ワールドトリガー ~ I will fight for you ~   作:ルーチェ

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92話

 

 

遊真によって蔵内が緊急脱出(ベイルアウト)させられてしまうと、王子は作戦変更を余儀なくされた。

やはり狙撃手(スナイパー)に狙われているとなれば動きは制限され思うようには動けない。

さらに残ったのはノーダメージの王子と右腕を落とされた樫尾のふたりだから、このままノーダメージの生駒と水上の相手をするのは不利で、また隙ができればそこを遊真に突かれる恐れもある。

ならば一旦隠岐の射程から離れ、生駒隊と玉狛第2を戦わせて疲弊した双方を落とすというのが無難なところだ。

実際、王子隊は素早く離脱し、生駒隊は屋根伝いに移動する遊真を追って行く。

屋根の上だから千佳の射線は通りまくりで、生駒と水上はなかなか遊真を捉えられない。

しかし千佳の居場所は弾道解析でバレてしまうことから、生駒は隠岐に千佳を任せて遊真を追うことにした。

 

 

(上手い具合にオサムくんがフリーになってる。今頃はワイヤーを張りまくっているんだろうな。市街地Aのマップならオサムくんもシオリさんも熟知しているからワイヤー陣を作るのに適した場所もわかっているだろうし。ここに敵を誘い込むことができればユーマくんの機動力はアップしてチカちゃんの鉛弾(レッドバレット)狙撃と合わせて玉狛第2の必勝ルートに導ける。でも相手が()の王子隊と()の生駒隊だもの、前回のように『無策で突っ込むワガママ隊長』率いる香取隊と『格上に慎重になりすぎて大胆な行動ができない隊長』の柿崎隊の時のようには簡単じゃない)

 

ツグミがそんなことを考えていると、また米屋が声をかけてきた。

 

「美琴ちゃん、キミはどこが勝つと思う?」

 

「…どの部隊(チーム)が勝ってもおかしくはありませんが、中距離戦の要の蔵内さんが落ちた王子隊はキツイですね。王子隊長と樫尾さんが追尾弾(ハウンド)を持っているとしても、彼らの専門は攻撃手(アタッカー)ですから。それに狙撃手(スナイパー)がいないというのも不利です。それから玉狛第2はいくらチームワークが良くても空閑さんが落ちたら点を取れる隊員がいません。過去の試合で三雲隊長も得点してはいますが、空閑さんとのコンビネーションあってのものですから、単独での得点は難しいです。雨取さんは鉛弾(レッドバレット)による狙撃ですから直接得点には至りません。一方生駒隊は…」

 

ツグミはそう言いかけて口をつぐんだ。

 

(マズイ…またやっちゃった。いつもの癖でつい…。相手が陽介さんだと油断してしまうのよね…)

 

「生駒隊は、何?」

 

途中まで言いかけたものだから、米屋はツグミの話の続きを聞きたいらしい。

 

(ここで急にわからないフリをしても怪しまれるだけだから、適当に言っておこう)

 

ということで、ツグミは続けた。

 

「生駒隊は南沢さんが落ちたもののまだ3人いますし、近距離・中距離・遠距離すべてに対応できるので一番有利です。なので()()()()()のは生駒隊じゃないかと思います」

 

「でも生駒隊はまだ無得点だぞ」

 

「まだ1点差ですから逆転は可能です。それに生駒隊長は№6攻撃手(アタッカー)ですし、さっき見た旋空弧月が凄かったです。カッコイイですよね、生駒隊長。わたしの武器(トリガー)も弧月ですから、あんなふうに使えたらいいなって思います。まあ、絶対に無理ですけど。…ほら、試合は進んでますよ。米屋先輩もわたしとおしゃべりなんかしていないで試合を見ましょうよ」

 

ツグミはメインモニターに視線を戻した。

それまで生駒と水上に追われるように見えた遊真であったが、ここで勝負に出たのだ。

 

(一対二で不利に見えるけど、屋根の上での戦闘だからチカちゃんの援護によってはいけると考えたのかも。でもあまりチカちゃんの存在を目立たせたくはないな…。行方のわからない王子隊のふたりがいるもの。わたしなら狙撃手(スナイパー)を先に始末しようと考えるから、チカちゃんと隠岐さんを捜すわね。たぶん王子さんも同じことを考えていると思う。狙撃手(スナイパー)のいそうな場所はだいたい想像できるし、弾道解析でおおよその場所はもうバレているから、今頃は王子さんと樫尾くんが二手に分かれて狙撃手(スナイパー)ふたりを捜しているところでしょうね)

