ワールドトリガー ~ I will fight for you ~ 作:ルーチェ
「この後、どうなると思う?」
林藤に訊かれ、ツグミは少し考えてから答えた。
「まず香取隊・柿崎隊共に玉狛第2を直接相手にするのは不利だと考えて、
「そういや、おまえが生駒隊と王子隊を相手にした第4戦だが、おまえを無視して両
林藤の言葉にツグミは頷いた。
「そうでしたね。この試合も
「どうしてそう考えるんだ?」
「柿崎隊は
ツグミがそんなことを言っていると、戦況が大きく変わる事態が発生した。
千佳が柿崎隊のいる場所のすぐ近くの建物に向けてアイビスを撃ったのだ。
もちろん千佳は柿崎隊に向けて砲撃したのではない。
レーダー頼りでは人に当てることなど不可能だからだ。
これは建物を破壊することで獲物を燻し出すという作戦で、アイビスを連射することで柿崎隊だけでなく香取隊までもが玉狛第2を無視できない状態となった。
すると香取隊が先に動き、続いて柿崎隊がそれに連動する形で動き始めた。
2
「ほう…おまえの想像どおりに動いているな」
林藤が感心したかのように言う。
「これくらい読めないと
「まあ、そのとおりだな。…だが修のワイヤーも斬られてしまえば意味がない。遊真がいなけりゃ修は厳しいぞ」
「でもスパイダーはトリオン消費が低いですから、斬られても張り続けていればオサムくん自身の延命はできます。それに自分が殺られても張ったワイヤーは残り、ユーマくんの援護ができればそれで十分だと考える余裕があれば、これまでのような焦りがなくなって彼の良さを発揮できるでしょう。彼にとって必要なことは『隊長として大局を見ることと、隊員を上手く動かして点を
戦闘フィールドでは香取隊の3人がワイヤーを斬りつつ修を追って行った。
はた目には
修は千佳の射線を意識して逃げ、まんまと葉子をおびき出したというわけだ。
残念ながら命中はしなかったものの、狙撃を警戒した香取隊は一旦身を隠した。
柿崎国治(かきざきくにはる)の左腕を斬り落とした遊真。
わずかだが有利になったものの、三対一である状況は変わらない。
集中砲火を受ければさすがの遊真でも防ぎきるのは難しくなり、彼は柿崎にまとわりつくことで照屋文香(てるやふみか)と巴虎太郎(ともえこたろう)が柿崎を巻き込むことを恐れて援護射撃できなくなるという状況を作って戦う。
すると照屋と巴は弧月に切り替えて近接戦闘を試みるが、それを見た遊真はワイヤーを活かして機動戦に持ち込む。
「柿崎隊はステージの選択権を活かしていますね。マップの下調べはきちんとできていて、ユーマくんは弾幕で障害物の少ない広場までグイグイと押し込まれてしまいました。この広場で有利を取ろうと考えているようですけど、ユーマくんはこれくらいで落ちることはありません」
ツグミは自分がランク戦に参加できなかったことも忘れたかのように、玉狛第2の試合に夢中になっている。
彼女が落ち込んでいるのではないかと心配していた林藤もこれでひと安心だ。
「さすがのユーマくんも一対三での斬り合いは分が悪いようで、正面からは応戦せずワイヤーを使って逃げ回りながらヒットアンドアウェイを行う戦法に切り替えたみたいです。このままではユーマくんの素早い動きをは捉えられませんから、柿崎隊はワイヤーをどんどん斬って機動力を下げるでしょうね。そしてワイヤーをすべて斬ってユーマくんの動きが止まったところで一斉に攻撃…って、虎太郎くんが動いた!」
ワイヤーを無効化した柿崎隊。
いきなり遊真に勝負を挑んだのは虎太郎であった。
右手には弧月、左手には
遊真は
