【PSO2外伝】バトル・アリーナ・Girl's!   作:万年レート1000

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亀更新


初陣③

 試合時間、残り一分。

 形勢は青チームの圧倒的優勢。

 

 逆転時間(フィーバータイム)はもう過ぎた。

 

 青チームの貢献ランキング上位は倒されないように後方に下がり、互いが互いをカバーできるような位置取りをキープしている。

 これでは上位を倒して一発逆転、なんてことすら出来ない。

 

 例えリリーパ師匠でも無理だ。

 いくら師匠がベテランで強いプレイヤーでも、アバター体は身体能力もフォトン能力も全員統一されている。

 

 一騎当千は基本的に(・・・・)不可能なのである。

 

 だからこそ、フィールドにはもう試合終了ムードが漂っていた。

 青チームは倒されないように消極的に動き、赤チームは戦いを止めはしないものの、その表情には諦めの色が濃い。

 

 ヒカリとメロディルーナ、たった二人を除いては。

 

(まだ……まだ終わってない……)

 

 この試合、三キル五デス(三回相手を倒して、五回倒されたの意味)と初めてにしては上出来なスコアのメロディルーナは銃弾とテクニックの弾幕が薄まった隙を突いて虹エンブレムに手を伸ばす。

 

 今まで観客席から見てきた数々の試合。

 その中には逆転勝利なんて無数にあった。

 

 どんな絶望的な状況でも、諦めずに最後まで戦った結果奇跡が起きた、なんて試合沢山見てきたのだ。

 

 ならば諦める理由など無く、メロディルーナは足を止めることなく、手を抜くことなく手に持ったロッドを振るう。

 

「んー……どうしてテクニックって真っ直ぐ飛ばないのかしら? リリーパ師匠も分からないみたいだし……」

 

 一方、ヒカリ。

 この試合零キル四デスという戦犯扱いされてもおかしくないくらい悲惨なスコアの彼女は、自陣に送られていた。

 

 五デス目である。しかしめげずに武器スポットに手を伸ばすヒカリ。

 手に入った武器はアサルトライフル。

 

「もう戦局は決まっちゃったみたいな雰囲気ね……ま、まだメロディルーナちゃんは諦めてないみたいだから……あたしも最後まで全力でやりましょう」

 

 呟いて、ヒカリは自陣に並んでいる武器スポットを次々と手に取っていく。

 

 銃や魔法も楽しいけれど。

 あたしにはあっち(・・・・・・・・)の方が馴染み深い(・・・・・・・・)

 

 どうにも運が悪くてまだ一度も出てないけれど、こうやって何度も何度も、何度も何度も何度も武器スポットに手を伸ばしていれば、流石に。

 

 そろそろ出るでしょう。

 

「………………――やっと、出た」

 

 試合終了まで残り四十五秒。

 ヒカリは武器スポットからようやく出てきたソードを手に取り、にこりと微笑んだ。

 

「『スプリント』!」

 

 フォトンが足に漲り、移動速度が上がるスキルを発動。

 そしてヒカリは勢いよく、自陣から飛び出した。

 

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

 

 とにもかくにも時間が無い。

 

 相手チームが下がっているため、中央の制圧はしているのだが如何せん時間の無さと点差が厳しいのだ。

 虹エンブレムを取っているだけでは間に合わない、敵を倒さないといけない……が、互いにカバーしあっている相手を倒すことはバトルアリーナではかなり難しいことである。

 

 頼みの綱であるリリーパ師匠も「これはもうしょうがないかナー」などと呟き諦めモード。

 仕方あるまい、だってこれは真剣勝負でも何でもないフリーマッチ。負けても笑ってもう一戦といえるような気楽さが売りのマッチングだ。

 

 それでもまだ、メロディルーナは諦めずに必至の形相で青チームを追い掛け回していた。

 

「『スタンショット』!」

 

 当たればスタンする低速の誘導弾を放つ。

 が、その弾は物陰に隠れた敵を追って壁に当たり、弾けて消えた。

 

 思ってたより、これ当て難い。

 観戦で見てたときは簡単に当ててるように見えたのに、実際に使ってみると結構コツがいる代物みたいだ。

 

(全然、思い通りにいかない……実戦だとここまで違うんだ……)

(負けそうだし、そこまで活躍も出来て無いし、悔しい、悔しい悔しい悔しい)

 

 でも、楽しい。

 

 戦いの場にいるという高揚感。

 アバター体というアークス並の身体能力とフォトン能力を得られる身体で好き放題動き回る疾走感。

 

 勇気を出してよかった――じゃない。

 

 勇気は貰ったのだ、彼女から。

 

「……っ! しまっ……!」

 

 背後に気配を感じて振り返ると、そこにはソードを振りかぶって今まさにメロディルーナを叩き斬ろうとしている青チームのヒューマンの姿があった。

 

 避けきれない――! そんな、もう、倒されているような時間無いのに……!

