ワールドトリガー ~ I will fight for you ~   作:ルーチェ

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84話

 

 

戦闘フィールドでは照屋が千佳の鉛弾(レッドバレット)狙撃をやり過ごしながら「あと1発かわせれば」という場所まで来ていた。

しかし近付けば近付くほど千佳の狙撃が正確になり、容易に接近できなくなっている。

迂闊に動けば確実に殺られるとなれば、慎重にならざるをえない。

一方、香取隊は相変わらず修ひとりに手間取っていた。

そこで葉子が修の気を引き、その隙に若村と三浦がそれぞれバッグワームとカメレオンを起動して修の背後を取ろうという作戦を()()指示した。

 

 

「香取隊の不調は華さんにまで感染してしまったみたいですね。この場合、若村さんがオサムくんと撃ち合える突撃銃(アサルトライフル)を持っているんですから、彼にオサムくんの気を引く役目を与え、ヨーコちゃんがバッグワーム、三浦さんがカメレオンで背後に回ればいいと思うんですけど…」

 

「香取が脚をやられていて機動力が落ちているからじゃねえのか?」

 

「でも脚ブレードを使えば…って、ヨーコちゃんのことだから過去ログとか見ないから、そんな使い方知らないのかも。だとしてもヨーコちゃんの拳銃(ハンドガン)じゃオサムくんまで弾は届かないから意味ないと思います。…ほら、射撃が止まった」

 

相手に届かない弾をいくら撃ったところで何の意味もなく、それに気付いたのか葉子は射撃をやめた。

しかしタダの膠着状態というのではなく、別の手段で修の注意を自分に向けようとしているようだ。

 

「…なんだか喋っているように見えますけど、会話でオサムくんの気を逸らそうとでもいうんですかね? でもオサムくんがそんな挑発に乗るはずがありません。そしてますますヨーコちゃんがイラつくことになりそう。それにオサムくんの背後から強襲するという作戦は悪くないですが、三浦さんは片手で弧月という非常に不利な状態。それに姿が見えなくてもレーダーで接近しているのはわかりますし、なによりワイヤー陣がありますからそれを越えて来るのは難しい。うっかり引っ掛かればそれでカメレオンの意味もなくなります。彼は単なる陽動要員もしくは若村さんの援護要員というところでしょうか。よってメインで襲って来るのは若村さんであるという結論が導かれ、彼は姿が丸見えの状態で射程距離まで近付かなければなりません」

 

「そして修がそうなることを予想していないわけがない、か」

 

「そのとおりです。ヨーコちゃんの存在は単にオサムくんの気を逸らせるためのものですから無視し、背後から近付いてくる()()()()突撃銃(アサルトライフル)による攻撃に対して注意を払っていれば()()大丈夫。それに若村さんと三浦さんは連携して近付いているわけですから「姿の見える若村さん」のすぐそばには「姿の見えない三浦さん」がいるのはバレバレ。シオリさんの指示に従っていれば、どちらが先に動いたとしても対応は可能です。『狙撃がないから今のうちに動く』というのは間違っていませんが、この布陣は失敗だと思います。華さんはユーマくんがフリーだという重要なポイントを見逃しています。機動力を奪われたヨーコちゃんがひとりだけになっていれば、そこをユーマくんに強襲されてジ・エンド。緊急脱出(ベイルアウト)にまで至らなくても、ダメージは大きいと思います。若村さんと三浦さんが援護に入ろうとしても、今度は逆にオサムくんに背後を取られることになりますからね。オサムくんにばかり目が行ってしまって冷静に状況を判断できないのはヨーコちゃんだけにしておかなきゃ。華さんまで彼女と同じレベルに成り下がってしまってはもうおしまいです」

 

 

