ワールドトリガー ~ I will fight for you ~ 作:ルーチェ
修とC級隊員たちは窮地に陥っていた。
頼りの木虎が捕われてしまい、残る戦力は修だけ。
彼が単独でラービット2体に勝てる見込みなどないのだ。
おまけにラービットは学習をしているようで、攻撃を受けずに避けるという行動を見せた。
千佳はアイビスを抱えながらも付近の住宅に弾が当たることを恐れて撃つことができず、修が1体を相手にしている間にもう1体が千佳に襲いかかった。
その絶体絶命の瞬間、たくましい体躯の人物が千佳の前に立ち、ラービットの攻撃を受け止めた。
「木崎さん!!」
レイジはレイガストを握った左手で拳撃を食らわす。
スラスターで高速化されているから、その効果は絶大だ。
その勢いで仰向けに転がったラービットに、その頭上から小南が
しかし致命傷にはなっておらず、油断した修と小南をラービットが砲撃。
その砲を京介がエスクードで防御した。
ただしこれで一安心というわけにはいかない。
大ダメージを負っているとはいえ、ラービットはまだ2体いる。
「遅くなったな、修」
「烏丸先輩!」
「なにこいつらまだ生きてんの?」
不思議そうな顔の小南に修が言う。
「気をつけてください! 捕まるとキューブにされます! 木虎とC級が何人かやられました!」
「わかってる。正隊員もひとりやられた。今、本部の
京介が説明すると、小南はほくそ笑む。
「手加減しなくても大丈夫ってことね」
「木虎たちは
京介がそう言った次の瞬間、
そこから現れたのはヴィザとヒュースである。
「角つき…!!」
以前、レプリカから攻めてくる可能性が高いのはキオンかアフトクラトルであると説明があった。
そのふたつの国の見極め方が「人型
今まさに修たちの目の前にいるふたりのうち若い方の男には角がある。
これで今回の敵がアフトクラトルであることは疑いようもない。
「いやはや…子供をさらうのはいささか気が重いですな」
「これが我々の任務です。自分が
「よいでしょう。しかし
「注意します。殺してしまわないように」
ヴィザとヒュースの会話の間、レイジは作戦を練っていた。
「小南、3分やる。新型を片付けろ。手負いとはいえあれが絡むと面倒だ」
「1分で十分よ。あたしが戻るまでにやられないでよね」
小南はそう言って単身ラービットに挑んでいった。
続いてレイジは京介に指示する。
「小南が戻るまでは下がり気味に人型の相手をする。C級のカバーを最優先だ」
「了解」
「ぼくは…ぼくは何をすればいいですか?」
修の問いにレイジが答える。
「おまえは雨取を守れ。死ぬ気でだ」
「…はい!!」
ヒュースは
三角形の結晶体群を展開し、攻撃態勢をとっている。
しかしどういう仕組みか、またどういう効果があるのかまったくわからない以上、迂闊に手出しはできないと、レイジと京介は修たちを背に攻守の態勢に入った。
「おやおやなかなかに落ち着いている。これは思いのほか手強そうだ」
「問題ありません。相手が雛鳥を背にしている以上、我々の有利は揺るがない」
そう言ってヒュースは結晶体群を飛び道具としてレイジたちに放った。
それを京介のエスクードで防ぐ。
その隙にレイジは
一方、小南は双月を手に暴れまわっていた。
「ヒビ入ってるくせに堅いわね。ま、だからどうってことはないけど。…
両手の双月を
トリオン効率は悪いが威力は高く、火力重視の彼女の戦闘スタイルにはおあつらえ向きのトリガーである。
あっという間に2体のラービットは一刀両断され、その腹の中から木虎やC級隊員たちのキューブがこぼれ落ちた。
「木虎ちゃんとC級のキューブは回収したわ!」
小南がレイジに報告する。
「了解。よくやった」
