銀河英雄伝説異端録 ~白銀の鷲は銀河に羽ばたく~   作:中澤織部

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閑話 忘れ去られた時代のお話

「今の連邦は間違っている! 数百年もの時間を政府は無駄にしてきて、平和なのは此処らへんだけだ!」

 

淡い色合いの壁紙と調度品が置かれた子ども部屋で、端正な顔立ちの意思が強そうな少年が、大きな声を上げている。

彼の前にはベッドがあり、其処にはこの部屋の主が寝巻き姿で上半身を起こして少年の言葉を聞いている。

 

「それどころか、安全な筈のここでもテロがあったばかりじゃないか。それでも腐敗した政府の高官どもは不正や権力闘争ばかりに明け暮れてる……最早統制することもできないような権力の為にだ!」

 

「……それで、それはどうにかなることなの?」

 

ベッドの上に居る小柄で細身の少女は、目の前の少年に問いかけた。

 

「連邦軍の士官学校に受かったんだ。こんな腐敗した中でも数少ないマトモな教育機関だからね、そこから僕はこの社会を変えていきたいと思ってる」

 

「軍から改革しようと思ったのは何でなの? キミなら何処から行っても偉くなれるだろうにさ」

 

問いかけに、少年は胸を張って自信満々に答えた。

 

「簡単なことさ。今の社会はその殆どが安全とはいえない環境で苦しんでいる! 今の大衆が求めているのは安全を確保してくれる強いリーダーシップのある人間だからな、市民の盾である軍というのは、より分かりやすい象徴になるだろう!」

 

「……キミは相変わらず大胆だね。とても民主主義国家の人間とは思えないな!」

 

ハハハ、と少女が笑うと、少年は少しばかり不機嫌になって頬を膨らませた。

 

「ハハハハハハ……、笑ってごめんよ。……でも事実じゃないか」

 

「今の連邦にはマトモに民主主義をするような力がないってだけだ。それに大衆から支持があるのは民主主義の原理に則ってるだろ?」

 

「それもそうだけどさ、結局のところ、キミってそういうの無視するんでしょ?」

 

「最も強くて優秀な人間がその他大勢の人を纏める。それのどこが悪いんだ? 実力がないのにのさばってるだけじゃ良くならないから、誰かが動くべきなんだよ」

 

「──それで、誰が適任なのかな? そういうのは」

 

少女の問いかけに、少年は自信満々に答えた。

 

 

「──僕がいる」

 

 

 

「僕が偉くなって、世の中の悪いところをやっつけるのさ! 最も強いリーダーの下に多くの色んな人が纏まって社会を良くしていく……きっと身体が不自由でも頭がよくなくても、運動オンチの人でも、安心して任せられる立派な君主になってやる!」

 

「それってさ……こんな私でも安心できるの?」

 

「ああ! 病弱だとか、身体が弱いなんてことで縛られたりしない。頭が良いっていうお前の得意なことが存分に発揮できるんだ……!」

 

そう言って、少年は少女に手を差し出した。

 

「一緒に世界を変えようリーゼ、僕の才能とお前の頭脳があれば、世界を動かせるんだ!」

 

「──フフフ、やっぱり……やっぱりキミは面白いよ。『ルドルフ』 ……こんな身体の弱い私でも、キミとなら何処へだって行けるし、なんだって出来そうだよ」

 

「あぁ、お前とならできるさ……」

少年──ルドルフが差し出した手をとって、リーゼは答える。

 

「それじゃあ、……一緒に世界を変えちゃおっか」

 

「絶対に果たしてやるさ。約束だぞ!」

 

 

……

 

 

銀河の中の一つの惑星──当時は人類社会の中枢として栄え、衰退しつつあった惑星テオリアで、二人は約束を交わした。

少年の名はルドルフ・ゴールデムバウムと言い、少女の名はリーゼロット・ブランケンハイムという。

それは五百年と少し前の、歴史の中で忘れ去られた遠い遠い過去の記憶である……。

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