ワールドトリガー ~ I will fight for you ~   作:ルーチェ

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9話

遊真と千佳は周囲の注目と期待を一身に背負い、その存在感を増していった。

遊真の「対近界民(ネイバー)戦闘訓練0.4秒」と千佳の「外壁破壊事件」によって彼らの名は本部のすみずみまで知れ渡り、今期入隊の注目株となっている。

 

遊真は週2回行われる本部での合同訓練で満点を繰り出し、さらに個人(ソロ)ランク戦に参加して楽々とポイントを稼いでいく。

1000点から始まり、現在は1508点まで増えていた。

4000点でB級昇格になるから彼も力を入れているのだ。

 

千佳も狙撃手(スナイパー)の合同訓練に参加し、128人中41位という結果を出した。

A級からC級まですべての狙撃手(スナイパー)が対象だから、彼女の成績は十分に立派なものである。

 

一方、修は先の風間との模擬戦において25戦0勝24敗1分けという結果の「1分け」だけが一人歩きし、「A級3位の風間隊長と引き分けた男」というウワサが広まっていた。

本部のラウンジで休憩していても他の隊員の目を意識してしまい、本人は居心地悪そうな様子でいる。

そこに狙撃手(スナイパー)の合同訓練から抜け出してきたツグミがやって来た。

 

「オサムくん、冴えない顔してどうしたの?」

 

「あ、霧科先輩。なんだか周りの目が気になって…」

 

ツグミが周囲を見渡すと、訓練生たちが修をチラ見しながら「あれがA級の風間隊長と引き分けたB級だぜ」と言っている姿を見つけた。

 

「なるほど。あの話が広まっているのね」

 

「でも、引き分けたといっても最後の一試合だけで、24戦目までは全敗なんですよ。それなのに実力以上の評判が立っていることが心苦しいというか…。だからといって大声で説明するのもおかしいし。どうしたらいいんでしょうか?」

 

そんなものは放っておけばいいのだが、真面目な修は真剣に悩むのだ。

それが可愛いと思い、ツグミはつい微笑んでしまう。

 

「放っておけばいいわ。それにあなたが注目の的になっているのは風間さんとの件だけじゃないのよ」

 

「え?」

 

「あなたは()()迅悠一にスカウトされて玉狛に転属したってことになってるの」

 

「スカウト!? 何でそんなことに…?」

 

「あなたの隠れた才能に目をつけた元S級のジンさんが引き抜いたのだと周りの人間は勝手に思っているけど、そう思いたい人にはそう思わせておけばいい。A級になる覚悟でいるんでしょ? いずれ実力と評判はイコールになるんだからそれでいいじゃない」

 

「でも…」

 

「大丈夫、大丈夫、ウワサなんてものはすぐに消えるし、勘違いしているのはほとんどが訓練生。正隊員だってあなたを見る目は変わったけど、そんなには強くないってみんなわかってるから」

 

「はあ…。あ、それはそうと千佳の様子はどうですか? 一緒に訓練していたんですよね?」

 

「うん、すごく頑張ってるよ。レイジさんの指導とチカちゃん自身の性格と素質が相まっていい結果が出てる。夏目出穂(なつめいずほ)ちゃんっていう同級生の友達もできたみたいだから、今のところ何も心配いらないわね」

 

「よかった…。ぼくが千佳をボーダーに引っ張り込んだようなものですから」

 

「あら、それを言うならわたしにも責任があるわ。彼女を焚きつけたのはわたしだもの。先輩ヅラして自分のことをペラペラ話しちゃったものだから、彼女は近界(ネイバーフッド)遠征なんていう大きな目標を掲げて入隊してしまった。話をしたことは後悔していないけど、彼女を巻き込んだ以上は最後まで見守ってあげなきゃって思ってる。もちろんオサムくんとユーマくんのことも。だから何でも困ったことがあったら相談してね。できるかぎりのことはするわよ」

 

「先輩…」

 

勇気が出てくる応援の言葉をかけられて、嬉しそうな顔でツグミを見る修。

そんなふたりの会話に割って入る人物がいた。緑川である。

 

「ツグミ先輩、本部(こっち)に来ていたんですね?」

 

