ワールドトリガー ~ I will fight for you ~   作:ルーチェ

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今回から「過去」編になりますが、葦原大介先生の「ワールドトリガー」という作品において修と遊真が出会う第1話以前(ボーダー創設期から5年前の同盟国支援のための近界(ネイバーフッド)遠征、及び第一次近界民(ネイバー)侵攻等)についてはほとんど語られていません。
そこでこの「過去」編はほぼ100%が想像・捏造で書かれています。
よってそういった内容がダメな方にはオススメできません。
平気な方は続けて読んでいただけると嬉しいです。
気になる点や、原作及び当作品の既存の流れとの矛盾などありましたら感想欄などで教えていただけたら幸いです。


本編に入る前にネタバレにならないレベルでの設定について記載しておきます。
BBF等で公式に発表されているキャラクターについてはそれを、わからないキャラクターはこちらに都合の良い設定にしました。

20年前の段階で、
オリバ:23歳、空閑有吾:22歳、最上宗一:22歳、城戸正宗:22歳、林藤匠:14歳、忍田真史:13歳
となっています。

「過去」編は下記のような流れで始まります。

■25年前
有吾(当時17歳)、近界民(ネイバー)と共に近界(ネイバーフッド)へ渡る。
軍に入隊し、その腕を見込まれて早々に前線へ。
嘘を見抜くサイドエフェクトがあったため、重宝がられて特別待遇を受けていた。
その後、軍を脱走して傭兵のようなことをしながら近界(ネイバーフッド)各地を回った。
■21年前
エウクラートンがキオンの侵攻(第一次侵攻)を受け、その際にオリバの師匠で家族ともいえる女性・ミリアムが(ブラック)トリガーになり、キオンを撤退させた。
この時の(ブラック)トリガーの使用者は死亡。
有吾はこの戦いでエウクラートン側に味方して戦い、オリバと知り合う。
■20年前
キオンによる第二次侵攻が起きる。
その時には「ミリアムの(ブラック)トリガー」の適合者不在であったため、管理者であったオリバが持ってエウクラートンを脱出。
有吾の手引きでこちら側の世界へと亡命する。


ツグミの両親及び彼女に関わる過去編の主要キャラについては本編を読んでいただければおわかりいただけると思いますので割愛させていただきます。
なお、しばらくは織羽や有吾からの「口伝え」を城戸が迅たちに語っているという形式で進み、会話文などはなく「地の文」が続きます。
ご了承くださいませ。





過去 ・ 城戸正宗の告白
107話


 

 

今から25年前、こちら側の世界から17歳の少年がひとり消えた。

突然開いた(ゲート)からふたりの近界民(ネイバー)が現れ、その少年を(ゲート)の向こう側の世界 ── 近界(ネイバーフッド)へと連れ去ったのだ。

いや、連れ去るというのは少々語弊があるかも知れない。

なにしろ本人が自らの意思で近界(ネイバーフッド)へ渡る決心をしたのだし、彼の保護者も渋々だが本人の意思を尊重したのだから。

その少年の名は空閑有吾。

のちに彼はこちら側の世界と近界(ネイバーフッド)の関係に大きく関わることになる。

 

 

有吾が生まれて初めて見た近界民(ネイバー)の印象は「こいつら、ヤバい」というものであった。

見た目は服装以外ほぼこちら側の人間と大差なく、どういう仕組みかわからないが言葉も普通に通じてコミュニケーションも可能だったのだ。

だから異世界から来た人間だとは思わず、変なコスプレをした外国人の不審者というイメージしかなかった。

まずここで「アブナイ連中(ヤバい)」と感じた。

もっともタダの変質者なら無視して通り過ぎれば良いのだが、「戦え」と本能が命じるものだから、携えていた剣道の竹刀で立ち向かった。

ところがこの不審者は()()を食らってもダメージを受けた様子はなく、有吾はこの得体の知れない人物を改めて「危険(ヤバい)」と判断したのだ。

ただしこの近界民(ネイバー)はアフトクラトルやキオンの人間と違い、無理やりに有吾を連れ去ろうとはしなかった。

強制連行で兵士にしても役には立たず、自分の意思で戦うことを選んだ人間の方が戦力になることを承知しているからである。

有吾に自分たちが異世界から来た人間だということ、そして自分たちの国は他国と戦争をしていて兵士を探しているのだと説明すると、有吾は俄然興味を持って詳しい話を聞きたがった。

