カズマが、めぐみんのぱんつをスティールしたあと。興奮するダクネスを見たアクアが興味を示した。
「ねえ、カズマ。この人誰? 昨日言ってた、私とめぐみんがお風呂に行ってる間に面接に来たって人?」
「ちょっと、この方クルセイダーじゃないですか。断る理由なんて無いのではないですか?」
めぐみんもダクネスの姿を見て追随する。
うーん。どうもカズマにとっては、あまりいい流れじゃないみたいね。さて、一体どう切り抜けるつもりなのか。
カズマとアクア、めぐみんとダクネスがそれぞれ隣同士、テーブルを挟んで対面に座る。そしてカズマは
「……実はなダクネス。俺とアクアはこう見えて、ガチで魔王を倒したいと考えている」
あ。これ、駄目なパタ-ンだ。確かに普通の感性を持った相手なら、これでお引き取りいただけるだろう。
しかし。ドMのダクネスにこんな話したら、絶対妄想膨らんで興奮しだすに決まってる。
めぐみんだってどこぞの正義オタクよろしく、魔王に爆裂魔法、だっけ? それを打ち込んでやる! とか言い出すだろう。
あたしがそんな考察をしていると、クリスが囁き語りかけてきた。
「ねえ、リナ。ちょっと相談があるんだけど」
「相談?」
あたしが聞き返すと、クリスはコクリと頷いた。
「もしダクネスがカズマくんのパーティーに入るみたいなら、リナも一緒に入ってあげてくれないかな?」
……は?
「リナって彼と仲がいいみたいだし、ダクネスが上手くやっていけるかが判るまででいいからさ」
「……それならクリスが一緒に入ってあげればいいじゃない」
「アタシは、色々あって…」
クリスは下を向き、頬を掻く仕草をする。
「……ねえ、ダメかな?」
はぁ…
あたしはため息を吐き。
「その辺りのことは彼らの事情よ? あたしが首を突っ込むような事じゃないわ」
「あ…、そう、だね…」
あたしの正論に、クリスは項垂れてしまう。
「まあ、とはいえ? クリスには世話になってるし、その時は出来る限り彼らと行動してみることにするわ」
そう話を続けると、クリスは一瞬キョトンとし、それが笑顔に変わっていき。
「もう、リナってばまた…。うん、でもありがとう」
拗ねたように言ってから、お礼を述べた。
そしてクリスは、お金を稼ぐため去っていく。そっか、カズマに有り金毟り取られたんだっけ。
さて、とあたしは、カズマたちのやり取りに視線を戻す。
うん。どーやらやっぱり、ダクネスとめぐみんはやる気満々になっているみたいだ。一方、アクアはというと。
「私、カズマの話聞いてたら、何だか腰が引けてきたんですけど」
おい、こら。
「お前が一番やる気を出せ。むしろ、お前が一番の関係者だろ!?」
カズマがツッコミを入れてるけど、この人はホントに女神なんだろーか。
あたしがそんなことを考えていた、その時。
『緊急クエスト、緊急クエスト、冒険者各員は、至急正門に集まってください。繰り返します…』
けたたましい警報と共に、ルナさんのアナウンスが入る。
これは、一体何事!?
