ワールドトリガー ~ I will fight for you ~   作:ルーチェ

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135話

 

 

ツグミがいろいろ考えている間にも戦闘は続いており、玉狛第2は鈴鳴第一の新しいフォーメーションに苦戦していた。

来馬は通常弾(アステロイド)両攻撃(フルアタック)であり、銃手(ガンナー)であるから射程が20%伸びるという()()()()も付いている。

一方、ヒュースは変化弾(バイパー)を変化弾として使わないものだから、その弾道を調整できるという利点が活かせていない。

さらにシールドを使いながらの攻撃であるから突破口を開くこともできずにいる。

おまけに遊真は右腕を失っているというハンデもあり、攻撃をするどころか近付くこともできず、防御に徹するしかないものだからこのままではトリオンをどんどん削られていくだけだ。

 

玉狛第2と鈴鳴第一の攻防と並行して、5階フロアではユズルが玉狛第2と鈴鳴第一の4人の動きをレーダーで追っていた。

どうやらツグミの推測どおり床抜き狙撃(スナイプ)をしようと考えているようだが、そんな彼を奥寺と小荒井が狙っている。

ユズルが1発撃った直後の再装填(リロード)の隙に攻撃を仕掛ける作戦であり、両者は弧月に手をかけてそのタイミングを計っていた。

 

「これは玉狛第2にとって厳しい展開です。ヒュース隊員が変化弾(バイパー)を変化弾として使わないものですからその特性を活かせていません。彼は変化弾(バイパー)通常弾(アステロイド)に見せかけたいようですが、トリオンキューブの大きさの割には火力が低い。見る人が見ればバレバレです。この場合、来馬隊長の背後から攻撃するような弾道を引いて、村上隊員が来馬隊長の背後の防御に動いた隙に空閑隊員とヒュース隊員が一気に接近して斬りかかるのが良いと思われるのですが、その気配はまったくありません。どうやってこの場を切り抜けるつもりでしょうか?」

 

ツグミはヒュースが「変化弾(バイパー)を変化弾として使うつもりで装備していたが、急遽その作戦を変更して通常弾(アステロイド)に見せかける」ことにしたと推測しており、それは正解であった。

「この試合なら変化弾(バイパー)を変化弾として使わなくても勝てる自信がある」もしくは「変化弾(バイパー)を変化弾として使わなくても勝つことができなければ、次の最終戦には勝てない」とヒュースが考えているのではないかと、ツグミは睨んでいる。

 

(この分だと最終戦で二宮隊と当たるのはまず間違いない。そうなると犬飼さんと辻さんがサポートする№1射手(シューター)・二宮さんとの戦いは避けられないから、彼との戦いのために変化弾(バイパー)が使えることを隠しておきたいのかもしれない。でもそれは無駄。二宮さんが気付かないはずがないもの。それに銃手(ガンナー)の犬飼さんだってこの試合を見ていればもう気付いているに違いない。彼って見た目はチャラいけど頭の回転は早く、腕前もマスタークラスだし、戦闘の時はもの凄く冷静に立ち回る怖い人。他の部隊(チーム)はともかく二宮隊には通用しないわよ、ヒュース)

 

 

ツグミが心配していることなどつゆ知らず、ヒュースは鈴鳴第一との間に12枚のエスクードを出現させた。

その陰に隠れながら接近するのだろうが、来馬は弾を追尾弾(ハウンド)に切り替えてエスクードを避けた頭上から攻撃する。

それを遊真とヒュースはシールドで防御するのだが、その間に村上が旋空弧月でエスクードをなぎ払っていく。

確かにエスクードは頑丈な壁だが、村上の弧月なら一刀両断するのも可能だ。

鈴鳴第一の新しいフォーメーションは「正面の敵に対してはほぼ無敵」である。

逆に言えば背後はガラ空きで、その背後には修がいる。

ならば修がと遊真たちが挟撃するのがベストであるが、タイミングを見誤れば修は顔を出した瞬間に撃ち落とされて緊急脱出(ベイルアウト)となってしまうだろう。

 

(チームメイトの窮地を見ているだけなんて、オサムくんは歯がゆい思いをしているだろうな…。でも闇雲に飛び出したらそこでジ・エンドだから今はチャンスを待つしかない。ここは3人が協力しないと切り抜けられないから絶対に何とかするしかないんだけどなかなか難しい状況よね。問題は一時的でもいいから、どうやって鈴鳴第一のフォーメーションを崩すかだけど…)

 

 

