【PSO2外伝】バトル・アリーナ・Girl's! 作:万年レート1000
「ワンポイントー!」
ヒカリのアサルトライフルから、十二発の連射弾が放たれた。
ワンポイントという一点に銃弾を集中させるフォトンアーツである。
テクニックと同様、フォトンアーツもフォトンの扱いを必要とする技術。
地球人であるヒカリには訓練なしに使える代物ではなかった筈だが……何故ヒカリが難なくフォトンアーツを発動できたのかというと、それは一重にリリーパスーツの人のおかげであった。
「すごーい! フォトンを扱うってこういう感じなのね!」
「ヤー、教えてすぐコツ掴んじゃうなんてセンスあるなァヒカリちゃん」
「リリーパ師匠の教え方が上手いんですよー」
試合開始から一分弱。
形勢は未だに青チームが優勢だった。
中央を取られていて、かつ初心者二人を抱えた赤チームの方が不利なのは順当な状況といえよう。
「ふぉ、『フォトンの扱い方』を理屈で説明できるなんて凄いですね……」
「まあネ、私の幼馴染もフォトンがまるで扱えない奴でサー、その幼馴染と一緒にバトルアリーナやりたくて色々調べたんだヨ」
言いながら、敵を一閃の元に切り伏せるリリーパスーツ……もといリリーパ師匠。
ちなみにヒカリが勝手に使いだした呼称である。
「ワンポイントー!」
物陰から少し身体を出して、景気よく連射するヒカリ。
しかしそのフォトンの弾丸は一発たりとも敵に当たることなく、見当違いな壁や地面を穿つのみである。
「うーむ、中々当たらないわね」
物陰に隠れ直し、手をグッパと閉じたり開いたりした後、ヒカリは頷く。
「
「いやヒカリちゃんの射撃が下手すぎるだけネ」
「がーん!」
普通弾丸は避けられないヨ、と呆れ気味に言うリリーパ師匠。
実際バトルアリーナの射撃は照準補正がかかっているため壁に阻まれるか、余程の長距離じゃない限り命中して然るべきなのだ。
これについてはフォイエ等のテクニック等も同様の仕様であり、だからこそ『物陰に隠れる』および『隠れている相手の側面または背面に回る』という行為はバトルアリーナの基礎中の基礎となっている。
「え?」
しかしヒカリは目を丸くして首を傾げた。
まるで、『いやこれくらいなら避けられるでしょう』と言わんばかりに。
「それよりも、二人には『裏取り』をしてもらうワ。裏取りって分かるカ?」
「分かるません!」
「あ、分かります。主戦場を避けて、道を大回りすることで相手の裏を取る戦術のことですよね?」
「その通り、二人は今『ステルス中』だから、中央よりもそっちをお願いするワ」
バトルアリーナの仕様の一つに、貢献度ランキングというものがある。
その名の通りチームごとに獲得ポイントが多い順に三位まで、プレイヤーの頭上にアイコンが浮かび上がるというものだ。
例えば今リリーパ師匠の頭上には「1」と書かれた金色のアイコンが浮かび上がっており、これは
つまりリリーパ師匠と赤チームの二位三位の居場所は相手にバレバレなのだ。
勿論同じように青チームの一位から三位のプレイヤーの場所も、赤チームから丸見えである。
逆に言えば四位から六位の三人は、相手に居場所がバレていない。
この状態のことを、バトルアリーナでは『ステルス』状態と呼ぶのだ。
バトルアリーナでは獲得ポイントが高いプレイヤーほど倒された時に相手が獲得するポイントが高くなる仕様なので、一位のプレイヤーは前線から一歩引いた位置でなるべく倒されないように立ち回り、ステルス状態のプレイヤーは積極的に敵を倒す。
それがバトルアリーナの定石である。
「成る程! じゃあ早速行くわよメロディルーナちゃん!」
「う、うん。で、でも中央がリリーパ師匠一人に……あっ」
