「『エクスプロージョン』!」
どぐわぁぁ……ん!
めぐみんの爆裂魔法が、遠く離れた丘の上の古城に炸裂する。
「ど、どうですか、カズマ。今の爆裂魔法は…!」
「うーん、65点ってとこかな? 威力はなかなかだったが、爆心がやや左に逸れていた。その影響でせっかくの威力が伝わりきらず、いつもほどの破壊には至ってないからな」
「くっ、なかなか辛辣ですね。……ですが、確かに今の爆裂はその程度のものでしょう」
などと、魔力切れで倒れているめぐみんに採点をしている俺。
実は最近、魔王軍の幹部が近くに引っ越してきたとかで、弱いモンスターたちは身を隠してしまい、初心者向きのお手頃クエストが受けられないのだ。
金の無いアクアはアルバイトに励み、ダクネスは実家で筋トレに励んでいるらしい。そしてめぐみんは、一日一回の爆裂散歩。俺はそれに付き合わされてるってワケだ。
非正規メンバーのリナはどうしたか、というと。
「……リナはそろそろ、王都に着いた頃でしょうか?」
そう。アイツは「ちょっと買い物行ってくるー」的なノリで、王都へと旅立っていった。何でも、変わった武器や防具、アイテムなんかを物色してくるそうだ。
俺たちよりも稼いでるとはいえ、エンゲル係数がやたらと高いリナ、お金は大丈夫なのか聞いたら、
「それは秘密です!」
なんて、人差し指を立てながら言っていた。お前はどこぞの
「……カズマ?」
「ん、ああ、そうだな。リナのことだから、馬車が野営してるときに懐を暖めながら、今頃は到着してるんじゃないかな」
「……は?」
まあ、わかんないよな。
リナの趣味は盗賊いじめ。きっとお金の工面はそれでするつもりなんだろう。
ガンバレ、盗賊。リナに負けても強く生きてくんだぞー。
「んんーっ! よーやく着いたかー」
馬車を降りたあたしは大きく伸びをして言った。
あたしがやって来たのは、アクセルの街も属するベルゼルグ王国の、その王都。目的は武器や防具、マジックアイテムなどの調達。
言っておくが、今の装備に特別不満があるわけじゃない。エリスも言っていたが、前世であたしが身に着けていた装備としては最良のものなのは確かだ。
しかしあの頃と違い、一応の拠点を持っている今なら、目的によってその装備を変える、というやり方もできる。特に魔法が使えない状況というのも考慮して、ある程度の魔法剣やアイテムは揃えておきたいところだ。
そのためにはまず、手に入れた宝石や貴金属を換金しなくちゃ。
いやー、人間に害を為す生物が多いこの世界にゃ、盗賊の類は少ないって聞いてたけど、その分お宝はタンマリと貯め込んでいた。ある程度の実力がなきゃ、やってけないのだろう。ま、あたしの敵じゃなかったけど。
……それに、面白い情報も仕入れられたし。
[白い悪魔]
そう呼ばれる少女が、盗賊たちを退治しまくってるらしい。それ以上の情報はないが、あたしも最初、その[白い悪魔]と勘違いされたくらいだ。
これからも盗賊いぢめをしていくなら、そのうちかち合うかも知れないし、気にとめといた方がいいだろう。
上物の宝石と貴金属を交渉に交渉を重ねた上、結構な値で売ることができた。これで数日の宿代と食費、帰りはテレポート屋なるものを試してみたいのでその足代を差っ引いても、かなりの額が手元に残る計算だ。
というわけで、情報収集を兼ねながら空腹を満たすため、定食屋へと来ている。
適当にランチメニューを5人前頼んでから、早速情報収集を始める。
とは言っても、別に尋ね回る必要なんてない。情報など、客の会話に聞き耳を立てていれば、いくらでも入ってくるのだから。気になる話があったら、後で改めて調べればいい。今はただ、様々な情報を仕込むことに費やせばいいのだ。
『[ソードブレイカー]って店に、時々掘り出し物の魔法剣が売りに出されるって話だぜ』
ほう、早速の目玉情報ね。後で寄ってみよっと。
『なんだかアクセルの街の近くに、魔王軍の幹部が住み着いてるらしいな』
『なんであんな、駆け出し冒険者の街になんか…』
いや、ホントになんでだろ。まさか長期休暇を取って羽を伸ばしに来たとか? ……さすがにそれはないか。
『最近、凄腕ソードマスターが魔王軍とやり合ってるんだって』
『それってミツルギ・キョウヤのことだろ?』
『そうじゃなくって、背の高い美形の青年らしいのよ! しかも、ワイルドな感じのイケメンソードマスターとの二人組だって!』
『……おまえって、すぐそれだよな』
うーみゅ、あたしにはあんまり関係ない話題かな?
