ワールドトリガー ~ I will fight for you ~   作:ルーチェ

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【 ご注意(重要)】

142話~144話は原作の第179話「雨取千佳⑦」に該当するストーリーになります。
拙作を読んでくださっている読者様は原作の該当部分を既読であると思われますので、どういう展開になっているのかはご存知のはずです。
これまでずっと人に悩みを相談できずにいた千佳が初めて本心を告白し、レイジと栞が千佳の心情を理解してすべてを許し、千佳もそれによって戦いたいという気持ちになって終わります。

しかしわたしはこの流れに関して納得できない点が多く、オリ主を含めた3人で千佳の話を聞き、その上でわたしがオリ主の立場を借りて納得できない部分を挙げて千佳を責めます。
(142話は原作準拠で千佳の話を聞くだけ、143話と144話が完全オリジナルで千佳を責めることになります)

千佳のファンの方々からみればオリ主の言動を許せないと思うことも多々あると思います。
また葦原先生の描いたストーリーにケチをつけるなと思う方もいらっしゃるでしょう。
よって彼女が責められる姿を見たくない方、原作を否定することはするなと言う方はこの先を読むことをお勧めしません。
(原作を否定しているのではなく、納得できない部分を自分なりに補ったつもりです)

続けて読んでくださる方は上記の点をご理解の上でお読みください。
どうぞよろしくお願いいたします。

なお、作者による言い訳は144話の後書きに載せたいと思います。





142話

 

 

ゼノンたちにお茶を運んだ後、ツグミは自室で考え事をしていた。

 

(ゼノン隊長の話だと、ミリアムの(ブラック)トリガーを追っていた人間はふたりいた。そのふたりが同時に襲撃してきたのなら、お父さんがトリガーを使って戦って負けてしまうのも無理はないかも。ますますタダの路上強盗事件ではなく、近界民(ネイバー)によるミリアムの(ブラック)トリガー強奪未遂事件だったって確信が持てるようになってきた。そうなると襲撃者を倒したのは後から駆けつけた真史叔父さんたち…と考えるのが普通。…ううん、違う。真史叔父さんたちの到着前に襲撃者は死亡していたか、瀕死の重傷だった。事情を知るために証人として生かしておくはずだから殺してしまうことはないもの。そして近界民(ネイバー)の遺体や証拠品を密かに運び出してもこちら側の世界の人間がふたり死亡している事実を隠すことができず、警察等に圧力をかけて隠蔽した。そう考えるのが一番しっくりくる…)

 

そしてツグミは表情を曇らせた。

 

(この仮説が正しければわたしの両親は近界民(ネイバー)に殺されたことになる。近界民(ネイバー)はわたしにとって親の仇。そんなことも知らずにわたしは近界民(ネイバー)を庇って罰を受け、近界民(ネイバー)と仲良くするための道を模索していたってことになるんだわ。なんだか虚しくなってきた。…ただこれがわたしの見当違いなら良いんだけど、状況証拠がありすぎる。確認する方法はあるけど、真史叔父さんたちがすんなり教えてくれるはずがないし、わたしが知らないままでいた方が誰のためにも良いってことはわかっている。…でもやっぱり知りたい。記憶を取り戻すことができればあの時に見たことがわかるだろうけど、忘れてしまわなければならないほどの辛い光景だったからこそ思い出せないに決まっている)

 

ツグミにはふたつの道がある。

ひとつはこのまま自分を騙し続けて平穏な日常を守る。

もうひとつは自分や周囲の人間にどんな影響を及ぼすかを考慮し、その上で真実を明らかにする。

どちらを選ぶのも彼女の自由だが、その結果生まれた事に対して全責任を負うのも彼女自身である。

 

(自分のことならどんなことになってもかまわない。でも周りのみんなに迷惑をかけたり哀しませたりするようなことになれば取り返しがつかないことになる。真実を知りたいという自分のエゴを我慢すれば丸く収まるってわかっているんだもの、答えは決まっているじゃない)

 

ツグミはベッドの上に仰向けになると目を閉じた。

 

「お父さんとお母さんの死亡原因、ミリアムの(ブラック)トリガー強奪未遂事件、それらを隠すために真史叔父さんたちがわたしに嘘をついていること…それらはわたしの仮説にすぎない。きっとそんなものは現実にはなかったことなんだ。ないことを考えるなんておかしい。だからもう二度とそんなことを考えるのはやめよう…」

