【PSO2外伝】バトル・アリーナ・Girl's! 作:万年レート1000
当然のことだしあえて明言するまでもないことかもしれないが、剣道部のエースだろうとキャプテンだろうと全国大会優勝者だろうと地球出身のただの小娘がバトルアリーナで一騎当千することは不可能である。
アークスはダーカーに対抗するために造られた戦闘種族。
オラクルに住まう一般人も、アークスに『なれなかった』者だが戦闘の素養を持つ者は多い。
本来ならば、地球生まれかつ平和な日本で育ってきたヒカリがバトルアリーナに参加したところで一度もキルできずに試合が終わってしまってもまるでおかしくないくらいオラクル人と地球人の戦闘能力には差があるのだ。
事実、そうなりかけた。
ヒカリがソードを握るまでは、だが。
「やったー! 勝ったー!」
「おうぅ!?」
無邪気な笑顔で駆け寄ってきたヒカリに、メロディルーナは突如抱きつかれた。
バトルアリーナは試合が終わっても即座に戦場から退出させられるわけではなく、フィールドのあちこちに設置されたテレパイプから各々好きなタイミングで退出するシステムだ。
故に試合後に雑談をするプレイヤーも多く居る。
ちなみに戦闘行為は一切出来ない、剣を相手プレイヤーに突き立てたところで、ダメージは0だ。
「ちょ、ちょちょま……! 急に抱きつかないで!」
「えぇー? いいじゃん別にぃ」
これくらい軽いスキンシップだよー、と頬をすりすりしてくるヒカリをどうにか振りほどくメロディルーナ。
マフラーと眼鏡で分かり辛いが、頬が赤い。照れているようだ。
「バトルアリーナ面白いね! もっかい! もっかいやろう!」
「べ、別にいいけど……その前に説明してよね、ケンドーブって一体……」
「ん?」
何者よ、とメロディルーナが疑問を投げかけようとした瞬間、ヒカリがバッと後ろを振り返った。
ヒカリの視線の先には、リリーパ師匠。
さっきまで頼もしすぎる味方だった彼女が、なんとソードを振りかぶってヒカリに奇襲を仕掛けていた――!
「!?」
リリーパスーツによって表情は窺えないが、自身の奇襲が気付かれたことに多少動揺したリリーパ師匠は一瞬身体が硬直したが、構わず剣を振りぬく。
一方気配を察したのか、あるいは直感なのか不明だがとにかくリリーパ師匠の奇襲に反応できたヒカリは驚きながらも両手を伸ばし、
リリーパ師匠の斬撃を真剣白刃取りで容易く受け止めた。
「ど、どうしたんですか急に……?」
「…………」
玩具の剣か、棒切れででも試してみると分かることだが、真剣白刃取りというのは非常に難易度の高い技である。
高速で迫ってくる斬撃を、タイミングよく両手で挟み込み受け止める。簡単に言うが、実際やってみるとその『タイミングがいい』瞬間というのはコンマ1秒以下。
化け物染みた反射神経と動体視力が無いと不可能な技なのだ。
リリーパ師匠は、しばらく思考するように動きを止めた後、ゆっくりとソードに込めた力を緩め、背に戻した。
「知ってるカ? 試合終了後のこの時間は、いくら攻撃をしてもダメージが入らないんダ。試合が終わったから当然なんだけどナ」
「……それを教えるために、いきなり斬りかかってきたんですか?」
「と、いうより驚かせようと思って、だナ。スマンスマン」
ケラケラと笑うリリーパ師匠。
それを聞いて、ヒカリは笑みを見せ、メロディルーナも若干苦笑い気味に微笑んだ。
「い、意外とおちゃめなんですね……」
「ハハハ……それにしても凄かったネ、ヒカリちゃん。初めてであそこまで動ける人は見たこと無いヨ」
リリーパ師匠の言葉に同調するようにうんうんと頷き、ヒカリの方に視界を向けるメロディルーナ。
ヒカリは照れ笑いを浮かべながら、軽く頬を掻いた。
あざとい。ヒカリのような純粋そうな美少女じゃないと決して似合わないような動作だ。
「えへへ、剣を振るのはけっこー得意なんですよ」
「い、いや結構得意ってレベルじゃなかったでしょう……ケンドーブって一体なんなの?」
「剣道部っていうのは剣道っていう……その……チャンバラって分かるかしら、
どうにも要領を得ないヒカリの説明。これは仕方ないだろう、ヒカリが理路整然と物事を説明するのが得意じゃないタイプだということを差し引いても、である。
『剣道という概念を宇宙人に説明する』と考えてみよう、よく考えなくとも難易度の高い所業なのだ。
しかも、オラクルの学校には部活動という概念が無い。
「ええっと、つまり剣オンリーの模擬戦で心身を鍛える学校内のコミュニティってこと?」
「大体あってる……のかな?」
メロディルーナの解釈に、ヒカリは首を傾げつつも頷く。
模擬戦、という表現が戦闘が身近なものであるオラクル人らしい表現である。
「地球人ってオラクル人みたいな戦闘民族じゃないって聞いてたけど、そんなことをする人たちもいるのね」
「まァ、私たちがバトルアリーナで遊ぶみたいなものデショ」
「何か違うような気もするけど……まあいっか」
剣道は、遊びではなく武道である。剣道が遊びと同じなどと言ったら剣道関係者は怒りそうなものだが、ヒカリはどうでもよさそうに頷いた。
「ふーん……その、で、ヒカリは剣道部の中だとどれくらい強いの?」
「ん? 多分(地球で)一番強かったよ」
「へぇ、す、凄いね。(学校内で)一番かぁ……」
「おっト」
突如、リリーパ師匠の通信端末が軽快な
誰かから通信が来たのではなく、設定しておいた時間になったことを知らせる音である。
「もうこんな時間……もう一試合くらい貴方達と遊びたかったけド、そうもいかないみたいネ」
「リリーパ師匠、もう行っちゃうの?」
「用事があるんでナ、まあ二人がバトルアリーナにこれからも遊びに来るなら……また会える日もあるでしょウ」
言って、リリーパ師匠は踵を返した。
テレパイプに向かってテクテクと着グルミ特有の足音を鳴らしながら歩いていき……途中で二人の方に振り向いて一言。
「また、遊びに来るよネ?」
「勿論!」
元気よく頷くヒカリ。
メロディルーナもまた、ヒカリのように元気よくとはいかないが、しっかりと頷いた。
(リリーパスーツのせいで分かり辛いが多分)それを見て師匠は嬉しそうに笑顔を見せ、テレパイプからバトルフィールドを出て行った。
「さてメロディルーナちゃん、もう一戦やろう!」
「う、うん、それはいいんだけど……何か忘れてる気が……あ!」
思い出した、とメロディルーナは急いで時間を確認する。
そもそも、メロディルーナはバトルアリーナに参加するために此処に来たわけでは無いのだ。
バトルアリーナを訪れた理由は、参戦ではなく観戦。
つまり
「や、やば……! もう始まっちゃう!」
「始まる? 何が?」
「【ヒ・マワリ】の試合! 急がないと……!」
慌てながら、テレパイプへと走るメロディルーナ。
どうやらお目当ての試合が始まる時間まで、もう少しだったようだ。
「ひまわり?」
何でここで地球の花の名前が? っと首を傾げつつもヒカリはメロディルーナの後を追うのだった。