無防備な姿勢で高く飛び上がった虎太郎は千佳の
オペレーターの宇井真登華(ういまどか)に狙撃に注意するよう言われたのでシールドを張ったのだが、
さっき葉子を狙った
初得点は玉狛第2となった。
そして一対三が一対二になり、遊真はずいぶんと楽になったことだろう。
一方、香取隊は修のワイヤーと千佳の
そこで若村がひとり飛び出して千佳を引きつけ、その間に葉子と三浦がワイヤーを斬りつつ修を仕留めるという役割で行動を開始する。
「ヨーコちゃんは相変わらず大局を見ることができないわね…」
ツグミが独り言ちる。
それを林藤は聞き逃さなかった。
「どういう意味だ、それ?」
「あ、それはですね…この展開ではまずチカちゃんをどうにかしないといけないというのに、彼女は目の前にいるオサムくんのことばかり気にしている。たしかに一番弱い駒ですから落としやすいと考えて攻めているんでしょうけど、盤面全体を見渡せば真っ先にチカちゃんを落とさなければならないとわかるはずです。たぶん華さんはそう指示しているんでしょうけど、ヨーコちゃんが華さんの言うことを聞かないんでしょう。香取隊は3人での連携が
ツグミは続けた。
「ついこの間、彼女と
修はワイヤーの一部の色を赤に設定し、普通の色と赤色を混ぜることで意識を散らすという作戦に出た。
葉子は「赤いワイヤーは目くらましで、普通のワイヤーに注意をする」よう三浦に指示を出す。
しかし彼女は足元の低い位置に張ってあったワイヤーには気付かず、派手に転んでしまう。
でんぐり返って脚を上に向けた瞬間を狙い、千佳の
右足に重石を付けられた葉子は即座に自分で脚を斬り落とし、三浦に腕を引っ張られたことで2射目の
ここで香取隊の動きが止まり、遊真を相手にしていた柿崎隊のふたりが動いた。
照屋が千佳を獲りに行くと柿崎に進言したのだ。
そして柿崎は照屋を千佳のもとへ行かせ、自分はひとり残って遊真と対峙することとなった。
「あ…柿崎さんは文香ちゃんを行かせちゃいましたね。たしかにこのままでは玉狛第2の布陣を崩すことはできず、ジリジリと追い詰められていくのは明らかですから、チカちゃんを落としたいという気持ちはわかります。でもユーマくんと一対一になるのは無茶です。柿崎さんは左腕を斬られていてただでさえ不利で、ユーマくんに勝てる見込みなんてほとんどゼロ。彼が落ちたら文香ちゃんだけになってしまいます。仮にチカちゃんを落として戻って来るまで耐え切れたとしても、満身創痍の状態のはず。たぶん柿崎隊は香取隊にチカちゃんを落としてもらいたかったはずですけど、ヨーコちゃんがあまりにダメダメなものだから予定を変更せざるをえなかったってことでしょう。せめて虎太郎くんが生きている間に動けば柿崎隊にも活路は見えたんですけどね…」
玉狛第2の応援をしているというのに、ツグミは柿崎隊の判断を残念がっている様子だ。
「香取隊と柿崎隊、この2
ツグミは柿崎との接点は少ないものの仲は良い。
柿崎は嵐山や三輪たちと同期入隊で、まだ隊員の数が少なかった頃からの付き合いだから4年になる。
一緒に防衛任務もしたことがあるし、彼の人柄も良く知っている。
だからこそ彼の欠点も良く知っているのだ。
柿崎は危険な場所に隊員を単身で送り込むことができず、自分が全責任を負おうとする。
ツグミは「柿崎は自分のことを過小評価しすぎており、柿崎隊がB級の中位と下位をウロウロするようなとこで埋もれているのは自分が不甲斐ないせいであると思い込んでいる」ことが彼の欠点であると考えている。
そんなことだから柿崎の気持ちになると、この手段を選ぶしかなかったことが残念でならないのだ。