※カエル退治のあたり、数カ所修正しました。
さてと、どうしたもんか。
お金を持ち合わせていないあたしは、カウンターから離れ途方に暮れる。こうなったらどこかでアルバイトでもして、お金を稼ぐしかないか?
そんなことを考えていたところ。
「ねえキミ、困り事かい?」
そう声をかけられそちらを向くと、あたしより2つ3つ年下の、ボーイッシュな女の子がいた。
銀色の短髪で、キツめながらもかわいらしい顔だが、右頬の傷がちょっと勿体ない。胸は、まぁザンネンだけど、あたしとしては親近感が持てていい。
「アタシは盗賊のクリス」
「あたしはリナ。リナ=インバースよ」
ふみゅ、盗賊ね。とはいえ、ここで堂々と名乗るってことは、エリスが言っていた冒険者の職種なんだろう。
というか、ここにも生業としての盗賊はいるんだろーか。いたらとりあえず、趣味の盗賊いじめでも再開しようかな?
まあ、そのためにも今は、登録料をどうにかしないといけないんだけど。
「もしかしてリナは、登録料の持ち合わせがないとか?」
な! なぜそれを!?
「ここ、アクセルは駆け出し冒険者の街だからね。冒険者になるために多くの人がやってくるけど、中には登録にお金がかかることを知らない人もいるんだよ」
なるほど。ってかそーいうのって、エリスが言っていた転生者がほとんどなんじゃ?
「というわけで、はいこれ」
ちゃり…
「へ?」
「ちょうど千エリスあるから、これで登録してきなよ」
「ちょ、ちょっと、アンタなんで…。何か裏でもあるんじゃないんでしょうね!?」
「あはは、キミは疑い深いんだね」
いやいや、いきなりお金を渡されたりしたら、大概は訝しむもんでしょ?
「実を言うとさ、アタシは特定のパーティーは組んでないんだ。
ひとりで請けたりもするけど、仲間がいないと難しいクエストもあるし、誰かと仕事をしたい気分のときもあるでしょ?
それなら知り合いは多い方がいい、てわけで、まあ先行投資みたいなもんだよ」
ふむ。まあ、辻褄は合ってはいるけど…。
「それでも気になるんなら、お金に余裕ができたときにシュワシュワの1杯でも付けて返してくれればいいよ」
……どうやらクリスに気を遣わせてしまったようだ。
確かにあたしの場合、初めて会った人から無償でお金を渡されるより、借金利子付き(友人価格)の方が安心できる。
「わかった。それじゃあありがたく貸して頂くわ」
そう言ってあたしは、クリスからお金の入った小さな袋を受け取り、再びカウンターへと向かった。
「冒険者登録お願いします。これ、登録料の千エリスです」
「はい。それではこちらに、必要事項をお書きください」
あたしは差し出された紙に身長とか、身体的特徴などを書く。……おおう、なんかわからんけど、こっちの文字が読めるし書ける。
どうやらこれも、神様パワーのおかげらしい。すごいな、神様。
「リナ=インバースさんですね。それでは冒険者カードを作成しますので、そちらに手をかざしてください」
言われてあたしが大きなオーブに手をかざすと、そのオーブが輝きだし、下に置かれたカードに照射される。
これは、状況から考えると、あたしの情報をカードに記載してるのだろうか?
やがて光は治まっていき。
「これは…!」
カードを見たねーちゃんが、驚きの表情を浮かべる。
「魔力が異常に、知力と幸運もかなり高いですよ!」
なに、そんなに騒ぐほどなのか?
「魔力はアクアさんがいなければダントツの1位ですよ! 知力は紅魔族並、運もカズマさんがいなければ、上位争いに加われるくらいです!
器用さもそこそこ高いですし、その他のステータスも平均かそれ以上、かなりの好ステータスですよ!」
ふむ。どうやら、あたしの能力はかなり良いらしい。
「それでどの職業に就きますか。リナさんなら全ての初級職に就けますし、アークウィザードやアークプリーストといった上級職も……、あら?」
「え? どうかしたの?」
「いえ、見覚えのない職種が…」
見覚えのない職種?
「上級職のようですが…。[デモン・スレイヤー]?」
ごいん!
