夜。森を深く入ったところにある洞窟の前。焚き火を囲み、飯を食い、酒を飲み、騒いでいる男たちの姿があった。
「おう、今日の稼ぎはいつもの倍だ!
飲んで騒いでもりあがれーっ!!」
『オーッ!!』
ひげ面のがたいのいい男の音頭に、男たちが一斉に声を上げる。
これが一般人の宴会、酒盛りならば、ただ騒がしいで済まされる話だが、こんな場所で騒ぐ連中が一般人のわけがない。
彼らは所謂、盗賊、もしくは山賊と呼ばれる奴らだ。もちろん、冒険者の職業の[盗賊]ではなく、旅人や馬車を襲い金品を奪う方の盗賊である。
「さあ、誰か芸のひとつでも見せてみろーっ!」
連中のひとりがそう叫んだ、その時。
「(
ぼそりと[力ある言葉]を唱え、あたしはすぅっと光球を飛ばす。
光球に気がついた連中が見つめる中、それは地面に触れ。
ちゅごどおぉん!
爆音と共に火炎をまき散らす。
『うわあぁぁっ!?』
「な、何だ!?
王都の兵か!? それとも魔王軍の侵攻!?
……まさか、うわさの[白い悪魔]!?」
「全部はずれよ」
そう言ってあたしは、茂みの中から連中の前に躍り出た。
「なっ、その癖のある長い茶髪に薄い胸!
まさかテメエは[
「薄いとは何じゃあぁぁぁっ!!
というか、どーしてその二つ名を知ってんのよおぉぉ!?」
あたしはこの世界に転生してから、一度しか盗賊いぢめをしていない。さすがにそれで、[
「しばらく前からうわさになってんだよっ!
盗賊たちを壊滅し、お宝を根こそぎ奪ってく凶悪胸なし女のうわさがなぁ!!」
「
どっごおぉぉん!
『どわあぁぁっ!?』
呪文一発、身構えていた盗賊どもを吹っ飛ばし。
「よぉぉし。そのうわさ、ホントにしてやろうじゃないの!」
あたしは笑顔で彼らに言った。
[ソードブレイカー]。ここ、王都で知った、中古の剣の売買を行っているお店。あたしは再び、ここへと足を延ばした。
ここの店主はカズマと同じく、ニホンからの転生者。あたしを主役にした物語にも詳しいので、気兼ねなく話ができるのだ。
「[
店主のアキラさんが営業用ではない、素の口調で説明してくれる。
「情報の出所は不明だが、うわさが流れ始めたのは今から大体十日から十五日くらい前か。ちょうど[白い悪魔]が現れたのと同じくらいだな」
アキラさんの説明に、うーんとあたしは唸る。その、うわさが流れ始めた頃って…。
「どうかしたか?」
「ううん、何でも。……アキラさん、ありがと。参考になったわ」
あたしがお礼を言うと、アキラさんは少し照れた表情になり、それを誤魔化すように言った。
「別に、大したことじゃないさ」
なんかこーいうとこは、ゼルに似てる気がする。彼もこういう時、照れてぶっきらぼうな態度をとってたから。
「じゃあ、また寄らせてもらうわ」
あたしは思ったことを胸に秘め、店を出ようとする。するとアキラさんが。
「ああ、今度はリナさんが話してた転生者の少年も一緒にな。同じ転生者同士、話がしてみたいからな」
「オッケー。アクセルに戻ったら、カズマに言っとくわ」
あたしはそう返事をして、今度こそ店を出た。
……さて。一体どういうことだろうか。
アキラさんは十日から十五日くらい前と言っていた。それってちょうど、あたしがこの世界に転生した頃だ。
つまり。あたしが転生したのと同じタイミングで、あたしの前世の悪名を広めたヤツがいるってこと。最も可能性が高いのは、やはり同じ時期から活動を始めた[白い悪魔]だ。
しかし、そいつが何故あたしの前世を知ってるのか、どうやってあたしの転生を知ったのか、……そして何よりも、何の目的があってそんなことをしたのか。何ひとつ判らないのが現状である。
「……で? さっきからあたしを観察してる、アンタは誰よ!?」
あたしは右を向き、すぐ先の細い路地を睨む。その瞬間、路地の陰に隠れた人物が戸惑った気配を浮かべ、次の瞬間には、その気配が路地の奥へと遠ざかっていく。
あたしは慌てて路地まで駆け寄ったものの、反対側の通りに出た後なのか、すでに人影はなかった。
念のため気配を探りながら路地を抜けると、都合よく串焼き肉を売っている露店があったので、注文をしながら、あたしの前に路地から出ていった人物がいなかったかを尋ねてみた。
「ああ、アークウィザードの女の子が、向こうの方へ駆けてったよ」
店のおっちゃんが、正門のある方を指差しながら教えてくれる。もっとも、今から追いかけたってどうしようもないのだが。むしろ、それよりも。
「何で上級職のアークウィザードだと思ったの? そりゃ格好を見りゃ、ある程度は判るだろうけど」
それでも、ウィザードとアークウィザードの違いは判らないと思うのだが。
「そりゃあ、あの子が紅魔族だったからさ」
なるほど、そういうことか。
紅魔族。それは生まれつき、知力と魔力が高い一族だとか。一族の者はその殆どが、アークウィザードとなる資質を持っているらしい。
そしてその一族には、ある特徴がある。それは赤い瞳とおかしな名前、そしてその変な性格である。めぐみんを見てればよく判るだろう。
性格は、カズマが言うには『厨二病』というらしい。よくわかんないけど。
ともかく紅魔族だというのなら、その子がアークウィザードというのも納得がいく話だ。
もっとも。何であたしを窺い見てたのかは、結局判らないままなのだが。
ああ、驚いた。まさか私がこっそりと見てることに気づいてただなんて。まるで敵感知を使った盗賊みたい。
私が彼女を見かけたのは、ほんの偶然だった。その人の容姿の特徴や格好が、あの人の言ったとおりだった。
もちろん特徴が一緒だからって、人違いの可能性の方がずっと高いはず。それで、悪いなぁ、と思いながらも、こっそりと後をつけることにした。
やがてお店の中に入っていったので、扉の前で聞き耳を立てる。するとおそらくお店の人が、「リナさん」と言ってるのが聞こえた。
---やっぱりそうだった!
