ワールドトリガー ~ I will fight for you ~   作:ルーチェ

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134話

 

 

影浦隊、鈴鳴第一、そして玉狛第2という3部隊(チーム)の膠着状態はヒュースの手による「想像の域を遥かに超えた作戦」によって破られた。

ヒュースがエスクードを展開したのだ。

しかしそれは防御のためではなく、また1枚だけでもない。

影浦と北添の間、そして吹き抜け側に多数の壁を作り、あっという間に影浦だけを自分たちの側に閉じ込めるような形にしてしまっていた。

それまで「遊真・ヒュース」対「影浦・北添」対「来馬・村上」の二対二対二であった戦場を「遊真・ヒュース」対「影浦」という二対一と、「北添」対「来馬・村上」という一対二に分断してしまったのだ。

もっともこの状況では「北添」対「来馬・村上」の戦闘は起きないだろう。

手負いの影浦を放っておくことのできない北添は来馬・村上コンビとの戦闘は避けるだろうし、鈴鳴第一のふたりも戦闘に突入するよりも状況を把握することを優先したいと考えるのが自然だ。

この展開は戦闘経験豊富なツグミであっても想像できなかったことで、モニター画面に見入ってしまっていた。

痛手を負った状態の影浦に対し百戦錬磨の遊真とヒュースであるから玉狛第2が圧倒的に有利に見えるが、影浦も半端な攻撃手(アタッカー)ではない。

問題行動を起こした罰としてポイントを減点されているが、それさえなければ攻撃手(アタッカー)ランク上位に位置する彼であるからそう簡単に点を取らせてはもらえないに決まっている。

 

「これは面白いことになりました。本来エスクードは耐久力が高く防御のために使用する()ですが、防御の他にも先ほどのように2枚で敵を挟むという使い方もあります。ですがこのように大量に出現させて敵を囲んでしまうという使い方は初めて見ました。何しろエスクードは古いタイプのトリガーで消費トリオンも大きいですから、よほどトリオンに余裕がある隊員しかこんな使い方はできません。これはヒュース隊員ほどのトリオン量があってこそ成せる技です」

 

周囲の環境を大きく変化させ、敵が動揺している隙に遊真とヒュースが同時に影浦に対して攻撃を開始した。

ヒュースは弧月を抜いて斬りかかると思わせるが、影浦は感情受信体質(サイドエフェクト)でそれが騙し討ち(ブラフ)だと察して警戒。

彼の判断は正解で、ヒュースは抜刀と同時に大きなトリオンキューブを216分割して撃ち、そのタイミングで遊真とヒュースが影浦に斬りかかった。

影浦はシールドで防御するが、同時に斬りかかる遊真とヒュースを防御するのはほぼ不可能…のように見えたのだが、ヒュースの弧月をシールドで、遊真のスコーピオンをY型に変形させたスコーピオンで受けたのだ。

 

「凄い! これは感情受信体質(サイドエフェクト)だけではなくて、彼自身の経験と戦闘センスが成せる技。弧月はスコーピオンでは受けきれないということでシールドで防御し、スコーピオンはスコーピオンで受ける。咄嗟に空閑隊員のスコーピオンをスコーピオンで受け止めるなんて並の人間じゃ無理。さすがはカゲさん…いえ、影浦隊長です!」

 

ツグミは興奮気味に解説するが、しかしそれで攻防が終わったわけではない。

影浦は即座にマンティスで遊真とヒュースに反撃し、遊真は左腕を斬られ、ヒュースは左腕にかすり傷を負ってしまった。

 

「ああっ、良い作戦だと思ったのですが…って、ええっ!?」

 

ツグミが残念がっている暇も与えず、モニター画面の向こう側では予想外の展開となっていた。

ヒュースのトリオンキューブが影浦を襲ったのだ。

さすがの彼もまったく無警戒であったために被弾してしまって脚はもう使い物にならない上に、さっきの村上の攻撃によるトリオンの漏出も大きく、このまま下手に動けば自滅しかねない。