カウンターに突っ伏したあたしは、したたかに顔面を打った。痛ひ。
「大丈夫ですか!?」
「あー、ヘイキよ。それより、それで登録してちょうだい」
顔に手を当てながら言うあたしに、受け付けのねーちゃんが驚きの眼差しを向ける。
「よろしいんですか? 私が言うのもなんですが、こんな詳細不明の職業で」
「大丈夫よ。ちょっと心当たりもあるし」
うん。これって絶対エリスの仕掛けだ。何しろ[
「わかりました。今日からリナさんは[デモン・スレイヤー]です」
そう言って冒険者カードを差し出す。
「ありがと。ええっと…」
「あ、私はギルドの受付係をしている、ルナといいます」
ばきょっ!
あたしは再びカウンターに突っ伏し、顔面を打つ。
「リナさん!?」
「……気にしないで。
あたしはカウンターから離れたあと、待っててくれたクリスからスキルの覚え方を教えてもらい、あたしが覚えていた精霊魔法、白魔法のほぼ全てと、一部の黒魔法を習得した。
どうやら一部の魔法は、習得に必要なレベルが設定されているらしい。ちっ。エリス、余計なことを。
そのあとあたしは、クリスをクエストに誘ったけど。
「ゴメン、これから友達と会う約束があるんだ!」
頬を掻きながら謝るクリス。まあ、無理矢理頼むほどのことでもないし、一人でやれば報酬も分けなくてすむ。
あたしは、ジャイアントトード5匹の討伐という依頼を請けることにした。
「
ぼひゅっ
あたしが放った術で、4匹目のカエルもあっさりと倒す。残りはあと1匹。ううみゅ、張り合いのない。
油断こそする気もないが、こうも簡単に倒せてしまうと、不完全燃焼気味だ。あー、大技ぶっ放したい。
と、そのとき。
ずごおぉぉ……ん
遠くから聞こえた大きな爆発音。一体何が!?
あたしは慌てて駆けだした。
どうしてこうなった?
パーティ募集の張り紙を見てやって来たアークウィザードのロリッ……、めぐみんが、実力を見せると言って放った爆裂魔法。それを見たとき、確かにスゲーって思いましたよ?
けど、一発撃ってガス欠って、どんだけ燃費が悪いんだよ!?
おまけにアクアは昨日の失敗も顧みずに、特攻しかけてまたもやカエルに捕食され、
おまけにもう1匹カエルが現れて、今はそいつと応戦中。何とか二人を助けようと踏ん張っちゃいるけど、所詮俺は最弱職の冒険者。……もう、二人を見捨てて逃げよっかな?
そんな思いが頭によぎった、そのときだった。
「
女性のかけ声とともに複数の氷の矢が飛んできて、俺が戦っていたカエルに直撃、そいつを凍り漬けにしてしまう。
「ちょっとアンタ、今のうちに!」
「あ、ああ…!」
言われて俺は、アクアを飲み込もうと動けないでいるカエルに攻撃を仕掛けて倒し、何とか引きずり出す。ふぅ、何とか助け出せたな。
……ん? なんか忘れてるような?
「ねえ、アレもアンタの仲間じゃないの?」
「え? ああっ! めぐみんを忘れてたっ!!」
めぐみんの足がちょうど飲み込まれ、地面の中に潜ろうとしているカエル。まずいっ!
慌てて駆け出す俺の顔の横を、何かが通り過ぎていく。
トスッ!
それは1本のナイフだった。ナイフがカエルの影に突き刺さると、カエルは身動きが出来なくなった。
……アレ? あ、いや、今はめぐみんを助けないと。
何度も攻撃をしてようやくカエルを倒すと、アクア同様めぐみんを引っ張り出した。
なんだろう? なんか俺ばっか苦労してね?
「どうやら無事だったみたいね」
粘液まみれで、精神やられちゃってんのに目を瞑ればな?
とはいえ助けてもらったんだ。礼は言わないとな。
「ありがとう。助かったよ」
そう言って振り向いた先には。
年の頃なら16、7。くせのある栗色のロン毛。童顔で、大きなどんぐり眼。黒いマントにショルダーガード。首飾りとブレスレット、ベルトのバックルは同じデザインのもの。
「俺は、佐藤和真。カズマでいいよ。あんたは?」
俺は内心の動揺を抑えながら尋ねる。
「あたしはリナ=インバース。リナでいいわよ」
っ! それじゃやっぱり…。
「あんた、
「なにをぉぉぉっ!?」
俺は顔を真っ赤にしたリナに、ゲンコツで頭を殴られた。
俺は今、ギルドの酒場で一人、食事をとっていた。アクアとめぐみんは身体のヌメヌメを落とすため、大衆浴場に行っている。
そう、結局めぐみんは、パーティに迎え入れることになった。
実はめぐみん、爆裂魔法以外の魔法を覚えてないし、覚える気もないと抜かしやがった。
そりゃあ俺だって、遠回しにお断り申し上げましたよ? けど。
粘液まみれの二人の(見た目は)美女。
ひとりは俺に背負われ。
ひとりは泣きながら、俺のあとをついてくる。
さらに始まる言い争い。
それを遠巻きに見る、街の人たち。
彼ら、彼女らがどんな想像をするかなど、一目瞭然だろう。それを逆手にとっためぐみんが。
「先程の、カエルを使ったヌルヌルプレイだって耐えてみせ…」
紅魔族は知力が高いとか言ってたが、悪知恵の間違いじゃないのか?
