【PSO2外伝】バトル・アリーナ・Girl's! 作:万年レート1000
今更だが今回行われるエンブレム争奪戦の詳細ルールについて説明しよう。
試合時間は五分。
勝敗条件は試合時間終了までにより多く『ポイント』を集めていた方の勝ち。
ポイントは『エンブレム』と呼ばれる紋章がフィールドの一定の位置に出現するのでそれを取るか、相手のプレイヤーを倒すことによってポイントが取得できる。
武器スポットから出現する武器は試合開始時に打撃武器・射撃武器・法撃武器から各一種類ずつランダムに選出される。
バトルフィールドは森林・昼。
人数は6対6で、今回選ばれた武器はソード、アサルトライフル、ロッドの三種だ。
偶然にも、バトルアリーナが実装された最初期と似たようなルールである。
昨今のバトルアリーナは人数は最低1対1のタイマンから最大64対64の大規模戦闘まで好きに設定できるうえに、出現する武器を十八種類全てにもできるし、そもそもエンブレム争奪戦以外のルールもあったり、と、
ルールがかなり自由に設定できるようになったこともあり、このルールを『懐かしい』と表現する人もいるだろう。
特に、選出された武器が秀逸だ。
ソード、アサルトライフル、ロッドは一番最初の最初、ほぼベータ版みたいな頃のバトルアリーナではこの三種しか実装されていなかったのである。
さて、そんな余談は兎も角。
エンブレム争奪戦において重要なのは『虹エンブレム』が出現する場所に陣取ることである。
エンブレムには虹、敵チームの色、自チームの色の三色が存在し、虹エンブレムは最もポイントが多く貰えるエンブレムだ(虹は十点、敵チームの色は五点、自チームの色は一点)。
森林エリアではエリア中央に虹エンブレム出現スポットがある。
そこを陣取ったチームが勝つと言っても過言ではないほど重要度が高いスポットなので、赤チームも青チームもまずは中央を目指すのがセオリーだ。
だから当然、メロディルーナとヒカリも戦場に降り立ったとほぼ同時に虹エンブレムが湧き出る中央地点へと走り出すのであった。
「おー! これがエンブレムね!」
中央に向かう途中、ヒカリは赤い色のエンブレムに触れた。
エンブレムは人間ほどのサイズがある、星型のプレートだ。
触れた瞬間、エンブレムは軽く弾けて消える。数秒すればまた現れるが、このエンブレムを取っても一点しか貰えないので待つのは損だ。
「あたしたちは赤チームだから、今ので一点貰えたってわけね?」
「う、うん。一点ずつじゃ効率が悪すぎるから、赤エンブレムは取れたら取るくらいの気持ちでいいよ」
言いながら赤エンブレムが出現する地点を通り過ぎ、二人は中央へ。
コンテナの後ろに身を隠して、メロディルーナは地図を開く。
地図には
味方は今、一人が早々にやられたのか初期地点に一人、左右の道にそれぞれ一人ずつ、そして中央には二人と同じようにコンテナに身を隠しているソード持ちのリリーパスーツを着た味方が一人。
森林ステージは中央が大事なのは先述の通りだが、左右にも一本ずつ相手陣地に繋がっている道も放っておけない。
奇襲のために用意されているようなその道は、注意していないと中央の戦線を一瞬で崩壊させられるほどの脅威だ。
(でも今は左右に一人ずつ向かってるから……私達は中央の戦線に加わるべきね)
青チームは既に虹エンブレムエリアを制圧している。
おそらくメロディルーナとヒカリの初動が遅れた所為で中央に人数が足らなかったのだろう。
「兎に角、中央を取り返さなくちゃ。私達はテクニックと射撃で牽制してソード持ちの仲間を援護しよう」
「分かったわ! ……ところでテクニックってどう撃つの?」
「えっ」
杖を抱えながら首を傾げるヒカリ。
冗談か何かではなく、本気で言っている顔だ。
「どうって……そりゃ、普通に周りのフォトンを集めて……」
「フォトンってどうやって集めるの?」
「そ、それは……」
答えられない。
オラクル人は一般人であろうと『フォトン』という物質は極めて身近なものである。
アークスになれない人でも、フォトンエネルギー技術による恩恵は計り知れないほど受けているのだ。
オラクル人とは全員才能の有無に関わらず大なり小なりフォトンを操り、フォトンと共に在る種族と言っても過言ではない。
『呼吸ってどうやってるの?』と問われてはっきりと答えられる地球人がいないように、『フォトンってどう操ってるの?』と答えられるオラクル人は案外少ない。
アバター体によって『フォトンを自由自在に操ることのできる力』は得ているものの、『フォトンを操る方法』をヒカリは知らないのであった。
「こ、こう……ぐっと力込めるとか」
「もう試したわ」
「て、テクニック名を叫ぶとか」
「『フォイエ』!」
メロディルーナの提案を即試すヒカリ。
しかしテクニックは発動しなかった。
「…………」
「……い、今は時間も無いし別の武器にしたら? 武器スポットで武器を変えられるよ?」
「えぇー、テクニック使ってみたかったなァ」
唇を尖らせてそんなことを言いつつも、ヒカリは素直にフィールドの隅にある武器スポットへと走っていった。
テクニックはフォトンのコントロールが重要な技術だから使えないだけで、ソードやアサルトライフルだったら何も考えずに振ったり引き金を引くだけで使えるだろう。
ただヒカリが戻ってくるのをボーっと待ってるわけにもいかない、まずは自分ひとりでも先に戦線に復帰するしかない。
リリーパスーツの人に目配せをして、援護するという意志を伝えた後(声はかけられない、コミュ症だから)。
銃撃をお見舞いするべくコンテナから身を乗り出した――!