そんな危機一髪の影浦にトドメを刺そうとした遊真とヒュースだったが、そこに北添がエスクードを破壊して乱入。

突撃銃(アサルトライフル)での攻撃を仕掛けると、ヒュースはシールドで防御しながら、エスクードで北添の四方を囲んでしまう。

そこに遊真が飛び込んできて北添の首を一刀両断。

最後に相討ち狙いで北添は炸裂弾(メテオラ)を撃つものの、咄嗟にシールドを張った遊真にダメージを与えられずに緊急脱出(ベイルアウト)してしまったのだった。

影浦の方はヒュースの攻撃を受けて下のフロアに落下し、そこでトリオン漏出過多によって緊急脱出(ベイルアウト)

ここで影浦隊はユズルを残すのみとなってしまった。

 

 

「これはどういうことなのか説明してもらえるかな?」

 

ゼノンの声に、ツグミは我に返った。

 

「あ…すみません。見入ってしまいました。…えっと、それでは空閑隊員とヒュースが影浦隊長を同時攻撃したところから説明します」

 

そう言ってからひとつ深呼吸して説明を始める。

 

「エスクードによって環境が大きく変化したことで動揺している影浦隊長に対して同時攻撃を仕掛けたわけですが、ヒュース隊員は弧月を抜刀したのと同時に 弾丸トリガーを起動させました。影浦隊長が弾丸から身を守るためにシールドを展開すればマンティスは使えません。さらに空閑隊員とヒュース隊員が同時に斬りかかれば彼らふたりに注意を向けるしかなく、それを承知でヒュース隊員は初弾で撃ち残しておいた弾を時差で撃つという『死角からの攻撃』を仕掛けたのです。影浦隊長は空閑隊員とヒュース隊員の攻撃には即座に対処できましたが、()()()の攻撃ともいえる弾丸には反応しきれずにダメージを受けてしまいました。擬似的とはいえ三対一の状況を作り出した玉狛第2の作戦は見事でした。わたしもエスクードは使いますが、あのように大掛かりな壁を作って戦場を分断するようなことは考えたこともありません。弾丸トリガーの時差射撃はやったことがありますけど」

 

ツグミの解説に、ゼノンたちは身を乗り出して聞き入っている。

彼らの祖国であるキオンは玄界(ミデン)のことにほとんど無関心であった。

こちら側の世界へやって来る近界民(ネイバー)の多くはアフトクラトルのようにトリオン目的なのだが、キオンはアフトほどトリオンに不自由していないのでこちら側の世界までわざわざ遠征をする必要がないのだ。

それにキオンはこれまで「玄界(ミデン)はトリオン文明に関して未熟であり、特に役に立つようなものは何もない」というのが定説であった。

しかし()()アフトクラトルを退けたというのだから興味が湧かないはずがない。

おまけにツグミという一隊員に謀略によって任務に失敗してしまった。

よってゼノンたちはボーダーがどのようにして()()からここまでの組織を作り上げたのか、また隊員たちの戦い方や日々の訓練方法を知りたいと思うのも当然だ。

 

「そしてエスクードで分断されてしまった北添隊員はその壁を壊して影浦隊長の援護に入ろうとしますが時すでに遅し。さらにエスクードで四方を囲まれてしまって援護するどころか自らも危機的状況になり、結果は見てのとおりです。ただ北添隊員が最後に炸裂弾(メテオラ)を撃ったのは空閑隊員を道連れにしようというだけでなく、影浦隊長を逃がすためにものであったようですね。これで影浦隊は狙撃手(スナイパー)の絵馬隊員を残すのみとなりました。…っと、影浦隊長のトリオン漏出過多による緊急脱出(ベイルアウト)の得点は鈴鳴第一に入りました。ヒュース隊員の与えたダメージよりも村上隊員の斬撃によるダメージの方が大きかったようですね。この試合では誰がトドメを刺せなかった場合、つまりトリオン漏出過多での緊急脱出(ベイルアウト)ではそれまでに一番大きなダメージを与えた部隊(チーム)に得点が入るシステムですから、玉狛第2はさぞ悔しがっていることでしょう」

 

玉狛第2が影浦隊から点を取って得点差を縮めたいと考えているのとは逆に影浦隊は玉狛第2に点を与えたくない。

影浦は「玉狛第2に取られるくらいなら鈴鳴第一に()()()()()」と考えてあのような()()をしたのだろうとツグミは判断した。

 