ツグミはこの打開策を考えながらモニター画面を見つめていたが、そんな彼女の答えを待たずにヒュースがエスクードを出そうとして床に手をついた。

しかしそれは鈴鳴第一に壁による分断を警戒させるためのブラフで、遊真はこっそりとヒュースの背後にグラスホッパーを出現させたのだ。

それを使って大きく前に飛び出したヒュースの弧月が村上に斬りかかり、それを村上は弧月で受け太刀する。

ところがヒュースはこともあろうか村上の左手首を掴むと、彼の背中にエスクードを()()()()のだ。

すると村上の背後にいた来馬がエスクードに勢い良く押し出されて、はるか後方へと吹き飛ばされてしまう。

誰ひとりとして予想だにしない展開に、来馬は何が起きたのか良くわからな状態だから無防備で宙を飛び、そこに背後から接近していた修が通常弾(アステロイド)で攻撃。

通常弾(アステロイド)によって中距離(ミドルレンジ)からダメージを与えると共にレイガストで斬り付けようと近付いた修だが、来馬の危険を察知した村上はヒュースを払い避けながら同時にスラスターで加速したレイガストを修に投げ付けた。

村上のレイガストは修に見事に命中し、修は来馬に追加の攻撃を加えられなかったが、レイガストを手放した村上に対してヒュースと遊真という一対二の()()()()()()()()状態を作り出すことには成功したのだ。

弧月1本しかない村上は前からヒュース、後ろから遊真という「前門の虎後門の狼」状態となり、玉狛第2にとっては最高の得点チャンスとなった。

しかし村上は№4攻撃手(アタッカー)、咄嗟に弧月を持ち替えて背後の遊真に切先を向けて旋空弧月を放ち、そのままの勢いで前面にいるヒュースにも斬りかかったのだった。

遊真は左腕を肩の部分から斬り落とされ、ヒュースも防御する暇も与えられずに斬られると思いきや、遊真は左足の裏からスコーピオンを生やして村上の背中に()()()()()エスクードに蹴りを入れる。

その勢いで村上の弧月はわずかにヒュースの身体を掠め、ヒュースの弧月が村上の胸を貫いた。

ここで村上はトリオン供給機関破損で緊急脱出(ベイルアウト)

続いて遊真とヒュースが来馬に襲いかかろうと体勢を整えたのだが、動きの止まってしまった来馬は階下からずっとチャンスを狙っていたユズルの床抜き狙撃(スナイプ)によって撃たれてしまう。

レーダー頼りであるから特定の相手を狙ったというわけではなく、来馬が運悪く撃たれてしまっただけだと思われる。

これで来馬は戦闘体活動限界によって緊急脱出(ベイルアウト)してしまい、鈴鳴第一は全滅してしまったのだった。

よって玉狛第2は得られるはずだった貴重な1点を影浦隊に奪われた形になる。

さらにユズルは2射目で修の左脚を吹き飛ばし、修はトリオン漏出が著しく危険な状態に陥る。

そんなユズルをずっと狙っていた奥寺と小荒井がこのチャンスを見逃すはずがなく、連射のできないアイビスの再装填(リロード)中を狙って動いた。

ユズルは奥寺と小荒井の襲撃に対して反撃も防御もできないと判断し、吹き抜けを使って階下に逃げようと飛び出したものの、そこを東に狙撃されて緊急脱出(ベイルアウト)

残るは玉狛第2と東隊の2部隊(チーム)となってしまった。

 

 

想像の斜め上を行くヒュースのエスクードの使い方、村上による前後ふたりの敵をワンアクションで斬ろうとする技、腕を斬られてなおチームメイトの窮地を救おうとする遊真の脚スコーピオン。

まるで予め計算し尽くされていた()()のようで、この見事な一連の流れをツグミは解説も忘れ、ひとりの観客となってじっと見入ってしまっていた。

そしてモニター画面が得点表に切り替わったところで、ツグミはやっと我に返ったといった感で解説を始めた。

 

「鈴鳴第一による厚い中距離(ミドルレンジ)の攻撃により近付くことのできなかった空閑隊員とヒュース隊員ですが、ヒュース隊員の『床に手をつく』というまるでエスクードを出そうと言わんばかりの動作。それを見た来馬隊長と村上隊員は壁によって分断されることを警戒したことでしょう。影浦隊長がその手で苦戦したわけですから。しかし実際には空閑隊員のグラスホッパーを使用して、屈んだ状態で水平にジャンプして村上隊員の懐に飛び込みました。弧月で斬りかかりましたがこちらはブラフで、本命はエスクードの方にあったようです。エスクードを『敵の背中に生やす』といった使うとは誰も想像していませんから、村上隊員の背後にいる来馬隊長は自分が跳ね飛ばされることを想定して身構えるなんてことはできません。跳ね飛ばされて隙のできたところを三雲隊長が通常弾(アステロイド)で攻撃。ヒュース隊員は見事に三雲隊長が戦闘に参加できるチャンスを作りました。大胆で信じられないような発想の技を次々に繰り出すところは、さすがアフトクラトルの()エリート兵士ですね」

 

ランク戦では「観客をどうやって驚かせるか」を考えながら戦っているツグミにとって、このヒュースの奇想天外な技の数々は彼女を小躍りさせるものばかりだ。

だから解説者として公平な立場でいようとするものの、どうしても玉狛第2に肩入れしてしまう。

なにしろ玉狛第2の好プレイを解説する時には他の部隊(チーム)のそれの時より、あからさまに喜んでいるように見えるのだから。

 

