ワールドトリガー ~ I will fight for you ~   作:ルーチェ

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141話

 

 

ツグミは玉狛支部に帰って来るとすぐに林藤に支部長室へ呼び出された。

林藤はまだボーダーの制服姿であったことから、本部基地から帰って来て間もないこと、さらに何か問題が発生したに違いないとツグミは察した。

 

「本部で()()()()()()トラブルが発生した」

 

林藤はそう切り出し、ヒュースが近界民(ネイバー)ではないかという噂が立ったという事件の経過と解決策について話した。

 

「やっぱりそうなりましたか…。わたしも試合を見ていましたが、あれだけ派手に戦えば注目されるのは目に見えていました。入隊式でも辻さんや生駒さん、それに太刀川さんを相手に目立つことしてましたからね。突然現れた凄腕で()()()()の人物ですから近界民(ネイバー)だと疑われても当然です。ですが根付さんや東さんたちが早めに手を打ってくれたようですから、それほど心配しなくてもいいみたいですね」

 

「ああ。明日の狙撃手(スナイパー)合同訓練で協力者たちが『東から聞いた話』という伝聞として噂を広めてくれることになっているんだが、ヒュースを近界民(ネイバー)だと言い出したC級隊員がどこまで意地を張るかが問題だな」

 

「オサムくんが護衛していたC級の一部はヒュースを見ていたわけですからね。でもいざとなれば記憶封印とかしてしまうんでしょ?」

 

「そうなる可能性はあるな。とにかくおまえにも口裏合わせをしてもらう必要があるから、設定はきちんと覚えておいてくれよ」

 

「はい。『ヒュースは玉狛支部(ウチ)技術者(エンジニア)であるクローニン班長(チーフ)の親戚でカナダ人。きわめて高いトリオン能力を持つためにスカウトされた。かねてから玉狛支部で訓練を受けており、玉狛第2に入隊した』ということですね。了解しました」

 

ヒュースの話が終わると、続いて雪弥との会食の話について訊かれた。

 

「ところで小笠原社長との会食はどうだった? 織羽さんの友人だってことだし、おまえのそのキャラなら気に入られたことだろ?」

 

「はい。とても楽しい会食になりましたし、彼個人の援助は確定しています。後は愛信建設としてどれだけの額が期待できるかですが、それについては唐沢部長の手腕に頼るしかありません。わたしにできることは全部やってきましたから」

 

「そうか、お疲れさん。今日はゆっくり休んでくれ」

 

「はい。おやすみなさい」

 

ツグミが支部長室を出ると、林藤は唐沢から送られてきたメールを読み直していた。

 

『小笠原社長から霧科夫妻の死の原因について触れる発言あり。ツグミくんが過去の事件を調べる気配があるので注意されたし』

 

雪弥との間にあった()()については唐沢から林藤にメールで既に知らされていた。

それを踏まえて彼女を支部長室に呼んだのだが、彼女の態度に不審な点がなかったために林藤は安堵しているのだが、これ以上隠し続けることが難しいということもわかっている。

 

(そろそろ潮時かもな…。いきなり記憶がフラッシュバックしてショックを受けるよりも『過去の出来事』として辛い真実を告げる方がマシかもしれん。織羽さんが近界民(ネイバー)であることを打ち明けた時点で全部真実を話すべきだったかも。俺たちが隠していたことを知り、あいつが俺たちのことを信頼してくれなくなったら嫌だな…)

 

城戸たち事件の関係者はツグミに両親が近界民(ネイバー)に惨殺された事件の記憶がないことを利用し、死亡原因を交通事故とした。

もちろんそれは彼女のことを案じての判断である。

そして忍田に引き取られることとなる以上は近界民(ネイバー)やトリオン兵の存在を隠すことができないと考え「近界民(ネイバー)にさらわれそうになったところを偶然近くにいたボーダー隊員に助けられた」という記憶を刷り込んだ。

