ワールドトリガー ~ I will fight for you ~   作:ルーチェ

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13話

 

 

(ゲート)発生、(ゲート)発生。大規模な(ゲート)の発生が確認されました。警戒区域付近の皆様は直ちに避難してください』

 

昼過ぎ、不気味な地鳴りと共に数十を超える(ゲート)が開き、その中からバムスターやモールモッドが溢れ出てきた。

さらに小型だが飛行能力のある未確認のトリオン兵が空を埋め尽くし、上空を覆う暗雲と共に人々を恐怖のるつぼに引きずり込んでいく。

トリオン兵は本部基地を中心として、西・北西・東・南・南西の5方向に分散しており、それぞれの方角で市街地を目指していた。

各個撃破していては間に合わないので、現場の部隊は大きく3つに分けられた。

東・南・南西の3方向の敵にA級B級の合同部隊を当たらせ、西と北西はそれぞれ迅とS級の天羽月彦(あもうつきひこ)が向かうこととなった。

これが忍田の出した現状でのベストな判断である。

C級は訓練生であるから戦闘には参加できないが、民間人の誘導や人命救助を任された。

その際に必要であればトリガーの使用もOK。

これはイレギュラー(ゲート)でイルガーが襲来した際、修が隊務規定違反とわかっていながらもトリガーを使用して民間人を救助したことを評価され、その後変更された規定(ルール)である。

防衛任務に就いていた部隊は忍田の指示で東・南・南西の3方向に散っていく。

非番の部隊が現着するまで彼らだけでトリオン兵が市街地へ侵入するのを防がなければならないが、この大規模侵攻を予見していたボーダーは市街地にいくつかの仕掛けをしておいた。

それで少しは時間を稼げるだろう。

 

 

◆◆◆

 

 

最初の(ゲート)が発生した時、ツグミは本部の食堂にいた。

館内に警報が鳴り響き、その場にいた訓練生たちは騒然となる。

しかしA級の嵐山隊や風間隊は顔色ひとつ変えず、忍田の指示で出動して行った。

 

チチチチ…

忍田からツグミに緊急呼び出しが入る。

 

[ツグミ、至急屋上へ向かえ。そして()()()()()で出現したトリオン兵を撃滅せよ!]

 

[霧科、了解しました!]

 

ツグミは返事をするやいなや、屋上へ向かう階段を一気に駆け上った。

 

「何、これ…? 第一次侵攻(あの時)の何倍いるの…?」

 

ツグミは数十を超える(ゲート)から百や二百では済まないおびただしい数のバムスターやモールモッドが溢れ出てくるのを目撃した。

振り返って逆の方角を見ても同じ光景が見られる。

彼女ですら見たことのない大量のトリオン兵が一斉に市街地へ向かって散って行く。

この昆虫のようなものが蠢く有り様を目にし吐き気を覚えるが、それを堪えてスラッシュを起動した。

 

「よし、片っ端から始末するわよ!」

 

ツグミはリザーブをセットしたスラッシュをイーグレットモードに設定し、射程・弾速・威力を調整する。

これらを細かく設定できるのがスラッシュの特徴であり、ベストな調整をすることでトリオンの節約にもなるのだ。

 

「射程…弾速…威力……設定完了。発射(ファイア)!」

 

スラッシュから放たれたトリオンの弾は正確にバムスターの頭を吹き飛ばした。

彼女にとってバムスターは羽虫程度のもの。いとも簡単に()()できる。

よって彼女は間髪入れずにスラッシュを撃ち続けた。

本部基地の屋上なら全方向に対応ができ、彼女の強化視覚(サイドエフェクト)とスラッシュなら地上でトリオン兵殲滅に携わっている他の隊員たちの支援となる。

彼女も意識して東・南・南西方面のバムスターやバンダーといった大型トリオン兵を中心に狙撃していて、本部基地内にいた隊員たちや非番で緊急招集を受けた隊員たちは順調に合流ポイントへ向かいつつある。

C級隊員による民間人の避難も進みボーダー側の優勢に見えたのだが、破壊されたバムスターの中から新型トリオン兵が出現したことで戦況は一変した。

 

[忍田さん、こちら東! 新型トリオン兵と遭遇した! サイズは3メートル強。人に近い形態(フォルム)で二足歩行。小さいが戦闘力は高い! 特徴として隊員を捕えようとする動きがある。各隊、警戒されたし。以上]

 

新型トリオン兵に最初に遭遇した南地区担当の東からの忍田へ通信が入り、全隊員に情報が共有された。

その直後、レプリカから忍田へ通信が入る。

 

[シノダ本部長、その新型はおそらくかつてアフトクラトルで開発中だった捕獲用トリオン兵・ラービットだ]

 

[捕獲用…!? 捕獲は大型の役目じゃないのか…!?]

