デュラハンに向かって一斉に斬りかかる冒険者達を、リナが呪文で吹っ飛ばしたわ。でもそれは、デュラハンに斬り殺されるのを防ぐためだったの。
そのあと、私達と合流したイタい人と一緒にデュラハンを追い詰めていって、そしてイタい人とリナがデュラハンを斬りつけて、最後に私の浄化魔法でとどめを刺したのよ! だから私を誉めて! もっと私を誉めて!!
作者「まあ、正史みたいにやらかさなかっただけ、まだマシかな?」
……って、あんた誰よ!?
俺の名前はアル=モーヴ=キャラー。ベルゼルグ王国に仕える騎士のひとりだ。自分で言うのもなんだが、部隊長からの覚えも良く、今回、魔王軍幹部討伐の報奨金をアクセルの街へ運ぶ護衛のリーダーに選ばれた。まさに大抜擢だ。
言っておくが、
……しかし腑に落ちないこともある。これだけの高額な報奨金を移送させるのなら、精鋭とも呼べる者を2、3人付けて、テレポートで送った方が安全だからだ。何故、陸路を使った運搬を選んだのか。
……まあ、いいさ。無事に届けさえすれば、俺の評価も更に上がるというものだ。
この時の俺は、そう思っていた。
王都から随分と離れた森の中。突如辺り一帯から不穏な気配が漂いだした。もちろん敵感知スキルなど無いが、これだけ馬鹿正直な気配なら、ある程度の実力者なら充分に気づけるレベルだ。
俺は馬上から、荷馬車を操る輸送部隊の兵に指示をして停車させる。
「おい。隠れていないで出てきたらどうだ」
俺が声を張りあげて言うと、四方の木々の間から武装した男共がわらわらと湧いて出る。当然、盗賊の類だろう。
その構えからするとそこまで腕の立つものはいないみたいだが、相手は人殺しも躊躇わない、戦い慣れをした連中だ。頭数もざっと見た感じ、俺達護衛兵の三倍前後はいるだろう。決して後れをとることはないが、同時に油断も出来ない状況だった。
俺を含めた護衛兵は馬から降り、剣を抜き構えをとる。
「……へっ。話半分だったが、どうやらガセじゃあなかったみてぇだな」
「……話半分? 何を言っている」
頭領と思しき人物が吐いたセリフに、嫌な予感がする。
「名乗りはしなかったが、身形の良い男が教えてくれたのさ。ここに三億エリスを載せた荷馬車が通るってな!」
「何っ!?」
嫌な予感が、当たってしまった。どうやら騎士隊、いや、おそらく王宮内部に密告者がいるようだ。
……侭よ。今気にかけるべきは、目の前の厄介事を片付ける事だ。
「貴様らが誰と繋がっていようと関係ない。三億エリスは渡さない。貴様ら全員、一刀のもとに伏してやる!」
俺はそう告げると、盗賊も待ってましたとばかりに襲いかかってきたのだった。
何かがおかしい。戦闘が始まってすぐ、そんな想いを抱いていた。
盗賊共は、当初の見立て通り大した相手ではなかった。実際、既に何人も斬り伏せてはいる。だが、何故かこちらが劣勢を強いられているのだ。
いや、理由はわかっている。不運にも、そして相手にとって幸運にも、偶然が重なって我々の剣撃が躱されることが多々あるのだ。ただ、その割合がただ事ではない。本当に偶然で済ませてしまってもいいのか? それほど頻繁に起こるのである。そして何より。
「グハッ!」
偶然は、こちらには悪い形で襲いかかる。相手の攻撃を躱そうとしたとき、何かに足を取られたり、突風が原因で視界が塞がれたり。こうして先程から、こちらの兵にも死傷者が現れている。油断さえしなければ、取るに足らない相手だったはずなのに。
「死にさらせっ!」
相手が振るう
キィンン!
上手く弾き上げ、振り上げた剣で斬りつけようとしたその時。弾かれた三日月刀が木の枝に当たり、弓なり状態で弾かれた枝が俺の右腕を強打する。手甲のお陰で痛みは無いものの、衝撃で右手が離れ、剣撃は逸れてしまう。
ザスッ!
「ぐうぅっ!?」
賊の三日月刀が俺の肩口を捉えた。致命傷では無いものの、剣を握るのは難しい。
賊がニヤリと笑う。まさか、こんな所で終わるのか。そんな事が頭をよぎり…。
視界の隅に、影が奔るのが見え。
「ぐガッ!?」
一刀のもとに斬り伏せられた賊。その傍らには、細身の剣を携えた、長い金髪の青年がいた。
「おいあんた、大丈夫か?」
「ああ…。だが生憎と、剣を振るうことが出来なくなった」
俺は見栄を張らずに正直に答える。彼が何者かはわからないが、現状では味方をしてくれるようだ。なら、下手なプライドで見栄を張っては、むしろ邪魔をしかねない。見栄を張るべきところを間違えてはいけないのだ。
「わかった。後はオレ達に任せろ!」
そう言ってその男は、賊の中に飛び込んで行く。……って、オレ達? 他にも仲間がいるのか?
