銀河英雄伝説異端録 ~白銀の鷲は銀河に羽ばたく~   作:中澤織部

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花粉症ってのはどうしてこうキツいのか。
果たして銀英伝の世界でも花粉症は猛威を振るっているのかしら。
因みにコッソリ年号の字を歴から暦に直しました。
こんなことやってて銀英伝二次創作書くとか烏滸がましいのかもしれない…。


第二話 金銀妖瞳との邂逅

士官学校初日のオリエンテーリングを終えたリーゼロッテとビルギットは、士官学校に併設された寮に入った。

事前の視察と確認は終えており、数こそ少ないが荷物も前日の内に寮室に運び込んである。

 

「さて、私とビルギットと、…合わせて三人か四人で同室だったかしら?」

 

「士官学校と言えど、流石に異性を同室にさせることはないようですね。しかし学年のズレはあるようですので、上級生の可能性があります」

 

「まあ、その時はその時で考えましょう。それよりも此処の寮は食事もちゃんとしていると聞きましたわ。それに多少の娯楽用品もあるらしいですわね」

 

「ええ、自主的な勉強を想定した戦術シュミレーターなどもあるそうです」

 

「それは良いことを聞きましたわ。あぁ楽しみ」

 

リーゼロッテは笑みを浮かべて寮の階段を上り、割り当てられた部屋の前に立った。

予め確認しているとはいえ、知り合ったことのない人物と同室になることは多少の気恥ずかしさを覚えるし、緊張だってする。

 

「御嬢様」

 

ビルギットがドアノブに手をかけ、外向きのドアをゆっくりと開いた。

ドアが開くと、部屋の真ん中に据え置かれたテーブルとソファに座っていた少女がこちらを見た。

ダリアという名の、ワルキューレのパイロット志望の平民であった。

 

「あっ」

 

「えっ」

咄嗟に変な声が出たが私は悪くないと思いたい。

 

 

……

 

 

士官学校の食堂は生徒である士官候補生のみならず、教職員は元より外部からの来客にも形式的には解放されている。

出されるメニューは帝国特有のゲルマン風のもの──詳しく説明しようと思ったが殆ど芋とソーセージしかないので諦めた──なのだが、メニューの端にこっそりとある『ゲルマンそば』とか『ゲルマンうどん』とか『ゲルマン天ぷら』とかどう考えてもゲルマン料理で無い気がするのだが、士官学校に入るまで食べたことどころか聞いたことがない。

 

「え、えーと、それって庶民的な料理だから、多分リーゼロッテさん…みたいな貴族の方は知らなくても仕方がないんじゃないかなぁ」

 

食堂の席で向かいの席に座ってフリカッセを行儀よくチマチマと食べながら、ダリアが言葉を発した。

 

「リーゼロッテ『さま』ですわ。平民の分際で相席になること自体がその身に余る名誉であるというのに、馴れ馴れしいとは思いませんの?」

 

「は、はいっ、ご、御免なさい…」

 

ビクビクとしながら身を縮こまらせるダリアに、隣で私の皿から苦手なザウァークラフトを取り除きながら、ビルギットがフォローを入れた。

 

「気に病むことは御座いません。御嬢様はこういうことを仰る割には一旦関わると激甘なので、本心の裏返しとお思い下さい」

 

「激甘とはなんですの激甘とは、今日という今日は許しませんわビルギット…!!」

 

「──ほら、こう仰られて最早十年目ですので」

 

「あ、あはは…」

 

本気で始末してやろうかしら、と内心で苛立ち混じりに思いながらも、取り敢えずは切り分けたソーセージをフォークで口に運んだ。

帝国成立以前の銀河連邦時代より更に前…つまりは地球時代からのデータが載る書籍を漁ってみても、大体の軍組織の糧食関連に良い話は聞かない。

それは味覚よりもカロリーや栄養価などの効率性を優先し、その結果として軍の糧食は総じて不味い…という風評が長々と続いてきたのが理由なのだとか。

実際のところ、帝国軍でも一兵卒や下士官に出される食事は普通に不味いらしいが、高級将校や彼らを輩出する帝国軍士官学校では味の方も重視している。

それは元々、士官学校の生徒が貴族の子弟ばかりであったことを考慮してのことであったが、第二次ティアマト会戦以降に平民出の士官が増えはじめてからは、平民向けのメニューも加えたらしい。

