現在もそれは変わらないのですが、連載作品がスランプ中なので、息抜きに一話分書いてみました。
……ええっと、ここはどこだろう?
あたし、リナ=インバースは、家族に看取られながら死んだはず、よね? それが気がついたら、この真っ暗な空間にいて、いつの間にか椅子に座ってる。
混沌の海へと還るってんならわかるけど、なんでこんなところに…。それに、何より気になるのは、今のあたしの姿。
着ているのは赤っぽい半袖の服で、黒いマントを羽織り、肩には素材不明のショルダーガード。下はぴっちりした長ズボンにブーツ。腰に下げたショートソード。額にはバンダナの感触。長い手袋と袖の間から見える肌は若々しい。
これって、二度目の魔王との対決の時まで、あたしがしていた姿、格好よね? アレが足りないけど。
そんなことを考えていると。
「リナ=インバースさん。あなたはお亡くなりになりました」
突然かけられた声に、物思いに耽っていたあたしは前を向く。そこには、長いプラチナの髪の、神々しさを漂わせる一人の少女がいた。
むむっ。胸もなかなかに……!?
「私はエリス。とある世界を担当する女神です」
こいつは驚いた。とあるってことは、異世界の神ってこと? 一応聞いてみよう。
「えーっと、エリス様? あなたは、あたしのいたのとは別の世界の神様、ってことでいいんでしょーか?」
あたしの質問に優しく微笑み、彼女は言った。
「はい。その認識でいいと思います」
やっぱりそうなのか。因みに、魔族が騙くらかしてるってのはまずないだろう。
魔族の存在意義は、世界とともに混沌へと還ること。つまり、あたしにチョッカイかけなくても、ほっときゃ勝手に混沌へと還ることになるのだから、そんな無駄なことするはずがないのだ。
もっとも、どうしてあたしがここに呼ばれたのか。その理由には、皆目見当がつかないのだが。
「実は今回、リナさんにお願いがあって来てもらいました」
そんなあたしの思考を読んだわけでもないのだろうが、彼女は説明を始めた。
「私が担当する世界に、転生してはもらえないでしょうか」
…………はい?
「実はあちらの世界では、魔王の脅威によって生まれ変わるのを拒否する者が続出しておりまして、人口が減少傾向にあるのです」
はあ……。
「そこで、若くして亡くなった別の世界の者に特典を与えて転生してもらい、魔王を倒すようにお願いをしているのですが…」
が?
「ここにきて、他の世界から不当に侵入するモノが現れたのです」
むう、この話の流れって…。
「そこでリナさんに、その侵入者を退治して…」
「やっぱりかぁぁっ!!」
あまりにも予想通りの展開に、思わずツッコミを入れるあたし。
「何であたしがそんな面倒くさいこと、やんなきゃならないのよ!」
自分が招いた厄介事ならまだしも、赤の他人から押しつけられるなど言語道断だ。あたしはそこまで人間ができちゃいない。
「それはリナさんが、この件に最適な人選だと判断されたからです」
あたしが、最適?
「リナさんは生前、このモノたちと何度も戦いを繰り広げ、その王を二度も倒した実績がありますから」
え、ちょっと待って。まさか…。
「侵入者って、魔族のこと…?」
「はい」
って、急激に怒気が膨れあがってるんですけど!?
「あの、エリス様?」
「……ああ、すみません。神としては闇の存在を容認できないもので」
などと謝りながら、人差し指で頬を掻く仕草をする。なかなかかわいらしくはあるのだが、闇のモノぶっ倒すオーラが半端ない。アンタはどこぞの正義の巫女か!?
「それで、リナさん。わたしのお願いは、聞き入れていただけますか?」
はあ…
あたしはひとつ、ため息を吐く。
「要はこちらの世界の不始末を、あたしに尻拭いさせようってことでしょ。
はっきり言って、あたしが手伝う義理なんて全くないわね」
「リナさん…」
彼女は目に見えて、落ち込んだ表情になる。
「……けど。も一度人生を謳歌できるってのも、悪くはないわね。
もちろん、何か見返りはあるんでしょ?」
「……リナさん! はい、もちろんです。
肉体年齢は17歳当時のものに、装備も最良の物を用意いたしました。
魔術に関しても、基本全ての術が扱えますが、最強のあの術だけは世界崩壊の危険があるので、不完全版を含めて封印させていただきます」
むう、こればっかりは致し方ない。アレの危険性は、あたしにもよくわかっている。もう片方の術が封印されないだけでも御の字だろう。
「さらに他の転生者の方同様、転生特典をひとつお付け致します。どのような武器やアイテム、あるいは特殊能力でも構いませんよ」
それは確かに、至れり尽くせりだけど、でも。
「……足りないわね」
彼女は一瞬キョトンとし。
「あの、リナさん。これでもまだ足りないというのですか?