その結果、彼女が自らボーダー隊員になるという決心をしてしまったのであるから、林藤たちは彼女の人生を大きく変えてしまったという自責の念に駆られている。

様々な事柄から嘘が綻び始め、真実が見え隠れするようになっていった。

林藤が思うように彼女に真実を告げる潮時なのかもしれない。

問題はどのように()()()させるかで、誰にとっても不幸にならない方法が必要である。

 

「だが、俺にはそういったことを考える才がないんだよな…」

 

林藤はそう呟いて大きくため息をついたのだった。

 

 

◆◆◆

 

 

翌日の午後、ツグミは市立図書館へ行った。

目的はもちろん過去の()()を調べるためである。

当時の新聞の縮刷版を開き、すべての記事をチェックしていくという地道な作業になるのだが、彼女はそういったことを苦に思わない。

そして4時間ほどぶっ続けでチェックし、閉館間際になって目的の記事を見付けることができた。

 

「これだ…」

 

その記事は「路上強盗、夫婦2人死亡」という見出しの小さな記事で、地方版の片隅にひっそり載っていた。

 

「6日午後5時頃、三門市津田町2丁目の市道で、市内玉狛×-××-××、団体職員霧科織羽さん(34)と妻美琴さん(30)が胸や背中などから血を流して倒れているのを通りがかった男性が発見、病院へと運ばれたが死亡が確認された。所持品はなく、その状況から強盗にあったものとみられる」

 

織羽と美琴の名前は載っていたが、ツグミのことには触れられていない。

そして1週間後の新聞には、目撃者や物的証拠がないために有力情報を市民から求めているという記事が載っていた。

さらに1ヶ月後の新聞には、捜査が難航していて容疑者の手がかりが掴めず、引き続き情報提供を求めていると載っていて、それがこの事件に関する最後の記事であった。

しかしこれでツグミの両親の死亡原因が交通事故ではなかったことがハッキリした。

 

(この記事だと事件現場にはわたしはいなかったみたいに書かれているけど、わたしを含めた3人で事件に遭遇したのは間違いない。両親が惨殺されたという衝撃的な光景を見たショックで事件当時のわたしの記憶がなくなってしまい、それを利用して真史叔父さんたちがわたしに偽の情報を植え付けたわけだもの。でも凄惨な事件であったとしても嘘をついて隠す必要はなかったと思う。…いや、それよりも路上強盗犯にふたりが殺されるという状況が考えにくい。だって当時のお父さんはボーダー隊員だったんだから)

 

織羽が団体職員となっているのはボーダーという組織が世間に公表されていなかったからである。

そしてボーダー隊員ならトリガーを持っていて、トリガーを起動させればトリオンによる攻撃以外は通用しない。

それなのに血まみれで死んでいたという新聞記事はにわかに信じられないのは無理もない。

 

(非番であってもトリガー使いならトリガーは絶対に手放さない。だったら強盗に襲われた時も持っていて、トリガーを使って戦うに決まってる。お母さんとわたしのことを守るためには他に手はないもの。それなのにお父さんもお母さんも死んでしまい、犯人は逃げてしまった。かすり傷ひとつ負わすこともできなかったというの? トリガーを起動すれば換装が解けない限り生身の身体に傷付くことすらない。そんなお父さんが死んだということは犯人もトリガー使いであり、すなわち犯人イコール近界民(ネイバー)ということになる。もしかしたら強盗事件というのも嘘なんじゃないかしら!?)

 

ツグミはこれまでに集めた情報を元にひとつの仮説を立てた。

9年前、織羽と美琴とツグミの3人が一緒に歩いているところにキオンの近界民(ネイバー)が現れた。

この近界民(ネイバー)というのがゼノンの先輩という人物であると思われるが、トリオン兵がいたかどうかまではわからない。

近界民(ネイバー)の目的はミリアムの(ブラック)トリガーを奪うことで、そのために織羽のことを詳しく調べ上げ、油断をしていると思われるタイミングを狙った。

家族と一緒なら妻子を人質にして要求することができるし、戦うにしても女子供を守りながらの戦いでは圧倒的に不利となると考えただろう。

そこでどのような戦闘が繰り広げられたのかは想像できないが、わかっているのは織羽と美琴が死亡し、襲撃者の近界民(ネイバー)はキオン本国との連絡を断ったということのみ。

