ワールドトリガー ~ I will fight for you ~   作:ルーチェ

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14話

 

 

修たちが嵐山隊と合流したのとほぼ同時刻、ボーダー本部基地にイルガーが強襲した。

イルガーは爆撃型のトリオン兵であり、一定のダメージを受けると自爆モードになる厄介な敵であることは周知されている。

つまり自爆モードになる前に完全に倒してしまわなければさらに被害が広がるということを、当然ツグミも知っている。

本部基地はトリオンを使用した頑強な防御体制を整えているが、何度も攻撃を受ければひとたまりもない。

迎撃用の砲台もあるが、本部基地のトリオンを大量に失えば今後の防衛体制に支障が出るのは明らかである。

ツグミのいる屋上はもっとも危険な場所であるから忍田から撤退命令が出るが、彼女は()()()()()でスラッシュの銃口をイルガーに向けた。

正面から向かってくるので、弱点である目に当てるのは彼女にとって造作もないことだ。

ただし力具合を誤ると自爆モードになり、弱点をカバーしてほぼ無敵状態になるので彼女は慎重に設定を変更する。

 

「アイビスモードに設定変更…射程80、弾速35、威力85…威力補正プラス100…発射(ファイア)!」

 

過去にアイビスで訓練室の壁にヒビを入れたトリオン量にプラス補正をかけた威力である。

たった1発でイルガーの頭から尾まで貫いた強力な弾は自爆モードになる間も与えずに撃墜させた。

その様子を本部作戦室で見ていた城戸や鬼怒田たちは驚愕する。

続いて2体目が向かって来るが、スラッシュのアイビスモードでは連射ができずツグミはどうすることもできない。

2体目は本部基地の砲台で迎撃するが、威力が足りず逆にイルガーを自爆モードにしてしまう。

こうなると手の打ちようがなく、イルガーの特攻をダイレクトに受けてしまった。

衝撃でツグミは十数メートル吹き飛ばされるが、すぐに体勢を整えて既に自爆モードに移行している3体目のイルガーに照準を定める。

 

「待て、こいつは俺の獲物だ!!」

 

突然現れてツグミを制止した人物はグラスホッパーを展開して大きくジャンプした。

 

「太刀川さん!?」

 

「旋空弧月!!」

 

太刀川は両手に弧月を握るとイルガーを十文字に斬り裂いた。

すると本部基地の30メートルという至近距離で大爆発するが、被害はほとんど出ずに済む。

そして4体目はツグミのスラッシュで撃墜。

それ以上の追撃はなさそうだ。

 

「ちぇっ、1匹だけかよ…」

 

不満げな太刀川にツグミが言う。

 

「イルガーはわたしの獲物ですよ。それを横取りして何を言っているんですか? …っていうか太刀川さんも本部待機だったんですね?」

 

「ああ。外でひと暴れしたいところだが、忍田さんの命令だから仕方がないんだよな…」

 

「さっきみたいに本部基地に直接攻撃されたらヤバイから、太刀川さんを手元に置いておいたってことですよ。頼りにされている証拠です」

 

「まあな。で、おまえが命令無視してイルガーを殺ろうっていうから、忍田さんが俺に助太刀しろってさ」

 

「命令無視ではありません。自身の判断で行動していいって許可もらってます」

 

「ああ、そうかい。あーあ、せっかく来てやったというのにたった1匹だぜ。こういう時、手柄は年長者に譲るもんだぞ、普通」

 

「いいえ、ボーダーの先輩であるわたしに任せておけばいいんです」

 

危機一髪の状況を乗り越えたことで、ふたりは仲良さげにふざけた会話を続けた。

太刀川は城戸派ではあるが、忍田の弟子であるからツグミとの関係は非常に良好なのだ。

 

「忍田さんも俺をこんなとこに閉じ込めておかないで、新型の討伐に向かわせてくれればいいのによ…。俺も新型、殺りてぇな…」

 

「大丈夫、そろそろ忍田本部長から連絡がありますよ。新型を斬れって」

 

ツグミが自信ありげに言うので、太刀川は怪訝そうに訊いた。

 

「なぜそんなことがわかるんだ?」

 

「わたしの未来視(サイドエフェクト)がそう言ってます。サイドエフェクトを持つ人間同士は長くそばにいるとお互いに干渉し合ってその効果が現れるんです。わたしはジンさんと付き合いが長いですからね、そのおかげでわたしも未来が視えるようになったんですよ」

