ワールドトリガー ~ I will fight for you ~   作:ルーチェ

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11話

 

 

夕食の後、ツグミたちはミーティングルームに集まって歓談していた。

話題の中心はツグミのことで、初めのうちは彼女の嗜好や趣味、日常生活などのプライベートな内容の質問攻めであった。

(以下抜粋)

 

Q:「霧科先輩の好きなものは何ですか? 食べ物以外で教えてください」

 

A:「モフモフした動物よ。特に猫が大好き。あ、でも犬も好きだし、ウサギとかハムスターとか、モフれるなら何でも好き」

 

Q:「じゃあ、きりしな先輩が嫌いなものは?」

 

A:「節足動物。簡単に言うと昆虫ね。特にゴキブリが大っ嫌い。昔、朝起きた時に寝ぼけて布団の上の黒い塊を掴んだんだけど、その手の中で動く()()の感触がトラウマになってるのよ。その物体の正体っていうのが体長6センチもある真っ黒なゴキブリでね、それ以来ゴキブリだけじゃなくそれ以外の昆虫もダメになったってわけ。ねえ、ユーマくん、近界(ネイバーフッド)にもゴキブリっているの?」

 

Q:「ツグミ先輩はお料理が得意ですけど、誰に教わったんですか?」

 

A:「母方の祖母よ。玉狛支部(ここ)に住むようになる前は祖母と叔父と一緒に暮らしていて、その時に習ったからメニューは和食が中心ね。特に叔父がだし巻き玉子が好物だったから、一所懸命練習したわ。今でも一番得意なのはだし巻き玉子。今度作るから食べてみてね」

 

Q:「そういえばツグミちゃんって読書が趣味なのよね。わざわざあたしの実家の本屋で良く買ってくれてるみたいだけど、特に好きなジャンルって?」

 

A:「興味があればなんでも読むので特に好きなジャンルというのはないです。純文学、ミステリー小説、哲学書、芸術関係の雑誌、アニメの原作コミック…等々。とにかくなんでもOKってことです。オサムくんたちも興味があったらわたしの部屋に来るといいわ。貸してあげるわよ」

 

Q:「そういえばさっき好きなものはモフモフした動物だって言ってましたけど、ぼくは霧科先輩が雷神丸をモフってるところを見たことがないです。なぜですか?」

 

A:「それね…。わたし、雷神丸に嫌われてるから。見つける度にモフって、モフりすぎたものだから、最近はわたしが近付こうとすると逃げちゃうのよ。餌で呼び寄せようとしてもダメ。玉狛支部の近くには野良猫さんもいないから、最近誰もモフってないのよ。…そういえば、ユーマくんってなんとなくモフりたくなるタイプなのよねー。モフらせてくれないかな?」

 

Q:「雷神丸といえば、去年ここでやったクリスマスパーティーのプレゼント交換で、わたしはツグミ先輩の羊毛フェルトで作った雷神丸のマスコットを貰ったんですけど、先輩ってすごく器用なんですね? とても可愛くて、通学カバンに付けてます」

 

A:「ああ、アレね。ありがとう。渡ったのがチカちゃんでほんとに良かったわ。レイジさんとかキョウスケじゃ似合いそうにないものだったから。羊毛フェルトってそんなに難しくないからチカちゃんでもできるわよ。今度一緒に作ろうか?」

 

Q:「きりしな先輩は学校へ行ってないみたいだけど、こなみ先輩とかとりまる先輩みたいに行かなくていいの?」

 

A:「わたしはインターネットというのを使って、学校へ行かなくてもいいシステムで勉強しているから。このシステムの一番いいところは時間を上手く利用できる点ね。他にもいろいろメリットがあるから卒業するまで続ける予定よ」

 

 

◆◆◆

 

 

そのうちに旧ボーダーや本部時代の話となった。

 

「以前に霧科先輩は剣術の師匠が忍田本部長だと言ってましたけど、千佳には叔父さんに習ったと言ったそうですね?」

 

修にそう訊かれ、ツグミが少し焦った顔をした。

 

「うん…まあね」

 

「それは普通に考えると忍田本部長は先輩の叔父さんっていうことになりますけど…」

 

「ここだけの話だけど、その通りよ。わたしの母の弟だから叔父」

 

「ええーっ!!」

 

修、遊真、千佳の3人は同時に声を上げた。

 

「実を言うと、わたしの戸籍上の名前は『忍田ツグミ』。でも『霧科ツグミ』という前の名前で通しているの。このことを知っているのは玉狛と旧ボーダーのメンバー、そしてごく一部の本部の隊員だけ。たぶん上層部でも鬼怒田さんたちは知らないはずよ。ボーダーに提出した書類でわたしの保護者は祖母の名前になっているから。だからみんなも黙っててね」

 

「どうしてですか?」

 