レイジと京介はヴィザとヒュースを攻撃するが、ヒュースの操る結晶体群が盾のようになって攻撃を防ぐ。
しかしそれだけではなく結晶体はそれぞれが反射板のようになっていて、攻撃をレイジたちに跳ね返すという小賢しい仕様である。
「撃って壊せる感じじゃないですね。弾はやめときますか?」
「そう思わせて接近戦を誘っているのかもしれん。どういう原理で動いてるのかまだわからんが、あの尖ったカケラの射程はそう長くない。今はまだ距離を保ったほうがいいな」
「死角から狙撃できれば一番なんですけどね」
「C級の退却を優先する以上やれることは限られてくるが、この距離からでも崩す手はある。小南の一発につなげるぞ。もうひとりにも注意しろ」
「了解」
◆◆◆
「なんでこんなにいっぱいいるのよぉ~!?」
ツグミは修たちと合流すべく南西地区に向かっていたが、100体を超えるバムスターやモールモッドだけでなくミラによって送り込まれたラービットまでもが彼女の行く手を遮るのだ。
もちろんそれを排除しながら進むのだが、さすがの彼女でもラービットの腕力と堅い装甲には手こずらされる。
おまけに建物の密集地なのでスラッシュが使いづらく、狙撃は諦めて
迂闊に近寄れば捕まってキューブにされてしまうので、適度な距離を保ちながら使うべきなのだが彼女は違った。
「さて…行くわよ!」
ツグミは両手にトリオンキューブを浮かべるとひとつにする。
出来上がった
「くたばれ!!」
悲鳴のような断末魔の声を上げたラービットは最後の力で彼女を取り込もうとしたが、その前に崩れ落ちた。
「ふぅ…やっぱり新型は雑魚と違って面倒ね。こんなのが何体もいるって、この侵攻にどんだけ力入れてるのかしら? …あれ? このキューブって、もしかしてこいつに喰われたC級? だったらどこかに隠しておかなきゃ」
ツグミはC級たちのキューブを空き家の押入れの中に隠し、再びトリオン兵の群れを倒しながら全力で疾走したのだった。
◆◆◆
玉狛第1が人型に苦戦している頃、東部地区ではエネドラと風間隊が相対していた。
前情報でエネドラが
パワータイプなのか、搦め手タイプなのかで対応はまったく違ってくるからだ。
「下です」という菊地原の合図で、風間、歌川遼(うたがわりょう)、菊地原の3人は一斉にジャンプして高所に避難する。
その直後、3人のいた場所のコンクリートの割れ目から鋭い刃状の物体が飛び出した。
一瞬でも遅かったら、彼らは串刺しになっていただろう。
菊地原のサイドエフェクトは「強化聴覚」である。
常人の5-6倍の性能があるもので、簡単に言えば「耳がいい」というものだ。
ボーダー基準ではランクの低いもので、ツグミの「強化視覚」と同じく本人も指摘されるまでサイドエフェクトだと気付かなかったほどである。
菊地原本人も「ショボい能力」と考え、認定されなければよかったと思っていたのだが、彼の能力の素晴らしさに本人より早く気付いた風間が彼を自分の隊にスカウトした。
彼の聴覚情報を通信を介して共有することで、隊員全員が彼の耳の恩恵を受けられる。
知覚情報の8割強を視覚に頼る他の部隊よりはるかに有利となるのだ。
実際、菊地原が入隊すると他の追随を許さない圧倒的な勝率でチームランキングを駆け上がり、風間隊はA級認定されたのだった。
エネドラのトリガーを分析しつつ隙を見せるのを待っている風間たちだが、「全身が液体化してブレードとなる」トリガーだと判断したことで大きなミスをしてしまった。
風間はエネドラの首を一刀両断にした次の瞬間、彼のトリオン体内部に敵のブレードが発生したのだ。
そしてトリオン供給機関が破損し、
隊長を失った風間隊。
本部基地に送還された風間の指示で歌川と菊地原はエネドラとの戦闘から一時撤退することとなった。