街から外れた丘の上。夕方にさしかかる頃、俺たちはそこでキャンプをしていた。
「ちょっとカズマ、その肉は私が目をつけてたヤツよ!」
「俺、キャベツ狩り以来、どうも野菜が苦手なんだよ」
などと、アクアと話していると。
「なに言ってんのよ、カズマ。あんなので苦手になってたら、そのうち食べられるものが無くなっちゃうわよ?」
なんて最もらしいことを言いながら、肉ばかり食ってるリナ。いや、リナが獰猛な肉食獣なのは判ってる。判っちゃいるが。
「リナこそ肉食い過ぎだからな?」
さすがに突っ込まずにはいられなかった。
さて、俺たちは別に、ここへのんびり休日を過ごしに来たわけじゃあない。歴としたギルドのクエストなのだ。
そう。この丘にある、共同墓地に現れるゾンビメーカーの討伐を。
それは…。
冒険者ギルドの食堂。俺は右手を突き出し叫ぶ。
「『クリエイトウォーター』!」
キャベツ狩りの時に知り合った冒険者から、片手剣と初級魔法のスキルを教えてもらった俺は、早速魔法でコップに水を汲んだ。……まあ、初級魔法ならこんなもんだろ。
「ふーん。
「なぁっ!? せっかく納得してんのに、そんなこと言うなよ!」
同席して食事をしているリナのセリフに、思わず俺は文句を返した。そりゃあ、リナの魔法の方が使い勝手がいいのは判るけど!
「まあ、待ちなさいよ。アンタの術にだって利点はあんのよ?」
利点? リナの、【スレイヤーズ】世界の呪文の方が、バリエーションに富んでていいと思うんだが。
「正確に言うと、この世界の殆どの術なんだけど。
こっちの魔法ってその多くは、
そうか。アニメ版だとつい忘れがちだけど、あの世界の魔法は呪文の詠唱が必要不可欠だったな、人間は。
しかし、異世界転生してまだ間もないのに、もうこの世界に馴染んで魔法の特性を把握してる。さすがは天才美少女魔道士、いや、原作に倣って、剣士にして天才魔道士のリナ=インバースだ。
……あれ? そういえば。
「なあ、リナ。お前の職業ってなんだ?」
「なに言ってるんですか、カズマ。そんなの、アークウィザードに決まってるじゃないですか」
新調した杖に頬ずりをする変態と化していためぐみんが、いつの間にか俺たちの近くに来て、さも当たり前という顔で言ってのけた。
「じゃあ聞くが、リナがキャベツ狩りで使ってた呪文、お前は知ってるのか?
……あっ、そうか。爆裂魔法にしか興味がないめぐみんが、他の魔法なんて知ってるわけがないよな!?」
「なにおう!?
……あ、いや、確かにあのような術は知りませんが…」
そりゃあ知るわけがない。この世界の魔法じゃないんだから。
「で、でも、それなら一体、リナの職業はなんだというのですか?」
「いや、だからそれを聞いてたんじゃないか」
「えっ、何? リナの職業?」
「ふむ、それは気になるな」
今まで受付のお姉さんと言い争ってたアクアと、俺とリナが会話する傍で、モジモジと何か言いたそうにしていたダクネスが、興味を示して話に加わってきた。
「んーみゅ。あたしの職業なんて、どうだっていいと思うんだけど…」
そう言いながらも冒険者カードを、テーブルの上の、俺たちの前に差し出した。
俺が手に取って見ると、3人も俺の肩越しから覗き見る。
「えーと…、って、『デモン・スレイヤー』!?」
「は? デモン・スレイヤー? 聞いたことのない職業ですね」
そりゃ、聞いたことないだろ。リナ以外でこの職業にピンとくるのは、俺の様な日本からの転生者か、アクアくらいなモンだ。
「ちょっと待ってください! なんですか、この魔力量は!? 私を遥かに超えてますよ!!」
「でも、私には及ばないわね」
腐っても女神と一緒にするなっての。
しかし、めぐみんよりも魔力が上か。天才魔道士の二つ名も伊達じゃないな。
「そーいや、ルナさんが言ってたわね。魔力はアクアがいなけりゃトップ、運もカズマがいなきゃトップ争いが出来て、知力は紅魔族並みだって」
なんだよ、その好ステータスは! てか、ルナって
「すまない、ちょっといいか? リナは名前の次に姓がくるのか?」
カードを見ていたダクネスが、藪から棒に尋ねる。
「ん? そうだけど…。それがどうかしたの?」
「いや、わたしの知る範囲では、姓の次に名がくるのが普通なのだが…」
そう言って考え込むダクネス。でも、そうか。こっちでも苗字の方が先に来るんだな。
「んー。でも、ここから遠く離れた、あたしが生まれ育ったとこではこっちのが普通だったけどね?」
「あ、いや、すまない。……そうか、世界は広いものだな」
そう言って感心するダクネス。
「ところでリナ。お前はアンデッドに効く魔法は持っているのか?」
「ん? まあ、一応。浄化の魔法は使えないけど、精神を破壊するような術とか、ゾンビなら炎系の術や腐敗を早めたりが出来るけど。
……もしかしてダクネス、あのクエストを受けるつもり?」
あのクエスト?