 

狙撃手(スナイパー)は近寄られたらおしまいであるが、隠岐はグラスホッパーを持っているので王子に見つかった場合はひたすらその機動力を活かして逃げ回れば延命できるだろが、樫尾だと彼もグラスホッパー持ちであるからキツいと思われる。

そして千佳は…

 

(チカちゃんには追尾鉛弾(レッドバレット)という技があるけど、それを使えばシールドが使えなくなってしまう。逆に言えばシールドで防御している間は攻撃できないということ。彼女がノーマルな弾での攻撃ができないことはもう誰の目にも明らかだから、王子隊ならその状況を利用しないわけがない。ユーマくんは生駒さんと水上さんを相手にしているからチカちゃんの援護には駆けつけることはできそうにないし、そんなことをすれば敵をチカちゃんのトコに誘導することになるから絶対にない。あとはオサムくんのワイヤー陣まで逃げ切ればなんとかなる…かな?)

 

遊真が生駒と水上を相手にしている間に王子と樫尾は別行動をしていて、王子が隠岐を、樫尾が千佳を発見した。

 

(やっぱり見つかちゃったか…。チカちゃん大ピーンチ! 敵が樫尾くんだってことだけが唯一の救いだけど。…ただ王子さんも隠岐さんを追いかけるのは難しいってわかっているはず。だとすると樫尾くんと合流してふたりがかりでチカちゃんを挟み撃ちにするってこともありうる。そうなったらもっとヤバイじゃない!)

 

メインモニターには逃げる千佳の姿が映し出された。

そのタイミングで米屋がツグミに訊く。

 

「この後どうなると思う?」

 

「米屋先輩、ゴチャゴチャ話しかけないでください! 邪魔です!」

 

「あ、ああ…すまない」

 

ツグミの勢いに押され、米屋は退くことにした。

ツグミはというと、メインモニターから視線を逸らすことなくじっと見つめている。

 

(この様子だとチカちゃんはユーマくんと合流することはない。つまりオサムくんと合流するということは、彼女の行く先にオサムくんがいるということ。だとすれば王子さんもチカちゃんを追うに決まってる。樫尾くんと合流して一度にチカちゃんとオサムくんを叩くことができるチャンスだもの。オサムくんのワイヤー陣まで逃げ切ればなんとかなるかもと思ったけど、これはかなりヤバイわ。二対二でも戦力差は格段に違う。よほど上手く立ち回らないと一気にふたり落とされてユーマくんだけになっちゃうよ~)

 

 

千佳は追って来る樫尾に対して追尾鉛弾(レッドバレット)を撃つ。

しかしトリオン体の反応を追う探知誘導であるから、視線でより正確に誘導する視線誘導よりも命中率は低い。

よって樫尾には1発も当たらなかった。

もっともこれは敵に近寄られた時に使用する対抗手段であるから「これ以上は近寄らせない」という威嚇レベルのもの。

千佳自身もこれで樫尾を倒せるとは考えておらず、修と合流するまで耐えられればいいと思っているはずだ。

樫尾が千佳を射程に捉え、彼女に向けて追尾弾(ハウンド)を撃つ。

すると千佳はシールドで防御。

彼女の厚いシールドは破られることはないが、追尾鉛弾(レッドバレット)を撃つこともできない。

これが樫尾の作戦であり、攻撃密度を上げて千佳を防御に徹するよう仕向けることで 追尾鉛弾(レッドバレット) 対策とするわけだ。

機動力が上の樫尾ならこの作戦で接近するのは可能で、千佳は絶体絶命の状態である。

 

ところがこの危機は千佳の()()()()()()行動で回避することができた。

千佳は背後に樫尾が迫っていることに気付き、走りながら軽くジャンプをしたのだ。

まるでそこにワイヤーが張ってあり、それを飛び越えたのだと言わんばかりのものである。

それを見た樫尾は足を止め弧月を振るう。

そしてワイヤーがないことを確認した。

「そこに罠があると思わせることで敵の判断力を奪う」という冬島の持論を実行したかのような千佳の動きは彼女の命を救うことになる。

樫尾は追尾弾(ハウンド)を撃つが、突然現れた修のレイガストで防がれ、彼の背後にいる千佳が樫尾に追尾鉛弾(レッドバレット)で強襲した。

樫尾は大きくジャンプして逃げるが、今度は視線誘導であったから見事に樫尾の右脚に命中してしまう。

右脚に重石を付けられた付けられた樫尾は民家の屋根に落下。

修がスラスターで勢いを付けたレイガストで斬りかかり、樫尾は追尾弾(ハウンド)で応戦する。

それを千佳の両防御(フルガード)で修を援護し、修は樫尾をぶった斬った。

ここで樫尾が緊急脱出(ベイルアウト)