栞の指示で修は背後に接近した三浦の存在を知った。

当然すぐそばに若村がいることも承知の上で、スパイダーを起動して新たな()()ワイヤーを張る。

それを見た若村はまた「赤いワイヤーは目くらましで、普通のワイヤーに注意をする」という葉子の言葉を思い出した。

しかし彼はさっきの葉子と同じように足元の低い位置に張ってあったワイヤーには気付かず、派手に転んでしまった。

そこを修がスラスターで威力を上げたレイガストで斬りかかる。

若村はシールドでギリギリ耐えているが、修にマウントを取られた姿勢なので逃げられそうにない。

続いて修は前もって仕掛けておいた「通常弾(アステロイド)の置き弾トラップ」を起動。

三浦は若村の援護に入ろうとするが、ここで若村は葉子を援護するよう三浦に指示し、次の瞬間に両サイドからの通常弾(アステロイド)をまともに食らって緊急脱出(ベイルアウト)

ほぼ同じタイミングで遊真は葉子に襲いかかっていた。

遊真の初撃はかろうじて受け太刀して避けたものの、彼女は()()に気付いて次の攻撃が遅れてしまう。

その隙に遊真は彼女の右手を斬り落とした。

これで彼女は拳銃(ハンドガン)型トリガーを握ることはできなくなってしまった。

そこに三浦が援護に入るものの、遊真の攻撃に対して防御しかできず、フリーになった修の通常弾(アステロイド)を受けて緊急脱出(ベイルアウト)となる。

 

 

「オサムくん、過去の敗戦を糧にしてずいぶんと成長していますね。『通常弾(アステロイド)の置き弾トラップ』って前回の試合で犬飼さんに仕掛けた時は片側だけで、結果は防がれて失敗でした。今回は両側に置くことで防ぎきれなくなるようにしています。失敗は誰にでもありますが、その失敗を次に活かせるかどうかが大事で、彼はちゃんと活かすことができました。おまけに得点もしているし、やっぱり適切な指導をしてくれる師匠がいて、その教えを忠実に守っているからでしょうね」

 

ツグミは修が実力で得点したことを心から喜んでいた。

自分が先輩としてできることに限界があり、壁を前にして悩んでいた彼に何もできなかったことを口惜しく思っていたのだが、それがいつの間にか格上の隊員とサシで対決し、勝ちを得るまでに至っていたのだから嬉しいのは当然である。

 

「そしてユーマくんと三浦さんの対決に割って入っての通常弾(アステロイド)。Round2の時の諏訪さんとの対決の時のようです。ユーマくんが囮となってオサムくんが決める。ふたりを組ませてしまったのは失敗です。ヨーコちゃんが会話でオサムくんの気を引こうなんて悠長なことをしているから、ユーマくんが合流できたんですから。やっぱりこれは華さんの判断ミスとしか言いようがありません。普段の彼女ならそんなことしそうにないから、ヨーコちゃんの悪影響を受けているとしか思えませんね。香取隊の悪いところを全部詰め合せた『こんな部隊(チーム)では勝てない』という見本みたいな試合です。わたしが香取隊の隊員だったら即辞めて自分で部隊(チーム)を作るか、隊長として相応しい人を探してそっちに乗り換えますよ」

 

「香取に対しては辛辣だな、おまえは。言っていることはもっともだが、そこまで言わなくてもいいんじゃねえのか?」

 

「そこまで言わせるような部隊(チーム)だってことです。でもそのおかげで玉狛第2が目的達成するために一歩近付いたともいえますから、別の見方をすれば感謝すべきかもしれませんね。…って、それよりも文香ちゃんが動きました!」

 

 

照屋は「勝負」に出た。

彼女はグラスホッパーを持っていないため、最短距離を一気にジャンプするしかない。

千佳の狙撃を真正面から食らう位置で、照屋がジャンプした瞬間に千佳は鉛弾(レッドバレット)を撃つ。

この時、誰もが照屋が一か八かの賭けに出たと思っただろう。

そして虎太郎のように鉛弾(レッドバレット)を撃ち込まれて地上に落下する姿を想像したに違いない。

しかし結果はまったく違うものとなった。

照屋は建物か何かの破片を盾とし、重石が付いた状態でそれを投げ捨てた。

鉛弾(レッドバレット)はシールドで防ぐことはできないが、エスクードのように実体化しているものであれば干渉することができるという性質を利用したのだ。

一気に距離を縮めた照屋の射程に入ってしまった千佳は逆に窮地に陥ってしまうが、こういった事態を想定してか鉛弾(レッドバレット)を付加した追尾弾(ハウンド)を撃った。

