝く笑顔だ。

 この笑顔を見た瞬間、メロディルーナは確信する。

 

 この恒星少女と自分は、絶対に相容れない存在だと。

 

 一目で分かる。

 奴は陽キャの極みのような存在だ。おそらく自分とは一言も喋らないまま留学期間を終えることだろう――。

 

(ほらね、留学生がやってきたとしても、私の人生には何も影響が無い)

 

 地球出身の留学生、という事件にクラスメイトたちが浮き足立つ中、メロディルーナは顔色ひとつ変えず、視線を窓の外の街並みに落とした。

 

 じゃあヒカリちゃんの席はそこの廊下側の最前列ね〰️、とメロディルーナの確信を裏付けるように留学生の席がメロディルーナとは真反対に指定され、一限目の始まりのチャイムが鳴った。

 

 今日もまた。

 いつも通りの一日が始まる。

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

 今日はきっと。

 素敵な一日になる。

 

 宮元陽――もといヒカリはそんな確信を胸に抱いていた。

 

 実のところ、地球からオラクルへの留学なんてものは有り得るものではない。

 数年前、紆余曲折を経て地球とオラクルの交流は始まったのだが、諸事情から地球人類の殆どはオラクルの存在を知らないーーいや、

 オラクルが実在することを知らない、と表現すべきか。

 

 各国の政府上層部と、元『マザークラスタ』幹部連中に『とある事件』の当事者たち。

 

 それらを除いた地球人は、皆オラクルを『PSO2』というゲームに出てくる架空の存在だと認識しているのだ。

 

 何故そんなことになったのかは説明すると長くなるので省くとして、当然ながらヒカリもその他大勢と同じようにオラクルの存在は架空のものだと認識していたのだが……。

 

 ヒカリの父親は、日本でも有数の政治家なのだ。

 だから――。

 

「あたし見ちゃったのよ! パパがオラクルの人と密会してるところを! そこからはもう行動あるのみだったわ、だってフィクションだと思ってたオラクルが本当にあるだなんてワクワクするじゃない! 行ってみたいと普通思うじゃない!」

 

 放課後。

 ヒカリは世にも珍しい地球からの留学生ということで、授業が終わると同時に即クラスメイトから囲まれ質問攻めにあっていた。

 

 しかしヒカリは全く臆すことなく質問に答えていき、今はどんな経緯でオラクルに留学することになったのかの説明中である。

 

「と、いうわけで早速その後キャンプシップに潜入してオラクルまで連れていって貰おうとしたんだけどバレて……」

「行動力が凄すぎない!?」

「なんやかんやでウルクさんと仲良くなって、事情を説明したら留学生としてこっちの学校に通わせてもらえることになったわ!」

「ウルクって……ウルク総司令!?」

「とても気さくで優しいお姉さんだったわ!」

 

 そんな、わいわいと談笑に花を咲かせる女子高生たちを横目に見ながら、メロディルーナは黙々と帰る支度をしていた。

 放課後に一緒に帰る友達も居なければ、部活にも所属していない彼女が授業終了後即帰宅しない理由など無い。

 

 留学生に話しかける? それが出来る人間ならば、どれだけ人生が楽だったことか。

 

 それに何より。

 今日は大事な用がある。

 

「あ! 待って!」

 

 教室を出ようとした瞬間、留学生がそんな台詞を大声で叫んだ。

 

 いやまさか。

 別の誰かに呼びそかけただけだろうけど一応、と振り返る。

 

 

 そこには大急ぎで駆けつけてきたであろう留学生の姿があった。

 

「ま、待って待って! 急いでるかもしれないけどちょっと待って!」

「…………っ」

 

 手首を掴まれて、強引に引き止められる。

 急いではいないが……授業が始まって早々に帰る陰キャの姿が、陽キャには用事があって急いでいるように見えたようだ。

 

 そりゃそうだ、彼女たちの中では放課後というのは友達と遊ぶ時間であり、楽しく一緒にだらだらとお喋りする時間であり、別れを惜しみながら共に下校する時間なのだから。

 

「あのね、連絡先交換してくれないかしら?」

「ぇ……?」

 

 な、何で? と首を傾げると、ヒカリは当たり前かのようにその理由を告げた。

 

「えーと、クラスメイト全員の連絡先を聞いて回ってるのよ! 後は貴方だけだわ!」

「……私、通信端末、持ってないから」

 

 何だそのリア充の極みみたいな発想、怖い。

 あまりにも自分と違いすぎる彼女と出来るだけ距離を置きたくて、咄嗟に嘘を吐いてしまった。

 

 ていうかさっきからクラスメイトたちの視線が痛い。

 絶対「誰? あの子?」とか「あんな子いたっけ……?」とか思われてるに違いない、という被害妄想がメロディルーナを襲う。

 

(私は、目立ちたくないんだから)

 

 もう放っておいてくれ、と無言でヒカリの手を振り解いてメロディルーナは教室を早足で出て行った。

 


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