「そして玉狛第2は『来馬隊長が危機的状況に陥れば村上隊員が自らの戦闘を放棄してでも隊長を守るために()()動く』という行動パターンを見越していました。実際そのとおりになり、村上隊員は来馬隊長を守るために、三雲隊長に向けてレイガストをスラスターで飛ばしました。これで来馬隊長を三雲隊長の攻撃から守ることはできたのですが、防御の要であるレイガストを手放してしまったことにもなります。そしてその隙に前後をヒュース隊員と空閑隊員に挟まれてしまいました。武器は弧月のみで、防御はシールドしかありません。おまけに同時に攻撃されたらどちらか一方にしか対処できず、もう片方に殺られてしまいます。ところがこの絶体絶命的な状況であっても村上隊員は冷静に対処しました。弧月を持ち替えて背後にいる空閑隊員に向けて旋空を放ち、その勢いで前面にいるヒュース隊員にも斬りかかったのです。ワンアクションでふたりを斬ろうとするには他に手はなく、空閑隊員が足裏からスコーピオンを生やして村上隊員に()()()()()エスクードに蹴りを入れるという思い切った技がなければヒュース隊員は旋空による斬撃をモロに受けてしまっていたことでしょう。ヒュース隊員に勝るとも劣らないナイスアイデアでした」

 

さらにツグミは続けた。

 

「ヒュース隊員の弧月が村上隊員の胸に突き刺さり、彼はトリオン供給機関破損で緊急脱出(ベイルアウト)してしまいました。残るは来馬隊長だけで、ここでトドメを刺せば一気に2得点となります。ですが来馬隊長を仕留めたのは絵馬隊員でした。彼は階下のフロアからずっと狙撃のチャンスを伺っており、見事に来馬隊長を緊急脱出(ベイルアウト)させ次はそのすぐそばにいた三雲隊長が標的(ターゲット)となりました。三雲隊長はすぐさま反応したおかげで左脚を失うだけで済ましたが、トリオン漏出が著しく危険な状態に陥ってしまいました。このままトリオンが漏れ続けますと影浦隊に点が入ってしまいますので、三雲隊員としては自発的に緊急脱出(ベイルアウト)してしまいたいでしょうが、一番近い敵と60メートル以上離れていないと不可であるというルールによってそう簡単にはできません。このショッピングモールから出るのには相当な時間がかかりそうですから、逃げようとしても途中で緊急脱出(ベイルアウト)となるでしょう」

 

ここで修がトリオン漏出過多で緊急脱出(ベイルアウト)すれば影浦隊に点が入ってしまうが、東隊の誰かにトドメを刺されれば東隊に点が入る。

できることなら東隊の襲撃を待ちたいところだが、そこまで彼のトリオンは持ちそうにない。

 

「さらに連射のできないアイビスの再装填(リロード)中という絵馬隊員の隙を狙っていた奥寺・小荒井両隊員が動くと、絵馬隊員は咄嗟の判断で吹き抜けを使って階下に逃げようとしました。そこは正しい判断です。弧月使いの攻撃手(アタッカー)ふたりに同時に攻撃されたら反撃はもちろんのこと防御も不可。ただ逃げた先に東隊長の銃口が待っていたというのは偶然ではありません。奥寺・小荒井両隊員が弧月で仕留める。もし逃げられてしまったら東隊長が狙撃で仕留めるという二段構えの作戦だったはずです。絵馬隊員は自分が殺られるのを承知で三雲隊長を撃ったとわたしは考えています。彼は自分が東隊のふたりに狙われていることに気付いていないはずがありません。ついさっき三雲隊長を追いかけて来た奥寺・小荒井両隊員が三雲隊長を追いかけて上のフロアに行った様子がない。ならば今度は自分を狙うだろうと考えていたことでしょう。居場所のバレた狙撃手(スナイパー)は落とされるのも時間の問題で、自分を狙っているのが奥寺・小荒井両隊員であれば逃げ切るのは難しい。殺られるのだとしてもその前に()()()()から点をもぎ取ってやろうとしてそのタイミングを計っていたとわたしは想像します。ただ絵馬隊員にとって想定外だったのは、東隊長がショッピングモール内にいたということです。東隊長が屋内にいなければ、階下に飛び降ることで延命の可能性もあったわけですから。この絵馬隊員の捨て身の狙撃はまだ得点に結びついてはいないものの、玉狛第2にとって非常に()()ものになるでしょう」

 

事実、ツグミがそう言った直後に修はトリオン漏出過多で緊急脱出(ベイルアウト)してしまい、その時点での得点は玉狛第2が3点、影浦隊が2点、東隊と鈴鳴第一がそれぞれ1点となっていた。

 

 

 

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