ワールドトリガー ~ I will fight for you ~ 作:ルーチェ
ツグミが解説をしている間に、フィールド内では各隊員が行動を開始していた。
ショッピングモールの中に転送されてしまった千佳は大急ぎで屋外へ出ようとしているが、
よって千佳以外の12人がショッピングモール内で大混戦になると思われる。
「
わからないと言いながらもツグミは東の戦術の弟子であるから、彼が何か策があって建物内に進入しようとしているのだと考えていた。
(東さんは凄腕の
ツグミがいろいろ想像している間に、千佳以外の隊員すべてがショッピングモール内に集結して戦闘が開始された。
4階の北添が吹き抜け越しに3階にいる村上を発見、ただちに攻撃を加える。
村上は上の階に影浦がおり、北添が合流して共闘すると村上は判断し、来馬に情報を伝えた。
太一は明らかに
そして来馬は村上と合流して影浦・北添との対決を目的として行動を開始した。
すると村上は「黒い弧月」を抜く。
通常は発光している弧月だが、色を変えることは性能に大きく関わることではないのでB級でも改造することは許されている。
バッグワームのマントの色を闇に溶ける黒にしたツグミや雪迷彩として白にした東隊など過去に例はあるが、弧月の色を変えた事例はない。
もちろんこれもステージ選択権のあった鈴鳴第一の作戦によるものであるが、ツグミは黒い弧月を見た瞬間にその意味がわかってしまった。
(これって…わたしの使った作戦と同じだわ。Round4の時に
6階フロアでは吹き抜けを挟んで
続いて
ボーダー屈指のエース
特に影浦の使うマンティスに対し、テオが興味を示した。
「何だ、アレは!?
「アレはテオくんの
「なるほど…。オレは1本だけだから最大でも5~6メートルまでしか伸ばせない。…そうか、2本繋ぐという手があったか」
「でも長く伸ばせばそれだけ強度が落ちるし、防御ができないという欠点があるから、使い勝手が難しいと思う。ボーダーでもこの技を使えるのはふたりだけだし」
「そうか…メリットとデメリットがあるってことだな。でも使い方を工夫すれば面白いことができそうだ」
モニターの中で動き回る影浦の様子を見つめ、今後に役立てようという気迫が感じられるテオ。
彼は帰国すれば三等市民に格下げになり、家族を苦労させることになるとわかっている。
だから諜報員としての腕を磨き、一日も早く一等市民になる ── 正確言えば家族を一等市民にしたい ── という願望を叶えるために今できることをやろうというわけだ。
任務失敗の原因となったツグミのことを恨んだり憎んだりしないところが女性への礼節を重んじるキオンの男性らしいが、それ以上にテオはツグミのことを気に入ってしまった。
恋愛感情ではないが、好意を抱いているのは間違いない。
そうでなければ彼女の作るハンバーグを一日おきにリクエストするはずがないのだ。
一方、1階でバッグワームを使って隠密行動をしていた修と奥寺が
彼らはお互いの存在に気付かなかったために戦闘準備が不完全のままで戦うことになってしまう。
修は居場所がバレてしまったことで、近くにいる小荒井と東が合流すれば数の差で修に勝ち目はない。
そこで修は防御しながら遊真とヒュースが合流する上階へと奥寺たちを連れて行こうをする作戦を取る。
初めからその作戦であったのだろうが、奥寺との
(ユーマくんとヒュースの連携については訓練の様子を見ていないから、どんなことをしてくれるのか楽しみ。
影浦・北添と来馬・村上の戦いは
影浦隊の厚い攻撃に鈴鳴第一は押され気味であったが、来馬がシールドを解除して
防御は村上の
「通常、来馬隊長はメイントリガーにセットした
これまでの鈴鳴第一の必勝パターンは「前面に出た村上を来馬が援護する」であった。
しかし「来馬が村上の近くに寄り、村上の
こうなると戦況は逆転し、影浦隊が劣勢となる。
このままではマズイと判断した影浦が北添に撤退を指示し、
「影浦隊長の判断は正しいと思います。このまま銃撃戦が続けば北添隊員に勝ち目はありませんから。ただ影浦隊長は感情のままに行動することが多かったですからここで
