ワールドトリガー ~ I will fight for you ~   作:ルーチェ

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121話

 

 

本部司令執務室には城戸、忍田、林藤、迅、そしてツグミという今回の事件の当事者が集まっていた。

まず忍田がゼノンたちから聴取した内容の報告をして、続いてツグミの口から大まかな流れが語られる。

その後、城戸たちによるツグミへの質疑応答となった。

それはゼノンたちの証言が正しいかどうかの裏付けであるが、彼女がゼノンたちを庇う様子が度を越していると思われたことも一因である。

普通なら拉致されたことで恐怖や不安により心的ダメージを受けるものだが、彼女に関してはそれが一切ない。

ストックホルム症候群も疑われたが、彼女が確固たる信念を持っているというか、その言動には揺るぎのない一本の筋が通っていて、医師が同席して彼女が心的外傷後ストレス障害(P T S D)ではないという診断を下した。

ツグミ自身もゼノンたちのことを強く庇い立てすると彼らに不利になることに気付き、態度を少し変化させていた。

彼女は今回の事件について「国家の命令に従って行動したとしてもゼノンたちは責任を免れることはできないが、処罰の軽減は検討の余地もありうる」と訴えた。

被害者であるツグミが加害者を擁護し、それも子供じみたワガママではなく道理に合った理由を説明するものだから、さすがの城戸も折れざるをえない。

ゼノンたちの処分については「人道的配慮を最優先とする」というアバウトではあるが絶対的ルールを挙げ、キオンのトリガーや遠征艇などの調査・解析が終わるまでは玉狛支部で拘束する ── ツグミは「滞在してもらう」という言葉を使った ── ことに決まった。

その先のことは未定であるが、ひとまずゼノンたちは近界民(ネイバー)を憎む隊員たちから隔離することで、彼らの身柄の安全は保証されることとなる。

 

 

「今度はわたしから城戸司令に質問をさせていただきます」

 

ツグミはそう言うと大きく深呼吸をひとつしてから、おもむろに話を切り出した。

 

「お訊きしたいことはたくさんあります。父・織羽のことや、なぜ父が近界民(ネイバー)であったことをわたしに隠していたのかなど。ですが一番に知りたいのはミリアムの(ブラック)トリガーについてです。ゼノン隊長からはおおまかな能力は聞いていますが、彼らよりも詳しいと思われる城戸司令の口からお聞かせください」

 

この要求は不当なものではない。

彼女はミリアムの(ブラック)トリガーの所有者であった織羽の娘であり、正当な継承者である。

さらにこれが原因となって近界民(ネイバー)に誘拐されたのだから、知る権利を主張するのも当然なのだ。

このまま「知らない」で済ますこともできるのだが、それが近界(ネイバーフッド)を震撼させるほどの力を持つ(ブラック)トリガーであると知ってしまった以上知らぬふりはできない。

ツグミの気持ちと強い覚悟を知ると、城戸はミリアムの(ブラック)トリガーを彼女の前に置き、自分の知る情報を()()()彼女に打ち明けた。

もちろん9年前の事件については織羽と美琴は無関係で、彼らの死はあくまで「交通事故」であると、これまでの「嘘」で押し切ることにした。

 

最後まで黙って話を聞いたツグミ。

さすがの彼女でも場合によっては使用者が死に至ることもありうると知ると顔が青ざめた。

 

「なかなか複雑で深い事情のある(ブラック)トリガーであるということは良くわかりました。城戸司令がなぜその存在を隠し、キオンが20年も追い続けていたのかも納得がいきました。こんな危険なものを戦争に持ち込むとなると犠牲は計り知れないものとなります。…こうなると改めて()()をどうするか考えなければなりません。そこでまず()()の所有権をはっきりさせたいと思います」

 

「所有権だと…?」

 

城戸がツグミを見据える。

 