おそらく当該近界民(ネイバー)はこの戦いで死亡したであろう。

もし生存していたのなら城戸以外のメンバー ── 忍田や林藤たちもミリアムの(ブラック)トリガーの存在を知っていたはずなのだ。

そして不幸中の幸いで近界民(ネイバー)による襲撃事件は民間人に目撃されることはなく、城戸たちが極秘に処理することとなった。

とはいえ何事もなかったことにはできないということで、織羽と美琴の死亡原因を「被疑者不詳の強盗殺人事件」とした。

なにしろ近界民(ネイバー)に戸籍を作って養子にすることができた文蔵であるから、彼の人脈をもってすれば警察に虚偽の発表をさせることも、事件に関わる証拠隠蔽も難しいことではない。

 

(この仮説が正しかったとして、それならなぜわたしに真実を隠していたのだろうか? 7歳の子供にはショックなことだと考えたのかもしれないけど、両親が死んだという事実は変わらない。真史叔父さんたちは何か別の理由があって真実を隠していたのかも?)

 

ここまで考えたところでタイムアップ。

閉館時間となり、ツグミは図書館を追い出された。

 

(もう調べられることは全部調べたから、後はゼノン隊長にいくつか確認しておしまい。そして()()()に確認を取るだけ…なんだけど簡単には教えてくれるはずがない。ああいった百戦錬磨のオジサンたちを攻略するには搦め手で攻めるしかないわよね)

 

 

◆◆◆

 

 

ツグミが玉狛支部に戻ると、小南たちが外出の支度をしていた。

 

「ツグミ、いいトコに帰って来たわね。今日の晩ごはん当番はあたしなんだけど、作るのめんどくさいからあたしの奢りでみんなで肉食べに行くことにしたの。あんたも一緒に行くわよね?」

 

レイジや迅たちは全員出払っており、玉狛支部に残ったメンバーの夕食を作るのが面倒になった小南が自分の奢りで焼肉屋へ行くことになっていたらしい。

 

「いえ、お誘いは嬉しいんですけど、わたしにはゼノン隊長たちの食事を作るという仕事がありますから。わたしは彼らの分を作り、一緒に食べることにします」

 

「そっか…あんたにはそれがあったわね。じゃ、あたしたちだけで行くわ。留守番、頼むわね」

 

小南はそう言って、栞、修、千佳を連れて出かけてしまった。

ツグミは自室で着替えをするとすぐに厨房へと降りて来て冷蔵庫の中を覗いてみる。

冷蔵庫の中には玉狛メンバーの分とは別に食材が用意してあり、それでゼノンたちの食事を()()()が作ることになっているのだ。

 

(昨日は急に用事ができてしまったからゆりさんに頼んでしまったけど…、この様子だと昨日は午前中に作っておいたハンバーグと温野菜サラダだったみたい。だとしたら今日は…半端野菜いろいろと卵、それに冷凍うどんの玉があるからほうとう風うどんにしよう)

 

メニューが決まったところでツグミは作業を始めたのだが、食堂のドアが開く音がして反射的にドアの方を見る。

 

「ヨータロー!? 何であんたがそこにいるの?」

 

雷神丸に跨った陽太郎がドアを開けて食堂へと入って来るのを見付けたツグミは驚いた。

しかし陽太郎本人は当然だという顔で答える。

 

「そろそろ夕ごはんのじかんだからな。…ツグミだけしかいないのか?」

 

辺りをキョロキョロと見回して誰もいないことを訝しがっている。

いつもなら夕食の時間になれば誰かがいて、料理を手伝ったり雑談をしていたりするからだ。

 

「コナミ先輩たちなら出かけたわよ。人数が少ないから料理をするのが面倒だって。肉を食べると言ってたから、たぶん『寿寿苑』に行ったと思う。シオリさんとオサムくんとチカちゃんの4人で」