 

自分に暗示をかけるように小さく何度も繰り返し呟くツグミ。

そしてそれが10回ほど繰り返されると、彼女は寝息を立てて眠り始めたのだった。

 

「常人よりも記憶力が高く、頭の回転が早い」というのが彼女の真のサイドエフェクトなのだが、自分で自分の記憶を操作することによる結果である。

記憶を操作できることで、覚えたことや経験したことを脳内の適切な場所へ確実に保存し、必要な時にすぐに取り出せるだけでなく、不要であるものは本人の意思で取り出さない限り思い出さないようにできるということになるのだ。

簡単に言えばパソコンでデータを保存する時に任意の「ファイル」に「セーブ」し、作業を開始する時にはそこから「ロード」する。

そして不要なものは「ゴミ箱」に入れておくことで、あえて「ゴミ箱」を開いて元の場所に戻さない限り当該データを「ロード」することができないということだ。

本人はそのことに気付いていないだけで、無意識に自分に暗示をかけるという手段で「都合の悪い記憶」を封印している。

実は9年前の幼い彼女も同様に「目の前の惨劇」を封印してしていたのだった。

7歳の少女にとって人が死ぬ、殺されるということは理解できるものではなく、ただ目の前が真っ赤になり血液の生臭さの中で父と母が動かなくなり、自分の呼びかけに応じなくなるという異常な事態に本能的に怯えていただけ。

忍田たちに両親が死んだと聞かされても意味はわからず、「死」とはその人に永遠に会えなくなるということだと受け止めていた。

だから忍田から離れようとしなかったのは彼が死ねば永遠に会えなくなるからで、常に一緒にいて()()()()()ようにしたいという彼女の意思であったに違いない。

 

これで目が覚めた時には自分が「両親の死の原因に違和感を抱いて真相を調べていた」という事実さえ記憶にない状態になっているだろう。

そして交通事故によって死んだという忍田たちの話を真実だと信じ続ける。

一度は開きかけた「パンドラの匣」だったが、彼女は自分の意思で開けることはなかったし、これからも開けることはないだろう。

匣の中には誰も幸せにはなれない残酷な事実しか入っていないのだから。

 

 

◆◆◆

 

 

ツグミが眠りに落ちて1時間ほど経った頃、食事に出かけていた小南たちが帰って来た。

続いて彼女たちとは別行動だった遊真やヒュースも帰宅し、ミーティングルームが騒がしくなってきたものだから、ツグミは目を覚ましてしまう。

そしてしばらくして自室を出て廊下を歩いていると、千佳、栞、レイジの3人が階段を昇って来て、栞に呼び止められた。

 

「ツグミちゃん、いいトコに来た。ちょっと込み入った話をするんだけど付き合ってちょうだい」

 

「シオリさん、付き合うのはかまいませんが、状況が良くわからないんで大まかでかまわないので何があったのか教えてもらえませんか?」

 

栞の話だと、ヒュースが「千佳は人を撃てると思っている」と言い出したことが発端であった。

彼女たちが行った焼肉屋には二宮隊の4人が先客としており、相席するような形で食事が始まった。

そのうちにヒュースの変化弾(バイパー)が犬飼にバレていたとわかり、それを踏まえて玉狛支部に集まった面々が玉狛第2の次の試合に向けての作戦会議を行っていたのだが、そこでヒュースが「千佳は撃てる」発言をして騒ぎが起こったのだった。

たしかに彼女が撃てるか否かで戦術の幅が大きく変わる。

だからそれを確認したいというヒュースの気持ちはわかるのだが、その言い方が問題であったものだから作戦会議は混乱をきたしたのだ。

 

「ヒュースの言い方ならおおよそ想像できます。チカちゃんが答えようとする前にズバズバ言うものだから、チカちゃんが萎縮しちゃって何も言えなくなるって」

 

「そうそう。それでやっと『自分の手で相手が傷つくのを見るのが恐いから』って言えたんだけど、たしかにトリオン体の戦いでも生身のダメージを連想しちゃう子だっているものね。相手がもし生身の人間だったらって考えちゃって、撃つのが恐くなるのはありうる話でしょ?」