「シュンくん、久しぶり。わたしは狙撃手(スナイパー)の合同訓練よ。今はちょっと休憩中」

 

「先輩は個人(ソロ)ランク戦に復帰しないんですか? またオレと戦ってくださいよー」

 

「ごめんね、それはちょっと無理。それに玉狛支部には新人が3人も入ってきたものだからいろいろと忙しいの。あ、ウワサは聞いているかもしれないけど…彼は三雲修くん。玉狛期待の新人(ルーキー)よ。で、こっちはA級4位草壁隊の緑川駿くん」

 

ツグミがふたりの紹介をする。

 

「三雲修です。よろしくお願いします」

 

「…よろしく」

 

修は緑川がA級の隊員だと知り丁寧に挨拶するが、緑川は格下の修に対しそっけない態度だ。

いや、そっけないというより、どちらかというと敵意を抱いているかのように見える。

ツグミにはこの態度に心当たりがあり、つい思い出し笑いしてしまう。

 

「時間があるなら今からオレと個人(ソロ)のランク戦しようよ」

 

緑川が修に個人(ソロ)ランク戦の申し込みをした。

B級下位の修と知りながらの申し込みだが、これには理由がある。

薄々事情を察しているツグミは修に言った。

 

「オサムくん、断っていいのよ。これは正式なランク戦じゃないんだから」

 

「えー、ツグミ先輩は()ってくれたじゃないですか」

 

緑川があからさまに不満顔をする。

 

「あの時は勝負を受けないと収まりがつかない状況だったじゃないの。()らないと本部から出さないって言って、ずっと後を追いかけて来たでしょ。このままじゃ埒が明かないからってジンさんが言ったから仕方なく受けたのよ。あれはわたしの意思じゃないわ」

 

修はツグミと緑川のやり取りを見ながらどうしようか考えていた。

 

(風間先輩の時は負けたけど戦って得るものは多かった。だからもっといろんな人と戦ってみたい。でも霧科先輩の様子では緑川とは個人(ソロ)ランク戦はしない方がいいって言っているように感じるけど…)

 

そして修は答えを出した。

 

「…わかった。やろう」

 

修が決めたことにツグミは口出ししない。

レプリカの口癖ではないが「決めるのは修自身」であるからだ。

しかし緑川の魂胆がわかっている彼女は心配になる。

 

「わたしも一緒に行くわ」

 

 

 

 

個人(ソロ)ランク戦はC級のブースを使って行われ、その様子は公開されて誰でも観戦できるようになっている。

ラウンジでの会話だったから大勢の人間が話を聞いていて、「入隊指導(オリエンテーション)の対近界民(ネイバー)戦闘訓練4秒のA級」VS「風間蒼也(№2アタッカー)と引き分けたB級」となればギャラリーが増えるのも無理ない。

そして修は緑川の攻撃になすすべもなく袋叩きの状態で、手も足も出せないままに十本勝負は修の全敗で終わってしまった。

それはツグミの予想通りであった。

 

 

「オサム、誰にやられたんだ?」

 

ツグミの背後には遊真と米屋がいた。

 

「あ、ユーマくんに陽介さん…。相手はシュンくんですよ」

 

ツグミと米屋が会話している間に、ランク戦のブースから修が出てきた。

 

「すいません。最後まで動きが全然読めませんでした」

 

修はツグミに申し訳なさそうに言う。

それから遊真がいるのに気付いた。

 

「空閑もいたのか…」

 

自分の情けない姿を見られたことが恥ずかしいのか、修はますますしょんぼりしてしまう。

そんな彼に緑川が声をかけてきた。

 

「おつかれ、メガネくん。実力は大体わかったから、もういいや。帰っていいよ」

 

いくらA級とはいえ、年齢は修の方が上なのだから緑川の態度は失礼なものである。

 

さらにギャラリーの中からも

「なんか全然だったな、あのメガネ。動けなさすぎでしょ」

「期待はずれ」

「年下の緑川に完全に舐められてる」

「風間さんと引き分けたってのもガセだな」

といった声が上がっている。

その雰囲気から遊真は何かを感じ取ったようで、緑川に呼びかけた。

 

「なあ、この見物人集めたのはおまえか?」

 

