ベルディア襲来の翌日。
「
ちゅごーん!
一撃熊の討伐終了。
二日後の深夜。
「
どおーん!
盗賊いぢめ完了。
三日後の午後。
「
ばじゅあっ!
初心者殺し討伐成功。
五日後の昼。
「ハウリング・ソード!」
ぶん! ずばあっ!
キールのダンジョン踏破。
そして一週間後。あたしが今日も今日とてクエストをチェックしていると。
「あら、リナじゃない」
そう声をかけてきたのはアクアだった。
「アクア、久し振りね。あなたもクエスト探し?」
「ええ! なんとしてもお金を稼がないと!」
切羽詰まった表情で言うアクア。どうやら相当切迫してるみたいね。
アクアは掲示板とにらめっこを始める。そこへカズマが、手を挙げた挨拶だけで、声もかけずに近づいてきた。
「……よし」
「よしじゃねえ! お前、何請けようとしてんだよ!?」
それは、マンティコアとグリフォン討伐の依頼書。あたしもさっき目を通したけど、二匹まとめての討伐で五十万エリスでは、ちょいと割に合わない。
まあ、ここが冒険初心者のための街だという事を考えると、わざと安く設定して旨味の無い依頼とし、下手に請ける人が出ないようにしてるってトコだろう。
カズマに止められたアクアは、文句を言いながら再び掲示板を見て。
「ちょっとこれこれ! 見なさいよ!」
そう言って指し示す依頼書には、こう書かれていた。
【[湖の浄化]
街の水源のひとつの水質が悪くなり、ブルータルアリゲーターが住みつき始めたので、水の浄化を依頼したい。湖の浄化ができれば、モンスターは生息地を他に移すため、討伐はしなくてもいい。
※要浄化魔法習得済みのプリースト
報酬は三十万エリス】
「水の浄化なんて出来るのか?」
「バカね、私を誰だと思ってるの? と言うか、名前や外見で、何を司る神様かわかるでしょう?」
「「宴会芸」」
「違うわよ、水よ! この水色の瞳とこの髪が見えないの!? と言うか、リナには自己紹介の時に言ったわよね?」
うみゅ、もちろん宴会芸は冗談だけど。でも、それでも違和感が無いのも、これまた事実である。
「じゃあ、それを請けろよ。お前一人で請ければ、報酬独り占め出来るだろ」
途端に顔色が悪くなるアクア。
「ねえカズマ」
「はい、カズマです」
「アクアは、モンスターが出たときに身を守って欲しいのよ」
そう言って視線をアクアに向けると、彼女はそれはもう一所懸命に、首を縦に振っていた。
ハァ、とひとつため息を吐いてから、カズマは言った。
「それで、浄化にはどれ位かかるんだ?」
「えーと、半日くらい?」
「なげーよっ!!」
いや、いくつかあるとは言え、街の水源になる規模の湖を浄化するんでしょ? 実質一人でやることを考えれば、半日ってかなり優秀だと思うけど。
そもそもすぐに済むんなら、盗賊の潜伏スキルを組み合わせてちゃっちゃと浄化すればいいんだし、第一、三十万エリスなんて高額報酬になるはずもない。
「浄化ってどうやるんだよ!?」
泣きつくアクアを見かねたカズマが尋ねる。
「まあ私クラスの女神なら、水に触れてるだけで浄化されてくけど…」
ほおぅ、魔法も使わずに自身の固有スキルだけでそれほどのことが出来るとは、ホント、能力だけはすごいんだ。
「おいアクア」
カズマが少し考え込んでから口を開く。
「多分、安全に浄化できる手があるんだが」
緑色に濁った湖。その岸から程近い浅瀬に大きな檻が、20センチ程水に浸かった状態で設置されていた。岸の岩に鎖で繋がれたその檻の中には、水の女神様(笑)が閉じ込められている。
そう、これこそがカズマが立てた作戦。モンスターを閉じ込める檻の中に入って、モンスターからの攻撃を防ごうって訳だ。見た目は悪いけど、確かにこれはなかなか有効な手段だと思う。
「アクア、何かあったら言えよー。檻ごと引き上げてやっからー」
「……私、ダシを取られてる紅茶のティーバッグの気分なんですけど」
……まあ、中の
それからしばらく…、こっちの時間の単位で二時間ほど経過した。湖はさほど綺麗になった様には見えない。
檻の中のアクアは、暇つぶしで格子の数を数えてる。まあ、その数からすると、既に何周もしてるみたいだが。
「モンスターは出てこないな」
「そのようですね」
ダクネスとめぐみんも、気の抜けた会話を飛ばしている。
「それにしても、今日は大人しいな」
「そうね。いつもだったら、速攻で爆裂魔法を撃ち込もうとするじゃない」
「ああ、確かに!」
めぐみんに向かって言うカズマに同調するあたし。それを聞いたダクネスも納得する。
「みんなは私を、何だと思っているのですか!
……フッ、我が究極の爆裂魔法は、ワニ如きに使うものではないのです!」
「普段は、無駄にポンポン撃つクセに」
「キャベツ狩りの時なんか、まさにそうだったしねー」
「……いや、リナもどちらかって言えばめぐみん寄りじゃねーか?」
何を失礼な。確かに大技ぶっ放すのは気持ちいいけど、あたしは一日一
あたしが不満の表情を見せると、やれやれという感じでカズマが肩をすくめて見せた。ちょっとムカつく。
それには気も止めず、カズマは湖の方を向き、大声で言う。
「おーい、アクア。湖の浄化はどんなもんだー?」
「浄化は順調よー」
ふむ、それはいい。あたしは暇だけど。
「水に浸かってると冷えるだろ。トイレ、行きたくなったら言えよー」
うわ、デリカシーねーでやんの。遠目にも、アクアが恥ずかしそうにしてんのがわかるくらいだ。
「アークプリーストは、トイレなんか行かないしっ!!」
いや、その返しはどうなんだ?
