湖の浄化を終え、アクセルの街に戻った俺達。檻に閉じこもったままのアクアに「女神様」と言って近づいた男、ミツルギキョウヤ。
アクアの境遇に憤慨したヤツを、リナが説明して理解してもらったが、恩義と敬愛を感じているミツルギは、アクアをかけた決闘を申し込んできた。
そして死闘の末、俺はミツルギに勝利したのだった。
リナ「いや、コスい手で、の間違いでしょ?」
余計なこと言うないっ!
卑怯者と言うなかれ。彼は職業差とレベル差を、スキルの組合せで補っただけである。それにあたしは予め、「何でも有り」と言ってあるのだ。非難される筋合いなど…。
「この卑怯者!」
をいこら。
「あんな勝ち方なんて、私は認め…」
パキポキッ!
「ほぉう。認め…なんだって?」
あたしは拳を鳴らし、取り巻きのふたりの前に立ち塞がる。
「あたし、言ったわよねぇ。何でも有りって。で、キョウヤはそれを承諾した。それでもケチつけようっての?」
いつもよりも低めの声で、彼女達に言い放つ。すると一瞬ビビったようだが、すぐにあたしを睨み返してきた。
「でも目潰しなんて、決闘のセオリーに反してるじゃない!」
「じゃあ聞くけど、戦場の敵が必ずしも、正々堂々と戦うと思ってるわけ? ましてや相手を大きく下回るカズマの場合、搦め手で来なきゃ勝てるわけないでしょうが!」
実際あたしも、持続時間ゼロの[
「いや、その言われ方だと、さすがに惨めになってくるんだが…」
カズマがもの申してくるけど、それは無視。
「そして何よりムカつくのは、あたしの出した条件を無視してイチャモンつけてきたトコよっ!!」
「「ええっ、そこ!?」」
「あー、リナらしい理由だな…」
カズマ、うるさい!
そんな中、取り巻きの内のさっきから噛みついてくる子が、再び気合いを入れ直して睨み返してきた。
……ふぅん。なかなか肝が据わってるじゃない。それともそれだけキョウヤに、思いを寄せてるのか。
彼女は剣を抜き、切っ先をあたしに向ける。
「そっ、それじゃあ今度は私と…」
ちゃっ!
がぎいぃん!
「……え?」
あたしが抜刀した剣が彼女の剣をかちあげ、打ち下ろすように切り返した剣の刃を、彼女の肩口に当たる少し前でピタリと止める。さすがに寸止めとまではいかないが、これくらいの芸当はあたしにだって出来るのだ。
「勝負してもいいけど、あたし剣術も、三流騎士程度なら負けないくらいには強いって、自負してるわよ?」
そう言ってあたしは剣を引っ込め、鞘へと納める。途端に彼女はがくりと腰を落とし両膝を着いた。どうやら腰が抜けたようだ。
「ええと、取りあえず話はついたんだよな? だったら俺は、何でも言う事を聞くって契約として、この魔剣貰ってくわ」
「なっ!? バカ言ってんじゃないわよ! それにその剣は、キョウヤにしか使いこなせないんだからっ!」
カズマの発言に、もうひとりの取り巻きが声を荒げる。
「え、マジで?」
「ええ、その魔剣は、そのイタい人専用よ」
アクアを見て言うカズマに、彼女は頷いて言った。あたしは知ってたけど。……ふむ、でも。
「カズマ、それ貸して」
「え? あ、ああ」
要領を得ないって表情で、あたしに剣を差し出すカズマ。あたしはそれを手に取ると、片手でヒョイと持ち上げる。
『……は?』
気を失ってるキョウヤ以外が間抜けな声をあげた。
「……なるほど。この魔剣は使用者の身体能力、特に筋力を上げてくれるみたいね。それと…」
あたしは、今所持している傷物の宝石の中で最も硬度のある石を取り出し、ヒョイと真上へ放り投げ、それに目がけて剣を振るう。すると宝石は、小さくキンッ、と音を立てて真っ二つに切り裂かれた。
『な…』
またもやみんな仲良く、声をハモらせる。
「ふみゅ、確かに魔剣の名に恥じない切れ味ね」
まあ、前の世界でガウリイが持ってた
「ちょっと、リナ! どうして特典武器が使えるのよ!?」
いや、どうしてって…、あ。そーいやあたし、転生特典の説明してないや。
「えーと、あたしの特典、『他の人の特典アイテムが使える能力』だから」
さすがに「転生」とか「転生者」なんて単語は使わない。それでもかなり、ギリギリな会話だと思うけど。
「え? 特典って、【スレイヤーズ】世界の魔法じゃなかったのか?」
「それは、武具や衣装の一式引っくるめて基本装備だったから」
「ずりぃ…」
カズマが拗ねたように言う。まあ確かに、他の転生者よりも優遇してるってエリスも言ってたし、拗ねる気持ちもわからんではない。
「ともかくこれで、この剣貰ってっても問題ないってワケね?」
「「いやいやいや!?」」
取り巻きふたりが口を揃えて言うけど。
「
ばぼぼぼん!
