ワールドトリガー ~ I will fight for you ~   作:ルーチェ

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【ご注意】

敵性近界民(ネイバー)として『キオン』のトリガー使いが3人登場します。
原作中では国名と「雪原の大国」という二つ名(?)は出てきますが、詳しいことは描かれていません。
ですのでこちらに都合の良い設定をいくつか捏造させてもらいました。
名前は「ゼノン」「リヌス」「テオ」で全員男性、年齢はゼノンが30代前半、リヌスが20代半ば、テオが10代後半。
この内ひとりが(ブラック)トリガー使い、別のひとりはSE持ちです。
こちら側の世界にやって来たタイミングはアフトクラトルの大侵攻で、たくさんの(ゲート)が開いてトリオン兵がゾロゾロ出て来た時に、そのどさくさに紛れて潜入しました。
(その時、キオンも接近していましたから)
本文に出て来る「謎のトリオン兵」の名称は「ムース」、ラテン語でネズミの意味を持ちます。
さらに架空の国「エウクラートン」はギリシア語で「暖かい」という意味です。
エウクラートンはキオンに侵略され、現在は従属国に近い状態となっています。
なおそれ以外の情報についてはネタバレになるので伏せておきます。
以上、ご了承くださいませ。




99話

 

 

本部基地からそう遠くない警戒区域内の空き家となっている民家の一室。

そこで怪しげな3人の男たちが密談していた。

 

「とうとう玄界(ミデン)の連中にバレてしまいましたね、ゼノン隊長」

 

長身で細身の男にゼノンと呼ばれたリーダー格の男が忌々しげに言う。

 

「ああ。まだ例の()()が出ているかどうかわからん上に、現在標的(ターゲット)()に閉じこもっていてそう簡単には手が出せん。…ったく面倒なことになったな。だが捕獲されたムースはタマコマ支部に潜入させた1体だけ。他の2体は無事に回収できた。標的(ターゲット)の情報もいくつか手に入れることができたのだ、それだけでも良しとしよう」

 

「せめてセキュリティレベルの低いタマコマ支部にいてくれさえすれば、たかが小娘ひとりくらい簡単に拉致できるんですけどね」

 

3人の中で一番年若い男がそう言うと、ゼノンに窘められた。

 

「馬鹿を言うな、テオ。標的(ターゲット)はトリガー使い。それもアフトクラトルの(ブラック)トリガー相手に互角の戦いをするような兵士だ。トリオン切れで戦えない今がチャンスなのだが、如何せんガードが堅すぎる。リヌスの見立てでは標的(ターゲット)以外の連中もかなりの手練だ。戦うのはマズイ。俺たちの計画が漏れているとは思えんのだが、あの行動から判断すれば()()に気付いているのは確かだな。おまえもそう思うだろ、リヌス?」

 

「そうですね。タマコマ支部の連中の話だと標的(ターゲット)の娘は体調を崩して実家に戻っているということでしたが、実際には別の場所にいる。仲間すら欺いて居場所を隠すくらいです、何か根拠があってセキュリティの最も高い()に匿っていると思われます」

 

リヌスが言うと、ゼノンは大きく頷いた。

 

「俺もリヌスと同じ意見だ。おかげで我々は今のところ一切手出しができん。それでも標的(ターゲット)にはマーカーを付けてあるから居場所は把握できる。チャンスはこれからいくらでもあるさ」

 

「2日前に一度乗り物に乗って外へ出た時、マーカーを撃ち込むんじゃなくて襲撃してさらうべきだったんじゃないですか?」

 

テオの意見にリヌスが馬鹿にしたように反論する。

 

「相変わらず単純だな、おまえは。そんなことをすれば直ちに仲間に知られ戦闘状態になっただろう。私たちはトリガー使いではあるが戦闘要員ではなく諜報員だ。だから戦闘は最終手段。私たちは玄界(ミデン)の連中と戦争をしに来たのではないんだぞ。秘密裏に()()()()を回収するのが役目。無駄な騒ぎは御法度だ。それにたった3人で何ができると言うんだ?」

 

「だって隊長は(ブラック)トリガー使いじゃないですか。オレたちだって潜入部隊に選ばれるほどの腕利きトリガー使い。一方、標的(ターゲット)は戦えない小娘。それに一緒にいた男はトリガー使いじゃないって言ったのはリヌスだろ? やってやれないことはなかったとオレは思うけどなー」

 