 

「ええ。鳩原さんがそうでしたからね」

 

「うん。そしたら今度は『戦場をリアルにイメージすると撃てなくなるということか? それはおかしいだろう。実際の戦場では、千佳が敵を撃たなければ遊真や修が死ぬ場合もある』とか偉そうな顔で言うのよ。それで『遊真や修がピンチになったら撃つんだろ? なあそうなんだろ?』って追い詰め過ぎちゃって、千佳ちゃんは顔面蒼白。もう尋問されてるってカンジだったわ」

 

栞はあくまでも千佳の味方であり、ヒュースの態度を嫌悪している。

そして千佳の気持ちを落ち着けるために場所を変えて、ゆっくりと彼女の言い分を聞こうということになったらしい。

そこで()()()()()()()()()である栞と()()()であるレイジのふたりが千佳を屋上へと連れ出したところ、途中でツグミの姿を見付けて呼び止めたという次第であった。

栞がツグミを誘ったのは、彼女が自分と同じ「千佳の理解者」であると考えているからである。

 

「あなたなら千佳ちゃんに適切なアドバイスがしてあげられるんじゃない? 千佳ちゃんが撃てないのは精神的なものだろうし、あなたなら彼女の気持ちも良くわかるはずだから」

 

「はい。チカちゃんのことはわたしも()()だと思っていましたから、それを解決することができるなら()()でお手伝いしますよ」

 

「ツグミちゃんならそう言ってくれると思ってたよ。さあ、行くよ」

 

 

 

 

屋上には栞、レイジ、そしてツグミが千佳を囲むようにして無言で座っている。

千佳が口を開くのを待っているのだ。

3月初めの夜だからまだ寒いが、その寒さが身を引き締めてくれるというか、頭の中を冷静にさせてくれるようでツグミには心地良く感じられた。

 

 

「わたし…小学生の時にトリオン兵に追いかけられたことがあって…その時はまだボーダーとかも出来てなくて…。お父さんもお母さんもクラスのみんなも、言っても信じてくれなくて…。でも一人だけ信じてくれた友達がいて、青葉ちゃんっていう子で…そのうち青葉ちゃんは行方不明になって…多分近界民(ネイバー)にさらわれて…」

 

千佳は自分の身の上話を始めた。

話が上手くまとまっていないようだが、それが彼女の心中を表している証拠だ。

 

「わたしはその時…青葉ちゃんがいなくなったことよりも…みんながわたしを信じ始めたのがこわかった…。『あいつの言ったことは本当だったのかも』って、わたしが巻き込んだせいだってなるのがこわくて…。わたしといたせいで青葉ちゃんがさらわれたって、みんなにそう思われるって思って…。何が言いたいかっていうと…わたしは本当は…人を傷付けるのが恐いんじゃなくて…誰かを傷付けたことを、人に責められるのが恐いんだと思う…」

 

「人に責められるのが恐い」という本心を口にしたのはこれが初めてである。

その言葉に至るまでの彼女の口ぶりは他人に自分の気持ちを語るのに慣れていないといった感があり、ここまで話すのも彼女にとっては一大事であったように思える。

一般には近界民(ネイバー)なんてものが知られていない頃であるから、いくら千佳が必死になって『怪物に追いかけられている』などと言っても誰も信じるはずがない。

それも両親にすら信じてもらえないというのだから、彼女の失望感は想像を絶するものであったに違いない。

そして唯一自分を信じてくれた友人が()()()()()近界民(ネイバー)にさらわれたとなれば自分を責めるに決まっている。

しかし彼女は「自分が巻き込んだせいで、相手が傷付くのを見るのが恐いから」ではなく「他人から責められること」を恐れているだけだった。

つまり友人が「さらわれた=傷付いた」ことよりも、周囲から「青葉ちゃんは千佳ちゃんと関わったせいでさらわれた」と他人に責められることが怖かったということ。

誰でも他人からどう見られるか気になるし、他人に責められるのは怖いと考えるものだが、彼女の性格や生い立ちのようなものが極端なものに変えてしまったのだろう。

 

