借金、もとい水の女神アクアが見つけたクエストは、湖の水を浄化するというものだった。
カズマの発案により、アクアを檻に閉じ込めた状態で水に浸け浄化させることになり、これでモンスター対策もバッチリ、と思ったらモンスターに襲われたショックで、アクアはすっかり引き籠もり状態に。
アクアの願いを聞き入れて、檻に入れたまま街に帰ることになったあたし達。ホントにこれでいいのか?
カズマ「いや、トラウマの半分はリナのせいだろ?」
うるさいカズマ、余計なこと言うんじゃない!
僕の名前は御剣響夜。日本人の転生者だ。
若くして死んだ僕は、女神様に選ばれ勇者としてこの世界にやって来たんだ。女神様から授かった、魔剣グラムを携えて。
転生した僕は
……って、ちょっと待ってくれ! これから僕が転生してからの
ガラガラガラガラ…
馬が引く荷車の、街の石畳の上を移動する音が響き渡る。遠巻きにあたし達を見つめる視線が、とても痛い。
そりゃそうだろう。何しろ荷台には、檻に閉じ込められた(見た目は)美しい少女がいるのだ。しかも物悲しい歌まで歌って。街の人達がどう思うのかなんて、想像に難くない。
「なあ、アクア。もうその歌はやめてくれ。……というか、いい加減その檻から出て来いよッ!」
「……いや。この中こそ私の聖域よ。外の世界は怖いから、しばらく出ないわ」
何を軟弱な! ……って、半分あたしのせいだけど。
「……何だか以前の俺みたいだな」
「「「ん?」」」
「いや、何でもない」
そんな会話をしていると。
「女神様! 女神様じゃないですか!」
そんな声が聞こえてきた。慌ててそちらを見れば、甲冑姿の男が檻に手をかけ、鉄格子をひん曲げてこじ開けた、って何じゃそりゃあ!?
「何をしているのですか、女神様!」
「おい!」
アクアに尚も語りかける男の肩に、ダクネスが手をかける。
「私の仲間に軽々しく手を触れるな!」
おお! ダクネスが何だかまともだぞ!
そして男がダクネスに気を取られてる間に、カズマがアクアに小声で尋ねる。
「あれ、お前の知り合いだろ? 女神とか言ってたし」
「……女神?」
…………ん?
「そうよ! 女神よ、私は!」
をいこら、ちょっとまてぃ! 今までその事忘れとったんかい、このアマ!?
アクアは檻から出ると胸を張り。
「さあ、女神の私に何の用かしら?
…………アンタ誰?」
知らんのかいッ!
「僕です、
ああいや、どうやらアクアが忘れてるだけっぽい。
男は腰からロングソードを引き抜き、手を添えながらアクアに見せる。
「貴女にこの[魔剣グラム]を頂き転生した、御剣響夜です!」
……なるほど。つまりはカズマと同じ世界から来た、勇者の一人って訳ね。
「……ああ、いたわね、そんな人も! ごめんね、すっかり忘れてたわ!
結構な数を送ってたし、忘れてても仕方がないわよねー?」
「……え、ええ」
今ので納得するんだ!?
「ところでアクア様は、どうして檻に閉じ込められていたのですか?」
いや、アクアが引き籠もってただけなんだけど。……ただ、この男がそれで納得してくれるかどうか。何しろ半ば、アクアに対して崇拝に近いモノがあるから。
「はああああ!? アクア様をこの世界に引きずり込んで、しかも檻に閉じ込めて、湖に沈めたああああ!?」
いや、そう言われると、ただの鬼畜みたいじゃない。
「ちょっと! 私はここに連れて来られたことも、もう気にしてないから!」
「この男にどう丸め込まれたか知りませんが、貴女は女神なんですよ!」
いやいや、彼女はこの世界を思いっきり堪能してますよ?
