ワールドトリガー ~ I will fight for you ~   作:ルーチェ

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91話

 

 

途中で邪魔が入ったものの、ツグミは無事に観覧室にたどり着いた。

開始10分前ということですでに観客席はほぼ満席になっており、彼女は最後部で立ち見することにした。

その方が隊員との接触が減り、後々トラブルが起きることを防止できると考えたからである。

しかし大勢の人間がいれば彼女の思惑とは違う方向へ進んでしまうのも仕方がない。

 

「ねえ、キミ、席ないの? オレの隣りのここ、空いてるよ」

 

と、親切に声をかけてきたのは米屋であった。

ツグミのいる場所の3列ほど前の席に古寺と並んで座っており、3人掛けの内1席が余っている。

 

「ご親切ありがとうございます。でも友人を待っていますので結構です」

 

ツグミはそう言って丁寧に断った。

米屋もそれなら仕方がないと引き下がったのだが、そのうちに試合開始時間となってしまう。

この時点でひとりでいれば待ちぼうけを食わされたと思われるわけで、再度米屋に呼ばれる。

 

「ボッチで立ち見するより、こっちに来てオレたちと一緒に見ようよ」

 

ここで断るのは失礼であるし、だからといって観覧室を出て行くと玉狛第2の試合を見ることができなくなる。

 

(どうせわたしだとわからなければいいんだもの。400人もいるC級隊員の内のひとりのことなんていつまでも覚えているはずがないし、章平くんがいるんだからわたしに話しかけてくることはないわよね)

 

そう判断し、ツグミは階段を降りて米屋たちのところへやって来た。

そして無言で一礼して空いている席に座る。

 

「オレ、米屋陽介。こっちが古寺章平。よろしく」

 

先に名乗られてしまってはこちらの名前も言わなければならないということで焦ってしまうツグミ。

そこで咄嗟に思いついた偽名を口にする。

 

「わたしは…織羽美琴です」

 

それは両親の名前を組み合わせたものであった。

他に思いつかなかったのだから仕方がない。

 

「美琴ちゃんか…。歳は? ポジションはどこ?」

 

「えっと…歳は15で、ポジションは攻撃手(アタッカー)です」

 

年齢を誤魔化したのは、16歳と答えると古寺と同級ということになり、彼を巻き込んで学校の話などしそうな雰囲気があったからだ。

 

「へえ~、オレも攻撃手(アタッカー)。で、何の武器(トリガー)使ってんの?」

 

「弧月です」

 

「オレも弧月。槍型だけどな」

 

なぜか嬉しそうに言う米屋。

 

「知っています。おふたりはA級7位三輪隊の人ですよね? 訓練生でもそれくらいは知っています。有名人ですもの。…あ、試合が始まりますよ」

 

 

 

 

「みなさんこんちわ~、実況の太刀川隊、国近で~す。解説席には当真くんとゾエさん」

 

「うーっす」

「どもー」

 

「本日のお昼の部はアホの子18歳トリオでお送りしま~す」

 

何とも気が抜けた国近の挨拶で始まったRound6・昼の部。

王子隊の選んだステージは『市街地A』で、玉狛第2・生駒隊・王子隊は一斉に転送された。

メインモニターに各隊員の転送位置が表示されるが、修と遊真はかなり離れた場所に転送されたことがわかる。

そして修はバッグワームを起動し、遊真との合流を優先させずに別行動をするようだ。

王子隊も行き先はバラバラで、手分けをして修を捜すような動きを見せている。

なにしろ修のワイヤー陣は厄介だということが前回の試合で証明されており、彼を先に潰してしまおうというのは正しい作戦である。

一方、生駒隊はいつも通りの展開で、グラスホッパーを使った隠岐が狙撃に格好のポイントをキープすると、早速目についた樫尾を狙撃。

それを上手く避けた樫尾だが、居場所の判明した隠岐に対して反撃をする気配はない。

これは王子による指示で、バッグワームを使っている狙撃手(スナイパー)の隠岐と千佳のふたりと修の計3人の確定のためであった。

初期の転送位置はランダムであるものの、ほぼ均等に散る。

なのでスタート時点でマップ上に表示されている隊員の位置情報からバッグワームを使用している隊員の位置が推測されるというわけだ。

マップ上に表示されている隊員のいない()()()に、隠岐、千佳、そして修がいることは明らかであった。

そこで中央寄りの空白域にいたのが隠岐であると確定できたことで、北東と南東の空白域のどちらかに修がいたとわかるという流れである。

ここで北東の空白域に狙いをつけたと思われる王子と蔵内の動きを察した遊真が動く。

それは北東の空白域に修がいて、さも彼をカバーする動きのように見えるが、実際には千佳の狙撃の的になるように誘導するためのものである。

もちろん王子たちも「玉狛第2の()()戦術」のことは承知しており、南東側に修がいる可能性を読んで樫尾に南東側を探らせることにした。

樫尾はバッグワームを起動し、行動を開始した。

さらに生駒隊も南東側にいた南沢がバッグワームを起動してレーダーに映らない()()()()()敵に対応することになった。

 