その男の戦いは凄まじかった。スピードや力も然る事ながら、その流麗な動きに無駄がない。
更に、相手が偶然を味方に一撃を躱そうとも、すぐさまに繰り出される二撃目であっさりと斬り伏せる。また、襲いかかる偶然によって視界を塞がれようとも、気配を読んでいるのか、片手で刀身の腹を弾き、もう片手に握られた剣で相手の胴を薙ぐ。ハッキリ言ってこれほどの手練れには、今までお目にかかったことはない。
そして、もうひとり味方をする人物がいた。金髪の青年よりかは背が低い、いや、金髪の青年の背が高いだけなのだが。ともかく、いい言い方をすればワイルド、悪い言い方をすれば目つきの悪い男だ。白いローブを身に着けてはいるが魔法使いとは些か違う。身形は別として、おそらくはソードマスターだろうか。剣の腕は、やはり我々よりも高い。
そして俺は気がついた。彼らは巷で噂の、二人組のソードマスターなのだと。
やがて賊共は一掃された。
「……済まない。御助力感謝する」
「いや、気にすることはない。俺達はたまたま通りがかっただけだからな」
俺が礼を言うと、ローブの男はややぶっきらぼうに答えた。どうやら人付き合いは苦手なようだ。
「それに、まだ終わっちゃいないみたいだ」
……なんだと? 疑問に思った俺が金髪の青年が見つめる先を追うと、そこには荷馬車があり…!?
「何やつ!?」
馭者を務めた兵士は崩れ落ち、その脇に黒いフードを目深に被った者がいた。俺が慌てて駆け寄ろうとすると。
「やめろ。アレは人じゃない」
「おそらく、上位の魔…悪魔だ」
「悪魔!?」
予想外の答えに、上ずった声で聞き返した。
その間にフードの人物は御者台に座り、荷馬車を走らせてしまった。
「しまった! 報奨金が…!」
「諦めろ。言っちゃあ悪いが、お前さんじゃ歯が立たない。ましてやその怪我じゃ、な?」
「それに今から追いかけても、追い着きはしないさ」
く…。悔しいが、彼らの言うとおりだ。しかし、任務が…。
そんな俺の表情を見て、放っておけなくなったのだろう。金髪の青年が言う。
「しょうがないな。オレ達が一緒に謝ってやるから」
「いや、謝るって…」
俺は小さな子供か?
「……この男はこういう奴なんだ。気にしないでくれ。
まあ、なんだ。あまり気は進まないが、これも乗りかかった船だ。俺達が悪魔についても証言するから、ここは素直に引き揚げるんだ。……それとも、怪我人をこのままにしておくのか?」
……そうだった。見ただけで息絶えているとわかる者もいるが、自分を含めて怪我で済んでいる者もいる。なら、たとえ懲罰を受ける事になろうとも引き返すべきだろう。
「……わかった。その意見に従おう。貴君らのその配慮、痛み入る」
俺は彼らに、心からの礼を述べるのだった。
「……と、この様なことがありまして。我々も心苦しいのですが、魔王軍幹部ベルディア討伐の特別報酬はお渡しできなくなってしまいました」
ここはアクセルの冒険者ギルド。あたしとキョウヤ、そしてカズマのパーティーは、魔王軍幹部の討伐に大きく貢献したとして通常の報奨金とは別に特別報酬、要は懸賞金が支払われる、はずであった。……のだが。
「……ええっと、それってつまり、輸送途中にあった報奨金の紛失分を、国は補填してくれないと…?」
「……そういう事になります」
あたしの質問に、ルナさんは言いにくそうに答える。……って!