そしてこれまではSFやファンタジー小説の中の話でしかなかった異世界が実在し、そこに行く機会を得たとなれば少年が心を動かすのも無理はない。

近界(ネイバーフッド)には魔王やドラゴンはいなくてもトリオン兵という怪物(モンスター)がいて、魔法はないもののトリオンというエネルギーを使った武器(トリガー)で戦うのだという。

話を聞けば聞くほど心奪われ、とうとう有吾は「異世界からの招待」に応じる決心をしてしまったのだった。

当時の彼は他を圧倒する剣の腕前を持っていた。

剣道の大会では出場すれば必ず優勝。

彼の右に出る者はおらず、その力を持て余していたというか、もっと強い者と戦いたいという欲求が溜まりに溜まっていたので、この近界民(ネイバー)との遭遇はまさに「渡りに船」であったわけである。

しかし彼は後先考えずに行動するような愚か者ではない。

自分が異世界に行くということでこちら側の世界にどれだけの影響があるのかは()()()()承知している。

突然自分が消えたら「家出」とか「失踪」または「誘拐」といった警察沙汰になり大騒ぎになる。

他人に迷惑をかけてまで自分の欲求を満たすというような勝手はできないと、まずは保護者に相談することに決めた。

有吾は物心つく前に母親を病気で、数年前には父親を事故で亡くしており、孤児になってしまったところを父親の親友である霧科文蔵(きりしなぶんぞう)に引き取られていた。

その文蔵に話をし、認めてもらえさえすれば後は文蔵が上手く後始末をしてくれるだろうということで、有吾はこともあろうか近界民(ネイバー)を連れて霧科家の屋敷に帰宅したのだった。

 

霧科文蔵は60代半ばで現役を退いて久しいが、その体躯や眼光は老人のそれには見えず、誰もが抱く印象は「ヤクザの大親分」である。

それも当然で、彼はかつて誰でも名前を聞いたことがある極道であったからだ。

一般的にいう反社会的勢力のトップであった男だが、若い頃から義侠心に溢れ、賭博、違法薬物密売、闇金融などといった違法手段には一切手を染めず、収益源はすべて不動産や土木といった事業、興行の元締めといった合法的な手段による()()()という非常に稀有な存在であったのだ。

さらに天災などによる被災地域が発生すれば組員総出で駆けつけて救助活動や炊き出し、自社の重機による土砂の除去といった支援をした。

よって世間的には尊敬される存在で、現在ではいわゆるゼネコンと呼ばれる大手土建業の相談役という名前だけの役職に就いている。

そういったことで政財界やアンダーグラウンドな世界など各方面に大勢の知己がおり、後にこれがボーダーの創設及び運営のために役立つこととなる。

博識で世話好きという面もあったから政界に推す人間も多かったが、本人はそういう野心は一切なく、60歳の誕生日に現役を引退してのんびりと隠居を決め込んでいた。

とある理由により生涯独身でいたが、親友との約束を守り、その息子 ── 有吾を引き取って育てるという漢気に溢れた豪気な人柄であった。

だから有吾が近界民(ネイバー)を連れて帰宅したことにも驚きはしたが、異世界からの()を拒むことはなく、むしろ珍しい客人であると歓迎までしたほどだ。

有吾が近界(ネイバーフッド)への渡航を希望したことにはもちろん難色を示したものの、最終的には本人の意思を尊重して許した。

もっとも自分がもっと若い頃ならば…などと考えていたような人であったから、この向こう見ずな有吾の願いを聞き届けたのだろう。

文蔵は有吾が近界(ネイバーフッド)へ渡った後、「有吾が学校帰りに失踪した」ことにして、警察には捜索願を出した。

当然、一部の警察幹部にはことを荒立てないように極秘で捜索を続けるようにと釘を刺しておくことも忘れない。

剣道№1男子高校生の失踪事件だとして初めのうちは世間も大騒ぎをしたのだが、時間が経つうちに皆が事件自体のことを忘れ、いつの間にか有吾のことは大勢の人間の記憶から消える去ることとなったのだった。

