この素晴らしい世界にドラまたを!   作:猿野ただすみ

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リナはやっぱりお節介。


この貧乏店主にアドバイスを!

あたしは、宿屋へ向かうべく町中を歩いている。場所はルナさんから、なるべく安いところをいくつか教えてもらった。

ひとつめの宿は生憎と満室だったため、今はふたつめの宿へと向かっているところだ。

……それにしても、さっきの彼女はすごかった。確かダクネスとか言ったっけ。

彼女はカズマのパーティ募集の張り紙を見て接触してきたのだが。うん、なんというか、クセの強い人だったなー。

見た目は背が高く、金髪で青い瞳、整った顔立ち。プロポーションも、身につけた鎧でわかりにくかったけど、なかなかいいものを持っているのは見て取れた。

鎧と言ったけど、ダクネスは上級職のクルセイダー。カズマのパーティに入りたいと言ってきた。彼女は、街中で粘液まみれになった美女(少女含む)ふたりを連れていたことを確認し、見捨ててはおけないと言っていた。

でも、粘液まみれになった仲間の話をしたら、

 

「私もあんな風に……!」

 

などと言っていたり、さらには顔を上気させ身悶えるその仕草。

うん。間違いなく、彼女はマゾだ(断言)。いやー、せっかく美人なのにもったいない。

しかも、彼女の問題点はそれだけではなかった。剣術を生業としているのに、攻撃が一切当たらないというのだ。代わりに壁役になるというのでカズマが、モンスターに袋叩きにされるかもしれないと言えば、

 

「むしろ望むところだっ!」

 

という言葉が返ってきた。

いや、もうそれ、冒険者としてダメだから。

前の世界にも冒険者に向いてないヤツはいたけど、これほどの人は……、おや? 結構いたよーな?

ま、まあ、向こうの話は置いといて。カズマも嫌な予感がしたんだろう。彼女にやんわりと断りを入れてたけど、あの手のタイプはなかなか諦めないからなぁ。そもそも、そういう行為がご褒美だったりするし。

うん、まあ、あたしには関係ないし、カズマには自力で何とかしてもらおう。

 

 

 

 

 

「うん?」

 

あたしはひとつのお店に目をとめた。

 

【ウィズ魔道具店】

 

ほう。マジックアイテム・ショップか。これは、なかなかに興味深いわね。あたしの魔術研究に役立つかもしんないし。

実は冒険者カードのスキル欄には、魔法アレンジなどの欄もあったのだが、魔道具製造なんかは見当たらなかった。

気になったあたしは宝飾店で、宝石のカットの時に出た削りカスを格安で譲ってもらい、触媒なしで出来る範囲の宝石精製を行うことにした。その結果、キレイな石ころ程度のもんだけど、精製に成功したのだ。

それでわかったことは、魔法そのものに関わる技術は習得しなければならないけど、魔法を使う使わないに関わらず副次的な技術は、以前からの知識でそのまま使えるらしいってこと。

確かにエリスは魔法についてしか言ってなかったし、冒険者でもないあたしがいきなり魔法を使ったら、問題があると思っての措置だったのかもしれない。

とまあ、そんなわけで、準備さえ出来ればいつでも魔道具製造は可能なのだ。それなら、下見を兼ねて寄ってみるのも悪くはないだろう。

 

 

 

 

 

「いらっしゃいませ。【ウィズ魔道具店】へようこそ」

 

開いた扉の先で出迎えてくれたのは、色白、というより血色の悪い、だけどものすごい美人の二十代の女性。……なんだ、この街は。美人で巨乳の比率が高いような。クリスやめぐみんみたいのもいるけど、美人なのは変わんないし。

 

「……あの?」

「ああ、ごめんなさい。あたしはリナ。ちょっと魔道具に興味があってね。今はお金が足りないから下見ってとこだけど」

 

あたしがそう言うと、一瞬残念そうな表情になるもののすぐに笑顔を作り。

 

「そうですか。どうぞゆっくりと、ご覧になってください」

 

別に迷惑がってるわけじゃないみたいなんだけど、それじゃさっきの表情は一体…。

あたしは気にしつつも、棚に置いてあるビンを持ち上げる。中には何かの液体が入ってるけど。

 

「なに、これ?」

「それはフタを開けると爆発するポーションです」

 

……あたしはそっと、棚に戻す。

 

「えーっと、こっちは?」

「そちらは強い衝撃を与えると爆発するポーションです」

 

………あたしは再び、ビンを棚に戻す。

 

「……あの、これは?」

「熱を加えると爆発するポーションです」

 

…………。

 

「んがあぁぁっ!! アンタんトコにはまともなモンはないのかあぁっ!!?