「因みにアクア様は、今どこで寝泊まりを?」
「えっと、馬小屋だけど」
「はあっ!?」
驚愕した彼は、掴んでいたカズマの胸ぐらに更に力を込める。
はあ…
あたしは一つ、ため息を吐く。
「ちょっとアンタ、キョウヤとか言ったかしら?」
「……何だい、君は?」
「あたしはリナ。カズマの知り合いよ」
そう言ってあたしは、キョウヤの前にツカツカと近づく。
「アンタはどうやら、アクアが冷遇されてるって思ってるみたいだけど、あたしから見たら思いっきし妥当だと思ってるわ」
「「なっ!?」」
キョウヤとアクアが、非難の視線をあたしに向けた。
「『なっ!?』じゃないわよ、アクア! アンタが騒ぎ起こしたり、借金こしらえたりするから、カズマはお金が貯められないんでしょ! 馬小屋生活から抜け出したいんなら、ちょっとは自重なさいっての!」
「うう~、だって私は女神なのよ? 敬われて然るべきだと思うの」
「敬われるだけの成果も上げずに、なに言っとんのじゃあああああ!!」
すっぱあああああん!
あたしはアクアの頭をスリッパで、勢いよく引っ叩いた。
「いったあぁぁい!」
「アクア様! おいキミ、アクア様になんて事を!」
「やっかましい!
このアクア信奉者に喰らわせようと、呪文を唱え始めると。
「イヤッ! やめてッ! 怖いの! リナの魔法は怖いのおおおおおお!!」
……あー。そーいや、トラウマ植え付けちゃったんだっけ。
仕方なしにあたしは、呪文を唱えるのをやめた。
「……気を取り直して、他にも理由はあるわよ?
カズマはアクア以外に特典もなく、職業は最弱職の冒険者。
仲間のアークウィザードは爆裂魔法が使えるけど、他の魔法を覚えていない上に一発で打ち止め。
クルセイダーは防御力は途轍もないけど、剣の腕はからっきしでオマケにドM。
そしてアクアは、アークプリーストで各種支援魔法はピカイチだけど、言う事聞かない上に余計なことして事態を悪化させる。
これでカズマにどうしろと?」
「あ、ええと…」
さすがにこれには、キョウヤも言い返せなかったようだ。
「あーその、リナ。擁護してくれるのは有難いんだけど、俺達にも結構なダメージがあるんだが…。あ、ダクネスは除く」
「くはぁっ!? リナから連携の言葉責めだとっ!? 貴様ら、何という高等テクニックを…!!」
うん。ダクネスは少し黙ろうか?
「……君はどうなんだ?」
キョウヤはあたしにも聞いてきた。だけど。
「あたしはカズマとパーティー組んでるわけじゃないもの。ダクネス…、クルセイダーの子がパーティーに馴染むまで一緒にいてくれって、彼女の友人から頼まれたのよ。
……ま、あとは、彼らと
そう。今のあたしの立ち位置は、クリスに近いんだろう。それがいろんなパーティーを渡り歩くのか、特定のパーティーなのかの違いってだけで。
「ちょっとばかし話が逸れたけど、そんな彼らは持ちつ持たれずの間柄、アクアが不遇ってんなら、それは彼女自身のせいよ」
「……えっと、も少しオブラートに包んでほしいのだけど」
アクアがなんか言ってるが、それは無視。
「そもそもカズマがアクアを連れて来たのだって、アクアにバカにされたのが原因だって聞いたわよ?」
カズマも、詳しいことは言いたがらなかったけど。多分、相当情けない死に方だったんだろう。
「それに檻に閉じ込めたのだって、アクアがどうしてもこのクエストをやりたいって言ったから、安全確保のためにやったわけだし。
ハッキリ言ってカズマ達じゃ、ブルータルアリゲーターは倒し切れなかったと思うし、結構妥当な策だったと思うわよ?」
「だ、だけど、アクア様を閉じ込めたままアクセルに帰ってこなくても…」
まあ、これに関しちゃ、キョウヤの言いたいこともわかる。あたしだって事情を知らずに目撃したら、カズマ達が虐待してると思うだろう。
「ワニが檻を攻撃してきたから引き上げようか尋ねたんだけど、アクアはお金のために、それを頑なに拒んだのよ。その挙げ句にトラウマで『外に出たくない』とか言うから、仕方なく檻ごと運んできたってわけ」
「半分は…、いや、何でもない!」