因みに眼前のダリアが食べているフリカッセも、帝国では庶民的な家庭料理だったりする。

閑話休題。

ふと周囲に視線を向ければ、いつの間にか空席が目立ち始めている。

急ぐ必要もないが、だからといって時間を掛けすぎるのも良いものではないので少しばかりテンポを早めて食堂から出ることにした。

 

「と、ところでリーゼロッテさまは、この後どうす…されるんですか?」

 

「本当なら戦術シュミレーターでも使いたかったのですが、入学したばかりですし、控えさせて頂きますわ」

 

「わ、私もパイロットシュミレーターを使いたかったんだけど、でも人がいるんだろうなぁ…」

 

そう話をしながら寮に入ると、案の定シュミレーターの前に人だかりが出来上がっていた。

四階建てになっている寮の一階には娯楽室があり、そこにはダーツやビリヤードに三次元チェスといったものが用意されている。

これは厳格な気風と厳しいカリキュラムによって精神的な疲労やストレスが溜まりやすい士官候補生たちへの息抜きとして、晴眼帝マクシミリアン・ヨーゼフ二世の時代に軍事教練の一環として幾つかの戦略性に富んだテーブルゲームが下賜されたことが始まりだという。

それからというもの、歴代の皇帝即位の度に少しずつ増やしていった結果、備品の更新と廃棄する代わりぐらいの感覚で古くなった戦術シュミレーターなどが置かれるようになっていたという。

古くなった品とはいえ、パイロットシュミレーターも戦術シュミレーターも士官学校の生徒にとっては自主訓練の一環として貴重なものであるが、かといって常に使う人ばかりな訳ではない。

しかし、こういうものは手順を踏んで申請すれば最新のシュミレーターの一つや二つ使わせてくれるものを、そういった手間を嫌う貴族の子弟や一部の跳ねっ返りに、入学したての者が好んで使ったりする。

現に、シュミレーターを囲む人だかりに士官学校の先輩方は居らず、我先にと使いたがる一年生ばかりだった。

 

「アルフレートがまた勝ったぞ!」

 

「やはりへルマン伯爵家の嫡男は違うなぁ」

 

「ふん、貴族である僕が平民に負けるなんて、あり得ないからね」

 

「げぇっ、アルフレート。まさかアレまで入学したんですの…?」

 

シュミレーターから威張るように出てきたの姿を見て、リーゼロッテは顔を歪ませた。

アルフレート・フォン・へルマンは財務尚書のカストロプ公爵に近しいへルマン伯爵家の嫡男で、カストロプ派の中でも数少ない軍門の貴族だ。

性格は高慢で自己中心的な上に視野狭窄の傾向があったが、それでも軍門系貴族家の嫡男としては及第点の才覚があった。

別に、彼とはそこまで近しい仲というわけではない。しかし名門の看板は社交界においてリーゼロッテと数度の関わりを持たせるには十分であり、そして彼女がアルフレートという男を毛嫌いするには十分すぎるほどの回数であった。

 

「そういえばお嬢様はヘルマン伯爵家のご子息をお嫌いでいらっしゃいましたね」

 

「へぇ、そうだったんだ…」

 

「あんなのには近づきたくありませんわ。部屋に戻りましょう」

 

リーゼロッテはそう足早に去ろうとしたが、しかしどうしてアルフレートという男は軍事的才能に優れてはいたが、それよりも相手と因縁を付けたがることに関しては銀河でも随一の才能があったらしい。

 

「おやおや、此処は帝国軍士官学校であって女学校ではなかった筈だけど、何故この場所に居られるのかな、リーゼロッテ・フォン・ブランケンハイム子爵令嬢殿?」

 

「あらご機嫌よう、アルフレート様。また平民を相手に得意気になっておりますの? シュミレーターに触れたこともない平民に勝って、その程度で威張れるのですから楽でいいですわね」

 

「ハハハ、そういう君はお父上の威光と権力がなくとも士官学校に入れたのかな? ブランケンハイム軍務尚書のご令嬢なのだから、席の一つや二つぐらいは用意できたんだろう?」

 