 

 

 

 

近界(ネイバーフッド)へ渡った有吾はその国の軍に入隊し、一兵卒としてすぐに戦場へ赴くこととなる。

生まれつきトリオンに恵まれており、剣術の心得があったことですぐにブレードトリガーの使い方をマスターし、「嘘を見抜く」というサイドエフェクトは隊の中で重宝がられた。

だから軍内部での扱いは厚遇であったので、彼に不満はまったくなかった。

有吾も初めのうちはリアルで切った張ったの戦闘ができるということで、新しい生活を楽しんでいた。

近界(ネイバーフッド)での戦いはトリオン体同士によるものだから敵を斬っても即死亡ということにはならない。

それが戦闘を()()()()理由でもあったのだが、ある戦場において彼は()()で人を死なせてしまうことになる。

敵が生身で、さらに持っていた武器もトリオン製のものでないことに気付かなかった有吾はいつものように敵を切り伏せた。

トリオン体で戦うのが当たり前の近界(ネイバーフッド)の戦争であるから、敵が生身であることなど想像もしていなかったのだ

自分が斬った敵が腹から大量の出血をして倒れているのを見て、そこで初めて敵が生身であったことを知った有吾は手に残った「人を斬る」感触に愕然とし、そのまま軍から脱走してしまったのだった。

 

無事に軍を脱走したものの、右も左もわからない近界(ネイバーフッド)でひとり生き抜いていくのは難しい。

有吾は自分が「異世界で活躍する勇者の物語」に憧れていた厨二のガキであったことに気付き、急に里心がついてしまう。

といっても玄界(ミデン) ── 近界民(ネイバー)たちがそう呼ぶ()()()()の世界 ── へ戻る手段などない。

さらに軍という組織が脱走者を見逃してくれる甘ちゃんではないこともわかっている。

そこで有吾は自分が生き残るための「戦い」に臨むこととなった。

ひとまず食べていくために働くわけだが、彼の持つ特技は剣を持って戦うことだけである。

そうなると職業の選択肢は狭まり、脱走して最初の職業は「用心棒」で、旅の途中の貴族のらしい人物の身辺護衛をした。

次は「傭兵」であった。

傭兵も必要とあれば人を斬らなければならない職業であるものの生きていくためには斬らねばならず、そのうちに「人を斬る」感触にも慣れてしまっていた。

それに軍にいた時よりも規則に縛られることはないものだから、彼は傭兵という職業(ジョブ)に満足していた。

 

そして傭兵暮らしをしながら近界(ネイバーフッド)のいくつかの国を巡り、21年前にたどり着いたのがエウクラートンという小国であった。

エウクラートンは国土の面積こそ小さく、国民の数も他の国々に比べると少ないが、その大地は豊かで日本のような四季のある国である。

さらにトリオンの研究やトリガー技術開発については有吾の知る国の中ではトップクラスで、なにより住民の容姿が日本人に近いものだったから親しみが沸いて長逗留することに決めた。

しかし「雪原の大国」と呼ばれるキオンがエウクラートンへの侵攻を開始し、有吾はこの国での生活を暢気に楽しむことはできなくなってしまった。

キオンはその名のとおり広大な国土を有してはいるもののそのほとんどが雪に覆われている。

よって国民を十分に養うことのできるだけの食料には恵まれず、他国を侵略してその国で生産される農作物や資源を奪うという手段を取るしかないのだ。

有吾はエウクラートンの義勇軍に加わり、のちに「第一次侵攻」と呼ばれる戦いに参戦した。

キオンは通常の「攻撃力の高い」武器(トリガー)とは違う「敵の精神に干渉して戦力を削る」タイプの武器(トリガー)を使用し、エウクラートンは次第に攻め込まれていく。

そしてもう後がないというほど追い込まれたところで、この国のトリガー開発部門の主任技術者(チーフエンジニア)でトリガー使いでもあったミリアムという30代の女性が(ブラック)トリガーとなり、キオンの大軍を退けて一時終結したのだった。