 

 敵とメロディルーナの距離、およそ一メートル。

 そんな、二人の間に、一人の少女が――というか、

 

 ヒカリがソードを構えて割り込んだ。

 

「っ!?」

 

 青チームのヒューマンが、割り込んできたヒカリに戸惑いつつもソードを振り下ろす。

 

 

 そのソードがヒカリの身体を切り裂くよりも早く、ヒカリはヒューマンの身体を三度切り裂いた。

 

 

 目に見えない速度の三連撃。

 何が起こったのか、何も分からぬままHPが零になった敵は敵陣地へと送られていった。

 

「え? ……え?」

 

 今、何が起こったのか理解できずに混乱するメロディルーナ。

 

 ヒカリは慣れた手つきでソードを日本刀のように腰に添えると、メロディルーナの方に振り返ってにこりと笑みを見せた。

 

「後はあたしに任せなさい、なあに、心配はいらないわ、だってあたしは――

 

 ――前の学校じゃ剣道部だったのよ?」

 

 それだけ言って、ヒカリは逆転するために敵を倒すべく駆け出す。

 

「……ケンドーブ? 何それ?」

 

 何かよく分からないけど凄そう、とメロディルーナは首を傾げた。

 

 って、そんなことをしている場合じゃない。

 

 一人で突っ込んでは危険だ。

 援護しなくちゃ、とヒカリを追おうとして――早速撃破ログに一人誰かが倒されたメッセージが流れた。

 

 どうやら、ヒカリが青チームの貢献度一位のプレイヤーを倒したらしい。

 

「…………は?」

 

 続いて二位と三位が倒れた。

 ちょっと、待って、何が起こっている。

 

 急いでヒカリの後を追うと、そこには相手キャストが撃ったワンポイントを全て(・・)ソードで切り落とし、フォトンアーツの後隙を狙って一気に距離を詰めるヒカリの姿があった。

 

「よっこいしょー!」

 

 アバター体の身体能力ではありえないほどの速度で剣を振るい、キャストを倒すヒカリ。

 

 一体全体、どうなっているのか。

 これが地球のケンドーブとやらの力だとでもいうのだろうか。

 

 混乱するメロディルーナを他所に、ヒカリはどんどんキル数を稼いでいく。

 今の一瞬で大分ポイント差が縮まった、残り三十秒、それだけあれば充分勝ちの目が出てくるほどに。

 

「ちょ、ちょっと何が起きてるノ!? ヒカリちゃんが急に連続キルしてるんだけド!」

 

 ヒカリが一人で敵チームの殆どを倒してしまったことで暇になったのか、呆然としているメロディルーナにリリーパ師匠が駆けつけてきてそんな質問をしてきた。

 

 しかし何が起きてるかなんて、答えられるわけが無い。

 何故ならメロディルーナだって絶賛混乱中なのだから。

 

「よ、よく分からないんですけどケンドーブがどうたらって……ソードを持ったら、途端に……」

「ケンドーブ? 何そレ?」

「さ、さあ……?」

 

 二人で首を傾げる。

 前線ではヒカリが相手チーム六人を一人で相手して、次々とキルを取っている姿が見えている。

 

 相手チームは阿鼻叫喚だ。

 銃弾は切り落とされて、テクニックは剣圧で掻き消されて、近づこうものなら剣を振りかぶった瞬間に神速の斬撃で即座に落とされる。

 

 まさに一騎当千、まさに無双。

 

「ヒカリちゃん、もしかしテ……」

 

 ポツリと、リリーパ師匠がそんな意味深なことを呟いた。

 

 あれだけ付いていたポイント差はあっという間に消えてなくなり、あっさりと赤チームは逆転を果たして、そして。

 

 試合終了のアナウンスが、フィールドに鳴り響いた。

 

 


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