 

「マジか!?」

 

「嘘です。そんなことはありません」

 

「……」

 

京介のような嘘をさらっと吐くツグミ。

太刀川は口をポカンと開けたまま固まってしまった。

それを見てツグミがクスクス笑う。

 

「つまり新型が隊員を捕獲しようだなんて想定外のことが起きているんから、個人(ソロ)総合並びに攻撃手(アタッカー)1位の隊員を温存しておける状況じゃないってことです。わたしの想像…というか、推理です。…って、ほら通信入ってますよ」

 

太刀川の通信機が着信を知らせている。

忍田からの通信が入ったようだ。

 

[あ、忍田さん? 今の見てました?]

 

[ああ。よくやったな、慶。次のおまえの相手は新型だ。斬れるだけ斬って来い]

 

[太刀川、了解]

 

望みが叶った太刀川はツグミにからかわれたことも忘れ、喜び勇んで本部基地を後にした。

続いてツグミに通信が入る。

 

[ツグミ、おまえは南西地区の応援に向かえ。おまえの後輩たちが苦戦している]

 

[なんですって!?]

 

[現在嵐山隊と合流し、遊真くんは嵐山隊と警戒区域内のトリオン兵の排除。三雲くんと木虎がC級の援護に回る。おまえは三雲くんたちとC級が本部基地まで退避できるよう援護してくれ]

 

[霧科、了解です!]

 

(状況はよくわからないけど、オサムくんたちがヤバイってことだけは確か。急がなきゃ!)

 

ツグミはスラッシュを抱えると屋上からジャンプした。

そして本部基地の外壁を斜めに駆け下りていく。

そんな彼女の姿を興味深げに見つめる者たちがいたことを本人は知る由もなかった。

 

 

◆◆◆

 

 

B級隊員は東隊のいる南地区に合流しつつあるが、鈴鳴第一はラービットに邪魔されて合流できずにいた。

その後、東地区に到着した風間隊はラービットを討伐。

トリオンキューブになった諏訪を救出し、堤と笹森を呼んで本部基地で技術者(エンジニア)に解析させることにした。

北西地区のトリオン兵を天羽が一掃したところに迅がやって来て西地区を任せた。

彼は敵がそろそろ本格的に動くと察し、自らが救援に向かわなければならなくなったのだ。

そしてとうとう南西地区にもトリオン兵が侵入。

ラービットが出現し、C級隊員たちが大混乱になる中、修と木虎が到着する。

これまでのラービットとは色の違う個体がC級隊員に襲いかかるが、木虎の足から脛にかけて覆うようにスコーピオンを展開する「脚ブレード」でラービットに蹴りを入れた。

すると援軍のようにモールモッドが出現し、修がモールモッドと対峙する。

修は日頃の訓練の成果が出て無事にモールモッドを撃破。

修がモールモッドを倒して戻ると、木虎がワイヤーと拳銃(ハンドガン)型トリガーで交戦中であった。

しかし装甲が厚くてトリオンの消費が激しいため、木虎はトリガーをスコーピオンに変更する。

ラービットがジャンプをして彼女は上からの砲撃を受けそうになるがそれは騙し討ち(ブラフ)で、ラービットは標的を民間人に変えて無差別攻撃を開始。

木虎がラービットを攻撃するも反撃にあい、右足を切り落としながら辛くもラービットを沈黙させた。

そして…その様子を見ていた「敵」は本格的な行動を開始した。

 

 

 

 

木虎がラービットを倒したことでC級隊員たちは歓喜の声を上げた。

しかしその喜びもつかの間、新たなラービットが3体出現する。

 

(そうか…C級のトリガーには緊急脱出(ベイルアウト)の機能がない。正隊員を捕まえようとしても緊急脱出(ベイルアウト)されては意味がないから、C級を狙えば難なくトリガー使いを捕獲できるってことだわ)

 

近界民(ネイバー)の目的がC級隊員だと察した木虎がC級隊員に避難を促した。

 

「逃げなさい、早く!! こいつらの狙いはC級隊員よ!!」

 