『アルカンレティア周辺で、紅魔族の少女と女プリーストのコンビがモンスター狩りまくってんだと』
紅魔族の少女…。めぐみんの知り合いかな。
『デストロイヤーって、ワシャワシャして格好いいよなー』
『アンタ馬鹿!? あんなのが来たら、王都だっておしまいなのよっ!』
デストロイヤー? 何じゃそりゃ?
などと、いろんな情報が入ってくるわけである。……ほとんど役に立たなかったけど。
それでも武器屋の情報は入ったし、ごはん食べたら早速行ってみましょうか。
[ソードブレイカー]
このお店について聞いたところ、主に中古の武具を扱っているらしい。
そこの主人はなかなかの目利きで、お店での買い取り以外でも、蚤の市などで二束三文で売られている掘り出し物を見つけてきては、店頭で販売したりもしているそうだ。さっき噂で聴いたことも、こういった理由によるものなんだろう。
あたしはその店の戸を開けた。
「いらっしゃい」
声をかけたのはおそらく店主だろう、40代中頃の黒い髪、黒い瞳の男性。
その男の目が、一瞬見開かれたように見えたのは気のせいだろうか。
「おっちゃん、魔法剣が欲しいんだけど、なんかお勧めってある?」
「魔法剣ですか。そうですね…」
そう言って取り出したのは。
「これは[ハウリングソード]といいまして、刀身の唸りを衝撃波として撃ち出すことのできる剣です」
「ふーん、[ハウリングソード]ね…」
そう呟きながら、渡された剣を受け取ったその時、妙な感覚を覚えた。何というか、あたしがこの剣に触れた瞬間、眠っていた剣が目覚めたかのような。
……まさか!? もしかしてこれ、転生者の特典なんじゃ?
取り敢えずこれはキープね。
他に何かめぼしい物がないか尋ねようとしたとき、それに目が止まった。
「おっちゃん。その剣は…?」
あたしは、カウンターの奥、目立たない場所に置かれた一振りの剣を指差しながら言った。
「ああ、これですか。魔法剣なのはわかるんですが、ウンともスンとも言わないんですよ。能力どころか、名前まで見えないのは初めてですよ」
「名前が見えない?」
「あ、いえ…」
ふむ。ちょっと気になるけど、それは後回し。それよりも。
「ねえ。その剣、見せてくんない?」
「え、ええ…」
おっちゃんは戸惑いながらも、取り出した剣をあたしに手渡した。
その瞬間、先程と同じ感覚があたしを襲う。
やっぱり、この剣は…。
あたしは短く呪文を唱え。
「
術を発動させる。途端に術は剣に吸収されて、刀身が淡く青白い輝きに覆われる。
「まさか、[吸魔の剣]…?」
おっちゃんの呟きに、おや? となる。そしてあたしは、ある可能性に行き着いた。
「あなた、もしかして、ニホン人の転生者?」
「えっ、ええっ!?」
明らかな動揺を見せるおっちゃん。
「そーいや、まだ名乗ってなかったわね。
あたしはリナ。リナ=インバースよ」
「リナ=インバース…!」
最初にあたしを見たときよりも、さらに大きく見開かれる目。あたしの名前に対してのこの反応。これはもう、答えを聞くまでもないだろう。
「あなたもアクアの被害者なのねっ」
あたしは思いっきり哀れんだ眼差しで、彼を見つめるのだった。
「俺は御堂
そう名乗って語ってくれたことによると、彼は20年くらい前に、アクアによってこの世界へ転生したそうだ。
もらった特典は物、生物を問わずに名前と能力を見抜く
彼はこの能力を使い、魔王討伐を目指していたが、魔王軍幹部によって自分以外のパーティーメンバーを死なせてしまったことから断念をし、今はその能力を活かして魔法剣を安く購入、販売して、冒険者たちのバックアップをしているということだ。
「しかし、物語の主人公が目の前にいるなんて…」
「知り合いの転生者から聞いたけど、小説の主人公だって?」
あたしが言うと、彼は口の端を上げ。
「いや、大元はそうだけど、人気と共に他の媒体でも扱われるようになってな。それぞれで元になった話にアレンジが加えられて、何々版、みたいな感じに扱われてたな」
「え、そなの?」
「ああ。最初に渡した[ハウリングソード]も、アニメ版、アンタにゃわかんないだろうけど、それに登場した魔法剣だ」
へー、そうだったんだ。……ん?