気が付けば、赤チームの二位と三位が中央の戦線に加わっていた。
ランキングの表示は試合開始からしばらくしてから表示されるので、さっきまで積極的に左右の道から攻めて敵を倒していた赤チームのプレイヤーがランキングを見て中央の戦線維持に加わったのだ。
「こっちは心配要らないヨ、私一人で充分なくらいネ」
未だに一度も死なずに敵撃破を繰り返しているリリーパ師匠の頼もしい言葉に押され、メロディルーナもヒカリに続いて左の道を走り出す。
「っ……!」
しかし早速、青チームとエンカウント。
緑色の塗装がされたゴツイ男性キャストだ。携えている武器はアサルトライフル。
距離が近い――完全に近距離戦の間合いだ。
相手がソード持ちじゃなくてよかった、とは相手も思っているだろう。
即座にロッドを構えるメロディルーナと敵キャスト。
一方ヒカリは銃に手すらかけず、相手との距離を詰めるべく真っ直ぐに走っていく。
「ちょっ! 何やって……!」
「この身体なら……多分」
余裕で避けられる、と呟いて。
ヒカリは敵キャストの放った
「!?」
まさかこの距離で避けられると思っていなかったのか、一瞬動きが固まるキャスト。
慌てて通常攻撃で追撃してくるが、それすらもヒカリは身体を捩って回避した。
流石のアバター体でも、銃弾より早く動くことはできない。
だから基本的にこの距離で放たれる銃弾は必中と言っても差し支えない筈だ。
なのに何故避けられる――? と混乱するキャストにヒカリはアサルトライフルを構え、叫ぶ。
「ワンポイント!」
十二発の弾丸が放たれる。
超至近距離からの連射。これを外す人間はそうそう居ないだろう。
そしてそんな人間はここに居た。
ヒカリの弾丸は何かの呪いなのかと勘繰ってしまうほど見事に全弾外れてしまった。
「くっ……今のを避けるなんて中々やるわね!」
「フォイエ!」
敵キャストは一歩も動いてないっていうかそんな至近距離でどうやったら外すの!? っというツッコミは後回しに、メロディルーナは炎のテクニックを放つ。
ヒカリの余りのノーコンっぷりに呆気に取られていたキャストにフォイエは直撃し、キャストはHPが0になって敵陣地へと送られた。
フォイエ一発ではHPは削りきれない筈だが……おそらくもうすでにいくらかダメージを負っていたのだろう。
「や、やった! 初撃破……」
「メロディルーナちゃんすごーい! やったね!」
「…………」
さっきのノーコンについてツッコミを入れようとしたが、眩しい笑顔でVサインを浮かべているヒカリを見ているとそんな気も無くなってしまったメロディルーナであった。
というか、そんなことより。
(やばい……初撃破……嬉しい)
(顔がにやける……)
興奮の隠し切れない表情をマフラーで隠しながら、「次、次行くよ」とはしゃぐヒカリを宥めて走り出す。
曲がり角を曲がればそこは敵の側面だ。
先走ろうとするヒカリの手を取って押さえ込み、壁に背を付けて敵の様子を窺う。
敵側の中央に人は四人。角度的に見えない位置に一位のプレイヤー(側面からの攻撃を警戒して後ろに下がっているのだろう)、二位三位のプレイヤーは物陰に隠れて攻撃の機会を慎重に窺っており、残りの一人は虹色のエンブレムが出現するまでは物陰で待機、出現したら積極的に取りに行くという役目になっているようだ。
野良パーティとはいえ、その程度の役割分担は普通にしてくる。
(さて……)
いつまでもここで様子を見ているわけにもいかない。
さっき倒したキャストが復活したら、側面から二人が来ていることが相手に伝えられてしまうだろう。
(テクニックを、チャージして……)
「フォイエ!」
飛び出すと同時に、撃つ!