巨大な黒い(トリオンキューブ)が125分割し、それが一斉に照屋目掛けて襲い掛かる。

こうなるともう防ぎようはなく、照屋は全身重石が付けられて身動きが一切できなくなってしまった。

それでも最後に一矢報いようと突撃銃(アサルトライフル)型トリガーで千佳を撃ち、千佳はそれをシールドで防いだ。

シールドは使用者のトリオン能力がダイレクトに影響するから、千佳のシールドなら照屋の弾は防ぐことは可能だ。

実際、千佳のシールドは()()()()()()弾は全部防いだが、死角からの追尾弾(ハウンド)には反応できずに被弾してしまった。

ここで千佳は緊急脱出(ベイルアウト)し、照屋もこのままでは身動きできないで誰かに落とされるよりはマシだと判断して自発的に緊急脱出(ベイルアウト)する。

 

 

「あ…チカちゃん、頑張ったのに…」

 

ツグミが残念そうに呟いた。

 

「でもまさか追尾弾(ハウンド)にまで鉛弾(レッドバレット)を使うなんて想像もしてなかった。これなら彼女でも()()で撃てるわけね。やっぱりオサムくんの指示? それともユズルくんからのアドバイスかな?」

 

追尾弾(ハウンド)鉛弾(レッドバレット)って技、おまえが王子たちに使ったヤツじゃねぇか」

 

「ああ…そう言えばそうでしたね」

 

ツグミはRound4の生駒隊・王子隊との試合で、王子と樫尾を追尾弾(ハウンド)鉛弾(レッドバレット)という奇策で攻撃した。

夜間ステージであり、照明のない場所におびき出し、ギリギリまで敵に接近して射程と弾速が落ちる欠点を補ったことで成功した作戦である。

 

「チカちゃんくらいのトリオン能力があれば十分に通用するものですね…。だからユーマくんは迷うことなくオサムくんの援護に向かえたということ。玉狛第2はそれぞれの長所を活かし、短所を仲間がフォローするという好ましい部隊(チーム)になってきました。彼らの試合は見ていてとても楽しい。興味をそそられます。これでますます彼らの応援をしたくなる隊員が増えることでしょう」

 

ボーダー隊員として信頼できる仲間を増やすことは重要である。

自隊の隊員同士の連携はもちろん、他隊との合同任務や今回のような近界民(ネイバー)侵攻の際には「普段一緒に戦うことのない隊員とどう上手く連携していくか」が大事になるからだ。

迅と三輪のように個人的にはいろいろ軋轢のあるふたりだが、いざという時には素晴らしい連携プレイを見せてくれる。

ならば仲の良い隊員同士であればさらに効果的な戦術を組み立てることもできるだろう。

葉子のように考えなしで勝手な行動をして失敗し「アタシは悪くない」と言って自らの行為を反省すらしないような人間と一緒に戦いたいと思う隊員はいない。

戦う際の士気の高さは勝敗にも影響する重要なポイントだ。

ツグミは旧ボーダー時代から仲間たちと協調しながら戦う大切さを身を持って知らされていたから、身勝手で周囲を振り回すばかりの葉子のことが大嫌いなのだ。

 

「どうやらヨーコちゃんが勝負をかけたみたいです。彼女に勝ち目はありませんが、負けるにしてもタダでは済ませないと言う気持ちなんでしょうね。戦いが長引けば不利なのは彼女。今なら()()()()()()2点と生存点2点の合計4点が得られますが、時間がかかればユーマくんがトリオン漏出過多で緊急脱出(ベイルアウト)してしまい、ダメージを与えた柿崎隊に1点入ってしまいます。自分のトリオン切れも心配でしょうからね。彼女の唯一の長所は『傲岸不遜』ですから、そこを()()()活かせたら良い隊員になれるんですけど…」

 

ツグミは残念そうに言ってテレビ画面を見つめた。

 

 

 

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