ワールドトリガー ~ I will fight for you ~   作:ルーチェ

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17話

 

 

南西地区では玉狛第1がヴィザとヒュースの猛攻をしのいでいたが、修たちはなかなか避難できずにいた。

このままでは埓があかないと、レイジは自分と小南が敵を足止めして、京介を護衛に本部へ向かうよう指示をした。

同時に忍田からは付近の隊員は可能な限り修たちの援護に回るよう命令が出される。

戦うことのできないC級隊員が標的(ターゲット)となっている以上、彼らを本部基地まで送り届けるのは民間人への被害を食い止めるのと同レベルの重要性があるのだ。

アフトクラトルの最優先事項は「金の雛鳥」である千佳の確保であったから、レイジと小南の存在は邪魔でしかない。

そこでトリオン兵を南西地区の市街地に向かわせた。

そうなれば民間人を守るために隊員を割かねばならないからだ。

レイジは小南を市街地へ向かわせ、ヴィザとヒュースをひとりで相手することとなった。

人型相手に戦力の分散は無謀であるが、人型を倒せば勝ちというものではない。

レイジはできるかぎりの時間稼ぎをするという道を選ぶしかないのだ。

しばらくしてヴィザがレイジの作戦に気付いた。

 

「これは明らかに持久戦の構えでしょうな。どうやら本気で我々ふたりを食い止めるつもりのようだ」

 

レイジは地の利を利用していたるところに罠を仕掛け、正面から撃ち合わずにいたのだ。

数日前、レイジは迅から未来視(サイドエフェクト)によって視えた未来について話を聞かされていた。

「もし戦闘で人型と当たったら、他のやつらをさりげなく逃がしてほしい」と。

まとまっていれば全滅するかもしれないとのことで、レイジにはできるだけ時間稼ぎをしてくれと迅から頼まれていた。

だから正攻法ではいかず、人型を足止めする作戦に出たのだった。

しかしそれを敵に気づかれてしまったことで、状況は一変する。

 

「この相手は我々を倒すのが目的ではない。守りに徹して我らふたりを足止めする胆だ。生半可なことでは崩せまい。…もうこのあたりの人間は避難したようです。私が少々派手にやってもうっかり雛鳥を傷付けるおそれはないでしょう」

 

「…了解しました。援護します」

 

ヴィザは星の杖(オルガノン)を起動した。

 

〔伏せろ!!〕

 

ちびレプリカの指示に反応してレイジは身を屈めた。

その次の瞬間、周囲の建物が斬撃により切り裂かれた。

 

〔ユーゴが遺した記録によれば、あれはアフトクラトルの国宝のひとつ星の杖(オルガノン)だ〕

 

レプリカは敵が国宝である(ブラック)トリガーの使い手を遠征に投入するという事実に驚いていた。

同時にそこまでする理由が思い浮かばず、アフトクラトルに何かが起きているのではないかと推測する。

続いてヒュースの蝶の盾(ランビリス)がレイジを襲う。

避けたはずだったが、さっき千佳をかばった際に左腕に破片を受けていたことで左腕の自由を奪われていたのだ。

蝶の盾(ランビリス)の破片は磁力を帯びていて、対象を引き寄せたり行動を制限したりする効果もあるらしい。

しかし咄嗟の判断で自身の左腕をレイガストを(ブレード)モードに切り替えて切り落とした。

 

「すばらしい判断の速さだ。だが…」

 

ヴィザの動きを察してレイガストを(シールド)モードにして防御体勢をとったが、星の杖(オルガノン)で胴を真っ二つにされてしまう。

 

「…こちらの方が一手速い。さらばです、玄界(ミデン)の勇士よ。敗北を恥じることはない。星の杖(オルガノン)を初見で凌いだ人間はいないのだから」

 

勝ちを確信したヴィザはほんのわずかだが油断してしまった。

その瞬間を見逃さずレイジは最後の足掻きとばかりにレイガストをダガーナイフのような形状にしでヴィザに投げつける。

それは上手くヴィザの左膝に命中するものの、戦闘体の活動限界でレイジは緊急脱出(ベイルアウト)してしまった。

 

「盾にも仕掛けがあったとは、距離を詰めすぎたのはうかつでした」

 

「急ぎましょう。私のトリガーならまだ雛鳥に追いつけます」

 

ヒュースは蝶の盾(ランビリス)で翼のような形状のものを背中に装着し、リニアのような発射装置と形成する。

そしてふたりは空中へ射出された。

 

緊急脱出(ベイルアウト)したレイジは玉狛支部の作戦室へ戻ると、栞と共に敵トリガーの解析に臨むのだった。

 

 

◆◆◆

 

 

「…ダメです! ドアが開きません!」

 

本部基地への連絡通路入口までたどり着いた修たちであったが、その頼みの綱である扉が開かない状態であった。

京介が栞に問合わせた。

 

「宇佐美先輩、これ開かないんすか?」

 

「うーん、それが…本部と通信つながんないんだよね。通信室に何かあったのか…さっきのイルガーの特攻でどっか壊れたのかな?」

 

玉狛支部にいる栞には本部の状況はわからない。

 

「烏丸先輩、どうしますか?」

 