わけが分からぬまま、あたしは言われたとおり正門へと駆けつける。
そこから遠くを見つめていると、何やら緑色の群れが近づいてくるのが判った。
「何だ? 何が来るんだ!?」
カズマの問いは、あたしも全く同じ。住人の反応からすると、定期的に起きるものらしいけど…。
「緊急クエストって何だ? モンスターの襲撃なのか!?」
こんな物々しい会話のやり取りも、アクアのセリフによって瓦解する。
「言ってなかったっけ? キャベツよ、キャベツ」
「「はあ?」」
あたしとカズマの、間の抜けた返事が重なった。
『収穫だーーーっ!!』
「マヨネーズ、持ってこーい!」
冒険者たちが、一斉にあげたかけ声に続いてアクアが叫んだ。
アクアの説明によると、この世界のキャベツは味が濃縮して収穫の時期が近づくと、喰われてたまるかとばかりに飛ぶらしい。そして大陸を渡り、海を越え、人知れぬ秘境の奥でひっそりと息を引き取るそうな。
つまり。このクエストは、そんなキャベツをみんなで収穫しておいしく食べましょう! って事らしい。
何だかすっごい脱力感に襲われたけど、ひと玉1万エリスで買い取ってくれるというのは、なかなかに美味しい話ではある。
「俺、もう帰って寝てもいいかなぁ」
まあ、カズマのその気持ちも、分からんではないが。
そんな彼の元にダクネスがやって来て声をかける。
「カズマ、ちょうどいい機会だ。私のクルセイダーとしての実力、その目で確かめてくれ」
そう言って彼女はキャベツの群れに突進していき、縦横無尽に剣を振るう。
なっ、まさか!? あたしは思わず目を見張った。
……全然、当たんねーでやんの。カズマの表情を見ると、どうやらあたしと同じことを考えてるっぽい。
いやー、まさかここまで酷いとは。ホント、悪いこと言わないから、剣術スキル取って。お願いぷりーず。
「うわぁ!」
「ぐあっ!」
ふと、聞こえてくる冒険者たちの悲鳴。そちらを見ると、キャベツに体当たりを喰らい吹っ飛ぶ彼ら。
考えてみれば、結構重くて堅いあんな物が、かなりのスピードで飛んでくるのだ。それはもう、凶器以外の何物でもない。
そんな彼らの元にダクネスは駆けつけ、身を挺して護ってやる。彼らの前に立ち、鎧が破壊されようとも盾として立ち塞がる。
その姿は、まさしくクルセイダーの鑑だった。顔を上気させながら喜んでさえいなければ。
ダクネスの性癖を知らない冒険者たちは感動してるけど、あたしやカズマの目は誤魔化せない。
……うん。せめて、彼らを護りたいという気持ちはホンモノだと信じたい。
と。
「我が必殺の爆裂魔法の前に於いて、何者も抗うことなど叶わず!」
めぐみんが口上を述べる。左目にはいつの間にか眼帯をしてるけど、あの子のことだから、おそらく
光に覆われし漆黒よ
夜を纏いし爆炎よ
紅魔の名の下に
原初の崩壊を顕現す
終焉の王国の地に
力の根源を隠匿せしもの
我が前に統べよ!
めぐみんが
「エクスプロージョン!!」
これが爆裂魔法。目の当たりにすると、確かにすごいわね、……ってそれどころじゃない! こんなの喰らって、ダクネスは大丈夫なの!?
ダクネス、ヘイキでした。アンタは、自称あたしのライバルか!? あたしの心配、返しやがれっ!
……くっ、まあいいわ。それより。そろそろあたしもキャベツ狩り、始めましょうか。
リナが、キャベツが密集した所めがけて駆けだした。その直前には、何やら呪文を唱えていたみたいだ。聞き取れなかったけど。
あまりにもの密集度に冒険者たちが攻めあぐねているところを、リナは気にせず突っ込んでいく。
リナは襲い来るキャベツたちを紙一重で躱しながら突き進むが、それももう限界、……と、そう思った瞬間。
「
あの、自称リナのライバルが得意としていた術を発動させた。
キャベツたちは爆風に巻き込まれて、やがて落下する。いくつかはキャベツ同士でぶつかって割れてるヤツもあったが、そのほとんどを玉のまま収穫していく。
流石はリナだ。こういう事に手馴れてやがる。
一方、俺はというと、覚えたばかりの潜伏スキルでキャベツに近づき、窃盗スキルでキャベツを捕まえていった。
キャベツ狩りって、結構簡単なのな?
納得いかねー。何故、たかがキャベツの野菜炒めがこんなに美味いんだ?俺はキャベツと戦うために異世界に来たわけじゃない。
「こっち、野菜炒めおかわりっ」
何故か同席してるリナは、めっちゃ美味そうに食ってるけど。心の葛藤みたいなのは無いのか?
