銀河英雄伝説異端録 ~白銀の鷲は銀河に羽ばたく~   作:中澤織部

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前回から凄い間が空いたことへの言い訳はありません。
いや超可動ガールとか501見てたとかガルパン劇場版見に行ってたとか、リゼアンてぇてぇとか、そんなことありません。ええ本当に。



第三話 シミュレーター戦

シミュレーター内の仮想空間に、戦いの舞台が構築されていく。

ステージは広く平坦な通常宙域で、近くには恒星や惑星のような戦略的な目的も、暗礁のような戦術的要素も存在しない。

リーゼロッテとアルフレートは互いに向かい合うように艦隊を並べざるを得ず、それぞれ一万五千隻程の艦艇が睨みあう形になった。

こういった形式の戦いというのは、地の利や前提条件が存在しないが為に、率いる人物の才覚や力量がダイレクトに反映されやすいので、士官学校における艦隊司令部志望相手の適性検査などでは重宝されている。

…まあ、世の中の戦争のほぼ全てがフェアな状況下になれない以上、意味のない形式だとリーゼロッテは考えているのだが。

相手のアルフレート・フォン・ヘルマンは余裕綽々といった立ち振舞いで艦隊を操作している。

やや横列に長く縦列に短い陣形は、多少薄くなることを前提にこちらを囲いこむ陣形だ。

 

「同数の兵力で鶴翼型の包囲陣とは、隙も大きいでしょうに」

 

そう溜め息を吐いたリーゼロッテはアルフレートとは真逆に、艦隊を重装甲故に鈍足な重戦艦等を前面に出した半円状の、例えるならば卵を半分に割ったような形の防御陣を敷いた。

初動はアルフレートの先制から始まった。

射程圏内に敵を入れた瞬間から、リーゼロッテ艦隊に向けて前進させる。

速力に自信のある高速戦艦を左右に展開させ、中央には鈍足の大型艦がどっしりと構えている。

勢いと火力に優れた左右の高速艦が逃げ場を無くすように展開し、頑丈で破れにくい中央が確実に包み込む包囲陣の典型戦術のようだ。

 

「ちっ、流石は小賢しいブランケンハイム子爵家だ。艦種ごとに指示を切り替えて防御に専念するとはな」

 

アルフレートが毒づくのも当然、リーゼロッテは前衛の重戦艦群には防御を徹底させて、逆に他の艦艇が隙間から縫うようにシールド分のエネルギーを攻撃に回している。

重戦艦をはじめとする大型艦艇というものは、搭載する動力炉によって艦隊の半数以上を占める平均的な巡航艦や駆逐艦よりも膨大なエネルギーを使用できる。

故に搭載される主砲やシールドは強力で、リーゼロッテはそのエネルギーを防御に割り振らせているのだ。

防御に専念する分、重戦艦群のシールドはアルフレート艦隊の砲撃を防ぎ続けている。

ならばこちらは攻撃に徹すれば……という相手の選択を狭めるのが、重戦艦群の隙間から絶え間なく砲撃を続ける巡航艦である。重戦艦の張るシールドに守られた彼らは、出力を上げたビームを間断なく撃ち続け、少しずつ損害を与えていく。

シミュレーターの中で起きている戦いを眺める生徒たちには、半球状のリーゼロッテ艦隊が不動であると気付いた。

細かい操作を必要とする筈のリーゼロッテは、しかし防御と攻撃への専念しか大雑把に指示しており、艦隊戦に必要な要素である機動力を捨てていたのだ。

 

「ブランケンハイムの奴、あんな動かないんじゃあ的だろ? なんでヘルマンは回り込まないんだ?」

 

「だな、前へも横へも進まないで留まっている。高速艦で回りこんでしまえばオシマイだろ」

 

周りの声を聞きながら、ビルギットは何かに気付いたのか横に立ってオロオロとシミュレーターを見ているダリアに聞こえるぐらいの声量で呟いた。

 

「成る程、ヘルマン伯爵子息は気づいておられるのですか」

 

「き、気付いた? 何を?」

 

「ヘルマン伯爵子息は“回り込めないのです” 恐らくはお嬢様が温存している戦力が気になって戦力を分散させられないのでしょう」

 

そう言って指を指す先、リーゼロッテ艦隊の中央部に隠れる艦群を見て、ダリアもやっと気付いた。

 

「もしかして、あれって高速戦艦と駆逐艦?」

 

「そうです、もし左右の分艦隊を背後に移動させでもしたら、恐らくはあの温存しておいた速力に優れる戦力で中央を撃滅させるおつもりなのでしょう」

 

「へぇ…リーゼロッテ様って頭いいんだなぁ…」

 

「それは勿論、私が幼い頃より似た戦術で何度もお嬢様を虐め──おっと失礼、練習してきたのですから当然ですね」

 

「……ビ、ビルギットさんって、もしかしてリーゼロッテ様のこと、嫌い?」

 

「そんなことありませんよ? さあ、そろそろ動きますね」

 

 

……

 

 

ええい、リーゼロッテの奴め! 嫌らしい手ばかり使いおって!