「大丈夫そうですね。因みに、紅魔族もトイレには行きませんから」
「お前らは昔のアイドルか!?」
「わ、私もクルセイダーだから、トイレは…、トイレは……」
ダクネスがモジモジしながら、恥ずかしそうに言う。
「ダクネス、無理して張り合うな」
「そうよ。二人には一日じゃ終わらないクエストにでも連れてって、食事は大量のスープにでもしましょうか? それでトイレに行かなかったら、土下座して謝ってあげるわ」
あたしの提案に、途端に顔色が悪くなるめぐみん。
「あ、謝りますからやめてください!
……まったく、リナはカズマ並にエグいこと言いますね」
「いや、俺でも液体の大量摂取は思いつかなかったぞ?」
「カズマも一目置くとは興味深い!」
いや…、そんなことに一目置かれても、ちっとも嬉しくない。と言うか、ダクネスにそっち方面で興味もたれるのは勘弁願いたい。
「しかし、ホントに現れませんね。このまま何事も無く過ぎればいいのですが」
ちょっとめぐみん! それってフラグ…!
「きゃああああ! カズマ! リナ!!」
アクアの叫び声が上がったのは、まさにその時だった。
「ピュリフィケーション! ピュリフィケーション! ピュリフィケーション!」
クエスト開始から四時間。アクアは魔法も唱え、それはもう懸命に湖の浄化を行っていた。その理由は。
がしゃあああ!
がぎゃがぁっ!
めぐみんのフラグ発言によって現れたブルータルアリゲーターの群れが、アクアが入った檻を頻りに攻撃してるのだ。
「アクアー、ギブアップなら言えよー。鎖引っ張って、檻ごと引きずって逃げるからー」
「嫌よ! ここで諦めたら、報酬がもらえないじゃない!」
めきょっ!
「ああ-っ! 今、メキッていったぁ!! ピュリフィケーション! ピュリフィケーション…」
ううむ、ここまでいくと、むしろ感心する。……と言うか金の執着に関して言えば、あたしも似たようなもんだが。アクアの様な無駄遣いはしないだけで。
……はあ、仕方がない。少しばかり手助けしてやるか。
「あ、おい、リナ!?」
あたしが岸に向かって歩き出したのを見て、ダクネスが声をかける。
「ちょっくらアクアを助けてくる」
そう応えてから再び歩き出すと、何匹かのワニがあたしに気がついてこちらに向かってきた。あたしは腰から剣を抜き、それを一振り。撃ち出された衝撃波がワニを切り裂く。
「なんか見たことある剣だと思ったら、ハウリングソードか!?」
やっぱりカズマも、ハウリングソードを知ってたか。
そんなことを思いつつ、あたしは斬擊を繰り返し淵まで辿り着くと、水面に手をつけて術を解き放つ。
「
水面が大きくうねる!
ざっぱあああ!
「きゃあああああっ!? ピュッ、ピュリフィケーション!」
本来、中型のボートくらいなら転覆させられる威力のこの魔法、浅瀬のためにかなりのスケールダウンだが、それでもワニを押し流して遠ざけることが出来た。
とはいえ相手も生き物、警戒しながらも再び檻を目指してくる。もちろんあたしは次の呪文を唱え終わってる。
「
あたしが放った強力な炎の槍がワニの一体に突き刺さり、これまた強力な炎を撒き散らして周囲のワニを巻き込んだ。
「熱っ!! ……ピュリフィケーション!」
若干アクアに飛び火したようだけど、距離はあるから大丈夫でしょ。
さて、残りはあと二体か。それに檻にだいぶ近づいてるわね。なら。
「
掌から打ち出された魔力が、今まさに檻に襲いかかろうとするワニの頭に直撃、粉砕した。
「うげぇっ! ピュリフィケーション…」
もういっちょ!
ぼん!
「ひえっ! また!! ……ピュリフィケーション!」
すぷらったなワニを目の前で見て顔面蒼白、涙目になりながらも、アクアは魔法をかけ続けていた。
そして七時間が経過して、湖の浄化は完了した。水は澄み渡り、あちこちに魚影が確認できる。そんな偉業を成し遂げた、当の女神様はといえば。
「……檻の外の世界、……怖い。このまま街まで連れてって…」
すっかり引き籠もっていた。カズマ達が、「報酬は全部アクアのもの」と言ってもこの通りなのだ。なかなかの重傷のようである。
「ちょっとアクア。たかがワニにたかられたくらいで、だらしがないわよ!」
あたしは発破をかけようと、檻に近づいて声をかけた。……んだけど。
「い、嫌っ! 近づかないでっ!!」
……へっ?
「どうせまた私を酷い目に遭わせる気なんでしょ! 嫌よ、嫌イヤ!!」
えーっと…。
「どうやらトラウマの半分は、リナみたいだな」
何ですとォ!?
「まあ、仕方がありませんね。リナの魔法の余波を散々受けまくっていた挙げ句、当のリナはブルータルアリゲーターが現れる度に攻撃を行っていたのですから」
いや、まあ、少しばっかり冷静に考えると、確かにそんな気がしないでもないよーな…。
「リナ、機会があれば、今度は私に…」
「やだ」
「くうぅ、即答だとっ!!」
身悶えながらに言うダクネス。この人、ホントやだ。
「……それで、どうする?」
困り果てた末に、カズマはみんなに尋ねる。でも、確かにこのまま放置って訳にもいかないし。
「これは、先程アクアが言ったとおりにするしかありませんね」
「つまり、このまま街まで連れて行け、と」
……マジか?