魔王軍の幹部ベルディアが再びやって来た。原因は、私が毎日撃ち込んでいた爆裂魔法と、ダクネスの為に彼の所に出向こうとしなかった、その憤りのためだ。
色々な行き違いと意見の相違から、戦いの火蓋が切って落とされる。
ベルディアの呼び出したアンデッドナイトは私の爆裂魔法で屠ったものの、ベルディア自身は健在。リナの放つ魔法も致命傷たり得なかった。
そんな中、冒険者達がベルディアを取り囲み、一斉に攻撃を仕掛けようとするのだった。
カズマ「へえ。めぐみんってモノローグだと、そんな口調だったんだな?」
カズマ!? 変な考察は止めてください!
「やめろぉ! 行くなあああっ!!」
カズマが有らん限りの声で叫ぶ中、ベルディアが剣を振らんとしたその瞬間。
「
どぐぁああああん!
「なっ!?」
「ぐああっ!?」
「ぎへえええっ!」
術が収まると、そこには倒れて呻き声を上げる、冒険者達の姿。
「うん。これでよし♡」
「これでよし、ではない! リナ、味方を攻撃するなんて、何を考えてるのだ!」
ダクネスが文句を言うが、彼女もまだまだ考えが甘いようだ。そしてこれに異を唱えたのはカズマだった。
「いや、これで正解だ。あのままだったらあいつら、確実に殺されてたぞ? だったら多少怪我させてでも止めてやるべきだろ。……それに」
そう言ってベルディアへ視線を移し。
「あいつは魔物とはいえ、自分が騎士だって事に誇りを持ってるみたいだからな。戦闘不能者を先に襲うような真似はしないんじゃないか?」
ほう。中々の観察眼。あたしも同意見だ。
最も、あたし達を含めた他の冒険者達が倒された後までは、責任持てないが。行き着くところは、人間を滅ぼそうとしている魔王軍の、その一人でしかないのだから。
「ほほう。敢えて戦闘不能にする事で、俺の攻撃を回避させたか。荒っぽいやり方ではあるが、なかなかどうして…。だが所詮、殺される順番が繰り下がったに過ぎんぞ?」
やっぱりか。だが、その考察には穴がある。すなわち。
「残念ながら、それは有り得ないわね。何故なら、あたし達がアンタを倒してしまうからよ!」
ビシリと指差しながら、あたしは啖呵を切った。
「よくぞ吼えた! ならばかかってくるがよい!」
ベルディアは足下の冒険者達が邪魔にならないよう、立ち位置を移動しながら言う。
言われたあたしは腰から剣を引き抜き、ベルディア目がけて駆け出した。当のベルディアは首を抱えたまま、大剣を頭上へ掲げて一気に振り下ろす。
ぎゃぎいいいいん!
左手を刀身に添え、ベルディアの剣を滑らせるようにして攻撃を防ぐ。ただしそれだと素早い反撃は適わず、そもそもが非力なあたしの場合、手が痺れて反撃そのものが出来なくなる。
ベルディアも当然それを理解していたはずで、だからこそこの様な除け方をしたことが意外だったに違いない。ほんの一瞬だけ、動きが止まっている。
しかし、あたしはあくまで、剣士にして天才魔道士のリナ=インバース。あたしは剣を手放し、両手のひらをベルディアの胸に当て。
「
「なっ!?」
両手で触れたもの
だが、その術は鎧の胸の部分に軽くヒビを入れるにとどまった。
あたしは直ぐさま落とした剣を手にし、転がる様にしてベルディアから距離をとる。
「まさか、魔王様から戴いた加護の鎧にヒビを入れるとは…」
どうやらそちらのショックが強かったらしく、あたしへの追撃がなくて助かったが。
しかしこれで同じ手は通用しなくなった。同じ様に攻め込めば、今度は先程披露しようとした技を使うだろう。頭を上空に投げ、魔術も応用して死角を無くし、両手持ちによる斬擊の威力と斬り返しの速さで相手を蹂躙する。おそらくはそんな技なのだろう。
はっきり言おう。あたしの技能レベルでは、全く太刀打ち出来やしない。先程も使う素振りを見せたら、とっとと距離を取るつもりでいたのだ。はてさて、どうしたものか。
……あ、そうだ。
あたしは小さく呪文を唱え、魔法を発動させる。その瞬間、術は剣に吸い込まれた。
そう。今あたしが手にしているのは「吸魔の剣(仮)」。今日、クエストを受けたら試してみようと、装備していたのだ。
しかしこれは、ちょっとした布石。上手くいくかは、その場の流れ次第である。
「……どうした。かかってこないのか?」
すでに気持ちを切り替えたベルディアが声をかける。
さて、どうしようか。あたしが仕掛けるのも手だが、それだと仕掛を放つタイミングがちょっとばかし厳しめなのだ。
「なら、私が相手だ!」
そう言ってダクネスが駆け出し、ベルディアへと剣を振り上げる。ってちょっと待てい! あんたがいくら斬りかかったところで…っ!
