ワールドトリガー ~ I will fight for you ~ 作:ルーチェ
【ご注意】
120話では一話丸ごとツグミと迅がイチャイチャしています。
キスとハグが複数回あり、性的な内容の文章もあります。
表現をソフトにしていますのでR-18には程遠いレベルではありますが、そういったものがお嫌いな方は読まずにバックした方がよろしいかもしれません。
本話を読まなくても121話以降の物語を続けて読むことに問題はありません。
迅が食堂へ来なかったものだから、ツグミは心配して彼の部屋を訪ねた。
「ジンさん、入ってもいいですか?」
部屋のドアをノックして声をかけると、迅がドアを開けてツグミの腕を掴んで中へ連れ込んだ。
そしてドアを閉めるやいなや、彼女の身体を強く抱きしめる。
「ツグミ…無事で良かった…」
「ジンさん…」
公園で解放された時にも抱き合ったが、その時には忍田たちがいたから手加減したものであった。
しかし今はふたりきり。
誰にも遠慮する必要などないと、ツグミも少し大胆かとは思いながらも迅の背中に手を回して力を込めた。
(ああ、わたし、ジンさんと恋人同士のハグしてるんだ…)
これまでツグミは迅と
妹に徹していれば迅に抱きつくのも不自然ではなく、迅も彼女を妹として抱きしめる分には嫌がられないと考えていたのだが、お互いの気持ちを確認し合った後の抱擁はこれが初めてである。
(心臓がドキドキして胸が苦しいのにとても心地いい。ジンさんもすごくドキドキしてる。嬉しすぎて死にそう…。ああ、もう兄妹だった頃には戻れそうにないよ…)
迅の胸に顔を埋め、彼の鼓動と匂いを五感で感じながら幸せに浸るツグミ。
(これだけ近くにいても、やっぱりジンさんはわたしのお尻に触ろうとしないんだ。それはちょっと悔しいけど、いつかジンさんを魅了する美尻になってやるんだから)
そんなことを考えながら甘美な抱擁にウットリしていたツグミだが、突然迅が彼女の身体を突き放した。
そして迅はツグミの両肩に手を載せて、じっと彼女の目を見る。
「キス、したい。いいよな?」
「……」
ツグミは返事の代わりに目を閉じた。
すると迅はツグミ両肩を引き寄せ、少し上を向いて目を閉じている彼女の唇に自分のそれをそっと重ねる。
遠慮がちではありながらも迅の唇はツグミを求め、彼女もまたどうしたらよいのかわからず迅のなすがままに任せていた。
心を通わせたばかりの初々しい恋人同士のキス。
唇を合わせただけの幼くて稚拙なキスだが、ふたりは満足していた。
なにしろ昨日までお互いが「兄」と「妹」に徹しようとしていていたのだし、ツグミがゼノンたちにさらわれてキオンに連れ去られていたらキスどころか二度と顔を合わせることもできなくなっていたくらいだ。
このふたりには愛し合う時間は無限にある。
今はまだこれで十分なのだ。
身体を離すと目を見つめ合って照れ笑いをするツグミと迅。
ずっと焦がれていた迅とキスをしたことの嬉しさと恥ずかしさと感動で胸がいっぱいで、ツグミは自然と微笑んでしまう。
迅も身が震えてしまうほど嬉しいのだが、ツグミから三行半を突きつけられることを危惧していたものだからその不安が一気に払拭されて、自分の怯えがくだらなく感じてしまい、もう笑うしかないのだ。
ツグミと迅はベッドの端に並んで腰掛けて話をすることにした。
「キオンの人たちにさらわれて、怖いことはなかったけどすごく寂しかった…。ジンさんの声を聞いて泣きそうになったり、逢いたくて胸が苦しくなることもありました。でもジンさんから貰った指輪を見てあなたと繋がっていることを確認すると、気持ちがすっと楽になってあなたに守られているって感じて…。この指輪のおかげで無事に帰って来られた気がします。ジンさん、ありがとうございました」
そう言って迅の頬に軽くキスをするツグミ。
すると今度は迅が言う。
「俺は何もしてやれなかった。キオンの連中におまえが連れ去られた時、自分の不甲斐なさに心が折れそうになった。おまえが帰って来る未来も視えないし、頭がおかしくなりそうだったよ。そしたらおまえは自分自身の力で戻って来た。…俺のところに戻って来てくれてありがとな」
そしてツグミと同じように軽くキスをした。
「だけど城戸さんがミリアムの