あたしが放った複数の小さな光球が、地面に触れた瞬間に小爆発を起こす。とはいえ音は派手だが、殺傷力はほとんど無い。精々当たると、焦げて痛いくらいだ。
……まあ、あたしの魔法にトラウマがあるアクアは、カズマの後ろに隠れて怯えてたりするが。ちょっとカワイイぞ。
それはともかく、今の脅しが効いたのか、ふたりは声も出ないようだ。
「問題、無いわよね?」
改めてあたしが尋ねると、テンパったふたりは思わず首を縦に振るのだった。
「……ダクネス。なんだか私達、空気じゃありませんか?」
「そうだな」
あ。めぐみんにダクネス、なんかゴメン。
翌日の冒険者ギルド。リナを含めた俺達は、カウンター席で駄弁っている。
昨日ミ…グルミ? に破壊された檻のせいで、20万エリス弁償させられたと喚くアクア。まあ今回は、アクアが憐れに思う。珍しく、ちゃんと仕事をこなしてたのにな?
「見つけたぞ、サトウカズマ!」
なんて思ったところへ、当のミグルミが現れた。取り巻き二人も一緒だ。
「君のことは盗賊の少女から聞いたぞ。ぱんつ脱がせ魔だってね! 他にも女の子を粘液まみれにするのが趣味だとか、噂になってるそうじゃないか。鬼畜のカズマだってね!」
「ちょっと待て! 誰がその噂を広めたのか、そこんとこ詳しくっ!!」
ぱんつ脱がせ魔は判明してるがなっ!
「アクア様。この僕が必ず魔王を倒すと誓います。だからこんな男ではなく、僕のパーティーに…」
「『ゴッドブロオオオオ』!」
アクアの攻撃!勇者は120ポイントのダメージを受けた!!
「ちょっとアンタ、檻の修理代払いなさいよ! 30万よ、30万!」
さっき、20万って言ってたような。
お金を受け取ったアクアは上機嫌で、シュワシュワとカエルの唐揚げを頼んでいる。お安いヤツだな。
「こんなこと頼むのは、虫が良いのは理解している。だが頼む! 魔剣を返してはくれないか!?」
起きあがったミグルミが、頭を下げる。だが、魔剣は既に、手元には無い。俺が
……と、本来ならなってたところだろう。だが実は、今も手元にあるのだ。その
「えーと、確かミツルギキョウヤだっけ?」
「ああ」
やべっ! ミグルミじゃなかったか!
「アンタの剣は、今もカズマが所持してるわ。あたしがそうするように言ったからね」
そう。魔剣を売ろうと思った俺に、リナが待ったをかけたのだ。更に魔剣を一晩貸して、今日、ギルドで返してもらったばかりだった。
「どういう、ことだい?」
ミグ…じゃなくてミツルギが疑問を投げかける。
「王都にいる知り合いの武器屋に、この剣を鑑定してもらったのよ。
[魔剣グラム]。神が創った神器であり、使用者を加護し、魔をも切り裂く魔法剣。……例えあなたにしか扱えなくても、持ってくトコに持ってけばかなりの値がつく、って言ってたわよ」
なに? その武器屋。そんな事までわかっちゃうの?
そんな俺の思考を読んだのか、リナがこちらを向き言った。
「彼は、カズマやキョウヤと同じ国出身よ」
あ。転生特典か!