 

レーダーに映らない隊員を巡っての駆け引きが面白く、ツグミは試合に夢中になっていた。

すると米屋が彼女に言う。

 

「B級といっても上位グループの試合ともなるとなかなかおもしれえだろ? 王子隊の狙いはメガネボーイだ。あいつのワイヤー陣がウザイのはわかってるから、ワイヤーを張られる前に落としてしまおうというんだな」

 

「はい。玉狛第2の狙いは敵に()()()()()にさせないこと。前回の試合では香取隊と柿崎隊がワイヤー陣で苦戦していましたからね、その轍を踏まないようにと立てられた作戦でしょう」

 

「へえ…良くわかってるじゃねえか、訓練生のくせに」

 

そう言われてツグミは焦った。

 

(マズイ…ついうっかりいつもの癖で思ったことを口にしてしまったけど、C級隊員が()()()()感想を言えばちぐはぐな感じがして怪しまれちゃう。もう迂闊なことは言わないようにしなきゃ)

 

「後学のために見学できる時には欠かさずに見るようにしています。B級になるためには勉強と訓練は欠かせませんから」

 

「お、偉い、偉い」

 

米屋はそう言ってツグミの頭をクシャクシャと撫でた。

 

「何をするんですか?」

 

ツグミは米屋の手を払い除け、乱れた髪を手で直す。

 

「いや、悪ぃ。ついうっかり、な。ハハハ…」

 

空笑いで誤魔化す米屋。

するとそれまで黙っていた古寺が嗜めるように言った。

 

「米屋先輩、彼女は年下とはいえ初対面の女性なんですよ。あまり馴れ馴れしい態度はどうかと思います」

 

「だけどよ、初対面って気がしねえんだよな…」

 

そう言いながらツグミの顔をじっと見る。

 

「もしかして前にどこかで会ってる?」

 

ツグミは首を横に振って答えた。

 

「もしかしたらロビーとかラウンジですれ違っているかも知れませんけど、それは会ったとは言えませんから初対面で間違いないです」

 

「そうか? ま、いいか」

 

米屋は深く追求せずにランク戦の観戦に戻った。

それを見てほっとするツグミ。

 

(外見は別人だけど中身は霧科ツグミのまんまなんだから、会ったことがあるって気になるのも無理はないのよね…。こうなったらできるだけ話をしないように気を付けよう)

 

 

南東側のエリアでワイヤーを張っていた修だったが、そのワイヤー陣を樫尾に発見されてしまう。

さらに南沢にも見付かり、このままでは修本人が居場所を特定されてふたりに追われてしまうだろう。

いや、王子と蔵内が北側から樫尾に合流し、遊真の援護が間に合わなければRound4の時のように早い段階で落とされておしまいとなってしまう。

すると修は近くにあった4階建ての建物の屋上の大きな看板目掛けて通常弾(アステロイド)を撃つ。

これでは自分で居場所をバラしているようなものだが、この様子を見ていた樫尾と南沢が遭遇(エンカウント)してしまう。

修が通常弾(アステロイド)を撃ったのはわざと居場所をバラしてこのふたりをカチ合わせさせるという作戦であったのだ。

これでひとまず延命できたわけだが、いずれは王子と蔵内だけでなく生駒や水上も寄って来るだろうから早く遊真を合流したい。

そうなると北に向かうべきだが、そちらには王子と蔵内がいる。

逆に誰もいない南東に逃げれば追い詰められて戦闘区域離脱(エリアオーバー)になる可能性が高い。

どこかに隠れているという方法もあるが、それでは修は何の役目も果たせない。

結果、生駒隊のいる西側へ逃げるしかない。

生駒隊に捕まらなければ安全な場所に逃げられ、さらに王子隊と生駒隊がぶつかれば新たなワイヤー陣を作る時間が得られるというものだ。

 

