ワールドトリガー ~ I will fight for you ~   作:ルーチェ

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82話

 

 

「この後、どうなると思う?」

 

林藤に訊かれ、ツグミは少し考えてから答えた。

 

「まず香取隊・柿崎隊共に玉狛第2を直接相手にするのは不利だと考えて、()()()()()無視すると思います。両部隊(チーム)共に自分たちが競り合っていれば大量点の欲しい玉狛第2が動くと考え、ワイヤー陣の中にいるオサムくんとユーマくんをおびき出す作戦です。ですがオサムくんたちがそんな手に乗るはずがありません。そのためにチカちゃんが良い位置に待機しているんですから」

 

「そういや、おまえが生駒隊と王子隊を相手にした第4戦だが、おまえを無視して両部隊(チーム)が混戦状態になると思ったが、おまえは()()()()()()()()な。狙撃手(スナイパー)という射程の有利と地形を利用して、ヤツラがおまえを先に潰さないと自分たちの戦いがやりにくい状態に持ち込んだ。そんでもっておまえは灯台という容易に近付けない場所にいて、生駒隊と王子隊は共におまえに翻弄されていたっけ」

 

林藤の言葉にツグミは頷いた。

 

「そうでしたね。この試合も狙撃手(スナイパー)はチカちゃんだけ。居場所がバレても近付けないようにすれば彼女の身の安全は保証されますから、バンバン撃っても大丈夫。敵が建物の屋上伝いに彼女に近付こうとしても、鉛弾(レッドバレット)狙撃があればシールドは意味ありません。地上ではオサムくんの張ったワイヤーがいいカンジで効果を出していますし、ユーマくんがこれを足場にすることでいつも以上の機動力を発揮できます。…こうなると玉狛第2はチカちゃんにアイビスで砲撃でもさせて、敵に対して『自分たちを無視できなくなる』ように動くんじゃないでしょうか。そうすると…まず香取隊が先に動くでしょう。それに連動して柿崎隊が動き、2方向から攻められることになります。玉狛第2はそれをどう迎え撃つか…。たぶん戦力を考えると香取隊にオサムくん、柿崎隊にユーマくんという感じで二手に分かれて対応すると思います」

 

「どうしてそう考えるんだ?」

 

「柿崎隊は万能手(オールラウンダー)ふたりに万能手(オールラウンダー)寄りの銃手(ガンナー)です。彼らの連携はなかなかのもので、3人の集中攻撃を凌ぐだけでなく、数を減らしていかなければなりません。ユーマくんでないと太刀打ちできませんからね。一方、香取隊はエースのヨーコちゃんが暴れて、他のふたりがそれをサポートするという戦い方をしますが、今日のヨーコちゃんは最悪です。ここ最近の成績が下降気味でイライラしている上に、オサムくんのスパイダーと通常弾(アステロイド)がいいカンジに()()()()をしています。そんな彼が目の前に現れれば、冷静さを失ってワイヤー陣の奥深くまでオサムくんを追って行くでしょう。オサムくんはヨ-コちゃんたちよりもはるかに格下で、イライラさせられる邪魔な人間ですからね。そしてオサムくんはそれくらいお見通しで、すでに罠は仕掛けてあると思われます」

 

 

ツグミがそんなことを言っていると、戦況が大きく変わる事態が発生した。

千佳が柿崎隊のいる場所のすぐ近くの建物に向けてアイビスを撃ったのだ。

もちろん千佳は柿崎隊に向けて砲撃したのではない。

レーダー頼りでは人に当てることなど不可能だからだ。

これは建物を破壊することで獲物を燻し出すという作戦で、アイビスを連射することで柿崎隊だけでなく香取隊までもが玉狛第2を無視できない状態となった。

すると香取隊が先に動き、続いて柿崎隊がそれに連動する形で動き始めた。

部隊(チーム)それぞれ別方向からワイヤー陣に向かい、修は香取隊、遊真は柿崎隊を迎え撃つ。

 

 

「ほう…おまえの想像どおりに動いているな」

 

林藤が感心したかのように言う。

 

「これくらい読めないとひとり部隊(ワン・マン・アーミー)は務まりませんよ。戦術を組み立て、自分の身を守りながら敵を攻撃し、状況が変化したらその先の先まで読み、そして適切な対応をする。これを全部ひとりで同時にやらなきゃいけないんですから」

 

「まあ、そのとおりだな。…だが修のワイヤーも斬られてしまえば意味がない。遊真がいなけりゃ修は厳しいぞ」

 