「リナも気づいていたのか。ゾンビメーカーの討伐クエスト」
ゾンビメーカー?
「何だ、それ?」
「ゾンビメーカーはゾンビを操る悪霊よ。自らは質のいいゾンビに乗り移って、手下のゾンビを操るナメクジ以下のヤツよ!」
俺の、誰に言うでもない一言に答えながら、アクアは憤慨をする。
一応女神であるコイツにとっては、アンデッドとか悪霊なんていう生命の摂理に反する存在は、やっぱり許せないものなんだろうか?
「話を続けるが、このクエストならアクアのレベル上げが出来ると思ってな」
「やっぱり。プリーストって攻撃魔法が無いみたいだし、物理攻撃だってアクアの場合打撃一辺倒だから、ジャイアントトードには効かないものね。
だったら、聖職者の特性を活かしたアンデッドの討伐はどうかって事ね」
なるほど。確かにそれは、ゲームでも定番ではある。
でも、この駄女神をいくら鍛えたって…。
いや、待てよ!?
「カズマ、気がついたようね?」
「ああ」
リナに向かって、ニヤリと笑って返す俺。
レベルが上がればステータスのパラメーターも上がっていく。ならば、アクアの知力が上がっていけば?
「よし、そのクエスト受けた!」
というわけで、キャンプをしながら夜が来るのを待っているのだ。
しかし痛い出費だった。いや、今やってるバーベキューの事じゃ無くって。
アクアのヤツ、キャベツ狩りの報酬が入ると思って、ツケで飲み食いしてたらしいが、アクアが捕まえたのは殆どがレタスで、5万程度しか報酬が出なかった。
で、借金を返したいアクアは、キャベツ狩りで百万ちょい稼いだ俺にたかってきたのだ。しかも、強請という手段で。
全く。男の、夜のプライベートを、みんなの前で暴露しようとすんじゃねぇ!!
夜になり、あたしたちは共同墓地へとやって来た。
ふむ。夜ともなると、結構雰囲気が出るわね。
「なあ、クエストが終わったら、怪談話でもやろうか?」
「……ほう? どーやらカズマは、今、ここで死にたいみたいね?」
「……すみませんでしたっ!」
カズマは、それは綺麗な土下座した。……ったく。あたしをからかうのも大概にしろっつーの。
ハッキリ言ってあたしは、怪談話が苦手だ。
とは言っても、幽霊が苦手ってワケじゃなくて、姉ちゃんの鉄拳制裁が怖かったわけで。要はただのトラウマである。
それを知っててあんなことを言うカズマも、なかなか質が悪い。
「ねえ、引き受けたクエストって、ゾンビメーカー討伐よね? 私、もっと大物のアンデッドが出そうな予感がするんですけど」
「おい、そんなこと言うなよ。それがフラグになったらどうするんだ」
立ち上がりなら、アクアに注意を促すカズマ。
フラグ。こないだカズマが同じことを言ってたので尋ねてみたら、お約束に繋がるお決まりのセリフや行動のことらしい。
よく伝承とかのセリフで、「やったか!?」って言ったらまず生きてるみたいなヤツだ。
と、突然カズマが、ピクリと身体を震わせた。
「……ん、敵感知に引っかかったな?
一体、二体、……三体、四体?」
そりゃおかしいわね。ゾンビメーカーの取り巻きって、せいぜい二、三体って話だったはず。カズマが首を傾げてるのも、それが理由だろう。まあ、誤差の範囲なのかもしんないけど。
……ん? 何だろう。墓場の中央から、青白い光が…。
「あれ、ゾンビメーカー…ではない…気が…するのですが…?」
めぐみんが自信なさげに呟く。まあ、確かにゾンビメーカーっぽくはないわね。
……をや? 一瞬見えた横顔に、なんか見覚えが。
「どうする、突っ込むか?」
「いや、ちょっと様子を…」
カズマの意見に、あたしは待ったをかけようとした。が。
「あーーーーーっ!!」
アクアが突然、大声をあげ。
「なんでリッチーがこんなトコにいるのよ! 私が成敗してくれるっ!!」
「や、やめてえぇぇぇ! なぜ私の魔法陣を壊そうとするんですか!? やめて! やめてください!」
あ、あれ? この声って? それに、リッチーって…。
「どうせこの妖しげな魔法陣で、ロクでもないこと企んでるんでしょ!」
「やめてー! この魔法陣は、未だ成仏できない迷える魂たちを、天に還してあげるための物です!」
魔法陣を踏みにじるアクアの腰にしがみ付きながら、説明をするリッチー(仮)。確かに魂らしきものが、魔法陣が放つ青白い光と共に天に昇り消えていく。
「リッチーのくせに生意気よ! そんな善行はアークプリーストの私がやるから、あんたは引っ込んでなさい!