「フフフ、家の格や肩書きで語るのでしたら、カストロプ公の権威と勢力を傘に内外に問わず威張り散らしているような、ヘルマン伯爵家の貴方も例外ではなくて? それなのに何時もの取り巻きが居ないのですから、そう言ったものが士官学校の席を取るのに通じないのは、貴方御自身で証明していますわ」

 

「ハハハハハハハハハハハハハハハ…」

 

「フフフフフフフフフフフフフフフ…」

 

 

「こっ、この人たち怖い……!?」

 

笑みを浮かべて口調も笑ってはいるが、しかし目が全く笑っていないどころか感情すら見えない剣幕の彼らにダリアは身の危険を覚えた。

 

後年、彼女──ダリア・ベルガーが記した回顧録にはこの時のことがこう記述されている。

 

『──あの時、二人の貴族の存在が娯楽室内の空気を凍てつかせ、私を含めた周りの人達は確かに生命の危機を感じ取っていた。

そして、渦中の二人とビルギットを除いた皆が一様に思った言葉は、「誰かコレを止めてくれ」だったに違いなかった。

だからこそ、その場に彼が現れたとき、私の内心は安堵の嘆息ばかりだった』と。

 

 

……

 

 

「──お前たち、一体何をやっている?」

 

その響いた声に、娯楽室にいた全員が視線を向けた。

視線を向けた先に居たのは、士官学校には似合わない程の整った外見の青年だ。

背丈は長身で体格はしっかりとしており、短く黒に近いブラウンの頭髪には乱れがなく、制服を飾る肩章には、士官学校の最上級生であることを示す装飾が施されている。

そして、彼の目は黒と青の二色であった。

いわゆる『金銀妖瞳』と称される虹彩異色症の特徴であるが、この士官学校においてはただ一人を指している。

 

「あ、あの人はまさか『金銀妖瞳』のロイエンタール上級生…」

 

「ロイエンタール男爵家の跡取りで最上級学年首席と聞いたが、あの人がそうか?」

 

娯楽室に立ち入った彼、オスカー・フォン・ロイエンタールは室内を見渡し、険悪な状態のリーゼロッテとアルフレートに声をかけた。

 

「入学早々に喧嘩騒ぎとは、感心しないな。それに此処は娯楽室であって決闘場ではないのだが?」

 

「フン、喧嘩を売り付けてきたのはこのアルフレート・フォン・ヘルマンであって、私はこの『威張り散らし』に迷惑しているだけですのよ?」

 

「ハッ、『お転婆我儘娘』が調子に乗るなと忠告したまでのことだ。それを──」

 

「だから、それを止めろと言っている!」

 

そう言ってロイエンタールはシミュレーターの方を指差した。

 

「張り合うならそれで張り合えばいい。幸いにも此処は士官学校だからな」

 

「おお、それは確かに妙案…このアルフレッド、感嘆の極み!」

 

何か娯楽室に居る一年の中から変な声が聞こえたが、ロイエンタールは無視して二人に促した。

 

「フン、お転婆な箱入り娘に実力の差を見せつける良い機会だ」

 

「フフフ、やっと私の才能を披露する場が来ましたわ」

 

「シミュレーターを放って殴りあわんでくれよ…」

 

シミュレーターを挟んで向き合い、尚も殺気を向けあう二人に、流石のロイエンタールと言えども辟易するしかなかった。

 

 

……

 

 

士官学校に入学して早々に揉め事を起こしたリーゼロッテは、シミュレーターで自らの手腕を発揮する機会を得た。

アルフレート・フォン・ヘルマンの勇猛な攻勢と、オスカー・フォン・ロイエンタールの巧みなる采配を前に、彼女はその才覚を見せつける。

 

銀河の歴史が、また一ページ…。

 




長く更新が滞っておきながら遅々として進まない話。
一応言っておくと、リーゼロッテの実力はラインハルトやヤンを相手にしても少しは耐えるが防戦しかできない程度なので、原作キャラの中ではトゥルナイゼンより少し上という秀才レベル。
家臣であるビルギットはリーゼロッテよりも優秀で、ワーレンやファーレンハイトと同格の才能持ちだが、リーゼロッテの家臣として自重している…筈が素で煽ってるのは気のせいだと思いたい。
ダリアに至ってはワルキューレの適正に全振りしているので論外。

アルフレートはリーゼロッテと同じぐらいと考えてください。

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