ヘルマン伯爵家跡取りの僕に、子爵家風情が偉そうに張り合いやがって。

何時もそうだ。何故かこの銀髪紅眼の戦術家気取りの女に対して、甘すぎるのではないか。

開闢以来の名門とはいえ、ブランケンハイム子爵家はオーディンからも遠い上に辺境でもないような片田舎の地方領主に過ぎない筈だ。

これといって特徴の薄い門閥貴族の癖に、何故か父上やカストロプ公爵、更にはブラウンシュヴァイク公爵も何処かブランケンハイム子爵家に対して余所余所しい印象がある。

それにあの白金のように色素の薄い銀の髪に血のような紅い眼……あのブランケンハイム子爵の娘にしては美人に過ぎるし、その容姿は劣悪遺伝子排除法に抵触して然るべき筈なのだ。

しかしまあ、そんなこと考えたところで仕方あるまい。

今は目の前の生意気な女を負かせてしまえばいいだけの話だ。

 

「ふん、僕がそんな小細工で負けると思ったか? 速力で勝てば問題ないだけだろうが!」

 

 

……

 

 

この時、アルフレートが感じていたブランケンハイム子爵家……というよりリーゼロッテに抱いた違和感の答えを、彼は後々に知ることになるが、しかし、それを語るのはまた暫く後のことになる。

 

 

……

 

 

眼前のアルフレート艦隊が艦隊を三つに分けた瞬間、満を持してリーゼロッテは攻勢に転じた。

 

「今ですわ!」

 

三つに艦隊を割き、包囲しようとしたアルフレートの動きよりも早く、リーゼロッテは半球状に構えていた“全艦隊”に突撃を命じた。

防御に専念させていた半球型の陣形をそのまま前に押し出すようにした動きは、シミュレーターの戦場を俯瞰して見ているギャラリーを驚愕させた。

そもそも、一艦隊が出せる速度というものには限度が存在している。

艦種によって出せる速度にも違いがあるのだから、普通は速度の遅い装甲重視の戦艦や工作艦と言った鈍足な艦艇に合わせた適度な運用が求められる。

……まあ、足の速い駆逐艦や高速戦艦のみで運用するのならば話は別だが、基本中の基本として一つの群集団である一個艦隊が出せる最高速度は、例え回廊を挟んだ先の反乱軍であったとしても、鈍足な重装甲艦艇の出せる最高速度と相場は決まっているのだ。

──しかし、だからこそリーゼロッテのその指揮は型破りと言って然るべき暴挙であった。

最前衛で防御と攻撃にそれぞれ専念させていた重装甲艦艇と、温存させていた高速型艦艇の全てに、突撃を指示したのであるから、端から見れば無謀を通り越した蛮行である。

現に、エネルギーを温存していた駆逐艦や高速戦艦が我先にと猪突していくのを、鈍足の重装甲艦や大型の巡航艦は次々と追い抜かされ、取り残されるように遅れている。

 

「ハッ、ただ突っ込んでくるとはやはり馬鹿だったな。分散した艦隊を戻せば、突出した高速艦なんて簡単に包囲殲滅できるんだよ!」

 

アルフレートの言うとおり、割いたばかりの艦列は力量や練度の差はあれ、直ぐに戻すことは容易であり、リーゼロッテのそれは勝ちに逸った軽率な判断に見えた。

 

「あわわ…り、リーゼロッテ様が負けちゃう…」

 

ダリアを含めたギャラリーの皆が!がリーゼロッテが敗けたと考える中、しかし、シミュレーターの中で起きているソレに気付いた者が二人いた。

ビルギットとロイエンタールである。

 

「……お嬢様、もしや」

 

「これはまさか……、なるほど考えたな」

 

二人の見る先、シミュレーター内で行われている戦いに、一つの動きが生まれようとしていた。

 

 

……

 

 