 

「肉を食べる」というひと言で陽太郎の顔が一瞬で怒りに変わる。

 

「なんだと!? おれたちをなかまはずれにしてじぶんたちだけでヤキニクにいったというのか!?」

 

「仲間はずれって…。それよりも何でヨータローだけが取り残されちゃったのかしら? もしかしてこんな時間までずっとお昼寝してたの?」

 

ツグミが訊くと、陽太郎は小さく頷いた。

 

「そっか…自分の部屋にいて寝坊したものだから、みんなに忘れられちゃったのね。焼肉を食べたいなら店まで連れて行ってあげるけどどうする? それともわたしたちと一緒に食べる? ほうとう風うどんを作ってるんだけど」

 

「ツグミのうどんがたべたい」

 

陽太郎が憤慨していたのは焼肉が食べたいからではなく、置き去りにされたことが悲しかっただけのようだ。

そして「わたし()()」とは即ちゼノンたちも一緒だという意味で、テオがいれば寂しくないということなのだろう。

 

「じゃあ、そこでおとなしく待っていて、準備ができたらゼノン隊長たちを呼びに行ってちょうだい。今日は誰もいないからここで気兼ねなく食べられるでしょ?」

 

「りょうかいした」

 

 

「ツグミ特製ほうとう風うどん鍋」ができあがるとゼノン、リヌス、テオ、陽太郎、そしてツグミという5人で大鍋を囲む。

普段は運ばれて来た料理を自分たちの部屋で食べるというルールになっているから、食堂に呼び出されたことでゼノンたちは戸惑っている様子がある。

 

「今日はこの5人しかいないから問題はありません。みなさんも気兼ねなく食事を楽しんでください」

 

ツグミがにこやかな顔で言うものだから、ゼノンたちは安心して席に着く。

特に意識したわけではないのだが、テオの隣には陽太郎が座り、リヌスの隣にツグミが着席するという形になった。

そして初めの1杯はツグミが盛り付けて全員に配る。

 

「さあ、皆さん、召し上がれ。これは鍋だから後は自分で食べたい分だけ盛ってください。…いただきます」

 

「「「「いただきます」」」」

 

ゼノンたちもツグミの影響を受けて食前の挨拶を言うのが当たり前になってきたものだから、全員で声を揃えて「いただきます」をした。

 

「これは『ほうとう』という郷土料理のアレンジです。カボチャなど野菜と鶏肉を味噌仕立ての汁で煮込み、その中にうどんを入れてみました。もう3月になりましたから鍋料理を楽しむのもあと僅か。鍋料理という大勢の人間がみんなでひとつの大鍋を囲む食べ方は冬ならではのものですからぜひみなさんと一度一緒に鍋を囲んでみたかったんです」

 

いつになるのかはわからないが、ゼノンたちが帰国することになるのは確定事項である。

少なくとも次の鍋シーズンまでこちら側の世界にいることはないのだから、これが最初で最後のチャンスになると考えたツグミがあえて鍋料理にしようとして作ったのがこの「ツグミ特製ほうとう風うどん鍋」だったのだ。

料理の味はゼノンたちも満足したらしく汁一滴残さず完食してしまったくらいで、身も心もホカホカになった彼らは慣れないながらも片付けをするツグミを手伝った。

それが彼らのツグミに対する感謝の気持ちなのだ。

いくら近界民(ネイバー)に好意的な玉狛支部のメンバーであっても、ツグミがゼノンたちに肩入れすぎるのを快く思っていない者がいることは確かである。

本部の上層部ともなれば捕虜を厳しく尋問して情報を手に入れたいと思うもの。

それをツグミが客人として扱うなどと言い出したものだから、鹵獲した遠征艇やトリガーの調査・解析しかできずにいる。

過去に捕虜の扱いで降格されたツグミのことを知っているゼノンたちは普段から心苦しく思っており、同時に彼女への感謝の気持ちでいっぱいなのだ。

 