余計なことを言おうとするカズマを、睨みを利かせて黙らせた。
あたしの弁に、キョウヤは押し黙っている。
「……どうやら納得してくれたみたいね。それじゃあみんな、行きましょ!」
そう言って、ギルドに向かって歩き出そうとした、その時。
「いや、待ってくれ!」
キョウヤはあたし達の前に回り込む。
「何? まだ文句があるの?」
さすがにこれ以上は、穏便に済ませる気もないんだけど。
「いいや、もうキミ達に…、いや、彼に文句は無いよ。
ただ、アクア様は僕にとって大事な恩人なんだ。納得ずくとはいえ、その様な境遇に置かれていることは、やっぱり我慢ならないんだ」
「……ふぅん。それで?」
「僕にもチャンスが欲しい」
そう言って彼はアクアを見る。
「そしてそれが赦されるなら、方法はアクア様に決めて戴きたい。いかがですか、アクア様?」
「えっ、私?」
自分を指差しながら言うアクア。キョウヤはこくりと頷く。
「……いいわ、任されたわ。
そうね、方法は決闘。最終目標は魔王討伐なんだから、当然よね。
勝利条件は、どちらかが戦闘不能になるか負けを認めた時。ただし、大怪我させたり殺したりしないでよ? 治療したり生き返らすの、面倒くさいから」
なっ、こっちの世界じゃ、死者の蘇生なんて出来るの!? いや、まあ、あたしは異世界から転生したわけだし、そう考えれば有り得なくはないんだろーけど。
「そして闘うのは、当然カズマさん!」
「ちょっと待て! どーして当然俺なんだよ!?」
カズマが文句を言うとむしろ、どうしてわからないの? という表情でアクアが視線を送る。
「だって私を特典に指名したの、カズマじゃない」
カズマがしまった! という表情になる。
しかしアクア、この勝敗で運命が左右するってのに、随分と楽しんでるわね。
「納得した? それじゃあ勝利報酬だけど、負けた人が勝った人の言うことを、何でも一つ聞かなくちゃならない。これでどう?」
なるほど。知力が残念なアクアにしては、よく考えた方ね。だけど。
「あたしの方から、ちょっと補足させてもらってもいい?」
「ええ、いいわよ」
「うみゅ。戦闘方法だけど、カズマとキョウヤの職業の違いやレベル差から考えて、何でもアリにしない? こう決めておけばお互い納得いくだろうし、あそこで遠巻きに見てる、多分キョウヤの仲間だって、後から文句も言えないでしょうから」
そう。さっきからこちらを見てる二人の少女は、キョウヤのパーティーメンバーだろう。キョウヤはまだしもあの二人は、後から難癖着けてくる可能性があるので先手を打っておいたのだ。
「僕は構わないよ」
「俺もだ」
どうやら二人も納得したようだ。
「それじゃあコインが…、コイン…」
急に困った表情に変わり、アクアはあたしを見る。全く、しょうがないわね。
「それじゃ、あたしが代わりにコインを弾くから、地面に落ちたときが始まりの合図ね。……じゃ、いくわよ?」
あたしは、取り出したエリス硬貨を指で弾いた。
チリーン!
石畳に硬貨が落ちた瞬間、キョウヤが剣を抜きながら駆け出した。一方のカズマは。
「『クリエイト・アース』からの『ウインドブレス』ッ!!」
魔法で発生させた土を魔法の風で、キョウヤ目がけて吹き飛ばす。けれどキョウヤは、左腕で砂が目に入るのを防いでいる。
だがこれも、カズマの策略の内だった。
「『スティール』ッッ!!」
キョウヤの動きが止まったのを見計らい、窃盗スキルを発動させるカズマ。次の瞬間には、カズマの手にキョウヤの剣が握られていて。
ごいん!
刀身の平たい部分を頭に叩きつけられたキョウヤは、あっさりと気を失ってしまうのだった。
クリス、お誕生日おめでとう!
前置きはこれくらいにして、決闘シーン短っ! まあ、カズマの場合、短期決戦じゃないと勝ち目がないので。
『クリエイト・アース』と『ウインドブレス』の組み合わせ、最初の被害者はミツラギさんになりました。アクア様の身代わりならば、彼も本望でしょう。……って、ダメージは受けてないけど。
めぐみんが空気なのはナイショだ!
ファンタジア・リビルドの竜破斬の詠唱、ちゃんと原作版だったのには感動した。