「だから直情径行のおまえと一緒の任務は面倒なんだ。絶対におまえは諜報員に向いてない。ゼノン隊長もテオに言ってやってくださいよ。もう少し冷静に物事を考えろって」

 

「なんだと!?」

 

リヌスとテオが険悪な雰囲気になったところでゼノンが仲裁に入った。

 

「ふたりとも、喧嘩はよせ。俺たちは3人しかいないんだ、だから仲間割れなどしている余裕はない」

 

「「……」」

 

「ともかく標的(ターゲット)を攫って()()()()の在り処を吐かせる。場合によっては人質にして玄界(ミデン)の連中との取引によって()()()()を奪取する。これが我々に与えられた任務だ。任務を完遂すれば私たちは晴れて祖国へ帰ることができる。そして帰国した暁には一等市民として優遇される身分となるんだ。だからこんな場所でグズグズしてはいられない。しかしだからといって功を焦ってはいけない。いいな?」

 

「はい、わかりました、隊長」

 

リヌスは素直に返事をするが、テオは少々不満そうな顔をする。

 

「オレも早く帰りたいですけど…。玄界(ミデン)の食いもんって美味いじゃないですか? 近界(ネイバーフッド)から持ってきた携帯食料はもう飽きたし、オレ、もう少しこっちにいていろんなもんを食べてみたいですよ」

 

「それなら任務が終わって帰国する際、おまえは玄界(こっち)に残っていいぞ」

 

リヌスが冗談半分に言うと、テオは頬を膨らませた。

 

「ふざけんな! そん時はオレだって帰るさ。オレはアンタと違って純粋な ──」

 

「やめろ、テオ。それ以上は言うな」

 

ゼノンが割って入る。

 

「リヌスも今は我々と同じ偉大なるキオンの国民だ。出身地や出自がどうであっても本人に才能があれば抜擢する。それが我が祖国の理念だ。こいつの出身のエウクラートンは20年ほど前にキオンの従属国となったが、国民すべてが三等市民として一定の権利を有している。なにしろエウクラートンの人間は我々の持っていない特殊な能力を有し、従順で賢い。リヌスはトリガー使いとして、また諜報員として優秀であったから俺やおまえと同じく二等市民として領主様に召し抱えられたんだ。それを忘れてはいないはずだぞ。…そもそも俺も元は三等市民だ。幼年学校で剣の腕を磨き、(ブラック)トリガーの適合者となったことで二等市民に格上げされた。おまえだってそのことは知ってるだろ?」

 

「…はい。どうもすみませんでした」

 

素直に謝るテオ。

そしてリヌスにも言う。

 

「悪かった」

 

「いや、私も悪かった。おまえは私や隊長と違って国に家族がいて、誰よりも早く帰りたがっているのを知っていて意地の悪いことを言った。反省している」

 

リヌスとテオが和解するのを見て、ゼノンが言った。

 

「テオの言うことはもっともだ。たしかに玄界(ミデン)の食いものは美味い。せっかくだ、今夜は景気づけにコンビニとかいう店でおまえたちの好きなものを買ってやろう」

 

するとテオが目の色を変える。

 

「隊長、何でもいいんですよね!? オレ、ハンバーグベントーとナポリタンが食べたいです!」

 

「私は…カラアゲベントーとツナマヨオニギリがいいです」

 

リヌスも遠慮がちだがリクエストした。

 

「それなら俺はカツカレーとマーボードーフドンにしよう。あの辛さはなかなかイケる。キオンにはない味だ。…おっと、言っておくが()は任務に成功しての祝勝会の時だ。それまでは携帯食料で我慢してくれ。いいな?」

 

「「了解です!」」

 

リヌスとテオは改めて任務遂行に意欲を掻き立てられたのだった。

 

 

◆◆◆

 

 

キオンの諜報員がコンビニ弁当に舌鼓を打っていた頃、ツグミは自分を狙っている者の正体も知らずに迅との巡回任務のことを考えていた。

 

(ジンさんとふたりきりの任務は1年ぶりかな…? 昔はS級とA級無所属(フリー)ってことで良く組まされたっけ。わたしが玉狛支部に転属になってからは城戸司令や忍田本部長の()()はなくなったけど、ジンさんの()()の手伝いってことでいろいろ走り回った。みんなに内緒でこっそりと動いていたから、コナミ先輩に『迅に似てきた』とか言われたりもしたし。ボーダーが新体制になってからいくつも近界民(ネイバー)絡みの事件があって、そのほとんどをジンさんとわたしのふたりで解決してきたのよね。公にはなっていないけど)