「でもスパイダーはトリオン消費が低いですから、斬られても張り続けていればオサムくん自身の延命はできます。それに自分が殺られても張ったワイヤーは残り、ユーマくんの援護ができればそれで十分だと考える余裕があれば、これまでのような焦りがなくなって彼の良さを発揮できるでしょう。彼にとって必要なことは『隊長として大局を見ることと、隊員を上手く動かして点を()()()()こと』ですから」

 

 

戦闘フィールドでは香取隊の3人がワイヤーを斬りつつ修を追って行った。

はた目には()()()()()()修だが、調子に乗って深入りした葉子を千佳の 鉛弾(レッドバレット) が襲う。

修は千佳の射線を意識して逃げ、まんまと葉子をおびき出したというわけだ。

残念ながら命中はしなかったものの、狙撃を警戒した香取隊は一旦身を隠した。

 

柿崎国治(かきざきくにはる)の左腕を斬り落とした遊真。

わずかだが有利になったものの、三対一である状況は変わらない。

集中砲火を受ければさすがの遊真でも防ぎきるのは難しくなり、彼は柿崎にまとわりつくことで照屋文香(てるやふみか)と巴虎太郎(ともえこたろう)が柿崎を巻き込むことを恐れて援護射撃できなくなるという状況を作って戦う。

すると照屋と巴は弧月に切り替えて近接戦闘を試みるが、それを見た遊真はワイヤーを活かして機動戦に持ち込む。

 

 

「柿崎隊はステージの選択権を活かしていますね。マップの下調べはきちんとできていて、ユーマくんは弾幕で障害物の少ない広場までグイグイと押し込まれてしまいました。この広場で有利を取ろうと考えているようですけど、ユーマくんはこれくらいで落ちることはありません」

 

ツグミは自分がランク戦に参加できなかったことも忘れたかのように、玉狛第2の試合に夢中になっている。

彼女が落ち込んでいるのではないかと心配していた林藤もこれでひと安心だ。

 

「さすがのユーマくんも一対三での斬り合いは分が悪いようで、正面からは応戦せずワイヤーを使って逃げ回りながらヒットアンドアウェイを行う戦法に切り替えたみたいです。このままではユーマくんの素早い動きをは捉えられませんから、柿崎隊はワイヤーをどんどん斬って機動力を下げるでしょうね。そしてワイヤーをすべて斬ってユーマくんの動きが止まったところで一斉に攻撃…って、虎太郎くんが動いた!」

 

 

ワイヤーを無効化した柿崎隊。

いきなり遊真に勝負を挑んだのは虎太郎であった。

右手には弧月、左手には拳銃(ハンドガン)という装備で、遊真と刃を交えながら同時に追尾弾(ハウンド)を撃つ。

遊真は追尾弾(ハウンド)をシールドで防ぎながら身体を逸らすような体勢に変え、グラスホッパーを起動すると虎太郎を跳ね上げた。

無防備な姿勢で高く飛び上がった虎太郎は千佳の鉛弾(レッドバレット)の餌食となってしまう。

オペレーターの宇井真登華(ういまどか)に狙撃に注意するよう言われたのでシールドを張ったのだが、鉛弾(レッドバレット)は意味をなさない。

さっき葉子を狙った鉛弾(レッドバレット)狙撃のことを柿崎隊は知らなかったのだ。

鉛弾(レッドバレット)を左腕に食らった虎太郎は地上に落下し、遊真に首を斬られて緊急脱出(ベイルアウト)

初得点は玉狛第2となった。

そして一対三が一対二になり、遊真はずいぶんと楽になったことだろう。

 

一方、香取隊は修のワイヤーと千佳の鉛弾(レッドバレット)狙撃に悩まされていた。

そこで若村がひとり飛び出して千佳を引きつけ、その間に葉子と三浦がワイヤーを斬りつつ修を仕留めるという役割で行動を開始する。

 

 

「ヨーコちゃんは相変わらず大局を見ることができないわね…」

 

ツグミが独り言ちる。

それを林藤は聞き逃さなかった。

 

「どういう意味だ、それ?」

 