アルフレートが中央の直掩艦隊を平たいU字型に構えさせたのを、リーゼロッテは見逃さなかった。

U字状に陣を敷くというのは、つまり定石で言えば守りに入ったということである。

受け身になりやすく、同時に包み込んで勢いを殺せる陣形は、八千隻程の高速型分艦隊に比べて三つに分けた影響で五千隻に及ばないアルフレートの直掩艦隊が、数的劣性を補うには理想的と言えるし、オーソドックスで堅実な戦法を好むアルフレートらしい発想と言えた。

恐らくは割いた分艦隊を後背に回り込ませ、旗艦を含めた突撃中の高速艦艇部隊を挟撃しようとしているのだろうが、此方にばかり気をとられているのは甘すぎる。

 

「私の勝ちですわ、お馬鹿さん」

 

リーゼロッテがそう告げた途端、二つの分艦隊から爆発が生じた。

背後に回り込もうと回頭していた分艦隊が、突如として撃ち抜かれたのである。

 

 

……

 

 

「くそ、何だ、何なんだこれは! 一体何が!?」

 

アルフレートが取り乱すのを眺め、リーゼロッテはほくそ笑んだ。

包囲撃滅を狙っていた左右のアルフレートの分艦隊は、現在、横合いから殴り付けるように食い込んだ重装甲艦と大型巡航艦の群れとの無秩序化した乱戦状態に陥っていた。

巡航艦が高速戦艦を横合いから撃ち抜き、しかし別の駆逐艦から放たれたビームに引き裂かれ、更にはその駆逐艦も重装甲艦に衝突して潰れ、他の駆逐艦を巻き込んで爆散する。

最早それは組織だった交戦でなく、敵味方を問わずに辺り構わず撃ち続ける混乱だった。

 

「取り残された鈍足な艦が、何処に居るのかぐらいは把握しておくべきでしたわね」

 

そう、リーゼロッテはただ全艦を闇雲に突撃させたのではない。

必然的に目立つであろう温存していた高速艦艇によって置いてけぼりにされたような鈍足な重戦艦群を、丁度アルフレートの分艦隊が脇腹を見せるタイミングと位置に向かわせていたのである。

結果、大型艦を迎撃できる主砲のない、被弾面積が大きい横腹を抉るように突入した艦艇群により、分艦隊は指揮系統の回復もままならない状態に陥ってしまったのである。

 

「さあ、あとは数の少ない直掩艦隊のみですわ」

 

リーゼロッテは旗艦とともにアルフレート艦隊の、残された本隊に向かって一気呵成に攻め寄せた。

高速艦を中心に速度を重視していたリーゼロッテの本隊は、出鱈目に主砲の中性子ビームや大量のレーザー水爆ミサイルを撒き散らし、アルフレートの直掩艦艇に肉薄すると、そのまま真正面から的を貫通した火薬式小銃の弾丸のように先端を潰しながら、此処ですら乱戦状態に持ち込んだ。

 

「今ですわ、宇宙母艦は各自戦闘挺を!」

 

リーゼロッテの出した合図に、幾つかの高速戦艦が速度を落としながら、艦体後部に取り付けられたワイヤーを外した。

外れたワイヤーの先、高速戦艦三隻で一隻ずつ曳航させていた巨大な艦影に、周りの見物者らはどよめいた。

 

「何だあれ、ヴィルヘルミナ級じゃないのか!?」

 

「おいおい、ありゃあ宇宙母艦じゃないか、鈍足な艦のくせに、高速戦艦に牽引されてたってのか!」

 

高速艦艇群から取り残される形で切り離された宇宙母艦は、帝国軍の単座式戦闘挺ワルキューレを次々と発艦させ、乱戦状態の中を縦横無尽に暴れまわった。

ワルキューレを発艦させた宇宙母艦は駆逐艦の攻撃を食らい爆散し、仕返しとばかりにワルキューレが辺りの敵を無差別に食い破る。

しかし、そのワルキューレたちも対空放火に晒され、墜とされていく。

やがて、多数の敵艦を道連れにリーゼロッテ艦隊の宇宙母艦は悉くが藻屑と消え、しかしその惨状をさも当然のように、リーゼロッテ・フォン・ブランケンハイムは高速戦艦群を再び混乱から立ち直りつつあったヘルマンの直掩艦隊に文字通り叩きつける。

 

「これが、これが艦隊戦か、これが一万隻の組織戦闘だと!? 何を考えてるんだブランケンハイム!」

 

