ワールドトリガー ~ I will fight for you ~   作:ルーチェ

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81話

 

 

林藤が戻って来たのはB級ランク戦Round5・夜の部開始の直後だった。

 

「お帰りなさい、支部長(ボス)。オサムくんたちの試合、もう始まってますよ」

 

ミーティングルームのドアを開けた林藤にツグミが呼びかけた。

 

「お、予定どおり開始か…。ってことは本部の方もカタが付いたってことだな」

 

林藤はそう言ってツグミの向かい側のソファに腰を下ろすと、それと入れ違いのようにツグミが立ち上がった。

 

支部長(ボス)はコーヒーでいいですよね?」

 

「淹れてくれるのか? 悪ぃな」

 

「お仕事を済ませて帰って来たみんなに温かいもので慰労するのがわたしの役目ですから」

 

ツグミは部屋の片隅にあるテーブルの上に置いておいたコーヒーメーカーにコーヒー粉をセットし、給水タンクに水を入れてスイッチをオンする。

そしてすぐに戻って来た。

ランク戦の状況が気になるのだ。

 

「玉狛第2の相手は香取隊と柿崎隊。柿崎隊の選んだマップは『工業地区』です。全部隊が合流を目指すと思ったんですけど、ヨーコちゃんが開始早々にユーマくんを見付けたものだから、ひとりで突撃していきなりエース対決ですよ」

 

ツグミがこれまでの流れを説明する。

 

「当然、香取隊のオペは他の隊員にヨーコちゃんとの合流を指示しています。柿崎隊の文香ちゃんがユーマくんたちを奇襲できる位置にいるんですけど、柿崎さんは合流を優先して3人一緒に攻撃するみたいですね。ユーマくんとヨーコちゃんがお互いを削り合って疲弊したところを狙うんでしょう。チカちゃんは高台の狙撃に良い位置をキープしました。…というところです」

 

「なるほど…」

 

テレビ画面に映るマップに各隊員の現在位置が表示される。

それによると、遊真が戦いながら葉子を修のいる場所へ誘導しているように見える。

 

「オサムくんの特訓の成果が見られればいいんですけどね。…あ、オサムくんの射程に入った!」

 

修は葉子に向けて通常弾(アステロイド)を撃つが、シールドで防がれる。

 

「いい感じにイライラさせられる弾ですね。たぶんああやってヨーコちゃんをスパイダーの(トラップ)におびき寄せるんでしょう。彼女は短気で、格下だと思っているオサムくんから中途半端な攻撃を受けてユーマくんとの戦いに専念できません。先に弱い方から叩こうとするに決まってます」

 

 

ツグミの想像どおりであった。

三浦雄太(みうらゆうた)と若村麓郎(わかむらろくろう)が別方向からカメレオンを起動して近付き、葉子は修めがけて突撃する。

しかし修が事前に張っておいたワイヤーに葉子が引っ掛かりバランスを崩した。

そこを千佳がライトニングで狙撃。

それもタダのライトニングではなく、鉛弾(レッドバレット)を付加したものだ。

人を撃てないという千佳の弱点を克服する一歩として、弾を鉛弾(レッドバレット)にするというアイデアをユズルから教えてもらっていた。

弾速が落ちるデメリットを彼女のトリオン能力とライトニングの弾速重視の狙撃手(スナイパー)用トリガーで補うことでできた「雨取千佳にしかできない技」である。

黒い弾が葉子に当たると思われたが、フォローに駆け付けた三浦がシールドで防御しようとして失敗。

自らの左腕に重石が付けられてしまった。

香取隊の3人はそこで初めて鉛弾(レッドバレット)であったことを知った。

さらに修が通常弾(アステロイド)で葉子と三浦に対して攻撃をするものだから、若村が修に気を取られて反撃しようとする。

だが()()()狙いは完全にフリーになった遊真が修の張ったワイヤーを使ってトリッキーな攻撃をするためのものであったのだ。

若村がダメージを受け、三浦も左腕を失ったことで、ワイヤー地帯の中では不利と判断した香取隊は一時撤退した。

 

「3人とも前回の敗戦を乗り越えて、いいカンジで成長してますね。はい、どうぞ」

 

ツグミはそう言って淹れたてのコーヒーを林藤に手渡す。

 

「特にオサムくんとチカちゃんは各人の長所を伸ばし、短所を補う戦術を先輩たちから教わったことで()()がなくなった感もあります。これまで自分が得点できないということで悩んでいたオサムくんも『自分が点を取るよりもユーマくんに点を取らせる』ことの方が大事だと気が付いたみたい。当初は出水さんに合成弾を教わろうとしていたようですけど、そもそもトリオンが足りない彼には無理な話だったんです」

 

「まあ、あいつのトリオンはボーダーでやっていくにはギリギリだからな」

 

「ワイヤーを張って自軍に有利な戦場(フィールド)を作るというこの戦術…たぶん嵐山隊へ行った時にキトラちゃんから学んだのだと思います。スパイダーはトリオンの消費が非常に少なく、一度張ってしまえばオサムくん自身が離脱してしまっても味方の援護ができますから、今の彼にとってはベストな技だといえます。それに彼は頭を使う戦い方が得意ですから、どこにワイヤーを張ればもっとも効率が良いかわかっていますし、何よりも自分で点を取らなくてもいいのだということに気付かされたでしょう」