「違うよ。風間さんと引き分けたっていうウワサに寄って来たんだろ。オレは何もしていないよ」

 

そう答えた緑川に遊真が言う。

 

「おまえ、つまんないウソ、つくね」

 

「…!?」

 

図星を突かれて顔色を変える緑川。

遊真に嘘は通用しないのだ。

 

「おれとも勝負しようぜ、ミドリカワ。もしおまえが勝てたら…おれの点…1508点を全部やる」

 

「1500って…C級じゃん。訓練用トリガーでオレと戦うつもり?」

 

「うん。おまえ相手なら十分だろ」

 

遊真の言葉にカチンときた緑川は彼の挑戦を受けた。

 

「いいよ、やろうよ。そっちが勝ったら何がほしいの? 3000点? 5000点?」

 

「点はいらない。そのかわりおれが勝ったら『先輩』と呼べ」

 

「…OK。万が一オレが負けたら、いくらでもあんたを『先輩』って呼んであげるよ」

 

「いや、おれじゃない。ウチの隊長を『先輩』と呼んでもらう」

 

静かに怒っている遊真。

一方、修は緑川の魂胆に気付いていないから、遊真がなぜこんな条件を出したのか全く理解できないでいる。

 

「じゃあ、オレが勝ったら1508点もらうよ。メガネくんから」

 

「いいよ」

 

双方が相手の条件を承諾したことで、ランク外対戦が始まった。

勝負方法は修の時と同じ十本勝負だ。

C級が訓練用トリガーでA級に挑戦するというのだから、観客はさらに増えていった。

 

1本目の勝負が始まると、緑川は素早く遊真の背後に回ってスコーピオンで突き刺した。

さらに2本目は遊真の胴体を真っ二つに斬り裂く。

観客からは遊真の無謀な挑戦を嘲る声が上がるが、ツグミと米屋は楽しそうに見物していた。

 

「あー、けっこう経験の差があんなー」

 

米屋がそう言うと、ツグミも同意する。

 

「そうですね。負けすぎてやさぐれなきゃいいんですけど」

 

周囲の人間はふたりが「緑川が優勢で、新人の遊真は勝てない」と思っているのだと勘違いしていた。

しかしこの感想を口にしたのは実際に遊真と戦ったことがある米屋であり、遊真のことを良く知っているツグミである。

この勝負、遊真が圧倒的実力差を見せつけて勝つだろう、とふたりは確信していた。

 

3本目から状況が変わった。

これまではやられる一方だった遊真が実力を発揮したのだ。

それもただ相手の緑川を倒すというのではなく、プライドを踏みにじる、もしくは徹底的に叩きのめすという感じである。

 

「緑川は才能あるし実際つぇーけど、まだボーダーに入って1年かそこら。覚えた芸を見せたくてしかたねー犬っころの動きだ。けど白チビは…あいつの動きはもっとずっと静かで淡々としてる。()()()()()()()()()()()()の動きだ」

 

米屋の言葉にツグミが頷く。

 

「ええ。わたしはユーマくんと初めて会った時、彼の目を見てぞっとしました。ボーダー隊員(わたしたち)には想像もつかないような修羅場を彼はいくつもくぐってきたんだって一瞬でわかりましたよ。見た目は幼いから余計に恐ろしいというか、得体の知れない不気味さを感じました」

 

ツグミと米屋の会話をそばで聞いていた修は遊真が近界(ネイバーフッド)で数多くの戦場を渡り歩いてきたことを思い出した。

その実戦の積み重ねが現在の遊真を形作っている。

人間同士が生身で命の奪い合いをする近界民(ネイバー)の戦いの中にいた遊真に対し、トリオン体(死なない身体)怪物(モンスター)と戦うボーダー隊員では戦いの重みが違うのだ。

 

「初めの2本はシュンくんを油断させ、さらに調子づかせるためのもの。シュンくんは自分がC級に負けるなんてこれっぽっちも思っていないから、ユーマくんの変貌ぶりに慌てふためいている。そして焦って負けを取り返そうとするから本来の力が出せない、ってとこですね」

 

「だろな。…それにしてもあいつはなぜメガネボーイの評判を落とそうとしたんだろうな? ツグミ、わかるか?」

 

米屋がツグミに訊く。

 