「…………は?」
ベルディアが間の抜けた声を上げる。ダクネスの剣は、明後日の場所を振り抜いていた。
全く、言わんこっちゃない。ダクネスの剣技じゃ、持ち前の防御力と合わせて壁役となっても、精々が時間稼ぎが出来る程度、あくまでもそれだけのことである。あたしはベルディアに、あの技を使わせたいのだ。
……うーみゅ、とあたしが頭を悩ませていると。
「すまない、出遅れた!」
つい先程まで聞いていた声がした。
「ミツルギキョウヤ」
ベルディアの後方から、息を切らせながら駆けてくるキョウヤの姿。
「随分と遅れての登場ね?」
「クエストに出たところで魔王軍幹部のことを知って、慌てて引き返してきたんだ」
ほう、なかなか殊勝な心がけね。
「……ほう、お前が魔剣の勇者ミツルギか」
ベルディアはダクネスを無視して、手にした首をキョウヤに向ける。そんな隙丸出しのベルディアに剣を振り、全く当てることの出来ないダクネス。
……お願い。見てるこっちが恥ずかしくなるから、もうやめて。
「噂は聞いているぞ。俺は魔に堕ちたとはいえ、元は騎士。どうだ、この俺と勝負をしないか」
ダクネスがあまりにも期待外れだったためか、それこそ期待に満ちた声で言うベルディア。しかしキョウヤは。
「残念だけど、決闘は承けられないよ。昨日、自分の未熟さを、いやというほど知ったばかりだからね」
昨日カズマに負けたことは、彼にとってもいい勉強になったようだ。
「……そうか。非常に残念だよ」
本当に残念そうに言うベルディア。余程フラストレーションが溜まってたんだろう。
とまあ、そんな事は置いといて。
「キョウヤ、アンタが主力でお願い! ダクネスは剣撃を捨てて、体当たりで足止めを! あたしも魔法で援護するわ!」
「わかった!」
「う、うむ、仕方がないな」
二人の返事を聞いてあたしは、[
「ハアァッ!!」
裂帛の気合いと共に振り下ろされる、キョウヤの魔剣。それを、ダクネスからのタックルを受けながらも、辛うじて剣でいなすベルディア。
「
そこへ貫通力のある、精神へのダメージに加えて物理衝撃も与える精霊魔術を放つ。黒妖陣や黒魔波動よりも攻撃力は落ちるが、前二つの事があるからだろう、ベルディアは慌てて身を引いた。
その間合いへキョウヤは踏み込み、右脇腹へと剣を振るうが、魔法をやり過ごしてからの移動だったために1テンポ遅かったのが災いし、辛うじて防御に入ったベルディアの剣に防がれてしまう。
因みに、唯一距離を取っているあたしからの指示で、他の冒険者達からの援護は一切ない。遠距離からの援護が増えると、あの技を出すよりも躱す方に専念しかねないし、[死の宣告]でも使われると動揺が広がりかねないからだ。
……さて、そろそろか。あたしは痺れを切らしたように装って、ベルディアに向かって駆け出した。その様子を見たベルディアは、あたしの目論み通りその頭を上空に放り投げる。
大剣を両手持ちに切り換え、まさに斬り伏せようと構えたその瞬間。
「風よっ!!」
あたしは剣に纏わせた術を解き放つ。あたしが剣にかけていたのは[
「のわあああっ!?」