この共同墓地ごと浄化してあげるわ!」
「ええっ!? ちょ、やめっ!?」
「『ターンアンデッド』!」
制止も聞かず、浄化魔法と思われる術を唱えるアクア。
なるほど、アクアを中心に広がる光に触れ、ゾンビや魂たちを消滅させていく。そして。
「きゃー! やめて、私の身体が無くなっちゃう! 成仏しちゃうっ!!」
「あはははははっ! 愚かなるリッチーよ、私の力で欠片も残さず、消滅するがいいわっ!」
「
どぐわぁん!
「のぴゃ!?」
「のわあぁ!?」
生み出した光球を投げつけ、炸裂させてアクアを黙らせる。止めに入ったらしいカズマも巻き込んだけど、そこはまあ、尊い犠牲と言うことで。殺傷力も低いし、問題はないだろう。
「全く。アクア、これじゃあどっちが悪役か判んないわよ?
……さて、と。まさかアンタがアンデッドだとは思わなかったわ、ウィズ」
「……え、リナさん?」
そう。そこにいたのは、あの魔道具店の店主、ウィズだった。
さて、ここでリッチーについて説明しておこう。
リッチーとは、魔道を極めた者がさらに高みを目指すため、自ら身体を捨て去り、アンデッドと化した者。
その魔力量は膨大で、アンデッドの王、ノーライフキング等と呼ばれているくらいだ。
ウィズは、そのような存在なのだという。この、商才のない、残念店主が。
あたしはウィズについて簡単な紹介をし、彼女に何故こんなことをしていたのかを尋ねた。
それによると、彼女はリッチーであるが故に迷える魂の声が聞こえ、天に還りたがってる彼らを成仏させるために定期的にここへ来ていたそうだ。
勿論、本来は街のプリーストがやるべきことなのだが…。ま、聖職者とは言っても所詮は人間。金にならないことはやる気も起きなかったようだ。
いやー、その話を聞いた跋の悪い表情のアクアは、まさに見物だった。
「ところでウィズ、ゾンビを呼び起こすのってどうにかなんない? あたしたち、ゾンビメーカーの討伐のためにここに来たんだけど」
「あ、そうだったんですか。
あの、別に呼び起こしているわけじゃなくて、私の魔力に反応して目覚めてしまうんです…」
なるほど。ノーライフキングの名は伊達じゃないわね。
「その、私としては、埋葬される人たちが迷わず天に還ってくれれば、ここに来る理由も無くなるんですが…」
「あー、それならだいじょーぶよ!」
そう言って、あたしはひとつウィンクをした。
「納得いかないわ!」
「しょうがないだろ。つか、あんないい人、討伐する気にもなれないっての」
未だ怒りの治まらないアクアに、カズマが宥め賺してる。
「それもそうだけど、なんで私がリッチーなんかの代わりに、あそこへ行かなきゃなんないのよ!」
「ほう? あたしの意見が気に入らないと…?」
言って小さく呪文を唱えると、あたしの掌に光球が生み出される。
「そ、そうよ! これは偉大なる女神にして、アークプリーストでもある私が行うべき、重大な使命なのよっ!」
うん。アクアならきっと判ってくれると思ってたわ。
「リ、リナ。それ、どーするんですか!?」
「ん? これ?」
めぐみんに言われて、あたしは光球を見つめ。
「えい♡」
「「リナ!?」」
カズマに投げつけ、めぐみんとダクネスが叫ぶ。
「……リナ、たちの悪い悪戯はやめてくれよ」
「……え?」
「カズマ、平気なのか?」
呆れた声で言うカズマに、二人は唖然とする。
「今のは[
「なぁっ、私を騙したの!?」
攻撃魔法だと思い込んでいたのだろうアクアが、あたしに詰め寄ってくる。しかし、騙したとは人聞きの悪い。
「あたし、一言だってアレが[
あたしはただ、掌の中に[明り]を生み出したに過ぎない。向こうが勝手に勘違いしたのだ。
アクアはまだぶーたれているが、あたしはこれ以上聞く耳を持つ気はなかった。
「……ところで」
少し考え込むような仕草をしたダクネスが口を開き。
「ゾンビメーカー討伐のクエストはどうなるんだ?」
「「「「……あ」」」」
ダクネスを除くあたしたち四人は、同時に声を上げた。
ゾンビメーカー討伐クエスト……失敗
ちきしょう、悔しくなんかないもん!
今回の話、TV版と小説版、そしてオリジナルがごちゃ混ぜな感じでしたね。アニメ化されなかった話も、できる限りやってく予定です(予定は未定であって、決定ではない)。