「そういう事になります。じゃなくって!!」
「落ち着け、リナ」
今にも飛びかからんとするあたしを背後から羽交い締めにして、ダクネスが諌めようと声をかけてきた。いや、胸ぐら掴むくらいはしたと思うけど、さすがに襲ったりはしないから。
「……あの、それで、王国側に理由を聞いたのですか?」
めぐみんが訊ねると、ルナさんは一度咳払いをして答えた。
「はい。当ギルドとしましても、功労者への特別報奨無しというのはさすがに納得がいかなかったので。
ですがあちらの回答によると、遺憾の意は示すものの、高額報奨金はそれぞれの手配書に設定された金額に合わせて予算が組まれているため、新たに報奨金を捻出する余裕はない、とのことでした」
……うみゅう。国家予算まで持ち出されると、さすがに無茶を通しづらいわね。
王国というと、とっても偉い王様が国を治めて湯水の如く金を使い贅沢三昧をする、とイメージする人も多いと思う。まあ、一部偏見じゃ無い場合もあるが、概ね間違った見解である。
国王は国を経営する最高責任者であり、いわば企業主だ。領主は社長のようなモンだと思えばわかりやすいだろう。もちろん細かいところは違うし、完全に当て嵌められるものでもないが。
しかしそう考えてもらえれば、税金によって集められた
当然王族には純利益として、多額のエリスが懐に入るワケだが、それは彼らの正当な報酬である。わざわざ身銭を切ってまで報奨金の補填をするいわれはないのだ。
……とはいえ、国にも威信というものがある。そして同時に、国民からの信用・信頼も得られなければならない。なので、国側もこの問題をこのままにするとは思えない。きっと、いずれ何らかのリアクションがあるだろう。よほどクズな王族でなければ、だが。
「……りょーかい。国側もあたし達も、波風立てない方が得策のようね」
ひとつため息を吐き、そう答える。と。
「な、どうしたのだ!? リナにしては聞き分けが良すぎるぞ!?」
「そうです! いつもなら、王宮に魔法を撃ち込むとか言い出すはずですよ!?」
「……おまいら。あたしをどーいう目で見とんじゃ!?」
大体魔法に関しては、めぐみんも大して変わらんだろ。
「ったく。あたしだって、何でもかんでも無茶通したりはしないわよ。第一、それでお尋ね者になったり、したくはないし」
そう。悪人に人権はない!がモットーのあたしとて、無闇やたらと暴力沙汰は起こさない。……いや、正しくは、こちらの世界では抑えている。その最たるものは、盗賊いぢめだ。
実は盗賊退治はするものの、今の所誰ひとり殺してはいない。何故なら、冒険者カードに討伐数としてカウントされてしまうためである。そうなれば盗賊相手とはいえ、ギルドでの信用度が下がってしまうのが目に見えている。まったく、面倒くさいことこの上ない。
お陰で、ストレス解消が半端に終わり、今一スッキリしないのだ。
「そ、そうか。どうやらリナのことを見誤っていたようだ」
「思っていたよりも常識を弁えているようですね」
……いや、めぐみん。それ、絶対馬鹿にしてるだろ。
「……それで結局、特別報酬は貰えないわけ?」
だからそーいう話を…って、アクアじゃしょうがないか。
「アクア様、落ち込まないでください。約束のエリスは必ず工面してお渡ししますから」
そういや、そーいう話だったわね。最も、借金の相手はアクアじゃなくてカズマだけど。
「……そーいやカズマは、随分と静かにしてるわね?」
「いや、あまりにものショックで一瞬頭ん中が白くなってる間に、リナが受け付けのお姉さんと話し始めたから」
ああ、そういう事。いや、あたしだって相当ショックを受けてはいるのだ。しかし向こうで…、特にどっかの金魚のうんちと関わってた頃に、けっこおそういう事があったから、ある意味慣れてたのはあるけど。
「……それで? 天下のリナ=インバースが、ただ黙ってるわけないよな?」
カズマが小声で言ってくる。ここら辺は流石と言おう。
「ルナさんの話だと、襲ってきた賊の中に上位悪魔が紛れていて、太刀打ちできなかったって話だけど…。何で悪魔が賊と一緒だったのか。そもそもその話、真実なのか」
「……どっかの中間管理魔族みたいに、嘘ではないけど真実全てではない、って事か?」
「そういう事。そしてその悪魔が、本当に悪魔だったのか」
「まさか、魔族…」
そう。こちらの人間に、悪魔と魔族の区別などつかないだろう。とはいえ。
「あくまで可能性の話だけどね。どちらにしても、そこら辺をハッキリさせておきたいのよ」
ぶっちゃけて言えば、ただの盗賊がどうやって報奨金の輸送なんて情報を入手したのか。普通に考えれば、王宮勤めの誰かがリークしたとするのが自然だ。で、報奨金を手に入れたら、悪魔(仮)の力で盗賊共を殲滅して、その人物が独り占め、という寸法である。最初から悪魔(仮)1匹に任せないのは、ワンクッション置いてなるべく足がつかないようにするためだろう。
……で、だ。ほんのついでだが、それをネタに脅して、口止め料をふんだくることも出来るかも知れないしね。
「なるほどな。だが、どうやって調べるつもりだ?」
「そこは、クリスに頼むつもりよ。なんだか調べ物が得意そうだし」
「ああ、確かに。盗賊スキルも役立ちそうだな」
カズマも納得して頷いた、ちょうどそのタイミングで。
「さっきから二人して、何をコソコソ話してるのですか?」
流石に気になったのか、めぐみんが訊ねてきた。
「明るい将来設計」
「より良い未来を目指すための人生プラン」
あたしとカズマは適当なことを言って、めぐみんを
アル=モーヴ=キャラー……要は、あるモブキャラ。名前が先なので、多分他の国出身なんでしょう(他人事)。当然、今後出る予定も無いし、出たとしてもちょっとだけですね。
二人組のソードマスター。イケメンを省いたのは語り手であるアルのやっかみです。