 

 

 

 

有吾とオリバが出会ったのは、第一次侵攻が終結した直後のことである。

師匠であるミリアムを喪いながらも、彼女の残した仕事を完遂させたオリバは新しいブレードトリガーの試用を依頼すべく義勇軍の詰所を訪れた。

そこで留守番をしていたのが有吾だったのだが、見た目がエウクラートンの人間と非常に良く似ていたため、オリバは彼が玄界(ミデン)から来たなどと想像もしていなった。

よってオリバは同胞に話しかけるような態度でいたものだから、有吾は面食らってしまう。

話が上手く噛み合わず、そのうちにお互い喧嘩腰での会話となり、さらには血気盛んなオリバが手を出すまでに至るが、そこに義勇軍のリーダーが現れて流血の惨事にならずに済んだという騒動があったのだ。

そんな誤解があったにも関わらず、このふたりが時空を超えた親友となるのに時間はかからなかった。

 

オリバはミリアムの後継として主任技術者(チーフエンジニア)に就任していた。

彼はミリアムの一番弟子で、特にブレードトリガーについては一家言を持っており、本人曰く他国からも注目されているとかいないとか。

その真偽はともかく、のちにボーダー初の武器(トリガー)「弧月」を生み出したオリバの実力は疑う余地はない。

キオンによる再侵攻が懸念されていたから有吾はしばらくエウクラートンに滞在することに決め、トリオンやトリガーの研究に参画するようにもなっていった。

年齢がひとつしか違わず、共に親きょうだいがいない有吾とオリバであったから、単なる友人以上の関係があったものと思われる。

彼らは特に何も語らなかったが、ふたりの間には「絆」と呼べる確かな結び付きがあったことは確かだ。

なにしろボーダーを立ち上げることになったきっかけが「俺たちがこうして親友(マブダチ)になれたんだから、他の連中も仲良くやれるんじゃね?」で、お互いの故郷を自由に行き来できるシステムを作ろうなどという夢物語を楽しそうに語っていたのだから。

 

 

◆◆◆

 

 

「歴史に『もしも』はない」と人は言う。

「起きてしまったこと」に対し、もし「起きなかったら」などと考えても意味のないことである。

しかし、もしキオンによる再侵攻がなければ、オリバが玄界(ミデン)へ亡命することもなく、ボーダーという組織も存在しなかったことだろう。

そういった点ではエウクラートンの人々の犠牲には哀悼の意を示すが、我々にとっては無意味ではなかったと言える。

有吾とオリバ、このふたりの出会いがすべての始まりで、今回のツグミの拉致事件もこのきっかけさえなければ起きなかった。

いや、ふたりが出会わなければ皆がボーダー(ここ)に集うことはなく、彼女もこの世に生まれることもなかったのだ。

 

 

城戸は一気にここまで語ると話を一時中断し、執務室の隅にある金庫を開けてボーダーで使用しているトリガーホルダーと良く似た形状の物体を取り出した。

そしてそれを机の上に置き、皆に見せて言う。

 

「これがキオンの連中の狙っている『ミリアムの(ブラック)トリガー』だ」

 

 

 






【107話の言い訳】

■有吾が近界(ネイバーフッド)へ渡った理由について
わたしたちが知っている空閑有吾が近界民(ネイバー)や捕獲用トリオン兵などに拉致されるとは想像できません。
そこで彼が自分の意思で渡ったということにしました。

■霧科文蔵の存在について
ボーダーを立ち上げるだけでなく、その後の運営には大金が必要なはずです。
また警察などの公的機関とトラブルを回避するために、各方面に影響力のある人物が必要でした。
元反社会的勢力のトップで世間的に尊敬されているというキャラのモデルは、幕末から明治期に活躍した清水次郎長です。
(彼は今でも地元では偉人として慕われています)

その他ご不明な点がありましたら、感想欄などからご質問をどうぞ。
ネタバレにならない程度にお答えいたします。


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