はっきり言ってリナさんの処遇は、他の転生者の方たちと比べても、かなり破格なものなのですよ?」
まあ、聞いた限りじゃ確かにそうなんだろうけど、あたしが言ったのはそういうことじゃなく。
「エリス様は『装備は最良の物を用意した』って言ったけど、それじゃあ足りない物があるじゃない」
彼女の頬に、ツゥ、と一筋の汗が流れる。
「リナさん…。いえ、しかしあれは、神としては……」
「神様が、嘘をつくのかしら?」
意地悪く、あたしは言った。これにはさすがにぐうの音も出なかったようで、彼女は黙り込んでしまう。
やがてひとつ息をつき、そして。
「仕方、ありません。少々お待ちください」
そう言うと、一旦奥へと姿を消す。しばしの後、薄い箱形の容器を持って、再び姿を見せた。
「リナさんがお望みのものはこちらですね?」
そう言って差し出されたのは、箱に敷かれたクッションに置かれた、4つの
そう。これは生前に、一時期身につけていた魔力増幅のアイテム、[
しかし、彼女が「最良」と言ったからには、あたしは引く気など毛ほどもないのだ。
「まったく。これがなきゃ、最良とは呼べないじゃない」
あたしは呪符を受け取り、両手首とベルトのバックルに装着、残りの一つを首からさげた。うん、これで完璧!
「よし。あとは転生特典ね!」
「この上、まだ搾り取る気ですか!?」
彼女は苦言を呈するが、知ったこっちゃない。そもそもこれは、最初に準備されてしかるべき物。特典とは関係ない。ないったらないのだ。
「エリスは、約束を破る女神なんだ」
「そ、そんなことは……、というか、いつの間にか呼び捨てに!?」
何というか、彼女と話してると非常にからかいたくなってくるのだ。とはいえ相手は神様、からかい過ぎには気をつけないと。
「……わかりました。それでは特典を」
「あ、その前に質問があんだけど」
あたしはエリスの言葉を遮り、質問する。
「もし、特典の武器なり何なりが敵の手に渡ったりしたらどうすんの?」
そう。神様が付けるような強力な特典が向こうに渡れば、相手の戦力がアップしてしまうのだ。
まあ、魔族はそんなことはしないだろうけど、魔王の方はどうだかわからない。元いた世界のように魔族の王、とは限らないんだから。
「それでしたら、大体の武具は問題ありません。基本的には転生者専用となってますので」
なるほど。つまり、その転生者にしか使いこなせないってワケか。
「よし、決めたわ! あたしの転生特典は、『他の転生者の特典アイテムを使用できる能力』よ!」
「わかりました」
えっ? 意外とあっさりしてる!?
「なんかもう、諦めがついた?」
なんだか、エリスが達観の眼差しをしてる。
……うん。なんかゴメン。
「ああ、そうでした。リナさんに、言っておかなければならないことがあります」
うん?
「リナさんが扱う魔法は、冒険者の職業スキルの扱いになります。まずは冒険者ギルドで職業に就き、ポイントを振り分けて術を習得してください」
うわ、面倒くさっ。その手続きを践まなきゃ、魔法が使えないんだから仕方ないんだけど。
「それではリナさんを冒険の世界へ…、と、リナさんの世界も似たようなものでしたね。
ともかく。これからリナさんを、転生させます。そのゲートから動かないでくださいね」
気がつけば、あたしを中心に描かれた魔法陣が、光を放っている。
「それにしてもリナさんは、良くも悪くも聞いていたとおりの方ですね」
「へっ? 聞いてって、誰から?」
あたしに神様の知り合いなんて、……姉ちゃんなんてことはないよね?
「それは、秘密ですよ?」
「いや、秘密はやめろ。知り合いの魔族と被ってるから」
エリスの顔が、一瞬にして引きつる。
「で、では、ナイショにします」
やっぱり、魔族と同じは嫌だったか。
「コホン! それでは、旅立つリナさんに祝福を!」
取り繕ったエリスが言うと、あたしは魔法陣の光に飲み込まれていく。
うむ、とりあえず最後に、言うべきことは言っておこう。
「エリス! 胸パットは、もっとバレないように着けないとダメよー!」
「な……!?」
エリスが何かを言う前に、あたしは光の中に消えていった。
気がつくとあたしは、路地裏に突っ立っていた。どうやら、人目につかない安全な場所を選んでくれたらしい。
とりあえずあたしは、掌を閉じたり開いたりを繰り返し、続いてその場で走るように、足を交互に上げ下げする。
これはすごい。若い頃の肉体を、
さてと。まずはエリスが言ってた[冒険者ギルド]に行かないとね。
あたしは通行人にギルドの場所を尋ねる。最初は言葉が通じるのか心配だったけど、これもエリスが何とかしたんだろう、何の問題もなく会話は成立した。
「ここが冒険者ギルドか」
あたしの前にある建物は一見酒場のようにも見えるが、こういったところが依頼の仲介をするのは、もとの世界でもよく見られた光景だ。
それに魔道士協会だって、一般向けの食堂が併設されていたり、旅の魔道士のために簡易宿のある所だってあった。
そう考えれば、それほど珍しいものでもないだろう。
ギィ…
あたしは扉を開け、中へと一歩踏み入れる。
部屋に響く喧騒と、ぷん、と漂うお酒のにおい。うん、まさに酒場だ。
「いらっしゃいませ! お食事ですか?」
ウェイターのねーちゃんが声をかけてきた。
「いえ、冒険者の登録に来ました」
「それでしたら、あちらのカウンターへどうぞ」
どうやら向こうのカウンターが、ギルドの窓口になってるようだ。時間的なものだろうか、幸いにも人影はまばらである。
「すみません。冒険者の登録をしたいんだけど」
あたしは人当たりの良さそうな、金髪ねーちゃんに声をかけた。
「はい、登録ですね。それでは登録料として千エリスいただきます」
……一体どないせいっちゅーんだ。お金取られるなんて聞いてないぞ!?
エリスのばかやろー!!
あたしは心の中で毒づくのだった。
二話目は、すぐ書くかもしれないし、間が開くかもしれません。