 

「千佳のライトニングによる鉛弾(レッドバレット)狙撃は自分で考えた…ってわけじゃなさそうだな?」

 

「ええ。たぶん影浦隊のユズルくんから教わったと思います。鳩原さんが同じ悩みを抱えていて、以前にわたしも彼女の相談に乗ったことがあります。その時に鉛弾(レッドバレット)を使うという案は上がったんですけど、彼女のトリオン能力ではライトニングでも無理でした。わたしでもライトニングだと実戦でギリギリ使えるかどうかというレベルでしたが、さすがはトリオン怪物(モンスター)・チカちゃんです。…ただ彼女の様子を見ていると、人が撃てないというのは、本当はちょっと違うのかもしれません」

 

「それはどういう意味だ?」

 

「鳩原さんの()()()()とチカちゃんの()()()()は違うもののような気がするからです。鳩原さんの場合、照準器(スコープ)の中に人の姿が入ることすら耐えられなくて、武器(トリガー)のみを破壊するという精密射撃しかできませんでした。それを克服するためにライトニング+鉛弾(レッドバレット)という方法を考えたんですけど、実際のところ彼女にトリオン能力の縛りがなくても人が撃てたかどうか疑問です。でもチカちゃんは人を撃っています。鉛弾(レッドバレット)だから人が傷付かないという安心感があると言えばそれまでですけど、彼女の()()()()は単に()()()()()()なんじゃないかと。まあ、どちらにしても一歩進展したということに違いはありませんから、ここは喜ぶべきですね」

 

そう言ってツグミは視線をテレビ画面に戻した。

試合は玉狛第2が有利に見える展開である。

修の張ったワイヤー地帯に入り込んでしまった香取隊はここでは不利と知って場所を変えようとするが、遊真がワイヤーを利用して追撃する。

敵にとっては「障害」でしかないワイヤーも、遊真にとっては「盾」であり「足場」となる。

Round3の試合の際、グラスホッパーを使った乱反射(ピンボール)で村上を翻弄した遊真だから、短時間でワイヤーを使った空中戦を可能にしたのだ。

葉子の無策な突撃で一方的にダメージを受けただけの香取隊。

遊真を執拗に追うが、攻撃の機をうかがっていた柿崎隊が横撃する。

しかしこれは香取隊も読んでおり、香取隊vs柿崎隊となった。

遊真は香取隊を追わず、玉狛第2はしばし様子見のようだ。

 

 

「ワイヤーの張っていないところではユーマくんの機動力も生かしにくいですし、これで香取隊と柿崎隊がしばらく粘ってくれれば、修くんがワイヤーを張り続けて有利な戦場(フィールド)を増やすことができますからね。でも敵同士で数を減らし合っては玉狛第2に点が入らなくなりますから、暢気に身構えてもいられません」

 

玉狛第2が上位2位までに入らないとA級への挑戦権が得られない。

さらに近界(ネイバーフッド)遠征を目的としている彼らだから、ただ勝つだけでなく大量得点で勝つ必要があるのだ。

 

「こりゃ香取隊の分が悪いな。二対三で撃ち合いとなれば火力差で柿崎隊有利。おまけに攻撃手(アタッカー)が片腕で弧月となりゃ落ちるのは時間の問題だな」

 

「はい。さっき三浦さんはヨーコちゃんを庇って重石を付けられてしまったことで左腕を斬り落としてしまいましたからね。この展開を見るかぎり香取隊は圧倒的に不利ですが、優秀なオペレーターがいますからどうなるかはまだわかりませんよ」

 

香取隊はワガママな隊長の葉子に三浦・若村両隊員が振り回され、お互いに険悪な状態になり、それをオペレーター・華が宥めるというパターンがある。

今回の戦いも葉子が勝手に突っ走って三浦と若村が序盤で負傷してしまっている。

だからツグミには画面には映っていなくても葉子たちの会話が手に取るようにわかってしまうのだ。

 

(たぶんヨーコちゃんの勝手な行動を若村さんが責めて喧嘩になり、ふたりを三浦さんが宥めようとして失敗。そこに華さんが入って手綱を引き締める、ってとこだろうな…)

 

ツグミの想像はほぼ当たっており、華の指示で香取隊の3人は移動を開始した。

向かう先は開けた場所。

障害物のない場所での撃ち合いとなればますます不利になるはずであった。

しかし華の指示は的確で、柿崎の背後には修と遊真がいて攻撃を仕掛けてきたのだ。

柿崎隊は香取隊と玉狛第2に挟まれたような格好となり、挟撃を恐れた柿崎隊は一時退却する。

そして3部隊(チーム)はそれぞれ距離を取り、戦況は一時的だが膠着状態となった。

これは玉狛第2にとっては好都合で、修はこの隙にワイヤーを張っていった。

 

 

支部長(ボス)、コーヒーのおかわりはいかがですか?」

 

「お、いただこうか」

 

ツグミはコーヒーのおかわりを注ぐために席を立ち、すぐに戻って来ると、テレビ画面に目を移した。

 

 

 

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