「みなさん、お手伝いありがとうございました。おかげで片付けがいつもよりも早く終わりました。…それでゼノン隊長にお伺いしたいことがあるんですけど、少しお時間をください」

 

ツグミがゼノンを呼び止めた姿を見たリヌスがテオの肩を軽く叩くと、テオも事情を察して陽太郎を捕まえる。

 

「ヨータロー、オレたちの部屋に来いよ。トランプやろうぜ」

 

「おう、きのうのババぬきのせつじょくをはたしてやるぞ」

 

テオは陽太郎を連れて食堂を出て行く、リヌスはその後を追う。

ツグミの「お伺いしたいこと」の内容を何となく察したリヌスが気を使って、彼女とゼノンをふたりきりにしようと考えて、さらにリヌスの考えていることをテオがすぐに気付く。

長年一緒に行動している彼らだからこそできる芸当だ。

 

 

そして食堂にはツグミとゼノンのふたりだけが残された。

 

「俺に訊きたいことがあるようだが、前にも言ったようにキオン本国のことについては何も話すことはできない」

 

ゼノンはそう前置きして、ツグミが口を開くのを待った。

 

「ゼノン隊長の先輩というミリアムの(ブラック)トリガー捜索の前任者の方が9年前に消息不明になったというお話を聞きましたが、単独で行動をしていたんですか?」

 

「何でそんなことを訊くんだ? たしかに俺たちのような仕事をする場合、基本単独行動はしない。彼も部下をひとり連れていたのだが、そいつの行方もわからない。先輩と共に消えたのか、それとも別なのか…。とにかく先輩はオリバが玄界(ミデン)へ逃げた可能性があるという連絡を最後に消息を断ったのだ。だから俺たちはかつて先輩が辿ったと思われる国々を順に周り、そして最後にたどり着いたのが玄界(ミデン)だった。結局先輩の行方はわからずじまいだったが」

 

「なぜ直接こちら側の世界に来なかったんですか?」

 

「理由はふたつ。ひとつ目はオリバが玄界(ミデン)へ逃げると見せかけて途中の国にミリアムの(ブラック)トリガーを隠し、ほとぼりが冷めた頃に戻って来て回収するという可能性があったこと。オリバが戻って来る前に俺たちが見付け出せばいい。そしてふたつ目は俺自身が先輩を探すための旅であったからだ。正直言って俺には上の命令よりも先輩を探すことの方が重要だった」

 

「祖国のために働いているあなたが祖国の命令よりも優先するほど大事だったということなんですね?」

 

「そうだ。俺にとって恩人ともいうべき彼が裏切り者扱いをされていて黙っていられるものか」

 

「なるほど、そういうことだったんですね。良くわかりました。どうもありがとうございました」

 

ツグミは頭を下げて礼を言った。

 

「これくらいなんでもないことだ。しかし何で今頃そんなことを訊いたんだ?」

 

ゼノンに問われ、ツグミが答える。

 

「単に興味を持っただけです。ゼノン隊長たちは常に複数で行動しているのに、前に聞いた前任者さんはひとりだったような印象があったもので」

 

「それだけか?」

 

「はい、これだけです。…そうだ、ヨータローがリヌスさんたちの部屋で遊んでいるようですから、後で温かい飲み物をお持ちしますね」

 

「あ、ああ…頼む」

 

ゼノンはツグミが「前任者」のことを訊いた理由が「単に興味を持った」だけではないことに気付いていた。

 

(シノダたちから聞かされていた自分の両親の死の真相に疑問を持ち始めたのかもしれない。いずれ彼女が真実を知れば、俺たちのことを憎むだろうか? それにずっと隠し事していたことになるのだから、裏切られたと感じるに決まっている。憎まれて当然なのだが、今になって彼女から憎悪の視線を向けられるのは辛い。俺たちは彼女の優しさに甘えていてはいけなかったのだ)

 

そう考えるだけで足取りは重くなり、せっかくの鍋パーティーの熱も冷め切ってしまったゼノンだった。

 

 

 

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