アルフレートの叫びも空しく、彼の艦隊は四分五裂の有り様になっていく。が、それはリーゼロッテの艦隊も同じだった。

元から鈍足な装甲艦を態々分艦隊の足止めにぶつけたために、装甲の薄い高速艦艇のみで編成したリーゼロッテの本隊も、乱戦になれば得意の速度を活かしきることは出来ない。

敵味方を構わず、両者はひたすらに攻撃を続ける。

泥沼のような戦況に陥った有り様に、ギャラリーが青ざめながら困惑している中、突然に新しい声が響いた。

 

「何をやっている貴様ら! 対戦を中止させろロイエンタール候補生!」

 

割って入ってきたのは、神経質そうな細身で軍服姿の中年男性。

シュターデン教官であった。

 

 

……

 

 

「両者、戦闘やめ」

 

ロイエンタールの一声により、仮想空間内の動きが止まった。

リーゼロッテはロイエンタールとシュターデンの双方を睨み付け、アルフレートはへなへなと力なく腰を床に落とし、安堵の溜め息を吐いた。

 

「……何故、何故止めるんですの? ロイエンタール先輩、シュターデン教官」

 

リーゼロッテの視線に、先ずロイエンタールが答えた。

彼は左右で色の異なる精悍な瞳で自分よりも遥かに小柄なリーゼロッテを見据える。

名門貴族の令嬢らしく、美しい容姿と気位の高い性格から先程の惨状が繰り出されたとは到底思えない。

 

「どうして止めたのか、か。理由は簡単だブランケンハイム候補生。それは──」

 

「待てロイエンタール候補生。そこからは教官である私の仕事だ」

 

ロイエンタールの言葉を遮り、シュターデン教官がリーゼロッテの前に出る。

彼はコホン、と咳払いをして、名門貴族の令嬢を、下級貴族出身のシュターデンではなく、歴戦の士官であるシュターデンとしての立場で睨み付けて問うた。

 

「ブランケンハイム候補生、先のシミュレーターにおいて、自分が一体何をしたか言ってみたまえ」

 

「分艦隊を足止めしながら、機動力に優れた艦で敵本隊を強襲いたしましたが、何処か問題でもありましたのかしら?」

 

平然と答えるリーゼロッテに、元から器の小さいシュターデンではあったが、流石に怒鳴るしかなかった。

 

「何が、だと!? 後半の全てだ馬鹿者が!! 何故態々特攻みたく無謀に突撃させる!? どんな考えをしたら宇宙母艦を敵中に放り込んでワルキューレ共々無駄死にさせる!? おまけに最後のアレはなんだ!? 貴様は貴重な将兵の命を何だと思っているんだ!!」

「将兵の命、ですの? まさか、シュターデン教官は貴族である私と平民の命を同列に考えてますの?」

 

まあ、と口に手を当てて態とらしく驚く素振りをするリーゼロッテ。

 

「馬鹿者が、各艦の艦長や分艦隊司令には貴族もおるのだぞ! 只でさえティアマト以降の損失から完全に立ち直れておらんというに…」

 

まあいい、とシュターデンは胃でも痛いのか、腹に手を当てて顔を歪ませ、言う。

 

「──リーゼロッテ候補生、貴様には反省文と最新の艦隊運用教本一冊分のレポートの提出を命令する!

それとロイエンタール候補生、上級生の中から相応しい人物を見繕ってこの馬鹿を見張らせろ…。このまま士官になられてしまっては、帝国軍は崩壊するぞ…」

 

 

……

 

結局、リーゼロッテ・フォン・ブランケンハイムは入学早々に反省文提出という罰則を食らうという、士官学校始まって以来の問題を起こし、一躍有名人になったのであった。

 

「加えてヘルマン候補生。貴様も将来の戦友相手に無闇に挑発するんじゃない! 貴様も反省文の提出だ!」

 

 

……

 

 

士官学校に入学して早々、シュターデンの怒りに触れる常識外れの戦いを行ったリーゼロッテは、罰則を受けて監督役の上級生から指導を受けることになる。

ロイエンタールが選んだその指導役とは…。

 

銀河の歴史が、また一ページ…。

 




いぬいどんどんすきになる。




追記:リーゼロッテ艦隊一万五千隻とアルフレート一万五千隻の最終残存数。


リーゼロッテ・フォン・ブランケンハイム艦隊

喪失艦(撃沈また航行不能)五一五四隻
損傷艦(大破及び中破) 八〇七二隻
残存艦(無傷または小破) 一七七四隻


アルフレート・フォン・ヘルマン艦隊

喪失艦(撃沈また航行不能)六〇八一隻
損傷艦(大破及び中破) 七八二五隻
残存艦(無傷または小破) 一〇九四隻
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