 

城戸が最高司令官になってからは彼の「近界民(ネイバー)はすべて敵である」という思想が中心で、ごくたまに訪れる近界民(ネイバー)の対策には慎重な対応にならざるをえなかった。

そこで旧ボーダーのメンバーの中でも比較的自由度の高かった迅とツグミが()()に駆り出された。

敵対心のない近界民(ネイバー)に対しては捕獲して、近界(ネイバーフッド)やトリガー技術の情報と引き換えに保護もしくは第三国への送還などの対応をし、亡命の意思があり()()近界民(ネイバー)については希望があればボーダーで受け入れてきた。

亡命者についての対応が城戸()()らしくないと思えるが、それはボーダー創設時の経緯が大きく関わっているからである。

 

(ジンさんと一緒にいられるなら不安はないけど、ガロプラの再侵攻の可能性がある今、ジンさんの未来視(サイドエフェクト)が頼りなはずだから、わたしなんかのことで手を煩わしていいのかな? 忍田本部長ならともかく、あの城戸司令が許可したってことはわたしがさらわれるととんでもない不都合があるってことなのかも。まあ、トリオンが全回復すればそれなりの戦力となるわけだから失いたくはないとしても、たかが一隊員に対して特別待遇すぎる気がする。まだ近界民(ネイバー)が関わっていると決まったわけじゃないのに)

 

迅に「ツグミがいなくなる未来」が視え、正体不明の近界民(ネイバー)とトリオン兵の姿がチラホラするとなれば、両者に関連性があると考えるのは妥当である。

しかしツグミが考えるように「ツグミがいなくなる=近界民(ネイバー)による拉致」と断定されていないのだから、彼女には大げさすぎると感じてしまうわけだ。

 

(とにかくわたしが全快すればいいこと。そうすれば単独で行動でき、襲撃にあったら戦って倒すだけ。ノーマルトリガーならひとりでも3人くらいなら軽く叩きのめしてやるわよ)

 

ツグミを狙う近界民(ネイバー)の数は3人でビンゴなのだが、そのうちのひとりが(ブラック)トリガー使いであることを彼女は知る由もない。

 

 

◆◆◆

 

 

任務を終えて玉狛支部に戻った迅はレイジや修たち玉狛支部のメンバー全員にツグミに関する事情を話した。

単にトリオン切れで倒れ、生身の身体にも負担がかかってしまったからしばらく防衛任務とB級ランク戦に参加できないと知らされていたものだから、彼女が近界民(ネイバー)に狙われているかも知れないと聞いて全員が驚きを隠せずにいる。

特にゆりとクローニンは留守をしていて林藤や栞からの伝え聞きでしかなかったからかなりショックを受けているようだ。

そして謎のトリオン兵を捕獲したことで真実味が増し、由々しき事態であるとして全員一致で「迅の指示に従い、ツグミを全力で守る」と決まった。

今のところ具体的な内容は未定だが、明日の巡回の様子では検査結果を待たずにツグミを玉狛支部へ連れ戻すということだけは決定した。

 

 

レイジの運転する車で帰宅組が全員帰り、玉狛支部には居住組だけが残った。

そして居住組の迅はひとり屋上へ向かうと、そこから本部基地をぼんやりと見つめる。

 

「まだ視えないんだよな…」

 

玉狛支部一同でツグミを守ると決めたにも関わらず、彼女にとって()()未来はまだ迅には視えていない。

だから自分の行動に自信が持てなくなってしまっていて、不安と同時に意気地のない自分に嫌気がさしていた。

そんな彼のもとに意外な人物が近付いて来た。

 

「どうした、ヒュース? 俺に用があるなんて珍しいな」

 

「おまえに用事があるというわけではない。ただ貴様に話す方が良かろうと思っただけだ」

 

大規模侵攻の時に酷い目に遭ったことを未だに根に持っているヒュースだから、迅に話しかけるというのは非常に珍しい。

そんな彼が「迅に話す方が良い」と判断したくらいであるから余程のことであろう。

 

「それで俺に話したいことって?」

 

「例のトリオン兵のことだ」

 

ヒュースの言う「例の」とは玉狛支部で捕えた正体不明のトリオン兵のことである。

 