どれもこれも、爆発物ばかりじゃないのよッ!!!」

「ご、誤解です! その棚は爆発シリーズを集めた場所なんです!」

 

イヤイヤイヤ、そんなシリーズ、棚にまとめたら危険でしょうが!

内心でツッコミを入れつつ、何とか気持ちを落ち着けるあたし。商売人の娘としては気になるのだが、他人(ひと)の商売に口出しする気もない。

 

「……それじゃ他に、どんなのがあんのよ」

「そうですね。例えばこのようなものはどうでしょう?」

 

質問に答えてあたしに見せたのは、飾り気のない黒いチョーカー。

 

「こちらは願いが叶うチョーカーで、このお店では()()()売れている商品なんです」

 

今、珍しくとか言った!? なんだか、さっきの表情の意味がわかった気がする。

しかし、願いが叶うチョーカー、か。

 

「これってどうやって使うの?」

「はい。願掛けしながらチョーカーをつけると徐々に首を絞めていき、四日後に使用者を絞め殺します。それまでの間に……」

「アホかあぁぁぁ!! じゃあ何、願いが叶うって、使用者が死ぬ気で頑張るってコト!?

なんでこんなモンが売れてんのよぉぉっ!?」

「あの、ダイエットをする女の子の間で流行ってるとか…」

 

この街の住人はバカばっかか!?

 

「……もっとマシなものはないの?」

 

力なく言うあたしに、店主は一枚の鏡を取り出した。……なんか、どこかで見たような?

 

「これは【シャドウ・リフレクター】といいまして、鏡に映した人を……」

「壊せ、んなモン!!」

「そ、そんな! これを使えば、映した人の記憶、知識、能力まで完全にコピーした『影』を創ることが可能なんです!

しかも性質は反転し、使用者には完全に服従するので、これで敵対者を大量にコピーすれば……」

「性質が反転して、大量の平和主義者を創るだけだわぁぁっ!!!」

「ええっ!?」

 

あたしの反論に驚く店主。とはいえ、この欠点は実際に使用してみなければわからないことで、店主が悪いわけではないんだけど。

では、なんであたしが知っているのかといえば、実はこのアイテム、あたしが元いた世界にあったものなのだ。

ただし、あれは訳あってぶっ壊したから、この影の鏡(シャドウ・リフレクター)はあたしが見たものではないわね。……もしかしたら、カズマと同じ世界からの転生者が関係してるのかも。

ともかくこんな欠陥品、処分した方がいい。いいんだけど、お店のものを壊すわけにもいかない。むう…。

 

「ちなみにそれ、いくらなの?」

「あ、ええっと、250万エリスです」

 

高っ! いや、まあ、欠陥に目を瞑れば、そんくらいしてもおかしくないけど。

……ってか、駆け出し冒険者の街で、誰がそんな高いもの買うんだろ?

 

「あんた、ええと…」

「あ、自己紹介がまだでしたね。私はこのお店の店主をしている、ウィズといいます」

「それじゃウィズ。このお店、儲かってないでしょ?」

「えっ! なぜわかったんですか!?」

「色々ありすぎ」

「ええっ」

 

やっぱりそうか。この人、ウィズは商才がまるでないんだ。売ってる品が欠陥品ばかりなのもそうだけど、それに気付いてないのが何より痛い。

 

「とりあえず、ふたつだけアドバイス。

ひとつめは、ここは駆け出し冒険者の街なんだから、値の張る品はあんまり置かないこと。

ふたつめに、仕入れる予定の商品は効能にばかり目を向けないで、ちゃんと欠点を理解して、販売しても問題ないかを確認すること。衝動買いなんて以ての外よ!」

 

あたしなんかは、いいことばかり謳っている商品を見たら、まずは疑ってみてしまう。実際、モノはいいんだけど、持ち主がことごとくおかしな死に方をするショルダーガードなんてものもあった。

そーゆーのを嗅ぎ分ける嗅覚があるかどうかが、商売人には大事な要素なのだが…。

 

「ええと、よくわからないけど頑張ってみます」

 

うん。なんかダメっぽい。

 

「とにかく。チョーカーはきちんと説明をして、購入者の自己責任だと提示。影の鏡(シャドウ・リフレクター)は店の奥にでも仕舞って売りには出さないこと」

「ええっ、いい品なのに…」

 