樫尾と南沢の一騎討ちはわずかに南沢有利で進んでおり、樫尾は次第に追い詰められていく。

勝機が見えてしまったものだから、南沢は他のことに目が行かなくなってしまった。

すぐそこまで王子隊が近付いているという仲間の忠告にも耳を貸さず、単騎で突っ込み過ぎたものだから、蔵内の射程圏内に入ったことにも気付かずにいて、蔵内の誘導炸裂弾(サラマンダー)の餌食となってしまったのだった。

ここで樫尾は王子・蔵内と合流し修を追うことになる。

 

 

(王子隊の3人が合流してオサムくんが追われるという最悪の展開…。これで彼らが望んでいた状況になったと言えるわね)

 

西側に逃げる修はバッグワームを起動しているにも関わらず、王子隊の3人はほぼ正確に彼を追っていた。

 

(王子さんとオサムくんは『考えて動く』という同じタイプだから、どう動くかを想像するのは簡単だもの。だからオサムくんだって王子さんがどう動くかわかっていてその対策を考えているはず。とにかくオサムくんをフリーにしないとワイヤーを張ることができないから、ユーマくんが王子隊を押さえるんだろうな…。でも一対三はユーマくんでもきつそう。チカちゃんの鉛弾(レッドバレット)狙撃の援護が受けられるような広い場所で戦うしか勝ち目はない。生駒隊は王子隊の動きに合わせているってカンジだから、とりあえず王子隊から崩していくしかなさそう)

 

 

戦闘フィールドでは遊真が王子隊に追いついた。

修が()()()動いて遊真が王子隊と遭遇(エンカウント)するように仕組んだようだ。

まずは樫尾に狙いを付け、グラスホッパーと脚ブレードで樫尾の弧月に蹴りを入れ、バランスを崩したところでスコーピオンで斬りつけて右腕を落とす。

さらにグラスホッパーで素早く動き、視線を自分に向けることで千佳が蔵内の右脚に鉛弾(レッドバレット)狙撃で重石を付けた。

これで王子隊の機動力を削ぎ、修との間に入る。

 

 

(ここで王子さんはどうするんだろ? 3人でユーマくんを倒すか、それとも誰かひとりがオサムくんを追うか…。なかなか難しいところね)

 

ツグミは自分が王子の立場なら…と考え始めた。

 

(わたしなら樫尾くんにオサムくんを追わせ、残ったふたりでユーマくんの足止めをするわね。オサムくんは追われている間はワイヤーを張れないし、ユーマくんだって無理して倒さなくてもいい。オサムくんと切り離すことが重要だもの。チカちゃんのおおまかな居場所はわかったから、彼女の射線に入らないようにすればいいんだし。そのうちに生駒隊がこっちに来るか、それともオサムくんの方へ行くかわからないけど、どちらにしても王子隊は有利。ただ…王子隊は狙撃手(スナイパー)がいないから、その点がちょっと厳しい。わたしの時のように先に隠岐さんを落としてしまえば楽になれるんだけどな…)

 

 

ツグミがそんなことを考えていた間も戦闘は進んでいた。

遊真と王子隊3人が対峙しているところに生駒が現れ、生駒旋空を遊真に放った。

彼の右腕から放たれる凄まじい威力と伸びを持つ旋空は遊真のスコーピオンを破壊し、左脇腹に傷を負わせる。

そして次の生駒旋空が放たれ、遊真は大きくジャンプして回避。

どうやら王子隊も全員無事のようである。

ここで遊真は王子隊3人と生駒隊の生駒・水上に挟まれた形になって、状況は圧倒的に不利となってしまった。

王子隊は先に遊真を落とすことに決め、蔵内が追尾弾(ハウンド)を撃つ。

それを遊真はシールドで防ぎながら一次離脱。

生駒隊は南沢を落とされた借りを返そうという様子で、水上が追尾弾(ハウンド)を撃った。

それをシールド 防御するが、その隙に生駒が蔵内を狙う。

その様子に気付いた樫尾がグラスホッパーを蔵内に踏ませて生駒から逃れさせるが、これは生駒隊の罠であった。

住宅地の屋根の上の高さまで飛び上がってしまったものだから、隠岐と千佳の射線に乗ってしまったのだ。

ふたりともこのチャンスを逃すはずもなく、蔵内を集中攻撃。

隠岐の弾は蔵内の左肩を撃ち抜いた。

王子と樫尾は生駒と蔵内の間に入って守ろうとするが、蔵内の背後からバッグワームで近付いていた遊真には気付かなかったようで、蔵内は遊真によって首を落とされてしまったのだった。

 

 

 

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