【PSO2外伝】バトル・アリーナ・Girl's!   作:サイコウォンド至上主義

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初めてのバトルアリーナ

 

「ふぅ……無駄に疲れたー……」

 

 ああいうのは、本当に勘弁して欲しい。陰キャにはテロみたいなものだ。

 そんなことを呟きながら、眼鏡と鼻まで覆った巨大マフラーがトレードマークの少女――メロディルーナはテレパイプから姿を現した。

 

 その瞬間、眼前に広がるのは赤と青の照明以外は左右対称なドーム状の広場。

 最近は本当に此処に来ること以外人生に楽しみが無いな、とそんなことを考えながらメロディルーナは辺りを見渡す。

 

 独特の賑わいや空気感が心地よい。

 戦いの場なのに、楽しげな雰囲気すら見えてくる此処は――そう、

 

「おぉー! 『バトルアリーナ』じゃない! PSO2の中で見たことあるわ! そういえばまだプレイしたことなかったわねー、貴方はよく此処に来るの?」

「うん、まあ参加はせずに観戦だけだけど面白いし良いストレス解消に……ってうわぁあああああ!?」

 

 思わず女子らしくない悲鳴をあげながら、飛び退く。

 しかしそれもしかたあるまい、あまりにも自然な動作・口調で先ほどテロをかましてきた女――ヒカリが隣に立っていて親しげに話しかけてきたのだから。

 

「な、な、なんで此処に……?」

「テレパイプのログ見れば何処に行ったのかなんて一発で分かる! ってアコちゃんに教えて貰ったわ」

「あ、アコちゃん……?」

 

 多分クラスメイトの誰かだろう。

 

「って、そこはどうでもいいよ……どうして着いてきたの?」

「貴方と友達になりたいからよ!」

「…………何で?」

 

 意味が分からない――思考回路が違いすぎる。

 それともこれがオラクル人と地球人の違いだということなのだろうか。

 

 勿論そんなことは無いのだが、地球人と初めて会ったメロディルーナがそう勘違いしてしまうのも仕方ないだろう。

 

 ヒカリは眉間に皺を寄せながら首を傾げるメロディルーナを見て、一瞬キョトンとした後「ふーん?」とジト目になって、呟く。

 

「……憶えてないんだ?」

「えっ? 何? 今何て言った?」

「ねえねえ、折角だしプレイしていかない? バトルアリーナ!」

 

 即座にパッと明るい表情に切り替えて、ヒカリはそんな提案をした。

 

 半ば強引にメロディルーナの手を取って、バトルアリーナ受付カウンターまで歩き出す。

 

「ちょ、ちょっと待って、私は観戦専門で……」

「え? そうなの? 何で?」

「何でって……」

 

 真っ直ぐに、ヒカリはメロディルーナのことを見つめてくる。

 彼女と視線を合わせるのは、何だか、何と言うか、変な感じがする。

 

 元々人と目を合わせるのが苦手なメロディルーナだが、この娘相手だと殊更目を合わせていられない。

 

 眩しい――そう、眩しくて、見ていられない。

 宮元ヒカリ。

 

「だって……私運動苦手、だし、とろくさいし、鈍間だし……」

「ふぅん、でも観てるだけって詰まんなくない?」

「そ、そんなことないよ! 私達オラクルの一般人ってアークスの戦闘を生で見れる機会なんて殆ど無かったんだけどね? バトルアリーナが一般解放されたことでアークスの戦いの一端を間近で観れるようになって、それからはもう私ずっとバトルアリーナ通ってるの! だって凄いのよ? スポーツとはいえ超人的な力を持った人たちの真っ向勝負! 考え抜かれた戦略! 相次ぐ大逆転劇! さいっこうよもう!」

「…………」

「…………あっ」

 

 しまった、とメロディルーナはマフラーごしに自分の口を押さえた。

 

 つい興奮して、喋りすぎてしまった――好きなことには饒舌になるオタク特有のアレだ。

 

(また)

またやってしまった(・・・・・・・・・)……!)

 

 突然のことにきょとんとしているヒカリを見て、激しい後悔がメロディルーナを襲う。

 

 何をそんな大袈裟な、と思う方もいるかもしれない。

 しかし彼女のような人間には、これは最悪の事態なのだ。

 

(入学当初――自己紹介――教室の冷えた空気――)

(ウッ! 頭が……!)