「たぶんオサムくんが玉狛に入ってジンさんに可愛がられているからですよ。彼がA級になって間もない頃、わたしに食ってかかってきた時と同じです」

 

「ああ、なるほど。あの時のおまえも緑川に容赦なかったなー」

 

「圧倒的な力の差を見せつけられたら誰だって降参するしかないでしょ? まあ、あの後ずいぶんと懐かれてしまって困りました。ただあの時のことを忘れてはいないと思うんですけど、また性懲りもなくやるとはね…」

 

 

半年ほど前、ツグミと迅が一緒に本部へとやって来た時のことだ。

ふたりが親しくしていたのを見た緑川がツグミに個人(ソロ)ランク戦を申し込んできた。

緑川は入隊して半年だったから、ツグミが隊務規定違反の処分でB級降格したことと、彼女の実力がA級レベルだということを知らずにいたので、無所属(フリー)の彼女を「誰にも相手にされていない無力なB級」と侮っていたのだ。

そんな彼女を迅の見ている前でボコボコにして辱めようという企みであったが、返り討ちにあったという出来事があった。

その時も十回戦であったが、ツグミは緑川を徹底的に叩き潰し10-0と圧勝した。

今回と同様に大勢の観客がいたが、米屋もそのひとりであったから良く覚えていた。

緑川がツグミに戦いを挑んだ理由は、大好きな迅と仲が良い彼女に嫉妬したという他愛のないもの。

その後、迅はツグミといじけている緑川を食堂へ連れて行って昼食をご馳走した。

緑川はツグミの強さに敬服し、以後何かというとツグミにまとわりつくようになったのだった。

 

 

「まあ、今回も雨降って地固まる的なことになるでしょうね。ふたりとも実力や戦いのセンスはいいもの持ってるから、良きライバル同士になるんじゃないかしら。…それからオサムくん悩みも無事に解決するわよ」

 

「どういうことですか霧科先輩?」

 

突然自分の名を出されて面食らう修。

 

「わたしの未来視(サイドエフェクト)がそう言ってるわ」

 

ツグミは迅のマネをする。

 

「は?」

 

「…って言うのは冗談だけど、少なくとも悪い方向に進むことはない。それより…面白い方に転がっていくかも、フフッ」

 

ツグミの言う「面白い」がどういう意味のものなのかわからず、修はますます困惑するだけだった。

 

 

 

 

同時刻、ボーダー上層部とA級上位部隊(チーム)の隊長たちが集まって会議が行われていた。

議題は近く起きると予測される近界民(ネイバー)の大規模侵攻についてである。

迅のサイドエフェクトによりいくつかの可能性が示され、それぞれについての対抗策を練っていた。

その最中、遊真と緑川のランク外対戦の情報が入り、城戸たちはその戦いの様子にしばし注目し、遊真の実力を思い知らされた。

 

 

 

 

遊真と緑川の戦いは8-2で遊真の圧勝となった。

楽勝楽勝といった顔でブースから出て来る遊真をツグミたちが出迎えた。

 

「お疲れー、ユーマくん。しっかりと見てたよ」

 

「どもども」

 

「よーし、白チビ。今度こそオレと対戦 ──」

 

米屋が遊真に声をかけたその時、別の声がそれを遮った。

 

「遊真、メガネくん」

 

名前を呼ばれて、修と遊真は声のした方を向く。

 

「迅さん…!?」 「おー、迅さん」

 

声の主は迅である。

 

「ちょっと来てくれ。城戸さんたちが呼んでる」

 

「城戸司令がぼくたちを…!?」

 

修は怖気づき不安そうな顔になった。

彼はこれまでにも城戸に呼び出されたことがある。

C級の彼が訓練以外でトリガーを使用したという隊務規定違反を犯した時だ。

その時は迅の助言で助けられたが、上層部の人間たちに悪い印象を持たれている。

さらに遊真が(ブラック)トリガーを強奪しようとした三輪隊と戦った後、迅と一緒に本部に出頭している。

そこで彼は遊真(ネイバー)の存在を隠していたことで上層部に叱責された。

だから「自分が呼ばれる=叱られる」というイメージがあるのだ。

一方、遊真は「キドさんって誰?」状態である。

迅の登場でその場にいた隊員たちがどよめきが起きた。

なにしろS級で大活躍していた彼である。

訓練生ですらその存在を知っていて大人気なのだから。

そこに緑川が駆け寄って来た。

 

