ワールドトリガー ~ I will fight for you ~ 作:ルーチェ
本部司令執務室には城戸、忍田、林藤、迅、そしてツグミという今回の事件の当事者が集まっていた。
まず忍田がゼノンたちから聴取した内容の報告をして、続いてツグミの口から大まかな流れが語られる。
その後、城戸たちによるツグミへの質疑応答となった。
それはゼノンたちの証言が正しいかどうかの裏付けであるが、彼女がゼノンたちを庇う様子が度を越していると思われたことも一因である。
普通なら拉致されたことで恐怖や不安により心的ダメージを受けるものだが、彼女に関してはそれが一切ない。
ストックホルム症候群も疑われたが、彼女が確固たる信念を持っているというか、その言動には揺るぎのない一本の筋が通っていて、医師が同席して彼女が
ツグミ自身もゼノンたちのことを強く庇い立てすると彼らに不利になることに気付き、態度を少し変化させていた。
彼女は今回の事件について「国家の命令に従って行動したとしてもゼノンたちは責任を免れることはできないが、処罰の軽減は検討の余地もありうる」と訴えた。
被害者であるツグミが加害者を擁護し、それも子供じみたワガママではなく道理に合った理由を説明するものだから、さすがの城戸も折れざるをえない。
ゼノンたちの処分については「人道的配慮を最優先とする」というアバウトではあるが絶対的ルールを挙げ、キオンのトリガーや遠征艇などの調査・解析が終わるまでは玉狛支部で拘束する ── ツグミは「滞在してもらう」という言葉を使った ── ことに決まった。
その先のことは未定であるが、ひとまずゼノンたちは
「今度はわたしから城戸司令に質問をさせていただきます」
ツグミはそう言うと大きく深呼吸をひとつしてから、おもむろに話を切り出した。
「お訊きしたいことはたくさんあります。父・織羽のことや、なぜ父が
この要求は不当なものではない。
彼女はミリアムの
さらにこれが原因となって
このまま「知らない」で済ますこともできるのだが、それが
ツグミの気持ちと強い覚悟を知ると、城戸はミリアムの
もちろん9年前の事件については織羽と美琴は無関係で、彼らの死はあくまで「交通事故」であると、これまでの「嘘」で押し切ることにした。
最後まで黙って話を聞いたツグミ。
さすがの彼女でも場合によっては使用者が死に至ることもありうると知ると顔が青ざめた。
「なかなか複雑で深い事情のある
「所有権だと…?」
城戸がツグミを見据える。
「はい、そうです。今のお話の中で、城戸司令は父の遺品であるミリアムの
「その必要はなかろう。使わないのだから適合者がいてもいなくても関係ない。ならば起動実験など必要はないはずだ。そしておまえが成人するまで私がボーダー総司令の立場で管理するのが道理だろ?」
「いいえ。『使わないのだから使える人間がいなくてもかまわない』という考えは間違いです。そもそも『使えない』と『使わない』は同じように思えても大きな違いがあります。『使えない』はいくら足掻いても『使えない』ですが、『使わない』は使える状況であってもあえて使用しないことを選んだ、ということになります。まあ、所有権はひとまず保留にしておくとしても、起動実験だけはさせてください。話の続きはそれからです」
ツグミの性格からすれば、彼女が起動実験をやりたいと言い出すのは誰もがわかっていた。
しかし適合者かどうかわからないうちに所有権を要求するとは想定外であったから、城戸たちは彼女の
ただ起動できなければ所有を諦めるだろうなどと甘い考えで、城戸は彼女のミリアムの
「…わかった。許可しよう。その代わり起動できないとわかったら…」
「はい、承知しております。さあ、皆さん一緒にまいりましょう」
◆
ミリアムの
[今から起動します。起動に成功したら合図しますので、その後指示したトリオン兵を出してください]
そして心を落ち着かせるために目を瞑って深呼吸をする。
「…トリガー、
ツグミが声を張り上げた瞬間、どこからともなく中年女性の声が聞こえた。
声と言ってもそれは耳に届くものではなく、脳に直接働きかけてくるもので、その声はツグミに問いかける。
(貴女はこのトリガーをどう使うの?)