 

これまで捕獲用といえばバムスターといった大型トリオン兵の役目と思われていたから、忍田が驚くのは当然だ。

そして次の言葉で驚愕する。

 

[ラービットは()()()()使()()()()()()()()()のトリオン兵だ。他のトリオン兵とは別物の性能と思ったほうがいい。A級隊員であっても単独で挑めば食われるぞ]

 

つまりA級でも部隊(チーム)で連携して戦わなければならないほどヤバイ奴であるということ。

その直後、東地区担当のB級10位諏訪隊がラービットと遭遇し、諏訪洸太郎(すわこうたろう)が食われてしまった。

そこに駆けつけた風間隊の援護があり、隊長を失った諏訪隊の堤大地(つつみだいち)と笹森日佐人(ささもりひさと)はB級合同部隊へと合流することとなる。

ほぼ同じ頃、東隊はB級13位柿崎隊と、そして南西地区担当のB級8位鈴鳴第一がB級19位茶野隊と合流し、それぞれラービットと戦闘状態となっていた。

そのせいでトリオン兵の群れが警戒区域を突破しそうになる。

市民に被害が出ることを危惧する根付が部隊を回すように忍田に言うが、忍田は部隊の合流を優先させた。

戦力をここで失えばこの先が苦しくなるということで、城戸は忍田の判断を支持する。

しかしそのやり方でラービットに手を焼けば、その間に市街地が壊滅するのは自明の理。

そこでラービットはA級部隊が止め、B級部隊は全部隊合同で市街地の防衛に向かうという案を忍田が出した。

それでは東・南・南西一箇所しか回れないと根付が異を唱える。

忍田も当然わかっている。それを承知の上で1ヶ所ずつ確実に敵を排除していくという方法を選んだのだ。

そうなると3つの地区をどう回るかが問題となる。

順番が後回しになればそれだけ被害が出るのは仕方がない。

忍田は「民間人の避難が進んでいない地区」を優先すると決めた。

そんな彼に城戸が言う。

 

「万が一、A級でも新型を止められなければどうする?」

 

「…有り得べからざることだが、その場合は私が出る」

 

「ノーマルトリガー最強の使い手」と称される忍田。

彼が出動するとなると、第一次近界民(ネイバー)侵攻以来となる。

そんな彼が最前線に出るということは非常に頼もしいのだが、逆に言えばそれだけ戦況が切迫しているということになるのだ。

 

 

◆◆◆

 

 

修や遊真たちは溢れかえるトリオン兵を前にして選択を迫られていた。

B級隊員は全員合流せよという指示が出されたことで、彼らは一度退かなければならない。

しかしそうなると千佳を含めたC級隊員を援護することができなくなる。

さらに避難が進んでいない地区を優先するということで、比較的避難がスムーズに進んでいる南西地区は後回しにされるのだ。

そこにラービットが出現。

とっさに修はレイガストで身を守るがラービットの強力な攻撃に押さえ込まれてしまう。

 

『強』印(ブースト)五重(クインティ)

 

(ブラック)トリガーを起動した遊真の蹴りでラービットは大ダメージを受けて吹っ飛んだ。

遊真に助けられた修だが、感謝の言葉より先に彼を心配する言葉が出てしまう。

 

(ブラック)トリガーは使うなって言ったろ! ぼくや林藤支部長じゃ庇いきれなくなるぞ!」

 

「けどこのままじゃチカがやばいんだろ? 出し惜しみしてる場合じゃない」

 

遊真の言う通りである。

城戸からボーダー入隊は許可されたが、ボーダーの規定(ルール)を守ることが絶対条件で、逆に言えば勝手に(ブラック)トリガーを使えばルール違反として城戸に(ブラック)トリガーを取り上げられる恐れがある。

しかし現在C級である遊真が近界民(ネイバー)と戦う手段は(ブラック)トリガーしかない。

それに強力な戦力となる(ブラック)トリガーを使わないでいられるほど余裕などないのだ。

 

突然、遊真が襲撃された。

襲撃者は茶野隊の茶野真(ちゃのまこと)と藤沢樹(ふじさわいつき)のふたりだ。

茶野の撃った通常弾(アステロイド)の弾が遊真に命中するが、遊真自身にはほぼダメージはない。

 

「命中した!! こいつボーダーじゃねーぞ! 人型の近界民(ネイバー)だ!!」

 

銃手(ガンナー)狙撃手(スナイパー)が使用する弾トリガーは流れ弾防止の安全処理がされており、生身の人間に当たっても痛みと衝撃で気を失う程度になっている。

つまり遊真が失神しないということは、彼の身体がトリオン体でできているということ。

おまけに(ブラック)トリガーを使ったところを目撃されている。

この状況でボーダー隊員以外のトリガー使いがいれば近界民(ネイバー)だと思うのは当然だ。

さらに修が事情を話す間もなくラービットが藤沢に襲い掛かり食われそうになる。

そこに嵐山隊が到着。

嵐山と時枝の一斉射撃でラービットは沈黙した。

これが新型トリオン兵・ラービット討伐の一番乗りとなる。

嵐山が茶野隊に遊真の事情を話し、彼が味方であることを教えたことで事が収まった。

そして警戒区域外で(ブラック)トリガーを使うことができない遊真の代わりに木虎が修と同行し、C級隊員の護衛に向かうこととなったのだった。

 

 

 

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