「たしかにこの作戦は薄氷の上を歩くような危なっかしいものでしたが、運良くいろいろと情報を得ることができましたし、取引の際にわたしに都合が良い流れになるよう誘引しましたから『これはイケル』と判断して実行することに決めたんです。風刃があれば完璧というものになり、後はそれをどうやってジンさんたちに伝えるかで苦労しました。たぶんあなたなら気付いてくれると思い、一見意味のないように思える言葉に重要な意味を持たせたわけです」
「なるほどな…。それにしてもおまえの度胸には恐れ入ったよ。俺よりかずっと肝が据わってて、ちょっとやそっとじゃ動じない。俺の恋人は俺が想像していたよりずっと逞しい。俺が
バツが悪そうに笑う迅に、ツグミは抱きついた。
「恥ずかしくなんかありません。あの言葉はジンさんの本心で、わたしはとても嬉しかったから。わたしは今の…自分の弱さに挫けそうになったり、未来が視えない不安に怯えたりするあなたのことも含めて全部が好きです。いいえ、愛しています。だから今より強くなるのは大歓迎ですけど、それを義務だとは思わないでください。ジンさんがジンさんらしく、わたしのそばにいてくれることが、わたしにとっての最善の未来なんですから」
「ツグミ…」
ツグミの言葉に感動した迅は感極まって涙を浮かべた。
「俺もだ。世界中で誰よりもおまえのことを愛している。だからツグミはツグミのままでずっと俺の隣にいてほしい。それが俺の最善の未来だ」
「嬉しい…」
ツグミが迅の背中に回した手に力を込め、嬉しいという気持ちを全身で表現する。
そして迅の胸の中で言った。
「ねえ、ジンさん…。さっきわたしが後で大切なお話があるって言ったこと、覚えてますか?」
「あ、ああ…」
ツグミは迅から身体を離し、真面目な顔で続ける。
「わたし、玉狛支部を出てどこかに部屋を借り、そこでひとり暮らしをしようと思っているんです」
「それはどういうことだ!? たった今、俺はおまえにずっと俺の隣にいてほしいと言ったばかりじゃないか!」
迅にとっては寝耳に水の話で、この1年間ずっと一緒に暮らしていたことが当たり前であったわけだから、いきなり玉狛支部を出ると言われては混乱するのも無理はない。
「ええ。でも普通は恋人同士って別々の家に住んでいるものでしょ? だからたまに会えるから会えた時がとても嬉しくて、一緒にいる時間を大切にしたいって思うもの。同じ家に暮らしていて『ただいま』って帰って来て、『おかえり』って出迎える関係じゃ恋人同士っていう雰囲気じゃないですよ」
「まあ、それはそうだが…」
「そういうのは結婚してからたっぷりと味わえばいいんです。だからその前に恋人同士の時間を楽しむために、しばらくの間
「変ということはないが…」
迅は不満のようである。
それもそのはずで、いつも同じ屋根の下にいることでツグミを身近に感じていたわけだから、一緒に暮らせなくなるのは寂しいと感じるものだ。
するとツグミは迅の耳に口を近付けて言った。
「それに
「え?」
「気分が盛り上がって
「……」
「ジンさんだって
ツグミはそう言い終えると、迅の耳たぶに軽くキスをしてから身を離した。
本人はまったく無自覚であるが、彼女には天然の「男をたらし込む」才能があるのは間違いない。
ゼノンも彼女のリヌスに対する接し方を見てそう思ったが、本人は完全否定していた。
ツグミ本人にとってごく当たり前の自然な行為であっても、男性は「ついフラフラと引き寄せられてしまう」のだ。
これでは迅も不安を抱かずにはいられない。
ゼノンたちとの間にはいかがわしいことなど何もなかったと迅は信じてはいるが、無自覚に男をたらし込むような行為をするツグミであるから、キオンの誰が彼女に横恋慕している可能性はあると考えてしまう。
ならば自分の目の届く場所に常にいてほしいと思うのだが、「ツグミとふたりきりになれる場所」が欲しいもの正直な気持ちである。
「そうだな…ひとつ質問がある。さっきおまえは俺に迫られたら断れそうにないと言っていたが、それは仕方がなくという意味なのか?」
迅に訊かれると、ツグミは顔を赤らめてモジモジしながら首を横に振った。
「そんなことはありません。わたしだって…ジンさんとならえっちなことしたいです」
身長の関係から、ツグミが上目遣いで迅を見ることになる。
そんな目で「えっちなことしたい」などと言われて冷静でいられるはずがない。
(ヤベェ…ツグミってこんなエロ可愛いヤツだったのかよ~!)
