ワールドトリガー ~ I will fight for you ~ 作:ルーチェ
敵性
原作中では国名と「雪原の大国」という二つ名(?)は出てきますが、詳しいことは描かれていません。
ですのでこちらに都合の良い設定をいくつか捏造させてもらいました。
名前は「ゼノン」「リヌス」「テオ」で全員男性、年齢はゼノンが30代前半、リヌスが20代半ば、テオが10代後半。
この内ひとりが
こちら側の世界にやって来たタイミングはアフトクラトルの大侵攻で、たくさんの
(その時、キオンも接近していましたから)
本文に出て来る「謎のトリオン兵」の名称は「ムース」、ラテン語でネズミの意味を持ちます。
さらに架空の国「エウクラートン」はギリシア語で「暖かい」という意味です。
エウクラートンはキオンに侵略され、現在は従属国に近い状態となっています。
なおそれ以外の情報についてはネタバレになるので伏せておきます。
以上、ご了承くださいませ。
本部基地からそう遠くない警戒区域内の空き家となっている民家の一室。
そこで怪しげな3人の男たちが密談していた。
「とうとう
長身で細身の男にゼノンと呼ばれたリーダー格の男が忌々しげに言う。
「ああ。まだ例の
「せめてセキュリティレベルの低いタマコマ支部にいてくれさえすれば、たかが小娘ひとりくらい簡単に拉致できるんですけどね」
3人の中で一番年若い男がそう言うと、ゼノンに窘められた。
「馬鹿を言うな、テオ。
「そうですね。タマコマ支部の連中の話だと
リヌスが言うと、ゼノンは大きく頷いた。
「俺もリヌスと同じ意見だ。おかげで我々は今のところ一切手出しができん。それでも
「2日前に一度乗り物に乗って外へ出た時、マーカーを撃ち込むんじゃなくて襲撃してさらうべきだったんじゃないですか?」
テオの意見にリヌスが馬鹿にしたように反論する。
「相変わらず単純だな、おまえは。そんなことをすれば直ちに仲間に知られ戦闘状態になっただろう。私たちはトリガー使いではあるが戦闘要員ではなく諜報員だ。だから戦闘は最終手段。私たちは
「だって隊長は
「だから直情径行のおまえと一緒の任務は面倒なんだ。絶対におまえは諜報員に向いてない。ゼノン隊長もテオに言ってやってくださいよ。もう少し冷静に物事を考えろって」
「なんだと!?」
リヌスとテオが険悪な雰囲気になったところでゼノンが仲裁に入った。
「ふたりとも、喧嘩はよせ。俺たちは3人しかいないんだ、だから仲間割れなどしている余裕はない」
「「……」」
「ともかく
「はい、わかりました、隊長」
リヌスは素直に返事をするが、テオは少々不満そうな顔をする。
「オレも早く帰りたいですけど…。
「それなら任務が終わって帰国する際、おまえは
リヌスが冗談半分に言うと、テオは頬を膨らませた。
「ふざけんな! そん時はオレだって帰るさ。オレはアンタと違って純粋な ──」
「やめろ、テオ。それ以上は言うな」
ゼノンが割って入る。
「リヌスも今は我々と同じ偉大なるキオンの国民だ。出身地や出自がどうであっても本人に才能があれば抜擢する。それが我が祖国の理念だ。こいつの出身のエウクラートンは20年ほど前にキオンの従属国となったが、国民すべてが三等市民として一定の権利を有している。なにしろエウクラートンの人間は我々の持っていない特殊な能力を有し、従順で賢い。リヌスはトリガー使いとして、また諜報員として優秀であったから俺やおまえと同じく二等市民として領主様に召し抱えられたんだ。それを忘れてはいないはずだぞ。…そもそも俺も元は三等市民だ。幼年学校で剣の腕を磨き、
「…はい。どうもすみませんでした」
素直に謝るテオ。
そしてリヌスにも言う。
「悪かった」
「いや、私も悪かった。おまえは私や隊長と違って国に家族がいて、誰よりも早く帰りたがっているのを知っていて意地の悪いことを言った。反省している」
リヌスとテオが和解するのを見て、ゼノンが言った。
「テオの言うことはもっともだ。たしかに
するとテオが目の色を変える。
「隊長、何でもいいんですよね!? オレ、ハンバーグベントーとナポリタンが食べたいです!」
「私は…カラアゲベントーとツナマヨオニギリがいいです」
リヌスも遠慮がちだがリクエストした。
「それなら俺はカツカレーとマーボードーフドンにしよう。あの辛さはなかなかイケる。キオンにはない味だ。…おっと、言っておくが
「「了解です!」」
リヌスとテオは改めて任務遂行に意欲を掻き立てられたのだった。
◆◆◆
キオンの諜報員がコンビニ弁当に舌鼓を打っていた頃、ツグミは自分を狙っている者の正体も知らずに迅との巡回任務のことを考えていた。
(ジンさんとふたりきりの任務は1年ぶりかな…? 昔はS級とA級
城戸が最高司令官になってからは彼の「
そこで旧ボーダーのメンバーの中でも比較的自由度の高かった迅とツグミが
敵対心のない
亡命者についての対応が城戸
(ジンさんと一緒にいられるなら不安はないけど、ガロプラの再侵攻の可能性がある今、ジンさんの
迅に「ツグミがいなくなる未来」が視え、正体不明の
しかしツグミが考えるように「ツグミがいなくなる=