これをいい品とか言ってる段階で、見込みがないわねー。

 

はあ…

 

あたしはため息を吐いて、ウィズに言った。

 

「えーっと、お金に余裕が出来たら、あたしが買ってあげるから」

「……えっ? 本当ですか?」

 

パァッと表情を輝かせるウィズ。

 

「本当よ」

「あ、ありがとうございます!」

 

喜ぶウィズを尻目に、あたしの気持ちは沈んでいる。

何しろ、影の鏡(シャドウ・リフレクター)を壊すためにお金を払わなくてはいけなくなったのだ。

もちろん、こんな物は無視するって手もある。でも、あたしの勘が、これを放置すると巻き込まれると訴えているのだ。

そしてあたしは、こういうことに関してはトコトン運が悪い。総合的に見れば、冒険者カードに示されたとおりかなり運がいい方だとは言えるのだけど、厄介事に関してはとにかく巻き込まれる。死んでからも巻き込まれたし。

そんな嬉しくもない確証があるので、あたしは泣く泣くウィズとこのような交渉をしたのだ。

 

「それじゃ、そろそろ失礼させてもらうわ」

「はい。今日は色々とありがとうございました」

 

あたしは右手を軽く挙げてそれに応え、店をあとにした。

 

 

 

 

 

翌日。ギルドで、少し遅めの昼食をとっていると。

 

「ねえ、あなた。私たちのパーティに入らない?」

 

水色の長い髪が目立つ、綺麗な女性が声をかけてきた。というか、この人って確か…。

 

「あなた、カズマのパーティにいた人よね?」

 

そう。昨日カエルに飲み込まれていた、めぐみんと呼ばれていた少女ではない方だ。

 

「んー…? ああ! 昨日助けてくれた!」

 

どうやら覚えていてくれたようだ。

 

「ども。あたしはリナ。あなたは?」

「私はアクア。栄えあるアクシズ教の御神体にして、地上に降りたる水の女神よ! さあ、私を崇め奉りなさい!!

……ちょっと、なんでそんな、可哀想なものを見るような目で私を見るの?

本当よ? 本当に女神なのよ?

カズマが変なこと言わなきゃ、今でも死者たちを導いてたんだから!」

 

ん? 死者たちを導くって、ひょっとして。

 

「それってもしかして、エリスが言ってた、死んだ若者を転生させるってやつ?」

「あなた、エリスに会ったことあるの?

確かにそうだけど、でもなんで?」

 

不思議そうに見つめるアクア。まあ、疑問に思うのももっともか。

 

「あたしはエリスから、カズマたちとは別の依頼を請けて転生したの」

「別? なによそれ?」

「ええと、それに答える前に念のため。あなた、ホントに女神なの?」

 

確かにエリスが言ってたことと、このアクアって人の言動はかみ合ってんだけど、なんて言うか、女神と言うにはおつむが残念な気が……。

 

「なによ、疑ってるの?

私は天界で死者を導く役目を負っていたのよ」

「それはさっき聞いた」

「くぅっ!

カズマが私を転生特典にしたせいで、こんなところに来る羽目になったんだから! 魔王倒してくれないと、私帰れないのよ!!」

 

ふうん、なるほど。

 

「オーケー、わかったわ」

「え、わかってくれたの…?」

「嘘つく気なら、そんな情けない理由なんて言わないでしょ」

「あ、あなた、カズマ並みに心を抉ってくるわね…」

 

引きつった顔でアクアは言うが、あたしはそれを無視して、先程の質問に答える。

 

「あたしが請けた依頼は、この世界に紛れ込んだ魔族を退治すること、よ」

「……え、魔族?」

「そ」

「悪魔じゃなくて?」

「うん」

 

アクアは少し考え込み。

 

「あなた、なんて言ったっけ?」

「リナよ。リナ=インバース」

 

あたしが名乗ると驚愕の表情に変わり。

 

「あの、『魔王の食べ残し』のリナ=インバース!?」

「なにおうっ!?」

 

すっぱぁん!

 

宿屋でくすねたスリッパで、アクアの頭を思い切りひっぱたいた。




いまだにめぐみんのセリフが無い(回想を除く)という事実。激怒しためぐみんの行動とは!?
次回「このロリっ子ウィザードにセリフを!」
……ごめんなさい、嘘予告です。あー、キャベツ狩りまで、行けたらいいなぁ。

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