「だってこのことを公言する必要はないし、むしろ知られたら面倒なことになりそうだもの。だから秘密ってほどじゃないけど、あえて自分から言うこともないかなって。あなたたちにもいずれは話すつもりだったんだけど、すっかり忘れてたわ。ごめんね。アハハ…」

 

照れ隠しとばかりにツグミは頭をポリポリと掻く。

 

修たちは納得した。

ツグミは生まれつきトリオン能力が高いだけでなく負けず嫌いで、幼い頃から剣術の達人に師事して子供の頃から実戦を積み、日々の絶え間ぬ鍛錬で優秀な防衛隊員となった。

それが幹部の身内だから贔屓されたとか、2年前にクビにならなかったのも忍田が手を回したのだとあらぬ疑いをかけられるのが嫌なのだ、と。

 

「そうそう、ずっと話をしたいと思っていたけどきっかけがなくて話してなかったことがあるのよね…」

 

ツグミが遊真に話しかける。

 

「ユーマくんのお父さんの有吾さんのことだけどね、わたしは有吾さんに会ったことがあるのよ」

 

「そうなのか?」

 

遊真は自分の父親とツグミに接点があったことに驚く。

 

「今から9年前、わたしがジンさんの師匠の最上さんっていう人にトリオン兵から助けられた時のことなんだけど、そこに有吾さんもいたの」

 

「へえ~」

 

「それはあたしも初耳だわ」

 

栞が口を挟む。

 

「正確に言うと、別々に行動していたふたりはトリオン反応を察知して駆けつけてくれたんだけど最上さんが一歩早くて、最上さんがバムスターを一刀両断にした直後に有吾さんが到着。その後、有吾さんが足をくじいたわたしをおんぶして真史叔父さんのいるボーダー本部まで連れて行ってくれたのよ」

 

「ふむ…」

 

遊真は父親に関する自分の知らない部分に興味を持ったようだ。

 

「有吾さんは『俺にはお嬢ちゃんと同じくらいの年齢(とし)の息子がいる。いつかこちら側の世界に連れて来て俺の故郷を見せようと思うんだ。その時には友達になってやってくれ』って言ってた。有吾さんが亡くなってしまったのはとても残念で哀しいことだけど、こうしてユーマくんに会えたのはきっと有吾さんが引き合わせてくれたんだと思う」

 

「そうか…。だから先輩はおれの味方になってくれたのか?」

 

遊真の言葉にツグミは首を横に振る。

 

「そんなことはないわ。初めて会った時に空閑って名前を聞いてもしかしたらって思ったんだけど、ユーマくんが有吾さんの息子でなくてもわたしはあなたの味方になったわよ」

 

「…うん、そうだな。きりしな先輩はどことなく親父に似ているからな。強いやつは懐が広くてどんなやつでも受け入れる。そして誰からも慕われる。修以上に面倒見の鬼なところも親父に似ている。おれは先輩に会えて本当によかったよ」

 

遊真の嬉しそうな顔を見て、ツグミは有吾のことを思い出した。

 

(たしかに有吾さんは誰からも慕われていて懐の広い人だった。真史叔父さんも有吾さんのことを尊敬していたから有吾さんに借りた恩をユーマくんに返したいという気持ちで(ブラック)トリガー強奪未遂事件の時にも力を貸してくれたのよね。有吾さんは『ボーダーを玄界(ミデン)近界(ネイバーフッド)を結ぶ架け橋にしたい』と言っていた。玉狛支部のエンブレムが旧ボーダー時代のものを使い続けているのも有吾さんの遺志を引き継いでいるから。わたしたちは少しでも有吾さんの理想のお手伝いができているのかな…?)

 

 

 

 

ツグミたちがそんな会話をしていると、そこに本部に呼び出されていた迅が帰って来た。

 

「よう、みんなで何やってんだ?」

 

「ああ、迅さんお帰りなさい。今、ツグミちゃんの昔話をしていたところよ」

 

栞が迅に言う。

 

「ツグミの昔話?」

 

「はい、霧科先輩が空閑の親父さんと面識があったという話です」

 

修が説明すると、迅はツグミの隣に座って話し始めた。

 

「ああ、旧ボーダー時代の話ね。俺も有吾さんとは何度か会ったよ。豪快で面白い人だったな」

 

迅も加わって昔話が再開する。

 

「有吾さんはもともとこちら側の世界の人だったんだけど、何かのきっかけで近界民(ネイバー)と接触を持ったらしい。そして両方の世界を行き来して、お互いの世界が上手く付き合っていけたらいいと双方に働きかけていたんだ」

 

「何かのきっかけ、って?」

 

遊真が訊く。

 

「俺やツグミは何も聞かされてはいない。忍田さんや林藤さん(ボス)もそんな話をしたことはないから知らないと思う。まあ、知っているとしたら城戸さんくらいだろうな」

 

「ふむ…そうか」

 

遊真も城戸しか知らないとなれば諦めるしかない。

 