(とにかくわたしが全快すればいいこと。そうすれば単独で行動でき、襲撃にあったら戦って倒すだけ。ノーマルトリガーならひとりでも3人くらいなら軽く叩きのめしてやるわよ)
ツグミを狙う
◆◆◆
任務を終えて玉狛支部に戻った迅はレイジや修たち玉狛支部のメンバー全員にツグミに関する事情を話した。
単にトリオン切れで倒れ、生身の身体にも負担がかかってしまったからしばらく防衛任務とB級ランク戦に参加できないと知らされていたものだから、彼女が
特にゆりとクローニンは留守をしていて林藤や栞からの伝え聞きでしかなかったからかなりショックを受けているようだ。
そして謎のトリオン兵を捕獲したことで真実味が増し、由々しき事態であるとして全員一致で「迅の指示に従い、ツグミを全力で守る」と決まった。
今のところ具体的な内容は未定だが、明日の巡回の様子では検査結果を待たずにツグミを玉狛支部へ連れ戻すということだけは決定した。
レイジの運転する車で帰宅組が全員帰り、玉狛支部には居住組だけが残った。
そして居住組の迅はひとり屋上へ向かうと、そこから本部基地をぼんやりと見つめる。
「まだ視えないんだよな…」
玉狛支部一同でツグミを守ると決めたにも関わらず、彼女にとって
だから自分の行動に自信が持てなくなってしまっていて、不安と同時に意気地のない自分に嫌気がさしていた。
そんな彼のもとに意外な人物が近付いて来た。
「どうした、ヒュース? 俺に用があるなんて珍しいな」
「おまえに用事があるというわけではない。ただ貴様に話す方が良かろうと思っただけだ」
大規模侵攻の時に酷い目に遭ったことを未だに根に持っているヒュースだから、迅に話しかけるというのは非常に珍しい。
そんな彼が「迅に話す方が良い」と判断したくらいであるから余程のことであろう。
「それで俺に話したいことって?」
「例のトリオン兵のことだ」
ヒュースの言う「例の」とは玉狛支部で捕えた正体不明のトリオン兵のことである。
「アレが具体的にどこの国のものかはオレにもわからない。貴様も知ってのとおりトリオン兵の使用目的の主なものは戦闘用、情報収集用、トリオン能力者の捕獲もしくはトリオン器官の収奪だ。しかし
興味深い情報に、迅は身を乗り出した。
「それは本当か? それでその
「オレにも断言はできない。いくつかの属国を視察した時に一度耳にしただけだからな、証拠もなく信憑性に欠ける」
そう前置きしてからヒュースは言う。
「その国はアフトクラトルに匹敵する武力を持つ大国だが、その素顔は殆ど知られてはいない。独自のトリオン文化を持つ謎に包まれた国、雪原の大国『キオン』だ」
「キオン!?」
迅にとっては聞き覚えのある国名である。
先の大規模侵攻で襲撃してくる可能性のある国として名が挙がっていたものだが、意外なことで再び耳にすることになるとは思ってもいなかったから驚きである。
「ああ、あの国は領土こそ広いがその大部分が雪に覆われていて、けっして豊かな国ではない。食料事情も悪く、他国を侵略することで属国や植民地を増やし、自国民の胃袋を満たしているようだ。よってどの国よりも積極的に戦争を仕掛けており、アフトクラトルも100年以上も昔に十数年にも及ぶ長期の戦闘を行ったとヴィザ翁から聞いたことがある。だからキオンがさっき言ったような特殊なトリオン兵を開発しているのかどうか知る由もない。それにキオン以外の国の可能性もあるわけだから推測の域を出ない」
「……」
「敵の精神に働きかけるというのは一見消極的に見えるが、実際には非常に効率が良い。敵の戦闘意欲をなくすことで砦の無血開城ができる。それに捕虜に自白させるのも、洗脳して自国の兵士することも簡単だし、なにより味方の消耗がないから兵士は臆することなく戦場に向かうというものだ。死ぬとわかっている戦場に立ちたい兵士はいないからな」
「……」
「それとキオンは
これまで
それが直接ツグミの件と関係あるのかどうかはわからないが、それでもボーダーにとって非常に有用なものである。
「おまえがここまで
するとヒュースは不機嫌そうな顔になって答えた。
「オレは本国の主家に不利が生じる情報は話すつもりは今後もないが、敵となる国の情報を与えるのはやぶさかではない。キオンが
そしていかにもとってつけたような口ぶりで言う。
「それにツグミには世話になったからな、この恩を返さずに本国に帰るような不誠実なことはしたくない。理由はそれだけだ」
「そうか。おまえは遠征部隊に参加してアフトクラトルへ帰るんだもんな。ま、いずれにしても貴重な情報を感謝する」
「フン、これで貸し借りなしだ」
そう言ってヒュースは屋上を立ち去る。
その背中を見送りながら、迅は思いがけなく手に入れることのできた手がかりに喜びがこみ上げてきた。
(サンキュー、ヒュース。これでいくらかでもツグミの未来が良い方へ傾いた気がするよ。とにかく明日、何らかの動きはあるはずだろう。ここが正念場だな)
迅は本部基地の方を振り返る。
「ツグミ、おまえのことは俺が必ず守ってやる。だから俺を信じろ。…ってそんなことを言うまでもないか。おまえの俺に対する信頼は共に過ごした9年の歳月が証明してくれているんだからな」
自嘲の笑みを浮かべ、迅は自室に戻って行った。