迅の心の叫びなど露知らず、ツグミは彼の答えを期待の目で待っている。
(そんな目で見られたら今すぐしたくなるだろ、おい…)
胸中は「今すぐしたい」ではあるが、そうも言ってはいられないので気持ちを落ち着けて答えた。
「わかった。じゃ、時間ができたらふたりで適当な場所を探そう。おまえが住むんだから、オートロックで防犯設備と
「ありがとうございます、ジンさん」
ツグミは無邪気に喜んでいるが、迅に彼女の真意は伝わっていない。
彼女の言う「えっちなこと」とは布団の中で互いの身体を触ってイチャイチャするレベルだが、迅にとってはズバリS○Xであるから彼女の言葉は大胆で扇情的なものになる。
もちろん彼女だって年齢的に男女の営みについてはある程度の知識はあるものの、16歳の自分が
だから自分の発言が迅を煽っていることにまったく気付きもしない。
ツグミが
ゼノンたちは「女性は敬うべき対象である」というルールの中で生きてきたから我慢する術を身に付けているが、迅に同じルールを強いるのは不条理というもの。
同じ屋根の下にいれば迅が自分に欲情するだろうし、忍田も自分たちのことを疑うに決まっていると彼女は考えた。
恋人同士の時間うんぬんは後付けの理由である。
彼女自身はずっと玉狛支部で暮らしたいと思っていたのだが、いずれ独立しなければならない時が来ると覚悟を決めていた。
だからちょうどいい機会なのである。
「何だか安心したら急に腹が減ってきた」
迅が自分の腹を手で押さえながら言う。
「おまえに『後で大切なお話があります』なんて言われたものだから、何の役にも立てなかった俺に失望したとか言われるもんだとばかり思ってたから、食欲どころじゃなかったんだ」
するとツグミがクスクスと笑う。
「わたしがジンさんに失望? それは絶対にありえませんよ。こんなくだらないことで不安になって食欲をなくしてしまう情けないあなたのことも、わたしのことを大事に思うあまり自分の力不足を責めてしまうあなたのことも。そしてわたしを助けようとして必死になって戦ってくれるあなたのこともぜ~んぶ大好きなんですから」
「ツグミ…」
「今朝の電話の内容でわたしの計画が正しく伝わるかどうか少し不安がありました。でもジンさんならわかってくれると信じ、実行することに決めたんです。だから風刃を見付けた時、わたしはとても嬉しかった。そんなわたしがあなたに失望なんてするはずがありません。それどころかますますあなたのことが好きになりました。…さあ、一緒に食堂へ行きましょう。その後、本部へ行って城戸司令に事件の顛末を報告しなければなりません。ジンさんも一緒にいて、わたしの隣で聞いていてください」
「ああ、わかった」
そう言って迅が立ち上がると、続いてツグミも立ち、背伸びをして迅の首に両腕を巻きつける。
突然のことに迅は唖然としたが、ツグミは微笑むと自分の唇を迅のそれに押し当てた。
「ジンさん…大好き…」
そう小さく呟き、再び唇を重ねた彼女の頬を一筋の涙が伝ったのだった。