「有吾さんは城戸さんと最上さんと()()でボーダーを立ち上げ、そこに忍田さんや林藤さん(ボス)を引っ張り込んで旧ボーダーと言われる組織ができた。忍田さんは有吾さんにいろいろ世話になっていたから、遊真のことを気にかけてくれているんだよな。城戸さんはそんな素振りを見せることはないが、やっぱり親友の息子のことは気になるらしい。だからあんまり嫌いにならないでやってくれ」

 

「うん。別におれだってキドさんのことは嫌いじゃない。こちら側の世界の人間が近界民(ネイバー)を憎むのは当然だからな。それとおれを仲間として認め、親父の遺志を受け継いでくれている玉狛のみんなのことは大好きだよ」

 

遊真の言葉に胸がジンとくるツグミ。

 

(本来のボーダーの役目は異世界同士の架け橋となることだった。でもいろいろあって、今では近界民(ネイバー)からこちら側の世界の民間人を守る()()の組織になっている。それはそれで間違ってはいないけど、やっぱり有吾さんの遺志を大切にしなきゃいけないと思う。城戸司令だって昔は有吾さんの同志だったんだし、ユーマくんの存在がボーダーを変えるきっかけになるといいんだけど…)

 

さらに迅によるツグミの昔話は続いた。

 

「俺には兄弟がいなかったから小さいツグミが妹みたいに可愛くてさ、どこに行くにも連れ回してたんだ。ツグミも俺のことを慕っていて俺のそばを離れたがらなかったから、最上さんとの剣の稽古の時にもついて来て熱心に見ていた。この頃からボーダーに入るって決心してたんだろう。そのうちに自分も剣術を習いたいと言い出して、ツグミは最上さんに弟子入りした。たった1日で辞めたけどな」

 

「どうしてですか?」

 

修が身を乗り出して訊いた。

彼はボーダー隊員としてのツグミを尊敬し憧れているから、彼女のことをもっとよく知りたいのだ。

 

「忍田さんが反対したんだ」

 

「ああ、小さい女の子が剣術を学ぶなんて危険ですからね」

 

「いいや、違う。ツグミが自分を頼らずに最上さんの弟子になったって聞いてマジギレでさ、それも本人を叱るんじゃなくて俺に当たり散らしてひどい目にあったよ。忍田さんは最上さんのことを尊敬していたし仲も良かったけど、ツグミのことになると事は別だった。最上さんもツグミのことを実の娘のように可愛がるんだけど、忍田さんはそれを見て嫉妬し、最上さん以上にツグミを猫可愛がりする。それで忍田さんが最上さんに負けじと自ら剣の師匠となって彼女を育てたんだ。忍田さんも最上さんと同じくらい剣の達人だったからな。…それから忍田さんはああ見えてツグミのことになるとすげえ親バカだったんだぜ。例えるなら…嵐山が弟妹を溺愛してるカンジ? まあ、今ではその面影はほとんど見られないけど」

 

「はあ…」

 

この例えは非常にわかりやすく、その場にいた全員が納得した。

 

重すぎる愛情は、場合によっては向けられる当人にとって非常に迷惑である。

そこでツグミは時間をかけて忍田の「娘離れ」を促し、今に至る。

おかげで半年以上忍田家に帰らず、迅の計略によってやっと年末に帰省することとなったくらいだ。

ただ忍田本人は「自分はごく普通の父親で、15歳はまだ子供で親の手を離れるには早すぎだ」と今でも思っている。

 

「そんな感じで忍田さんは熱心にツグミに剣術を教えた。ツグミは忍田さんのことが大好きだし、剣の稽古自体も好きだったからメキメキと腕を上げていったよ。そして俺が最上さんに認められてボーダーに入隊した時に、忍田さんが『ツグミの方が剣の腕は上だ』と言った手前、ツグミが入隊したいと言い出したのをダメとは言えなくなってしまった。まあ、城戸さんたちは9歳の彼女を実戦に出すことはできないからと仮入隊にして、2年後の第一次近界民(ネイバー)侵攻がデビュー戦となったってわけさ。5年前の近界(ネイバーフッド)遠征の時にはひと騒ぎあったな。小南は参加していてツグミは留守番させたんだが、あの時は宥めるのが大変だった。自分も連れて行けってダダこねてさ。それで俺と勝負して勝ったら連れて行くけど負けたら諦めるという約束にしておとなしくさせた。遠征艇を見送るツグミの悔しそうな泣き顔は今でも良く覚えてるぜ」

 

迅による意外な事実の暴露によって、修たちは微妙な表情でツグミを見る。

その視線にツグミは穴があったら入りたい心境になってきた。

 

「ジンさん、もうこれくらいにしてください。はあ…なんだか自分の恥ずかしい部分が次々に曝け出されていくようで、居た堪れない気分だわ。今日は厄日かも…」

 

ツグミはそう言って頭を抱えるが、彼女にとってだけでなく三門市民全体にとっての本当の「厄日」はその翌日に訪れるのだった。

 

 

 

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