ワールドトリガー ~ I will fight for you ~ 作:ルーチェ
131話
B級ランク戦Round7・昼の部に参加する玉狛第2のメンバーは車2台に分乗して本部基地へと向かった。
ツグミはというと玉狛支部に残り、ゆりや陽太郎たちとミーティングルームで観戦することになる。
本当なら本部で観戦したいのだが、ゼノンたちに「ボーダーの主力であるB級部隊の実力」を見てもらうために残ったのだ。
敵性
しかし彼らを敵だとは思わず、
過去にはヒュースの例もあるし、第三者の目から彼らの戦いを判断してもらうこともできると林藤も乗り気である。
テオと仲良くなった陽太郎はゆりに頼んで「いいとこのどら焼き」を用意させ、試合開始の30分も前からゼノンたちをミーティングルームに案内し、自らB級ランク戦のシステムの説明をするほど熱が入っていた。
そして開始5分前になってやっとツグミの用事が済み、ミーティングルームへとやって来た。
向かい合った長椅子の一方にゆりと陽太郎とテオが、もう一方にはゼノンとリヌスが腰掛けており、リヌスがツグミに自分の隣に腰掛けるよう促す。
あからさまに「ここに座れ」というものではなく紳士が淑女に席を譲るようなごく自然な立ち居振る舞いなものだから、ツグミも軽く会釈してリヌスの隣に座ると解説を始めた。
「B級ランク戦のシステムについてはヨータローから説明があったと思いますので割愛させていただきます。本日のRound7・昼の部は影浦隊、玉狛第2、東隊、鈴鳴第一の四つ巴戦です。玉狛第2は暫定4位で、あと2戦で目標の上位2位までに入るためには暫定2位の影浦隊との得点差を縮める必要があり、この直接対決で大量点を取っておかなければいけません」
モニターには各
音声はないのでどんな内容の会話をしているのかわからないが、ツグミにはおおよそ見当が付いていた。
「たぶんヒュース隊員のことについていろいろ議論していると思われます。先月行われた入隊式で派手にデビューしていますから、彼の存在については知っていても、玉狛第2のニューフェイスとしてランク戦に登場してくるとは想像していなかったはずです。新生玉狛第2は点の取れる
そのうちにステージが決まり、鈴鳴第一が選んだ「市街地D」の景色が映し出される。
「『市街地D』とは面白いマップを選んだものです。このマップは市街地と言いながらもメインの戦場は中心にある大型ショッピングモールになります。屋外にいると
「しかしこの建物ですと階層が多くてチームメイトが合流するのに難儀するのではありませか?」
リヌスが疑問を口にする。
「はい。レーダーを使用してもマップ上の位置はわかりますが高さまではわかりません。そうなると密に連絡を取り合い、オペレーターの支援が重要となります。できるだけ早く合流したいですが、敵がバッグワームでレーダー上から消えているでしょうから、その移動中に思わぬところで敵と遭遇して準備不足のまま戦闘となることもありえますから十分に注意しなければなりません」
「あなたは
ツグミは自分のランク戦の話をしていないので、この情報源は陽太郎であることは間違いない。
きっと自分のことのように自慢げに話したのだろう。
リヌスの質問にツグミは少し考えてから答えた。
「鈴鳴第一がこのステージを選択したのはショッピングモールというフィールドを効果的に利用する作戦を組み立てているからでしょう。ならばその作戦の根本を序盤で崩させます。まずチームメイトがいない、という
「なるほど…。自分以外がすべて敵であるからこその戦術ですね」
「はい。もっともチームメイトがいても攻撃する前に彼らを避難させておけば問題はありません。ですから同じように
ツグミは自身の経験や知識を元にそう答えたが、その時にはまさか自分の想像したとおりになるとは思ってもいなかった。
「さあ、転送開始まであと60秒です。出場する隊員たちはみんな緊張してドキドキしている頃でしょう。わたしはこの転送直前の緊張感がたまらなく好きなんですよ。実際に戦う方が楽しいですけど、こうして観戦するだけでも十分興奮しますね」
身を乗り出しながらモニターを見つめるツグミの姿はミリアムの
(ツグミちゃんは昔から責任感が強くて何でも頑張っちゃうコだったから、今回も面倒事を全部自分で引き受けていっぱいいっぱいになるんじゃないかって思ってたわ。でもこの様子なら大丈夫そうね)
旧ボーダー時代からの付き合いであるゆりはツグミにとって「姉」である。
小南は年長であり仲は良いのだがツグミ本人よりも子供っぽいものだから相談相手にはならず、困ったことや悩みごとがあればほぼ100%ゆりに相談していた。
(レイジくんの話だとアフトクラトルとの戦いで危ない目に遭ったり、トリオンの使い過ぎで倒れたりと私が
ツグミがゆりに何も言わないということは、心配をかけたくないというのではなく現状では何も問題がないということであった。
実際、ミリアムの
ただツグミの「全てにおいて全力投球」する性格は長所でもあり、自分を追い詰めてしまうことにもなる欠点でもあるのだ。
◆
モニターの向こう側ではカウントダウンが続いており、カウントがゼロになったところで「市街地D」のフィールドに映像が切り替わった。