そう叫んだ次の瞬間、ラービットによって木虎が捕獲され、緊急脱出(ベイルアウト)する間もなく食われてしまったのだった。

続いて修がラービットの攻撃を受けレイガストで防御する。

民家の塀に吹き飛ばされるが、ダメージは軽微である。

A級隊員が食われ、B級隊員が頼りにならないとわかったC級隊員たちは蜘蛛の子を散らすように逃げ惑うが、千佳だけは怯えてその場で身動きできずにいた。

 

「何やってる、千佳!! 早く行け!!」

 

修は叫ぶがその声は千佳の耳に届かず、行方不明になった兄や友人、目の前で食われてしまった木虎の姿などが彼女の脳裏をよぎる。

そうこうしているうちにラービットが彼女の目の前に立った。

絶体絶命の状態に、修は彼女の名を叫んで駆けつけようとするが、ほぼ同時にアイビスの弾がラービットに命中した。

撃ったのは出穂である。

 

「チカ子に手ぇ出してんじゃねーぞ、こんにゃろー!!」

 

出穂は2射目を撃とうとするが、ノーダメージのラービットに捕われてしまう。

このままでは出穂がラービットに食われてしまうという状況に、千佳は何もできない。

 

「出穂ちゃ…」

 

「チカ子、逃げろ!! 走れ!!」

 

「逃げろ、千佳!!」

 

この先近界民(ネイバー)に狙われた時に自分で戦えるようになりたいと、千佳はボーダーに入隊することを決めた。

しかし現実には何もできず、周りの人間が自分のせいで犠牲になっていく。

それを目の当たりにした彼女は混乱していたが、とっさに出穂の落としたアイビスを掴んだ。

 

(出穂ちゃんはわたしが助ける!!)

 

千佳の放ったアイビスはラービットに大ダメージを与え、修がレイガストでトドメを刺した。

 

[忍田本部長、現在新型数体と戦闘中。木虎が敵に捕獲されました! 敵はまだ増える可能性があります! 狙いはC級隊員です!]

 

修が本部に連絡を入れると、忍田から心強い返答があった。

 

[あと少しだけ凌いでくれ。木虎の報告を受けて()()()()()()()()()がすでにそちらに向かっている]

 

[ボーダー最強の部隊…!?]

 

 

◆◆◆

 

 

遠征艇内の近界民(ネイバー)たちは千佳の放ったアイビスのトリオン反応に注目していた。

 

「なんだ…!? 今のトリオン反応は…(ブラック)トリガーか…!?」

 

リーダー格の男・ハイレインがモニターを凝視しながら言うと、その脇で若い女・ミラが答える。

 

「いえ、(ブラック)トリガーではありません。反応は通常(ノーマル)トリガー…のはずです」

 

ハイレインは千佳に興味を示した。

 

「思いがけず『金の雛鳥』か。作戦変更だ」

 

色黒で背の高い男・ランバネインと、右目が黒く染まっている男・エネドラに言う。

 

「ランバネイン、エネドラ、おまえたちは予定通り(ゲート)で送り込む。玄界(ミデン)の兵を蹴散らしてラービットの仕事を援護しろ。だが無理をする必要はない。あくまで戦力の分散が目的だ。危険な場合はミラのトリガーで()()する」

 

「危険? オレが玄界(ミデン)の雑魚にやられるわけねーだろ!」

 

エネドラが不機嫌そうに言い放つが、ハイレインはエネドラを無視してこの中で唯一角のない老齢の男・ヴィザと、一番年若いと思われる男・ヒュースに向かって言った。

 

「ヴィザ、ヒュース、おまえたちは『金の雛鳥』を追え。もしかすればここで新しい『神』を拾えるかもしれない」

 

こちらのふたりはハイレインの指示に黙って頷いた。

 

「それから…あのイルガーを撃墜(おと)した玄界(ミデン)の女にも要注意だ。イルガーを通常(ノーマル)トリガーの一撃で仕留めるだけのトリオン量とトリガーを持っているとなれば、あれが『金の雛鳥』の護りに回ると厄介なことになる。ミラ、ラービットを送り込んで邪魔をしろ。雛鳥以外は緊急時に戦場離脱できるようだが、すぐには戦闘に復帰できないことはわかっている。それに上手く捕まえることができたなら、飼い慣らして戦力にしても良いだろう」

 

「了解しました、ハイレイン隊長」

 

ハイレインとミラの視線の先には飛行型トリオン兵によって撮影されているツグミの姿があった。

 

 

 

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