「撃とうと思えば撃てるかもしれないけど…わたしのトリオンで人を撃ったらみんなにどう思われるんだろう…。ずるいって思われないか…こわいって思われないか…恨まれないか…それがこわい…」

 

ここでやっと千佳が「撃てるか否か」について口にするが、明らかに「撃ちたくない」という気持ちを訴えている。

彼女は生まれつき膨大なトリオンを有しており、ボーダー隊員であればそれを羨ましいと思ったり、ずるいと妬んだりする者も出ることだろう。

つまり彼女は他人からジェラシーの視線を向けられたり陰口を叩かれることが怖くて耐えられなかったから実力を発揮しなかったということになる。

 

「でも修くんや遊真くんにはだめなやつって思われたくなくて、だから一生懸命やるけど、自分は人を撃てないんだ、他の人より弱いんだって思い込んで…、だから許してくださいって…」

 

自分の中で自分に都合の良い言い訳を作って、だから仕方がないんだと自分に納得させていたというわけだ。

 

「だけどヒュースくんに、わたしが撃たなかったら修くんや遊真くんが死ぬかもって言われて、それならきっと相手が人間でも撃つってわたしも思った…。ふたりを助けたいし、それよりもっと『お前が撃たなかったせいで』って誰かに思われるのが恐いから…。わたし…わたしは結局いつも、自分のことばっかり考えてる…」

 

彼女の性格からすると、ここまで告白するのも死に物狂い、必死であったことだろう。

もしかしたら栞たちからも責められたり厳しい言葉を浴びせかけられる可能性もあったわけだから。

それでも勇気を振り絞って心の内を明かしたのは、彼女自身もこのままでいてはいけないと考えたからであるはずなのだ。

 

(やっぱりチカちゃんは鳩原さんのように『撃てない』ではなく『撃ちたくない』という心の問題だったんだ…。だったら解決する方法はある。でももう少し様子を見てみよう。シオリさんやレイジさんが適切な()()をしてくれるかもしれないから)

 

ツグミはそう考えてもうしばらく様子を傍観することにした。

 

 

「千佳ちゃん…それは普通のことだよ! おまえのせいだって思われるのは誰だってこわいよ、アタシだってそうだよ! そんなに自分を悪者にしなくていいんだよ」

 

「お前が撃たなかったことが原因で、修や遊真がお前を責めるとは思えない。もちろん俺もだ」

 

栞とレイジがそれぞれ千佳を肯定する言葉を言う。

つまり千佳は悪くなく、これまでのままでかまわないということだ。

 

「アタシもだよ!やれることをやっていこう千佳ちゃん。千佳ちゃんには今でもいっぱいできることがあるんだから…」

 

栞の言葉に千佳は大きく目を見開いた。

彼女の心の中に希望の灯火のようなものが点ったようで、自分でもちゃんと戦いたいという気持ちが芽生えてきたようだ。

しかしツグミは逆に落胆し、栞とレイジに対しても失望してしまった。

 

「ほら、ツグミちゃんも千佳ちゃんに何か言ってあげて! アタシよりもっと上手く励ます言葉が言えるでしょ?」

 

栞に促されたツグミはこれまで誰にも見せたことがない冷ややかな目で栞を見て静かに言う。

 

「わたしも自分の本心を言ってもかまいませんか?」

 

「え? ええ、いいけど…」

 

ツグミの様子がいつもと違うことに気付いた栞だったが、ツグミの「NOとは言わせない迫力」に気圧されてしまっていたのだ。

続いてツグミはレイジにも同じ視線を送って訊く。

 

「チカちゃんが言いづらいことをここまで打ち明けたんですから、わたしがそれをしても咎められることはありませんよね?」

 

「ああ」

 

レイジもツグミの尋常ではない様子に気付いたものの、やめろとは言わない。

むしろ彼女なら何か現状を良い方向へ大きく変えることができるのではないかという期待もあったからだ。

 

「わかりました。では、わたしもチカちゃんにわたしの気持ちと、わたしがどのような気持ちと覚悟で戦ってきたのかを知ってもらい、その上で今後どうするかを考えてもらいます」

 

そう言ってから千佳の顔を見てツグミは言った。

 

「チカちゃんも、いい?」

 

「はい」

 

千佳はツグミの目を真っ直ぐに見つめて返事をしたのだった。

 

 

 

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