「アレが具体的にどこの国のものかはオレにもわからない。貴様も知ってのとおりトリオン兵の使用目的の主なものは戦闘用、情報収集用、トリオン能力者の捕獲もしくはトリオン器官の収奪だ。しかし()()()()では標的(ターゲット)に定めた相手の脳や神経系に働きかけ、相手に精神的な苦痛を与えたり行動を操ったりといった()()()な攻撃を仕掛けるために、標的(ターゲット)のいる根拠地や砦に小型トリオン兵を潜入させるという話を聞いたことがある」

 

興味深い情報に、迅は身を乗り出した。

 

「それは本当か? それでその()()()()というのはどこだ?」

 

「オレにも断言はできない。いくつかの属国を視察した時に一度耳にしただけだからな、証拠もなく信憑性に欠ける」

 

そう前置きしてからヒュースは言う。

 

「その国はアフトクラトルに匹敵する武力を持つ大国だが、その素顔は殆ど知られてはいない。独自のトリオン文化を持つ謎に包まれた国、雪原の大国『キオン』だ」

 

「キオン!?」

 

迅にとっては聞き覚えのある国名である。

先の大規模侵攻で襲撃してくる可能性のある国として名が挙がっていたものだが、意外なことで再び耳にすることになるとは思ってもいなかったから驚きである。

 

「ああ、あの国は領土こそ広いがその大部分が雪に覆われていて、けっして豊かな国ではない。食料事情も悪く、他国を侵略することで属国や植民地を増やし、自国民の胃袋を満たしているようだ。よってどの国よりも積極的に戦争を仕掛けており、アフトクラトルも100年以上も昔に十数年にも及ぶ長期の戦闘を行ったとヴィザ翁から聞いたことがある。だからキオンがさっき言ったような特殊なトリオン兵を開発しているのかどうか知る由もない。それにキオン以外の国の可能性もあるわけだから推測の域を出ない」

 

「……」

 

「敵の精神に働きかけるというのは一見消極的に見えるが、実際には非常に効率が良い。敵の戦闘意欲をなくすことで砦の無血開城ができる。それに捕虜に自白させるのも、洗脳して自国の兵士することも簡単だし、なにより味方の消耗がないから兵士は臆することなく戦場に向かうというものだ。死ぬとわかっている戦場に立ちたい兵士はいないからな」

 

「……」

 

「それとキオンは(ブラック)トリガー集めに熱心だ。本来なら敵を追い詰めすぎて(ブラック)トリガーを量産されると力関係が逆転してしまう可能性があって避けるものなのだが、キオンの奴らは違う。むしろ追い詰めて(ブラック)トリガーを作らせ、それを奪うということを繰り返しているらしい」

 

これまで近界(ネイバーフッド)のことについて一切口にしなかったヒュースがいくつもの情報を与えてくれたのは迅にとって驚きである。

それが直接ツグミの件と関係あるのかどうかはわからないが、それでもボーダーにとって非常に有用なものである。

 

「おまえがここまで近界(ネイバーフッド)の情報を教えてくれるとは思ってなかったから少し驚いた。どういう風の吹き回しだ?」

 

するとヒュースは不機嫌そうな顔になって答えた。

 

「オレは本国の主家に不利が生じる情報は話すつもりは今後もないが、敵となる国の情報を与えるのはやぶさかではない。キオンが(ブラック)トリガーを集めているのも、いずれアフトクラトルに侵攻する準備だと考えられる。つまり敵の敵は味方と言うことだ」

 

そしていかにもとってつけたような口ぶりで言う。

 

「それにツグミには世話になったからな、この恩を返さずに本国に帰るような不誠実なことはしたくない。理由はそれだけだ」

 

「そうか。おまえは遠征部隊に参加してアフトクラトルへ帰るんだもんな。ま、いずれにしても貴重な情報を感謝する」

 

「フン、これで貸し借りなしだ」

 

そう言ってヒュースは屋上を立ち去る。

その背中を見送りながら、迅は思いがけなく手に入れることのできた手がかりに喜びがこみ上げてきた。

 

(サンキュー、ヒュース。これでいくらかでもツグミの未来が良い方へ傾いた気がするよ。とにかく明日、何らかの動きはあるはずだろう。ここが正念場だな)

 

迅は本部基地の方を振り返る。

 

「ツグミ、おまえのことは俺が必ず守ってやる。だから俺を信じろ。…ってそんなことを言うまでもないか。おまえの俺に対する信頼は共に過ごした9年の歳月が証明してくれているんだからな」

 

自嘲の笑みを浮かべ、迅は自室に戻って行った。

 

 

 

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