「何が、言いたいんだ」
本当はミツルギもわかってるはずだが、そうであって欲しくないと思って聞いたんだろう。
「魔剣グラム、買い取って♡ もちろん、価値のわかる人に買い取ってもらう価格でね。確か底値でも、四千万は下らないって言ってたけど」
「「「「四千万!?」」」」
俺達は思わず声をあげてしまう。一方のミツルギは、覚悟はしていたんだろう、苦い顔はしているが何も言わなかった。
「この剣の価値、あなたが一番わかってるはずよね?」
リナが追い撃ちをかけると、ミツルギは大きくため息を吐いて肩を落とす。
「……わかった。すぐには無理だけど、近いうちに四千万、まとめて払うよ。
それで相談なんだけど、さすがにその剣が無いと、僕も立ち行かないんだ。だからまずは、剣を返してもらえないだろうか? もちろん借用書だって書くよ」
うーん、どうしたもんか。困った俺がリナを見ると、彼女はあっけらかんと言った。
「ま、別にいいんじゃない? ナルシストで話を聞かなくて思い込みが激しいタイプだけど…」
「ぐっ!?」
ああ、ミツルギのヤツ、意外と自覚してるんだ。
「でも、けっこお真面目な性格みたいだし、踏み倒すようなことはしないんじゃないの?」
なるほどな。
「わかった。ただし借用書は、きっちり書いてもらうからな」
「ああ」
こうして俺達の、というかリナとミツルギの交渉は成立したのだった。
「あ、カズマ。王都の往復代と鑑定料は必要経費ね!」
……さすがリナ、しっかりしてやがる。
ミツルギ達が立ち去ったあと、昨日の女神発言について聞かれたので、アクアが自分の正体を打ち明けた。もっとも、ダクネス、めぐみん共に信じてはくれなかったが。
そして話はリナに移り。
「そういえば、昨日リナが話していた「特典」とはどういう意味ですか?」
やっぱり聞かれたか。アレは中々、不自然な会話だったからな。さて、リナはなんて答えるのか。
「めぐみん。勇者と称される人達が、特殊な武器やアイテム、或いは能力を持ってるのは知ってる?」
「ええ、はい。主に黒髪、黒目で変わった名前の人達だと聞いたことがあります」
めぐみんが答えると、リナは思案顔で俺を見る。……あー、確かに俺の髪色は、黒みがかった茶髪だな。ついでに言や、ミツルギの髪色も明るい茶髪だ。
「ニホン人は多くが黒髪だけど、茶髪や赤毛の人もいるわよ? それに染めたり、脱色する人もいるし」
おお! アクアが珍しく真っ当なフォローを!! ……って、さすがにそれは失礼か。いくらいい加減とはいえ、多くの死んだ日本人を導いてきたんだ。それくらいは知っててもおかしくないよな。
リナは納得したのか頷いて、続きを話し始める。
「……さっきのグラムの説明でも言ったとおり、彼らの武具やアイテムは神器、神が創り与えたものよ。能力にしてもそう。
勇者達は神からの
「そういう事か」
リナの説明に、ダクネスが頷きながら答える。一方のめぐみんは、少し考え込んでから言った。
「では、リナが特典を持っているということは、リナも勇者候補のひとりなのですか?」
さすが頭のいい紅魔族、なかなか鋭い。
「……女神様の命を受けたって意味ではそうだけど、彼らとはちょっと違うわね」
そう言や、リナがどうしてこの世界に来たのか、聞いてなかったな。俺と同じで魔王討伐かとも思ったけど、縁も所縁もないリナが受けるとは思えない。
「あたしはこの世界に紛れこんだ、[魔族]を退治するために来たの」
魔族だって!? それってまさか【スレイヤーズ】に登場した、あの魔族か!?
「魔族、ですか。それは、悪魔やそれに準ずるものの事ではないのですか?」
「魔族は、この世界には存在しなかったモノよ。それを排除するのに白羽の矢が立てられたのが、あたしだったってわけ」
そうだったのか。ってか、魔族が紛れ込んでるって、めちゃくちゃ大事じゃねえか!
「そういう事ですか。俄には信じ難い話ですが、理解しました」
「ちょっと待って、めぐみん!」
ここで、今まで
「どうしてリナの話は信じるのに、私が女神だって話は信じてくれないのよっ!」
「信憑性が違います」
「ええと、アクアには悪いが、めぐみんの言うとおりだな」
うわああああん、と泣き出すアクア。憐れだが、これが日頃の行いというものだろう。
ウ~~~~…!
突然、けたたましい警報が鳴り響き。
『緊急! 緊急! 全冒険者の皆さんは直ちに武装し、戦闘態勢で街の正門に集まってください!
……特に、冒険者サトウカズマさんとその一行、及びリナ=インバースさんは、大至急でお願いします!』
そんなアナウンスが流れるのであった。
クレメア(取り巻きのひとり)が剣を抜いてますが、この物語がアニメに近い世界線のためです。原作では「ランサー」職の槍使いです。
さて。次回、遂に(ようやく)ベルディア戦の開幕です。