「あ、それはですね…この展開ではまずチカちゃんをどうにかしないといけないというのに、彼女は目の前にいるオサムくんのことばかり気にしている。たしかに一番弱い駒ですから落としやすいと考えて攻めているんでしょうけど、盤面全体を見渡せば真っ先にチカちゃんを落とさなければならないとわかるはずです。たぶん華さんはそう指示しているんでしょうけど、ヨーコちゃんが華さんの言うことを聞かないんでしょう。香取隊は3人での連携が()()()()()()強い部隊(チーム)なんですけど、だからといって3人で固まって行動しなければならないというものではありません。単純に数の有利でオサムくんを落とすことしか頭にないんです。そしてその数の有利を活かせないのはチカちゃんの存在。どうしてそこに気付かないのかしら?」

 

ツグミは続けた。

 

「ついこの間、彼女と個人ランク(ソロ)戦をしたんですけど、以前と比べて多少は成長したかなと思ったのは間違いでした。とにかくオサムくんは自分が香取隊を落とそうとは考えておらず、足止めに徹していますから隙がありません。このままヨーコちゃんがバカみたいにオサムくんに執着し続ければいずれ自滅しますよ、きっと。あ、ほら…」

 

 

修はワイヤーの一部の色を赤に設定し、普通の色と赤色を混ぜることで意識を散らすという作戦に出た。

葉子は「赤いワイヤーは目くらましで、普通のワイヤーに注意をする」よう三浦に指示を出す。

しかし彼女は足元の低い位置に張ってあったワイヤーには気付かず、派手に転んでしまう。

()()()ワイヤーには十分気を付けていたはずなので、何か仕掛けがあるに違いないとツグミは察した。

でんぐり返って脚を上に向けた瞬間を狙い、千佳の鉛弾(レッドバレット)狙撃が決まった。

右足に重石を付けられた葉子は即座に自分で脚を斬り落とし、三浦に腕を引っ張られたことで2射目の鉛弾(レッドバレット)からは逃れられた。

ここで香取隊の動きが止まり、遊真を相手にしていた柿崎隊のふたりが動いた。

照屋が千佳を獲りに行くと柿崎に進言したのだ。

そして柿崎は照屋を千佳のもとへ行かせ、自分はひとり残って遊真と対峙することとなった。

 

 

「あ…柿崎さんは文香ちゃんを行かせちゃいましたね。たしかにこのままでは玉狛第2の布陣を崩すことはできず、ジリジリと追い詰められていくのは明らかですから、チカちゃんを落としたいという気持ちはわかります。でもユーマくんと一対一になるのは無茶です。柿崎さんは左腕を斬られていてただでさえ不利で、ユーマくんに勝てる見込みなんてほとんどゼロ。彼が落ちたら文香ちゃんだけになってしまいます。仮にチカちゃんを落として戻って来るまで耐え切れたとしても、満身創痍の状態のはず。たぶん柿崎隊は香取隊にチカちゃんを落としてもらいたかったはずですけど、ヨーコちゃんがあまりにダメダメなものだから予定を変更せざるをえなかったってことでしょう。せめて虎太郎くんが生きている間に動けば柿崎隊にも活路は見えたんですけどね…」

 

玉狛第2の応援をしているというのに、ツグミは柿崎隊の判断を残念がっている様子だ。

 

「香取隊と柿崎隊、この2部隊(チーム)は非常に対照的です。隊長が隊員の特性を活かし、一丸となって点を取りに行く柿崎隊。それに対して香取隊は隊長が自分勝手に動いて隊員との不協和音を奏で、隊員の力を発揮できなくしている。香取隊が使()()()()()()()、そのせいで柿崎隊が苦渋の選択をせざるをえなくなってしまいました。柿崎隊はもっと上位に食い込んできてもおかしくない部隊(チーム)なんですけど、格上に対して慎重し過ぎる感があります。柿崎さんが部下思いなのは良いことなんですけど、もっと自分を信じ、部下を信じて任せることができたら今よりもっと強い部隊(チーム)になれると思います」

 

ツグミは柿崎との接点は少ないものの仲は良い。

柿崎は嵐山や三輪たちと同期入隊で、まだ隊員の数が少なかった頃からの付き合いだから4年になる。

一緒に防衛任務もしたことがあるし、彼の人柄も良く知っている。

だからこそ彼の欠点も良く知っているのだ。

柿崎は危険な場所に隊員を単身で送り込むことができず、自分が全責任を負おうとする。

ツグミは「柿崎は自分のことを過小評価しすぎており、柿崎隊がB級の中位と下位をウロウロするようなとこで埋もれているのは自分が不甲斐ないせいであると思い込んでいる」ことが彼の欠点であると考えている。

そんなことだから柿崎の気持ちになると、この手段を選ぶしかなかったことが残念でならないのだ。

 

 

 

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