「迅さん!! S級やめたんだって? じゃあ対戦しよう! 対戦!」

 

「おぅ、駿。相変わらず元気だな」

 

「対戦してオレが勝ったら玉狛に入れてよ」

 

「おいおい、草壁隊はどうすんだよ?」

 

「兼業するから大丈夫!」

 

無茶苦茶なことを言いながら迅の周りを駆け回る様子はまるで子犬だ。

それを修はぽかーんと見ている。

 

「これは一体…?」

 

遊真の疑問に米屋が答えた。

 

「緑川は熱烈な迅さんファンなんだよ。近界民(ネイバー)に食われそうなとこを迅さんに助けられてボーダーに入ったらしいからな」

 

「なるほど、だから玉狛に入ったオサムに嫉妬したのか」

 

なぜ緑川が修の評判を落としたいのかわからなかった遊真もこれで合点がいった。

そのうちに緑川が修の前にやって来てぺこりと頭を下げる。

 

「三雲先輩、すみませんでした」

 

急に謝るものだから、修はびっくりする。

 

「えっ!? 何!? なんで!?」

 

「先輩を大勢の前でボコボコにしてしまいました」

 

「うん。だってそりゃランク戦だし…」

 

「ちがうんです。三雲先輩に恥かかそうと思って、わざと観客(ギャラリー)を集めたんです」

 

「あ、そうなの」

 

(他人に対しては面倒見が良くていろいろと気にかけているオサムくんだけど、自分のことになると鈍いから。やっぱりあのセコイ手じゃ気付かなかったのね…)

 

ツグミはそういう修のことが嫌いではない。

むしろ好きと言ってもいいから、修のことは放っておけなくなってしまうのだ。

 

「でもまあそれはそれでよかったよ。なんだか実力以上の評判が立ってたから。…実際、風間先輩とは2()4()()1引き分けだったからな!」

 

自慢できることではないが、言える機会がほしかったものだから堂々と、そしてドヤ顔で叫んでしまう修。

大勢の観客の中で言ったことで、ウワサは訂正されることだろう。

これで彼の憂いはなくなったわけだ。

 

 

「なかなか素直でよろしい」

 

遊真が緑川に声をかける。

 

「そういう約束だったからな、白チビ先輩」

 

「空閑遊真、遊真でいいよ。大勢の前でボコボコにしてわるかったな」

 

「いいよ、別に。自分で集めた観客(ギャラリー)だし。次はボコボコにし返すから」

 

「ほう、お待ちしています」

 

和解した遊真と緑川の様子を見ながら迅は言う。

 

「うんうん、ライバルっていいね。…さて、ほんじゃ行こうか遊真、メガネくん」

 

「すまんね、よーすけ先輩。勝負はまた今度な」

 

遊真はそう言い残して行ってしまった。

残念がる米屋にツグミが訊く。

 

「ユーマくんと勝負することになってたんですか?」

 

「ああ、そうなんだよ。…そうだ、暇だったらオレと()ろうぜ、ツグミ」

 

「残念ですがわたしも暇じゃないんです。そろそろ狙撃手(スナイパー)の合同訓練に戻らなきゃいけないので」

 

「ちぇー」

 

不満げな米屋を残し、ツグミは訓練場へと戻る。

その途中、修の評価が少しだけ変わったことに気付いた。

「あの白いやつって戦闘訓練で0.4秒出したやつじゃないか? 緑川の記録を抜いたっていう…」

「メガネの方は白チビに『隊長』って呼ばれてたぞ」

「いや、でもメガネは弱かったじゃん」

「けど城戸司令から呼び出されてるし、元S級とも知り合いっぽいし…謎だな、あのメガネ」

などという会話が耳に飛び込んでくる。

 

(オサムくん、風間さんとの模擬戦のことは訂正されたようだけど、別のことで評判が高まってしまったわね。謎の人物扱いされてるって知ったらどんな顔するかしら? ふふん、わたしの未来視(サイドエフェクト)もまんざらじゃないわね。フフフ…)

 


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