「続いて玉狛第2は鈴鳴第一との戦闘に突入すると思われます。さっきの影浦隊長との戦闘でヒュース隊員がタダの攻撃手(アタッカー)ではなく、射手(シューター)も兼ねた万能手(オールラウンダー)寄りの攻撃手(アタッカー)であることがバレましたし、エスクードを使って分断する作戦を用いることが明らかになりましたから、鈴鳴第一としてはエスクードの射程に入らないようあまり接近せず、村上隊員の(シールド)モードのレイガストに防御を任せて来馬隊長が両攻撃(フルアタック)するという中距離(ミドルレンジ)の戦闘に持ち込もうとするはずです」

 

館内の照明を操作する作戦が潰えてしまい、太一が緊急脱出(ベイルアウト)してしまったことで、鈴鳴第一は狙撃手(スナイパー)の援護が受けられず影浦隊に使った新しいフォーメーションで戦うしかない。

ツグミのその予想は当たり、来馬が突撃銃(アサルトライフル)両攻撃(フルアタック)で先制する。

それを遊真とヒュースはシールドで防御。

さらにヒュースは右手にトリオンキューブを浮かべると、それを鈴鳴第一に向けて撃つ。

村上がレイガストで自分と来馬を防御して来馬は両攻撃(フルアタック)を続けるのだが、そこでツグミの疑問が確信に至った。

 

(やっぱりヒュースが装備したのは変化弾(バイパー)だったみたいね。トリオンのパラメーターが18のヒュースだもの、通常弾(アステロイド)を使っているのならトリオンが7の鋼さんのレイガストを破れないわけがない。それに来馬さんとの撃ち合いだって互角だというのだからそれが良い証拠。来馬さんはトリオンが6。彼の通常弾(アステロイド)のダブルとヒュースの通常弾(アステロイド)のシングルであったらヒュースの方が火力は上。それで互角の勝負ってことは、つまり変化弾(バイパー)を使っているために威力が落ちているから。と言うか、そう考えないと腑に落ちないもの。きっとまだ手の内のすべては見せないってことね…)

 

ツグミは自分とほぼ同じレベルのトリオン量を持つヒュースにしては弾丸トリガーの威力が「通常弾(アステロイド)としてはイマイチ」であることがずっと気になっていた。

しかし変化弾(バイパー)の弾道を真っ直ぐに引いて通常弾(アステロイド)に見せかけているというのであれば説明がつくのだ。

 

(でも出し惜しみしていてここで負けるようなことになれば本末転倒。いざという時には使うんだろうな。…それにしてもユズルくんはどう戦うつもりだろ? チームメイトを巻き込む心配はないからアイビスを使って壁抜きだろうと床抜きだろうとやりたいようにできる。わたしだったら見えても見えなくても適当に撃っちゃうけど、レーダー頼りでは厳しいから彼のような精度重視の狙撃手(スナイパー)がそんなことやるかな? …いや、絶対にやる。鳩原さんから指導を受けたんだから十分可能だし、そうしないと勝てないもの)

 

さらに未だに目立った動きを見せない東のことも気になっている。

 

(東さんの動きがないのが不気味なのよね…。狙撃手(スナイパー)っていうのは待つのも仕事で、()()()というチャンスが来るまで動かないのが鉄則。東さんのことだから派手に動き回っているユーマくんたちや来馬さんたちを狙うんじゃなくて、バッグワームで姿を隠しているオサムくんやユズルくんが()()()ところを狙うはず。今のところオサムくんはユーマくんたちと同じフロアにいて合流するタイミングを計っているようだけど、ここで下手に動いたら東さんに床抜き狙撃(スナイプ)で殺られる。誰も東さんが建物内にいるなんて考えてもいないもの)

 

ユズルが動いて、そこを東が狙う。

そうすれば東の居場所が割れて修たちが「東が建物内にいる」とわかって警戒してくれる…となるのが理想だとツグミは考えている。

 