(あなたこそ誰? …もしかしてミリアムさん?)
ツグミは声を出さずに心の中で返事をした。
(ええ、そうよ。私の名はミリアム。貴女はオリバの娘ね? 貴女なら
(わたしのやろうとしていることがあなたの考える
(フフッ、それもそうね。それなら私は貴女がすることをしばらく見守ることにするわ)
(もしわたしが使用者として不適格な人間だった場合はどうなるんですか?)
(その時は…死ぬだけよ。最初の適合者だった
(……)
(2番目の
(2番目ということは城戸司令のことですよね?)
(キド? 名前は忘れてしまったけど、彼も
(ひとつ訊いてもいいですか?)
(いいけど、何かしら?)
(このトリガーは生身の人間にも攻撃を加えて死なせてしまうそうですけど、何でそんな恐ろしいトリガーを作ってしまったんですか?)
(さあ…私にもわからないわ。私はただ故郷…エウクラートンの大切な人たちを守りたかっただけ。でもどんなトリガーだって使い方ひとつで人を死なせてしまうものよ。
ミリアムの
その代わりに管制室から忍田が呼びかける通信がツグミの耳に届く。
[ツグミ、どうしたんだ!? 大丈夫か!?]
[あ、はい…何か用ですか?]
ツグミは慌てて返事をした。
[起動に成功したというのにまったく反応がないものだから呼びかけたのだが、通信にも返答がない。だからずっと呼び続けていたんだぞ]
[呼び続けていたって、どれくらいの時間ですか?]
[そうだな…90秒くらいか]
(そうか…わたしはミリアムさんと話をしていて、この会話はわたしと彼女だけのものだから管制室にいる忍田本部長たちは知らないんだものね。わたしが適合者だったから
ひとまずそのことを考えるのは後回しにし、検証実験を続けることにする。
[すみません。それじゃトリオン兵を出してください。できれば数が多い方が良いのでラッドを100匹お願いします]
[わかった。だがおまえの身に何か異変が起きたら強制的に終了にするからな]
[了解です]
通信を切ると、忍田は訓練室内にラッドを出現させた。
部屋の中央にいるツグミを100匹のラッドが取り囲む。
その光景は虫嫌いな彼女にとって地獄絵図のはずなのだが、信じられないほど落ち着いている。
「
その掛け声と共に右手に浮かべた大きなトリオンキューブを125分割し、一気に放った。
すると分割された小さなトリオンキューブはラッドのトリオンに反応して飛んでいく。
ラッドの動きは素早いが、それを上回る速度があるから確実に追って行って命中し、余った25発は敵、つまりトリオン反応がなくなったために自然消滅した。
「すごい…特に狙いを定めたわけじゃないのに、敵だと認識しただけで勝手にトリオン反応を追って行く」
ツグミは
[次、行きます。今度は数を半分にして、モールモッドでお願いします]
続いて現れたモールモッド50匹に対し、ツグミは1度目よりも小さいトリオンキューブを出現させ、64分割にして放つ。
やはりさっきのラッドの時と同様にすべてのモールモッドを消滅させた。
(これ、すごい…。自分でトリオンの出力を調整できるみたい)
ボーダーの
彼女や二宮のように能力の高い者は大きなキューブとなり、修のように能力の低い者は小さなキューブとなるわけだ。
しかしミリアムの
(トリオンの使い過ぎで使用者がトリガーのコントロールができなくなって暴走するということだから、出力を調整して上手く使えば暴走事故も防げるんじゃないかしら?)
現在は仮想戦闘モードになっているからトリオン切れにもならないし暴走することもない。
だから安心して実験を行うことができたのである。
そしてこの情報を手に入れたことで次の