「はい、そうです。今のお話の中で、城戸司令は父の遺品であるミリアムの(ブラック)トリガーを正当な継承者であるわたしに真実と共に渡し、どうするのかをわたしに判断させるつもりだった、とおっしゃいました。成人してからということでしたが、こうなってしまっては今すぐにでもわたしに所有権を渡していただきたい。その上でわたしは起動実験をし、適合者であるか否か確かめてみたいんです」

 

「その必要はなかろう。使わないのだから適合者がいてもいなくても関係ない。ならば起動実験など必要はないはずだ。そしておまえが成人するまで私がボーダー総司令の立場で管理するのが道理だろ?」

 

「いいえ。『使わないのだから使える人間がいなくてもかまわない』という考えは間違いです。そもそも『使えない』と『使わない』は同じように思えても大きな違いがあります。『使えない』はいくら足掻いても『使えない』ですが、『使わない』は使える状況であってもあえて使用しないことを選んだ、ということになります。まあ、所有権はひとまず保留にしておくとしても、起動実験だけはさせてください。話の続きはそれからです」

 

ツグミの性格からすれば、彼女が起動実験をやりたいと言い出すのは誰もがわかっていた。

しかし適合者かどうかわからないうちに所有権を要求するとは想定外であったから、城戸たちは彼女の()()()()が読めない。

ただ起動できなければ所有を諦めるだろうなどと甘い考えで、城戸は彼女のミリアムの(ブラック)トリガー起動実験を許可することにした。

 

「…わかった。許可しよう。その代わり起動できないとわかったら…」

 

「はい、承知しております。さあ、皆さん一緒にまいりましょう」

 

 

 

 

ミリアムの(ブラック)トリガーを握りながら対近界民(ネイバー)戦闘用訓練室に入室したツグミは管制室にいる忍田に呼びかけた。

 

[今から起動します。起動に成功したら合図しますので、その後指示したトリオン兵を出してください]

 

そして心を落ち着かせるために目を瞑って深呼吸をする。

 

「…トリガー、起動(オン)!」

 

ツグミが声を張り上げた瞬間、どこからともなく中年女性の声が聞こえた。

声と言ってもそれは耳に届くものではなく、脳に直接働きかけてくるもので、その声はツグミに問いかける。

 

(貴女はこのトリガーをどう使うの?)

 

(あなたこそ誰? …もしかしてミリアムさん?)

 

ツグミは声を出さずに心の中で返事をした。

 

(ええ、そうよ。私の名はミリアム。貴女はオリバの娘ね? 貴女なら()()()()使い方がわかるわよね?)

 

(わたしのやろうとしていることがあなたの考える()()()使い方なのかどうかわかりません。変な期待はしないでください)

 

(フフッ、それもそうね。それなら私は貴女がすることをしばらく見守ることにするわ)

 

(もしわたしが使用者として不適格な人間だった場合はどうなるんですか?)

 

(その時は…死ぬだけよ。最初の適合者だった()のように…)

 

(……)

 

(2番目の()も適合者ではあったけど、使用者としては相応しくなかったわね)

 

(2番目ということは城戸司令のことですよね?)

 

(キド? 名前は忘れてしまったけど、彼も()()()()使い方をしたの。だから死にかけたのだけど、そばにいた仲間が彼の命を救った。彼はそれ以来使うことはなかったけど、それは懸命な判断だったわ)

 

(ひとつ訊いてもいいですか?)

 

(いいけど、何かしら?)

 

(このトリガーは生身の人間にも攻撃を加えて死なせてしまうそうですけど、何でそんな恐ろしいトリガーを作ってしまったんですか?)