ツグミは影浦の判断に驚いていた。
彼の性格なら「負け」を認めることはなく、不利であってもそのまま戦闘を続けたであろう…とツグミは考えていたのだ。
(影浦さんにそんな判断をさせた鈴鳴第一って凄い。これまでは鋼さんの攻撃を来馬さんが援護するというフォーメーションが多かったけど、鋼さんが防御に徹して来馬さんの
ツグミは旧東隊を
B級ランク戦に参戦しても
(
隊務規定違反で降格となり、
2年前の遠征で捕虜を逃がしたという彼女の判断が
ツグミがそんなことを考えている間にモニター画面は修と奥寺・小荒井が戦っている様子に変わっていた
階段を昇りながら追って来る奥寺たちをスパイダー でワイヤーを張りながら邪魔をする修だが、小荒井は吹き抜けを使ってグラスホッパーでジャンプ。
修の先回りをして奥寺と挟み撃ちにする作戦のようだ。
5階で小荒井に追いつかれた修はレイガストのスラスターを起動して小荒井を押し戻して逃げようとしたが、待ち伏せしていたユズルがイーグレットを構えていた。
このままでは小荒井の二枚抜きとなると瞬時に判断した修はレイガストで小荒井を押し退け、自らもユズルの射線から逃れた。
「小荒井隊員が撃たれたら影浦隊に点が入りますから、それを避けたかったようですね。これで絵馬隊員は居場所がバレてしまい、今度は自分が追われる立場となってどう対処するのかが見ものです。もちろん彼もこうなった時のことを考えて行動しているはずですから」
よって修は間合いを詰めて来るから、ユズルは修の射程に入る前に修を倒さなければ自分が倒されてしまう。
そんなふたりの攻防に奥寺と小荒井が割って入ることになるのだが、突然ショッピングモール内のすべての照明が落とされた。
仕掛けた側の鈴鳴第一は準備をしていたが、それ以外の隊員たちはこの「停電」によって動きが一瞬止まってしまう。
そしてそれを待ち構えていたかのようにユズルは修を狙撃し、弾丸は修の右腕に命中した。
暗闇になった直後での狙撃であるから視覚によって
「停電」の原因は太一が電気室に侵入し、配電盤を操作したためである。
時間帯を「夜」にしたのはツグミの推測どおりで、暗闇を上手く利用した作戦なのだが、それは偶然にもユズルにとって都合の良いものとなった。
逆に修は
とはいえ修はダメージを負ったものの、トドメを刺されることなく逃げ果せたのだった。
影浦・北添と来馬・村上の戦いは場所を食堂に移して続けられている。
狭い店内にたくさんの椅子やテーブルがある状態では影浦隊が有利のようだ。
死角が多いために来馬の
影浦隊に勝算ありと誰もが思っていたのだが、「停電」を仕掛けた鈴鳴第一は劣勢を一気に覆した。
視覚を奪われて戸惑う影浦に村上が斬りかかった。
しかし彼は
黒い弧月では太刀筋が見えず、さすがの影浦も次々に繰り出される斬撃を
そこでオペレーターの仁礼光(にれひかり)に視覚支援を指示するものの、暗視モードになったとたんに館内の照明が一斉にオンになる。
すると今度は目が眩んでしまって何も見えなくなり、影浦は村上の斬撃を受けてしまった。
急所は外したものの左腕は伝達系切断で、トリオンの漏出も甚大である。
こうなると電気室に太一がいて操作をしているのだということは明らかで、北添がユズルに狙撃で太一を落とすよう指示を出すが視覚で狙いをつけることは不可能だ。
よって仁礼に電気室の場所をレーダー上で示してもらい、そこをアイビスで撃ち抜くという作戦に出た。
しかしそれは鈴鳴第一側も想定しており、太一はエスクードで壁を作っていて防御をする。
このままでは照明のオンオフを自由にできる鈴鳴第一に場を支配されてしまうため、北添は機転を利かして天井の照明器具を破壊することで再び暗闇に戻した。
これで鈴鳴第一の作戦を封じることができたわけだが、影浦のダメージは相当なもので危機が去ったとは言い難い。
ここで逃げることができても屋外に出れば敵の
「こうなれば誰かが電気室で照明を操作していると気付いて動くでしょう。さあ、どうなるか楽しみです」
期待で胸の高まりが抑えられないツグミはモニターから目を逸らさずに言った。