「もしかして、わざとコレを渡したとか?」
「ああ。見た目が公式で描かれてるリナ=インバースそのまんまだったから、てっきり転生者のなりきりかと…」
そーいやカズマも、そんなこと言ってたわね。ふむ。てことは。
「だけどあたしの反応が素っ気なくって毒気を抜かれたとこで、こっちの剣にあたしが興味を示して、それがまさかの[吸魔の剣]だったと」
「ああ、その通りだ。でもなんで、その剣は視えなかったのか…」
彼の能力でも見通せなかった剣。確かに謎ではあるけど。
「一応、仮説は立てられるけど」
「そうなのか?」
あたしはこくりと頷き、話を続ける。
「あなたの能力は『名前を視る』と『能力を視る』がセットじゃないと発動しないって仮定すれば。
その場合、この[吸魔の剣]を視ることができないのが当たり前なのよ。だって[吸魔の剣]って、無名のこの剣にあたしがつけた仮の名前だもの」
「あ…」
彼が間の抜けた声を上げる。
あたしの仮説が正しければ、元々名前のないこの剣を、彼は
「いや、俺の能力にこんな弱点があったとは」
まあ、ふつーは気づかないわな。この剣だってあたしが、「これは吸魔の剣だー!」なんてちゃんと名前をつけたてたら、こんな事にはなんなかったかもしんないし。
「……さてと、長居しちゃったわね。
それじゃあ、この二振りをいただくわ」
あたしは椅子から腰を上げると、彼にそう告げた。
「ああ、ありがとうございます。
それじゃあ[ハウリングソード]は80万エリスで…」
「ちょっと、それ、随分安くない?」
こちらの世界の魔法剣の相場などまだ詳しくはわからないが、それでもこの剣の能力を考えれば、かなり安いのは流石にわかる。
「さっきも話したでしょう? これは、能力を十全に引き出せなかった前の持ち主が、蚤の市で二束三文で売ってた物なんですよ」
あー、そういや下調べしたときにも、そんなこと言ってたわね。
「それと、この[吸魔の剣]ですが、こちらはリナさんに差し上げます」
「……へ?」
いやー、我ながら間抜けな声を上げてしまった。いや、だって、魔法剣をタダでやる、なんてふつーは言わないでしょ? 話の流れで、頂戴って言ったことはあるけど。
そんなあたしの顔を見て大きく笑い、そして彼は言った。
「この剣は、元々売る気がなかったんですよ。能力の発動すら出来なかったんですから。
それに転生特典とはいえ、この剣はリナさんと所縁のある人物の剣です。だから、リナさんの手元にある方がいいと思ったんですよ」
あ…。そう思ってくれるのは、ちょっと嬉しい。あたしも、この剣を見て思うところが無いわけじゃない。
とはいえ、こういう好意だからこそ、タダで貰うのは気が引けてしまう。いつもだったら意地でも値切るけど。
「うーんと、流石にタダで貰うのは…」
そう言うと、むしろ困った顔をした彼は少し思案してから言った。
「それなら、知り合いにこのお店の宣伝をしてください。特に、レベルの低い冒険者の助けになればと思って作った店ですから」
ああ。この人は冒険者をリタイアしても、冒険者たちを支援して魔王軍と闘ってるんだ。
「……うん、わかったわ。ありがとう、アキラさん」
あたしは敬意を込めて、彼の名を呼んだ。
今回は伏線と、オリキャラの転生者の話でした。
因みにお店の名前「ソードブレイカー」は、転生者が同原作者の別の作品から取ったものです。