私は、予想が当たったことによる高揚感を感じると共に、これからどうしようかと思い悩んだ。
あの人にこのことを伝えようにも、この場を離れている間に彼女はいなくなってしまうだろう。
でも、私から彼女に声をかけるなんて、そんなハードルが高いこと出来るわけがない。
どうしようか悩んでいるうちに、彼女がお店を出る気配がした。
---まずい!
そう思った私は、慌てて近くの路地に駆け込んだ。
やがてお店から出てきた彼女は、扉を閉めるとそのまま何か考え込み始めた。
何を考えてるのかも気になる。でも、今こそ声をかけるタイミングなのでは?
そう思って、緊張のために跳ね上がる動悸を押さえ込もうと深呼吸を始めたその時だった。
「……で? さっきからあたしを観察してる、アンタは誰よ!?」
押さえ込もうとしてた動悸が、さらに跳ね上がった。
---なに? どうしてわかったの!? この人、盗賊じゃないよね!?
ううん、そんなことより、今こそ声をかける絶好のチャンスじゃ? あ、でも、今の私って、明らかに不審者だよね!?
そんなことが頭の中をぐるぐると駆け巡り、結局私は、その場から逃げ出した。
その後、彼女に追いつかれることもなく、今現在に至っている。
……もう、帰ろう。あの人に頼まれた買い物も終わってるし、このことを早く伝えたい。
私はテレポート屋へ行き、アルカンレティアへと帰ることにした。
あたしは紅魔族の少女の事はあきらめて、昨夜の戦利品の換金をしていた。
因みに宝石類の一部は、
一応、魔法陣を描くための羊皮紙は手に入れたし、薬品作りのための材料になりそうなものも確保した。後はあたしの力量次第である。
あたしは一旦宿に戻ると、買い込んでいた荷物をまとめてチェックアウトする。
……どうでもいいけど、重い。ちょっと買い込みすぎたかも。しかも、いつものショートソードに加えて、魔法剣二本も腰に下げている。ガチャガチャうるさい上にやたらと目立っていた。
あたしは肉体的疲労と、悪目立ちによるこっぱずかしさと戦いながら、テレポート屋までやってきた。
そこであたしは、ふと思いついてテレポート屋のおっちゃんに尋ねてみた。
「ねえ、ちょっと前にここへ、紅魔族の女の子が来なかった?」
「ん? ああ、来てたよ。確かアルカンレティアに送ったはずだが…」
などと、聞いてもいないことまで話してくれる。こういうのは、無駄に詮索しないですむのでありがたい。
「なんだい。嬢ちゃんもアルカンレティアに行くのかい?」
「ううん。ちょっと気になっただけだから。
おっちゃん、アクセルの街までお願い」
「おう、アクセルの街だな」
こうしてあたしは、王都を離れる事となった。
俺たち冒険者は今、アクセルの街の正門の前に集まっていた。緊急クエストで呼び出されたのだ。
最初俺は、この間のキャベツ狩りみたいなものかと思っていたんだが、そんなちゃちなものではなかった。
正門からまっすぐ行った先の、少し小高くなった場所にそいつはいた。
「俺はつい先日、この近くの城に越してきた魔王軍の幹部の者だが…」
魔王軍の幹部!?
「あれはデュラハンか!」
デュラハンだって!? ダクネスに言われて見てみれば、確かに首なしの馬に自らの首を抱えた騎士がまたがってる構図は、ゲームに登場するデュラハンそのものだ!
「毎日! 毎日毎日毎日毎日毎日毎日!! お、俺の城に、毎日欠かさず爆裂魔法を撃ち込んでくる、頭のおかしい大バカは、誰だぁぁぁぁ!!」
魔王の幹部は、それはもうお怒りだった。
「爆裂魔法?」
「爆裂魔法が使えるやつって言ったら…」
「爆裂魔法って言ったら…」
みんなが口々に言いながらこちらを見る。その視線の先にいたのは、当然ながらめぐみん。
めぐみんは一瞬きょどった後、すいっと視線を逸らす。その先には、赤い髪で大人しい感じの、魔法使いの女の子が、……!?
突然、めぐみんと魔法使いの女の子のちょうどその間、風を巻き起こし突然現れた人影が。
「これはテレポートか?」
ダクネスが言う。テレポートって、そんな魔法まであるのか。……ん?
「……へ? なに? これってどういった状況なの!?」
そこには、大きなバッグを背負い、三本の剣を腰から下げたリナの姿があった。
「ちょっと、誰か説明してよぉぉ!」
リナの絶叫が響いて消えていった。