「…………そんなこと言われると――」

 

 しかしヒカリは、きらりん、と瞳を光らせて輝くような笑顔を見せた。

 

「ますますやってみたくなるじゃない!」

「……え?」

「……あ! でももしかして、『フォトンを扱う才能』が無いとプレイできなかったりするのかしら? あたし、その辺りの才能はまるで無いらしいのだけれど……」

「え、ええっと、その辺は大丈夫な筈。技術の進歩で、バトルアリーナの中専用だけど誰でもフォトンが扱えるようになるらしいから」

「へぇ! それは凄いわね!」

 

 だからこそ、バトルアリーナは平和になった今『アークスの戦闘訓練用の場所』ではなく『庶民のスポーツ』になっているのだ。

 

 プレイ人口だけならアークスよりも一般人の方が多いくらいである。

 

「そうと決まれば早速受付するわよメロディルーナちゃん!」

「え、な、何で名前……って、わっ、ちょっ!」

 

 駆け出すヒカリに手を引かれて、走り出すメロディルーナ。

 

この子(ヒカリ)は)

(強引で、底抜けに明るくて、元気で、キラキラ輝いている、正直苦手な子だ)

 

 けど。

 握られた手と手を、振りほどく気は何故か起きなかった。

 

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

 

「ようこそバトルアリーナへ、初めてのご利用ですか?」

「はい! そーです!」

 

 桃色のロングヘアに髪の隙間から覗く小さな黒い角を持つ大人のお姉さん。

 バトルアリーナ受付カウンターの職員、『フリネ』の問いにヒカリは元気よく答えた。

 

「分かりました、では最初に『アバター』の登録をお願いします」

「あばたー?」

「せ、戦闘用の換装体のことですよね?」

 

 はいそうです、とメロディルーナの問いに頷いて、フリネは説明を続ける。

 

「身体をフォトンで出来た身体に換装することによって、身体能力の均一化、フォトン能力の付与等を行っています。尤も、バトルアリーナ内限定ですけどね」

 

 ちなみに昔は『バトルウォリアー』という特殊なクラスになることでアークスたちは身体能力とフォトン能力の均一化をしていたらしい。

 今はアバターの方がコスト面や一般人でも参加できるようになるという点から、廃止された制度だ。

 

「アバターの作成方法は……聞くよりも見るほうが早いと思います。こちらをどうぞ」

 

 フリネが液晶のみが付いた簡素な造りの端末を取り出し、ヒカリに渡した。

 

 地球の通信端末に似た機械だなぁ、とか思いながらヒカリはそれを受け取り、起動。

 すると、そこに出てきた画面は――。

 

「……『PSO2』のキャラクリ画面じゃん!」

「『PSO2』?」

 

 映し出されたのは、『PSO2』のキャラクリ画面に酷似したものだった。

 

 画面の中には、ヒカリにそっくりなアバターが謎の空間で漂っていて、髪形や髪色、瞳色を変える項目が映し出されている。

 

「よくご存知ですね、もしかして地球の方ですか? アバターは地球で開発された『PSO2』の技術を流用して作られたものなんですよ」

「へえー、何かよく分からないけど凄いや。でも弄れる項目が少ない……?」

「まあ……色々ありまして、あまり大幅に改変できないようになってます」

 

 問題? とヒカリは首を傾げる。

 しかしフリネは苦笑いを浮かべるだけで答えてくれなかった。

 

「メロディルーナちゃんは何か知ってる?」

「ええっと……ほら、自分の姿が好き勝手変えれるって色々悪いことできるじゃない」

「あー、んー?」

 

 納得できたようなできていないような様子のヒカリ。

 しかしそんなことよりも一刻も早くバトルアリーナがやりたかったのか、「まあいいや」と画面に視線を戻した。

 

「あ、そちらの方もどうぞ」

「あ、はい、どうも……」

 

 メロディルーナも端末を受け取って、キャラクリエイト開始。

 とは言っても、髪型や髪色を変えたり、瞳の色を変えたり、精々その程度の変更しかできないのだが……。

 

「…………」

 

 ちらっとヒカリの方に視線を移す。

 艶のあるさらさらの黒い髪に、輝きを秘めた黒い瞳。

 

 綺麗だなぁ、とメロディルーナは呟いた。

 

「よし! できた!」

「わ、私も……」

 

 二人同時にキャラクリを終えて、端末を受付カウンターに返却。

 

 フリネはそれを受け取ると、ちょちょいと端末を操作してアバターの登録を完了させた。

 

「はい、これで登録完了です。では早速ですが……プレイ、していきますか?」

「勿論!」

 

 瞳をランランと輝かせながら即答するヒカリ。

 もうちょっとこう、躊躇とか考えるとかしないのかと思わなくはないが……それでも。

 

(私も)

(ワクワクしてるから――)

 

 こんなのキャラじゃないけれど。

 

 ずっと観てるだけだと思っていたバトルアリーナに参加できることに、凄くワクワクドキドキしている。

 

「はい……!」

 

 だからメロディルーナも、声を振り絞ってフリネに参加の意志を伝えた。

 

「お、お願いします!」

 

 こうして。

 二人の初めてのバトルアリーナが、始まった。


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