(でもそれだと東隊に得点が入っちゃう。玉狛第2は1点でも多く点が欲しいし、特に影浦隊から得点したいと考えているから、その点は残念なことになるけど東さんの居場所がわかるとなればそれくらいは仕方がないか。…あ~あ、チカちゃんが人を撃てないという弱点さえなければこんなに苦労せずとも済むのになあ。あのトリオン量だもの、彼女の炸裂弾(メテオラ)だけで攻略できるマップよね、これは)

 

ツグミの考えるように千佳が人を撃てるのであれば、全員が集まっているショッピングモールから修たちを退避させて炸裂弾(メテオラ)を2-3発撃てば中にいた人間ごと吹き飛ばすことは可能だ。

 

(今は鉛弾(レッドバレット)狙撃で()()()()()()をしているけど、根本を解決しなきゃボーダー隊員を続けるならこの先は辛くなる。でも何であそこまで人を撃つことに抵抗感があるんだろ?)

 

ツグミは疑問を抱いているのだが、彼女なりの答えも持っている。

 

(ランク戦で戦っている時、オサムくんやユーマくんが敵を撃ったり斬ったりしているところをチカちゃんは目にしている。トリオン体であっても見た目は人間の身体を同じ。そんなトリオン体が斬られて千切れるとか撃たれて爆ぜる状況であっても目を背ける様子はないから、人体が破壊されること自体にはあまり抵抗感がないみたい。きっと第三者の立場でいられるからよね。自分とは無関係ってことで。…そうなると加害者、つまり自分が直接手を下すことで人体が壊れるところは見たくはないから撃ちたくないというエゴなんじゃないかな、って思えてくる)

 

狙撃手(スナイパー)なのに人が撃てないというケースは過去に鳩原の例がある。

鳩原は以前に()()()()人を撃ってしまって、そのせいで寝込んだほど戦闘には向いていない人であった。

確かに武器を持った手や脚をピンポイントで撃つという超精密狙撃ができる隊員ではあったが、実戦向きではない。

1発でトドメを刺せるのであれば、そこで仕留めてしまうべきである。

例えば敵の武器を狙って撃ったとしても、換装が解けていないのであれば反撃をする可能性はゼロでない。

敵の手や脚を奪ったところで反撃をしてこないとは限らず、その反撃が自分や仲間を死なすことだってありえるからだ。

上層部が彼女のそんな部分を問題視して二宮隊を遠征部隊から外した経緯があるが、ツグミはその判断を間違ってはいないと思っている。

しかし千佳の場合は少し違う。

 

(Round4でチカちゃんは二宮隊や東隊のメンバーを撃った。あの場面では彼女が撃つのがベストだったから問題はない。でも躊躇したものだからそのタイミングを外し、好機を逃してしまうことになった。結果はどうであれ、彼女には自ら撃つ意思があったということになり、すなわち()()()()ではなく()()()()()()ってことがはっきりした。鳩原さんの場合とは似ているようでまるっきり違う。原因が()()()()()()というのだから解決方法は必ず見つかるはずよね)

 

鳩原は()()()()であったから、どうすることもできずにいた。

そのせいで近界(ネイバーフッド)遠征に参加できないということになり、どうしても近界(ネイバーフッド)へ渡りたかった彼女はトリガーを民間人に横流しして一緒に密航してしまったのだ。

千佳の場合、遠征参加は決定しており現状の()()()()()()ままでも近界(ネイバーフッド)へ行くことはできる。

 

(でもチカちゃんの人を()()()()()()という理由で撃つべき時に撃たず、そのせいで仲間に犠牲が出た時に彼女はどうなるんだろう? 人を撃つことに対して罪悪感を抱かないように今からメンタルを鍛えておかなきゃ、万が一の時に苦しむのは彼女になるんだもの。それに彼女は規格外のトリオン量がある。民間人のままでいれば問題にはならなかったけど、ボーダーで戦闘隊員を続けるなら()()()()()()なんて言ってちゃダメ。ノブレス・オブリージュじゃないけど、持つ者は持たざる者に対してその社会的責任を果たすべき。自らの意思でボーダーに入隊するって決めたんだから、それから逃げちゃダメなのよ。そんな彼女に対してわたしにできることはないのかな…?)

 

試合に目を向けながらも、千佳のことを自分のことのように心配するツグミであった。

 

 

 

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