「『グレネードシェル』」
着弾炸裂する弾丸を装填、発射するアサルトライフルのフォトンアーツ。
着弾後炸裂するといっても弾速はそこそこ範囲はまあまあ程度であるが、特筆すべきは牽制性能であろう。
炸裂するということは『ちゃんと避けないと爆風が当たる』ということだし、PP消費も少なめで連射性能が高いこのフォトンアーツを連打されると前衛は前に出ることが困難になってしまう。
しかしそれはあくまでグレネードシェル持ちが複数いる場合の話である。
一人で連打したところで攻撃できる箇所は一箇所。つまり。
「ぶはっ」
複数あるコンテナのうち、メロディルーナが牽制射撃を行っていない方から青チームの女ニューマンが顔を出し、フォイエを撃ち放った。
射撃に意識を割かれていたメロディルーナに炎は直撃し、HPを七割ほど削る。
バトルアリーナでは斬られても撃たれても焼かれても痛みは無い。ダメージの種類に応じた少しの衝撃と、HPが削られるだけである。
HPが無くなれば撃破扱いとなって相手にポイントが入り、数秒後に自陣へ丸腰の状態で戻されるというシステムだ。
失ったHPは一部スキルを使うか一定時間ごとに少しずつ回復していく。
被弾した以上下がったほうがいいのかな、と判断に迷っている間にメロディルーナはグレネードシェルの直撃を受けてHPが無くなった。
あっさりと一死。
何が起こったのか一瞬分からなくて、自陣に強制送還されてようやく「あ、やられたのか」と気が付いた。
「や、やばい……出遅れたくせに一人も倒せずに即死亡とか地雷プレイヤーにもほどがある……お、怒られる……戦犯になっちゃう……やっぱやめておけば……」
「あっ、メロディルーナちゃんもやられちゃったの? あはは、どんまいどんまい、次は頑張ろっ、あたしも頑張るからさ!」
いつの間にか(おそらくメロディルーナとほぼ同時に)やられていたヒカリが、呑気な笑顔を見せながらメロディルーナの肩をポンと叩いた。
何も出来ずやられたというのに、そんなの少しも気にしていないようだ。
「武器取ってる間って無防備なんだねー、次からは気をつけよっと」
能天気で何も考えていないだけ、ではない。
ちゃんと今自分がやられた要因を考えて反省している。
なんて、前向きな女だ。
「おっ、アサルトライフルだ! 弾も……撃てる! よーし、これで戦えるぞー!」
武器スポットからアサルトライフルを引き当てて、何発か試し撃ちをした後ヒカリは自陣から飛び出した。
反省も後悔も何もかも即終わらせて、『次』へ向かったのだ。
それを見てメロディルーナは頭を振って、武器スポットへ駆け出す。
彼女みたいに前向きにはなれない。
だから、考えるのは『後』だ。反省も後悔も終わった後やればいい。
武器スポットからソードを手に取って、今度は迷い無く自陣から飛び降りる。
中央はまだ青チームが制圧しているが、さっきのリリーパスーツの人はまだやられていない。一人で戦線を維持しているのだ。
撃破ログ(誰が誰を倒したのか等がわかるログ)を見た感じ、上手いこと立ち回って飛び道具からは隠れつつ、寄ってくるソード持ちは返り討ちにしているのが見て取れる。
(あのリリーパスーツの人相当上手いな……)
地図を開く。左右の道を行った二人は攻めあぐねているようだ。
さっき地図を確認したときはやられていたもう一人は大きく回り道をして相手の裏を取ろうとしている。
(さて、私はどう動こうか……)
とりあえずヒカリと合流し、共に中央へ。
リリーパスーツの人とは逆のコンテナの後ろにひとまず隠れる。
(ん?)
すると突然、何を思ったのかリリーパスーツがこちらに向かって走り始めた。
急に何を、と思う間も無くリリーパスーツはメロディルーナたちの横を通り過ぎ、左の通路から急に飛び出してきた青チームの男ニューマンを一閃。
『ライジングエッジ』というソードPAであっさりと処理し、頭上に『1』と書かれたアイコンが浮かんでいる着ぐるみは二人のほうに振り返る。
「お嬢ちゃんたち、初心者カ?」
話しかけてきた。独特なイントネーションの、可愛らしい女性の声だ。
なんて答えたらいいか迷っているうちに、「そうよ?」とヒカリが構えていた銃を降ろしながら答えてくれたので、便乗して頷く。
もしかして、「初心者が気軽な気持ちでバトルアリーナに来てんじゃねーぞ!」とか「チッ、初心者と同じチームかよ」とか暴言を吐かれてしまうのではないかと顔面蒼白になりながら身構えるメロディルーナ。
しかしリリーパスーツの女が紡いだ言葉は、その予想の正反対だった。
「なら仕方ないネ、もしよかったら戦いながらバトルアリーナの基本でもレクチャーしてやろうカ?」
優しい世界