まあ、そんなわけで、めぐみんにこれ以上余計なことを口走らせないために、俺は仕方なしに仲間に加えたってワケだ。
俺、運がいいはずなのに、なんでこんな目に?
いや、愚痴を言っても始まらない。それよりも…。
「カズマ、だったわね。ちょっと話があんだけど」
今はこっちのが大事だよな?
ギルドの窓口でクエスト完了を知らせ、報酬を手にしたあたしは、併設された酒場でひとり食事をとるカズマの元に歩み寄る。
「まあ、とりあえず座れよ」
あたしが声をかけると、彼は席を勧めてきた。言われたまま、あたしは席に着く。
「すみませーん! この人にジャイアントトードの唐揚げ1皿お願いしまーす!」
「え、ちょっとカズマ!?」
「助けてもらったお礼だよ。まあ、懐が寂しいから、これくらいしか奢れないけどな」
ほう、なかなか殊勝な心がけじゃない。
「それで、話ってのはなんだ?」
大体予想は出来ているのだろう、落ち着いた様子で切り出してきた。
「んみゅ、本題の前にちょっと聞いときたいことがあるんだけど。
さっきの場所の、あのえぐれた大地。あれってあのチビッ子がやったの?」
ギルドに戻ってくる前に調べてみたけど、あれってかなり強力な魔法によって作られたものだった。それこそ、威力だけなら
「ああ。ありゃめぐみんの爆裂魔法だ。だが、一発撃ったら魔力切れの上に、それしか使えねぇときたもんだ。
全く、妙なこだわり持ってんじゃねーよ!」
ああ、そりゃご愁傷様。しかしめぐみんって、本名なんだろうか?
「オーケー。それに関しては理解したわ。
さて、本題だけど。カズマはなんで、あたしの知られたくもない称号を知ってるの?」
と、少し感情的になってしまったけど、これを知ってるのは当然、元の世界の一部の人間だけである。それが何故、こっちの世界で…。
「実は俺、異世界からの転生者なんだ」
「え…」
そーいやエリスが、別世界の若者に特典つけて転生させてるって言ってたわね。
いやいや、それとあたしの称号知ってたのに、なんの関係があると言うんだ。
そんなあたしの思いなど関係なく、カズマは話を続ける。
「俺が暮らしてたのは、地球って星の日本って国なんだけどさ。そこで販売されてる小説に、……あ、小説ってのは物語が書かれた本、てとこかな。
その中に【スレイヤーズ】って作品があるんだけど、短編集の話が、リナ=インバースと
な、あたしとナーガの物語!?
「……リナなら、ここまで言えば、俺の言いたいこともわかるだろ?」
「その中に、あの称号について書かれたものがあったって言いたいわけ?」
「ああ。残念な探偵のヤツ」
ああ、彼女の時のことか。さすがに名前は覚えてないけど、確かにあの時、そんな話題が出てたっけ。というか、あのピンクのローブ、着る羽目になったような。
「ま、そんなわけで、リナには悪いと思ったけど、他の転生者がなりきってるのかを確かめるために、わざとああ言ってみたんだ」
そうか。その作品が結構有名だったりしたら、そういう特典を付けてもらう人がいるかもしれないもんね。
サトウカズマ。賢いようには見えないけど、狡賢さと機転は利くみたいね。
「ねえカズマ。長編の方にはどんな…」
その小説? に興味を持ったあたしが、色々と尋ねようとしたそのとき。
「すまない、ちょっといいだろうか…?」
金髪長身の女騎士が、声をかけてきたのだった。
補足説明
カエルの動きが止まったときにカズマが「アレ?」となったのは、「
ちなみにリナへの説明は後付けで、ほんとうは思わずポロリと言ってしまっただけ。まさに狡賢く機転が利いた言い訳。