「夜…?」
ツグミが呟いたように、モニターには夜の街並みが映し出されていた。
建物の窓からこぼれる照明の明かりや街灯などが夜の闇を幻想的なものにしている。
Round4で玉狛第3、つまりツグミも時間帯を夜に設定して効果を上げており、このステージを選んだ鈴鳴第一もこの暗さを何らかの形で利用しているのは明らかであった。
「中央のショッピングモールの中に3人、残りの10人が屋外に転送されたようです。そして
ツグミが解説を始めるが、さっそくゼノンが質問してきた。
「夜ってことは
「まあ、当然そう考えるでしょうけど、オペレーターの視覚支援を受ければ暗闇でも特に問題はありませんから。…あ、でももしかしたら…!」
ツグミはゼノンの疑問から視覚支援のことを思い出し、それを利用した戦術を思いついた。
「以前にわたしも『夜』を利用して戦ったことがあります。しかしその時は戦闘エリアを屋外限定にしたので全員が戦闘終了まで『暗視モード』でいたはずです。夜の闇に紛れるために『黒いバッグワーム』を使用したり、
「……」
ゼノンたちはツグミの話をじっと聞いている。
「今回の鈴鳴第一の作戦は屋外戦闘ではなく屋内戦闘がメインのはずです。そうなると『通常モード』と『暗視モード』の切り替えを上手く利用するのではないかと思ったんです。屋内の照明のオンオフを切り替えることで『通常モード』と『暗視モード』とを切り替える必要が出てきて、それが支援するオペレーターにとっては負担となるはずです。戦っている隊員自体ではなくオペレーターに負担をかけるという一見遠回りに見える『嫌がらせ』のような戦術ですけど、今回の試合のように敵の数が多い場合にはかなり有効な手段だといえるでしょう。
ツグミは大規模侵攻における論功行賞授賞式の際に行われた模擬戦で、太刀川を明るい屋外から暗い倉庫の中におびき寄せて視覚を奪ったことで勝利を得ている。
人間は五感の中で視力に頼る部分が大きいため、その視力を封じられると手も足も出なくなる。
いや、それだけでなく環境の急激な変化は大きなストレスとなるものだ。
だから仕掛ける側にとっては非常に有効であり、逆に仕掛けられる側にとっては厄介な戦術なのである。
「この仮想戦闘マップでは屋外の地形…川や森といったものや建物の中など本物とほぼ同様に再現できるようになっています。ならばこのマップのショッピングモールもリアルに再現されていて、どこかに電気室があるはず。そこを押さえて自隊に都合の良いタイミングで照明のオンオフを切り替えてオペレーターに負担をかけたり、敵の視覚を奪う戦術なのではないかとわたしは推測します」
ゼノンはツグミを追跡している途中でショッピングモールへ入ったことがあり、彼はその時のことを思い出した。
「なるほど…。しかし以前に入ったショッピングモールは5階のフードコートエリアにしか窓はなく、停電になったら他のフロアは真っ暗になってしまうだろう。ならば外が昼でも夜でも関係ないと思うが?」
「いえ、このマップのショッピングモールには中央部に広い吹き抜けがあり、その上はガラス張りの天窓になっています。昼間であれば照明を落としても真っ暗にはなりませんから『夜』を選んだのだと思います」
「そうなのか…。しかしきみはそんなこと詳しいことまで知っているのだな?」
「はい。わたしはステージの選択権があった時に
ランク戦で使用されるステージの種類は数十種あり、それらに複数ある時刻や天候などを組み合わせることになる。
ツグミは事もなげに言うが、その数十にも及ぶステージのマップを
実に彼女の記憶力は他者と比べてすば抜けている。
一度読んだ本の内容や過去に経験したことなど
例えるなら彼女自身が優秀な演算機のようなもので、これまでの人生の中で学んだり経験したことが膨大なデータとして全部保存してあり、必要な時にその時点の情報を追加入力して答えをはじき出すというもの。
そんな彼女が両親のことを思い出せないというのは忘れてしまったのではなく、両親に関わるデータに「パスワード」がかけてあって「開けない」ようになっているだけである。
よって彼女が自分の意思で「パスワード」を入力しない限り記憶は蘇らないし、思い出したいという強い意思があればいつでも「開く」ことはできる。
ただしその時には楽しかったことだけでなく目の前で起きた惨劇までも思い出してしまうことになるため、それを防ごうとして彼女は無意識に「パスワード」を設定しているのだ。
この能力 ── 常人よりも記憶力が高く、頭の回転が早い ── はこれまでの彼女の言動の中にもいくつか顕れている。
彼女がゼノンたちに拉致された時にコンビニのレシートから遠征艇の位置を特定できたのも三門市の地理を完全に把握していたからであり、コンビニの位置、レジで温めた弁当の冷め具合、ゼノンたちの歩く速度、そして条件の整う場所に人目につきにくい廃工場があるという情報を元に熟考した結果、彼女の推測は見事に的中した。
さらに彼女が時々迅のマネをして「わたしの
だから彼女の
彼女のサイドエフェクトが「強化視覚」であるということになっているために、彼女の「頭の良さ」が
いずれわかることになるのだが、それはまだずっと先のことである。