玉狛第2はこれで2点目をゲットした。

 

遊真は生駒と水上のふたりを相手に苦戦していた。

いくら遊真であっても独自の旋空の使い手で№6攻撃手(アタッカー)騙し討ち(ブラフ)射手(シューター)をひとりで相手するのだから当然と言えば当然である。

生駒の旋空を避けてジャンプした次の瞬間、隠岐の狙撃で遊真は右手を失ってしまう。

ツグミの予想どおり王子は隠岐の追跡をやめて、隠岐はフリーになっていたのだ。

 

千佳は無事に修と合流でき、一緒にワイヤー陣のエリアまで移動するようである。

しかしそこに王子が現れた。

隠岐を追うことをやめて姿を消していた彼は、やはり千佳と修が合流するのを狙っていたのだった。

ここまでに修はいくつかワイヤー陣を作っており、自隊に有利なエリアが完成している。

そこに遊真がたどり着き、そんな彼と修がタッグを組んで攻撃し、それを千佳が援護するというというパターンが玉狛第2の勝ち筋である。

よってここで千佳が落ちてしまえば遊真がワイヤー陣を使って攻撃しても効果は薄い。

修としては自分が落ちてしまってでも千佳を守らなければならないのだ。

王子は修に対し弧月で斬りかかり、千佳に対しては追尾弾(ハウンド)を撃つ。

よって修は(シールド)モードのレイガストで身を守りながら通常弾(アステロイド)で王子を攻撃し、千佳はシールドで防御をしながら逃げるという状態である。

王子は千佳に追尾鉛弾(レッドバレット)を撃たれたくないから常に彼女にシールドを展開させなければならず、よって修には片手で弧月を振るうしかない。

 

 

(オサムくん…あなたじゃ王子さんには敵わないわよ)

 

ツグミは修の動きに変化があったのを見逃さなかった。

修が千佳を逃がすために王子との一騎討ちに臨む気配を見せたのだ。

弧月はそこそこの重量があるために片手持ちは余程の手練でなければしない。

ツグミですら弧月は両手持ちが基本であるくらいだ。

そんな弧月を片手持ちしている王子を侮った…というのではないだろうが、修は「勝てる」と見込んでしまった。

王子は勢いをつけて斬りかかり、修の右腕を斬り捨てるとそのまま千佳目掛けて突進する。

修はスラスターで先回りをしスパイダーで赤色の混ざったワイヤーを張るものの、1度に張れるワイヤーの本数は限られる。

王子は弧月のひと振りで何本かのワイヤーを斬ってしまい、それを見た修は通常弾(アステロイド)で攻撃。

それを王子はシールドで防ぎ、右手を修の首に伸ばすと()()()()()()で首をひと突きにした。

これで修は伝達系切断により緊急脱出(ベイルアウト)

 

(やっぱダメだったか…。王子さんは弧月メインの攻撃手(アタッカー)だけど、サブトリガーにスコーピオンをセットしているの。それを知らなかったということはないと思うけど、咄嗟にそれを思い出すのは難しい。チカちゃんを守るためには勝負を決めるよりも時間稼ぎをするべきだったわね)

 

しかしそれよりも千佳が王子と一対一の状況となり、このままでは逃げ切れるとは到底思えない。

遊真も修が落ちたことで彼女の援護に向かうが間に合いそうにないのだ。

すると千佳は シールド を張りながら 巨大な(トリオンキューブ)を出現させた。

これは鉛弾(レッドバレット)が付加されていない()のもの。

人が撃てないからと得点できる場面でも鉛弾(レッドバレット)を付加して撃つ彼女が()追尾弾(ハウンド)を王子に向けて撃つことなどできるはずがない。

王子もそのことを知っているからはったり(ブラフ)だと判断したが、次の瞬間千佳は追尾弾(ハウンド)を撃った。

この展開は王子も予想していなかったようで顔が青ざめるが、64分割された弾は王子の直前の地面に着弾し、地面を派手に吹き飛ばした。

そして爆風と砂煙によって視界は遮られ、王子が動けないうちに千佳はその場から遁走した。

さらにワイヤー陣に無事に到着し、修の死も無駄にはならずに済んだのだった。

 

 

 

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