視界が定まらなくなったのだろう、ベルディアが情けない声を上げ、身体の方はアタフタしている。その隙を逃さずキョウヤが魔剣で斬りつけ、あたしも。
「
切れ味を増す術を発動して斬りつけた。
「ぎゃあああああっ!!」
ベルディアは悲鳴を上げ、しかしそれでもまだ滅びはしない。彼は駆け出し、落ちていた自分の首を拾い上げる。って、意外と元気でやんの。
「クッ、おのれ。よくも、だ、大事な鎧、を…!」
ああ、いや、ダメージはかなりあったみたいだ。ベルディアは息を乱しながら言った。しかし、それでもまだアレだけ動けるとなると、なかなかに厄介な…。
あたしが思考を巡らせていると。
「『クリエイト・ウォーター』ッ!」
カズマが水の初級魔法を放ち、それをベルディアが避ける。……はて?
「『フリーズ』ッ!」
続けて放たれた氷結魔法。なるほど、足止めか! 更に。
「『スティール』ッ!」
窃盗スキルを放つ。そしてカズマの手に現れたそれは。
「……あの、頭、返してもらえませんかね?」
またもや本体と泣き別れ、ベルディアの頭であった。カズマはニタリと笑い。
「みんなー、サッカーしようぜ! サッカーってのはな、手を使わず足だけでボールを操る遊びだよーっ!」
そう説明をして、冒険者達に向かってベルディアの頭を蹴り込んだ。冒険者達は最初戸惑っていたが、実際にやってみると面白かったのか、ベルディアの頭を蹴って遊んでいる。
「さて。確かアイツ、魔王から貰った鎧の加護とか言ってたよな?」
「んみゅ。でもって、鎧がこれだけダメージ受けてれば、さすがに聖属性の魔法を防げないんじゃないかしら?」
あたしが答えると、カズマも「だよな」と返し、アクアを見る。
「アクア、後を頼む」
「任されたわ」
アクアは返事をして呪文を紡ぎ。
「『セイクリッド・ターンアンデッド』!」
「ぎゃあああああっ!」
高位の浄化魔法を受け、ベルディアの身体は消滅し、それと共に頭も一緒に消えていったのっだった。
「さすがリナさん、ですね」
街を囲む外壁の門の上から、その一部始終を観察していた僕は声を漏らした。
「
もっとも同じ魔王の名を冠していても、
「まあ、この程度の相手は倒してもらわないと」
そう。でないと、彼らを倒す事なんて出来ませんから。
本来、彼らの目的と僕の仕事には接点はない。けれど彼らはアレに手を出してしまった。当然彼らも、それがどういう意味を持つのか分かっていたのでしょう。今のところ、表だった行動を見せていません。
しかし、リナさんがこうやって暴れてくれれば、彼らも見過ごすことは出来なくなるでしょう。まあ、その時には、少しはお手伝いさせて貰いますか。
そう結論付けた僕は、誰に知られることもなくこの場を立ち去った。
お久しぶりの続きです。
今回のお話、書いていて一番ビックリしたのは、アクアの[セイクリッド・クリエイト・ウォーター]が無かったことです。いや、なんかリナが活躍してベルディアの鎧ズタボロにしたせいで、充分弱体化させられたから…。どうしてこうなった!?
取りあえず、予定調和の為の借金考えないと、伏線張った意味がない。
あと、最後に出ていた彼は、前倒しでの登場です。リナ達と絡むのは、まだだいぶ先の話ですが。