火球は真っ直ぐに二位のプレイヤーへと飛んでいき、見事命中。
しかし、フォイエ一発ではHPを削りきることはできない――。
「ワンポイント!」
そこに、ヒカリの追撃が放たれる。
十二発の弾丸。その半分でも当たれば削りきれるほど減った相手のHPを、一ミリも減らすことなくヒカリは銃弾を撃ち切った。
「避けられた! 一旦隠れようメロディルーナちゃん!」
「いや多分避けられたんじゃ無くて……わっと!」
グレネードシェルの弾丸が飛んできて、急いで物陰に身を隠す二人。
今ので一人も倒せなかったのは痛い――居場所がバレてしまったし、HPは時間経過で回復していく仕様なので折角弱らせた二位もいますぐ追撃しなければ今の攻撃に意味が無くなってしまう。
(でも追撃しようにも……)
ちらりと壁から顔を出して、状況を確認する。
中央を疎かにするわけにはいかないからか、わざわざこちらに倒しに向かってくる人はいないが、ちらちらと警戒されているようだ。
二位のプレイヤーのアイコンは見えるが姿は見えない。
やはり、二位に追撃は厳しい……。
(ていうか、どうにかこのノーコンからアサルトライフルを取り上げないと戦力が実質私一人なんだよな……)
「?」
ジト目でヒカリを見つめるメロディルーナ。
そんなメロディルーナを見て、不思議そうに首を傾げるヒカリ。
いっそストレートに武器を変えるように進言するべきだろうか。でも嫌な言い方して傷つけたら可哀想だし……と葛藤するメロディルーナに助け舟のようなアナウンスがステージ上に鳴り響いた。
『UPDATE!』
「あら?」
「おっ」
今のアナウンスは、武器スポットから取れる武器のレベルがアップデートされたというアナウンスだ。
バトルアリーナの武器には、レベルが設定されている。
最初はレベル1で、アップデートのアナウンスごとに1ずつ上がり最大3。
勿論レベルが高い方が与ダメージが大きくなるため(そこまで大きな変化は無いが)、余裕があれば武器を交換しておくのもいいだろう。
「今のは武器スポットから出る武器のレベルが上がったっていうアナウンスね、折角だし武器交換してきたら?」
「わかった! メロディルーナちゃんは?」
「二人とも一緒に武器交換してたら隙ができちゃうでしょう。片方が守ってあげないと」
「そっか! 確かにそうね!」
言って、ヒカリは武器スポットへと走っていった。
さて、これでロッドかソードになってくれたらきっと戦力として数えられるだろう。
多分、きっと、おそらく。
いやでもロッドになろうとノーコンが変わらなかったら意味無いのでは……?
そんなことを考えながら、心配そうにヒカリの背中を見守っていたメロディルーナの身体に、
「んな……!?」
熱くは無いし、痛くも無い。
でもガッツリHPを減らされた……!
フォイエの放たれた方向を振り向くと、さっきのキャストが次弾をチャージしながら正面から向かってくるのが見えた。
(しまった、時間をかけすぎた……!)
「メロディルーナちゃん!」
メロディルーナを庇うように、ヒカリがロッドを手に駆け寄ってきた。
よし、とりあえずアサルトライフルじゃなかったようだ。
「喰らえ! イル・ザン!」
ヒカリの杖の先から、風の弾丸が放たれる。
イル・ザンは威力こそ控えめながら弾丸系のテクニックにしては範囲が広く、兎に角当てやすいテクニックだ。
これならヒカリがどんなノーコンでも敵に当てることができるだろう、というメロディルーナの期待は虚しく。
放たれたイル・ザンは何故か明後日の方向へと吹っ飛んでいき、壁にすら当たることなく射程限界を向かえて虚空に消えていった。
「…………」
「…………」
「……ち、違うの、テクニックの狙いの付け方が分からないっていうか……あっ」
キャストが放ったフォイエがもう一発メロディルーナに命中。
彼女のHPは0になり、自陣へと送られていった。
「く、くそう! メロディルーナちゃんの仇!」
再びイル・ザンをチャージし始めたヒカリと、フォイエをチャージし始めた敵キャストの戦いを描写する必要は無いだろう。
ヒカリのイル・ザンは一度も相手に当たることなく、ヒカリは自陣へと送還されたのであった。