 

(さあ…私にもわからないわ。私はただ故郷…エウクラートンの大切な人たちを守りたかっただけ。でもどんなトリガーだって使い方ひとつで人を死なせてしまうものよ。()の場合は標的(ターゲット)のトリオンに反応する弾を放つものだから、生身の身体のトリオン伝達脳やトリオン供給機関にも反応してしまう。それに使い過ぎると使用者のコントロールが効かなくなって暴走し、敵味方関わらずみんな死なせてしまうというだけ。だから私は使う人間を厳選するの。使ってはいけない人間には起動すらできないわ。起動できたふたりには()()()があったのだけど、どちらも私の見込み違いだった。そういうことで私は貴女がどう使うか、とても興味があるの。貴女には()()()がある。後は貴女次第。私を失望させないでね)

 

ミリアムの()はそこで消えた。

その代わりに管制室から忍田が呼びかける通信がツグミの耳に届く。

 

[ツグミ、どうしたんだ!? 大丈夫か!?]

 

[あ、はい…何か用ですか?]

 

ツグミは慌てて返事をした。

 

[起動に成功したというのにまったく反応がないものだから呼びかけたのだが、通信にも返答がない。だからずっと呼び続けていたんだぞ]

 

[呼び続けていたって、どれくらいの時間ですか?]

 

[そうだな…90秒くらいか]

 

(そうか…わたしはミリアムさんと話をしていて、この会話はわたしと彼女だけのものだから管制室にいる忍田本部長たちは知らないんだものね。わたしが適合者だったから(ブラック)トリガーに宿るミリアムさんの思念とわたしの精神が繋がったのかも?)

 

ひとまずそのことを考えるのは後回しにし、検証実験を続けることにする。

 

[すみません。それじゃトリオン兵を出してください。できれば数が多い方が良いのでラッドを100匹お願いします]

 

[わかった。だがおまえの身に何か異変が起きたら強制的に終了にするからな]

 

[了解です]

 

通信を切ると、忍田は訓練室内にラッドを出現させた。

部屋の中央にいるツグミを100匹のラッドが取り囲む。

その光景は虫嫌いな彼女にとって地獄絵図のはずなのだが、信じられないほど落ち着いている。

 

追尾弾(アピス)、起動!」

 

その掛け声と共に右手に浮かべた大きなトリオンキューブを125分割し、一気に放った。

すると分割された小さなトリオンキューブはラッドのトリオンに反応して飛んでいく。

ラッドの動きは素早いが、それを上回る速度があるから確実に追って行って命中し、余った25発は敵、つまりトリオン反応がなくなったために自然消滅した。

 

「すごい…特に狙いを定めたわけじゃないのに、敵だと認識しただけで勝手にトリオン反応を追って行く」

 

ツグミは追尾弾(ハウンド)ならば何度も使用したことはあるが、それよりもはるかに追尾能力が高いことに驚いた。

 

[次、行きます。今度は数を半分にして、モールモッドでお願いします]

 

続いて現れたモールモッド50匹に対し、ツグミは1度目よりも小さいトリオンキューブを出現させ、64分割にして放つ。

やはりさっきのラッドの時と同様にすべてのモールモッドを消滅させた。

 

(これ、すごい…。自分でトリオンの出力を調整できるみたい)

 

ボーダーの射手(シューター)用トリガーは弾の数や動きは自由に調整できるのだが、出力、つまりキューブの大きさは本人のトリオン能力に比例したものとなる。

彼女や二宮のように能力の高い者は大きなキューブとなり、修のように能力の低い者は小さなキューブとなるわけだ。

しかしミリアムの(ブラック)トリガーは出力までも調整できるようで、敵の数に合わせて出力を調整することによってトリオンの無駄遣いを防ぐことができるだろう。

 

(トリオンの使い過ぎで使用者がトリガーのコントロールができなくなって暴走するということだから、出力を調整して上手く使えば暴走事故も防げるんじゃないかしら?)

 

現在は仮想戦闘モードになっているからトリオン切れにもならないし暴走することもない。

だから安心して実験を行うことができたのである。

そしてこの情報を手に入れたことで次の()()がやりやすくなったことになり、ツグミは誰にも気付かれないようこっそりとほくそ笑んだ。

 

 

 

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