「あなた、さすがクルセイダーね。あの鉄壁の護りには、流石のキャベツたちも攻めあぐねていたわ」
「いや、私など、ただ硬いだけの女だ。誰かの壁になって護ることしか取り柄が無い」
「アクアの花鳥風月も見事なものでした。冒険者のみなさんの士気を高めつつ、収穫したキャベツの鮮度を冷水で保つとは」
「まあねー。みんなを癒すアークプリーストとしては、当然よねー」
3人がそれぞれを称え合ってるが。
「それ、大事か?」
アクアのそれはどうなんだ!?
「アークプリーストの魔法の水は、とても清いのよ」
……へー。
「めぐみんの魔法も凄まじかったぞ。キャベツの群れを一撃で吹き飛ばしていたではないか」
「フフフ、紅魔の血の力、思い知りましたか」
ああ、確かに爆裂魔法は凄いと思う。だけど。
「俺からすりゃあ、リナの方が凄いと思ったけどな。広範囲の魔法で、キャベツを極力傷付けずに収穫していったんだからな」
「確かに、あの戦闘技能は素晴らしかった」
さすがドMでもクルセイダー。ちゃんとそういうのを見る目はあるって事か。
「何言ってんのよ、カズマ。アンタもなかなか見事な収穫っぷりだったじゃない」
「確かに。潜伏スキルで気配を消して、背後から『スティール』で強襲するその姿は、まるで鮮やかな暗殺者の如しです」
リナとめぐみんに褒められ、ちょっとだけこそばゆい気分になる。だが。
「カズマ。私の名において、あなたに[華麗なるキャベツ泥棒]の称号を授けてあげるわ」
どうしてコイツは、いちいち気分を台無しにするんだ、くそっ!
「やかましいわ! ああもう、どうしてこうなった!」
俺は頭を抱えた。別に、アクアのセリフだけが原因じゃない。
「皆に、私のクルセイダーとしての実力が判ってもらえて何よりだ」
そう言ったダクネスは立ち上がり、更に話を続ける。
「では改めて、名はダクネス。一応両手剣は使ってはいるが、戦力としては期待しないでくれ。……何せ不器用すぎて、攻撃がほとんど当たらん。
だが、壁になるのは大得意だ!」
そう。このドMクルセイダーも、うちのパーティーに入ることになったのだ。
「うちのパーティーも、なかなか豪華な顔触れになってきたんじゃない?
アークプリーストの私に、アークウィザードのめぐみん。そして、クルセイダーのダクネス。
4人中3人が上級職なんてパーティー、そうそうないわよ?」
そこだけ聞けばな。
俺だって、普通の仲間だったなら断る理由などない。美人だし。だが…。
俺がそんな、とりとめのないことを考えていると。
「あ、そうそう。あたしもしばらくは、あなたたちと一緒に行動させてもらうわ。パーティーに入るわけじゃないし、いつもってわけじゃないけど」
リナがそんなことを言ってきた。驚いた俺はリナを凝視する。
「あー、クリスに頼まれたのよ。ダクネスがパーティーに馴染むまで面倒を見てほしいって。
ダクネス、いい友達を持ったわね」
リナのセリフに、嬉しそうに頷くダクネス。
だが、そんなことはどうだっていい!
「ありがとう、リナ!!」
俺はリナの両手を握り、心からの感謝を述べる。
「ちょっとカズマ。私たちとは、ずいぶん態度が違うんですけど?」
「うるせえ、この元なんちゃら! お前たちと一緒になんか、出来るわけねーだろ!?」
名前だけの駄女神に爆裂狂、そしてドMクルセイダー。お前たちなんか、リナの足下にも及ばねーんだよ!
……いや、しかし冷静に考えてみると、リナが一番の常識人ってこのパーティー、ホントに大丈夫なのか?
ようやくキャベツ狩りきました。
ホントは、もっとリナが暴れるところを書きたかったのですが、リナがカズマパーティーの仮メンバーになるとこまで行きたかったので割愛です。