「ここが無理なら別の連絡通路を試すか…直接本部に向かうしかないな」

 

修と京介が相談していると、千佳が近界民(ネイバー)の気配を察知した。

 

「…! 追いかけて来る…! ふたり。すごい速さで…!」

 

「どういうことだ?」

 

千佳のサイドエフェクトを知らない京介に修が説明する。

 

「サイドエフェクトです。千佳は敵が近付くのを感知できるんです」

 

「…マジか。レイジさんが緊急脱出(ベイルアウト)してまだそんなに時間経ってないぞ」

 

京介の言うとおりだ。

しかしヴィザとヒュースが高速飛行して現れたのだから信じるしかない。

 

「ほっほ、追いついた。さすがは最新鋭のトリガーですな」

 

「恐縮です」

 

余裕の会話をしながら、ヴィザとヒュースは修たちの前に降り立った。

 

〔気をつけろ。老人の方は(ブラック)トリガーだ〕

 

ちびレプリカの忠告に修は警戒を強める。

レイジを倒した(ブラック)トリガーとなれば当然の反応だ。

 

「迅さんたちとの合流地点まで退くぞ。C級を連れて行け」

 

京介は自分ひとりで人型ふたりを足止めしようとするが、修たちがその場を離れる前に行く手を塞がれてしまった。

 

「ヒュース殿は手はずどおり雛鳥を。戦闘員は私が斬りましょう」

 

「了解しました」

 

余裕の人型に対し、追い詰められてしまった修たちに勝機はない。

この場合は逃げるしか生きる道はないのだ。

 

「早く行け! 修!」

 

京介が叫んだ次の瞬間、どこからともなく現れた「物体」が彼のすぐそばの民家の塀に激突した。

そして塀の瓦礫の中から現れたのは、修たちにとって最高の援軍であった。

 

「あだだだ…。これ、勢いつきすぎじゃない? レプリカ先生。間に合ったからいいけど…」

 

大げさに腰を摩りながら立ち上がったのは迅である。

 

「はじめまして、アフトクラトルのみなさん。俺は実力派エリート迅悠一。悪いがここからは、俺が相手をさせてもらう」

 

迅がそう名乗りを上げたところで、ヴィザとヒュースの頭上から遊真の一撃が降ってきた。

 

『弾』印(バウンド)六重(セクスタ)

 

遊真はヴィザに蹴りを加えたが、それは星の杖(オルガノン)の柄で防がれてしまう。

しかしこの攻撃は人型にとって想定外のもので、十分に効果はあった。

 

「おっと間違えた。『俺が』じゃなくて『俺たちが』だった」

 

迅が事も無げに言う。

その間にも遊真は次の攻撃に移っていた。

 

『強』印(ブースト)二重(ダブル)

 

最初の攻撃で仰向けになっているヴィザに遊真の拳が襲いかかる。

しかし今度は不意打ちではないので簡単に逃げられてしまった。

 

「…あ、しまった。警戒区域の外で戦っちゃダメなんだった」

 

「気にすんな。なんせ非常時だからな」

 

余裕を見せる迅と遊真。

 

「いきなり()()とは…いやはや、なかなか()()()()少年だ」

 

ヴィザがそう呟くように言うと、ヒュースは状況が不利になったと感じたのかすぐに攻撃体勢に入った。

蝶の盾(ランビリス)をレールカノン状に変形して千佳を撃つ。

それは修によって防がれたが、修の右腕に蝶の盾(ランビリス)の破片が撃ち込まれてしまった。

 

「修くん、大丈夫!?」

 

「大丈夫だ! 逃げるぞ! やつらはおまえを狙ってる!」

 

千佳は修を心配するが、特にダメージはない。

しかしこの破片が磁気を帯びていて対象を引き寄せたり行動を邪魔したりする厄介なものだと判明している。

だからヒュースから離れないとその影響を受けてしまうのだ。

 

「そっちは頼むぜ、京介、メガネくん。連絡通路は使えない。直接基地を目指してくれ。トリオン兵に気をつけろよ。まあ、そっちはツグミがあらかた片付けているだろうがな」

 

「了解」

 

京介は修とC級隊員を引き連れてその場を脱しようとするが、それを人型が黙って見ているはずもない。

 

「おっと、これ以上逃げ回られるのは…御免蒙りたい」

 

ヴィザが星の杖(オルガノン)を起動しようとした。

 

「動くな」

 

遊真の声に反応するかのように、ヴィザの周囲の地面から鎖が出現し、ヴィザの首に絡みついた。

それは遊真の初撃である蹴りを入れた時に打っておいた布石の『鎖』印(チェイン)であった。

『鎖』印(チェイン)は印同士をトリオンの鎖でつなぐもので、地面などに仕掛けて罠のような使い方もできる。

それでヴィザの動きを止めることはできたが、その隙にヒュースが逃げる千佳の背中に蝶の盾(ランビリス)の破片を撃ち込もうとした。

 

「エスクード」

 

迅が道幅いっぱいにエスクードを展開する。

背後に頑強な壁を作ったことで、人型は迅と遊真を倒さなければ千佳たちに指一本触れることさえできなくなってしまった。

 

「もうあいつらには追いつけないよ。俺の未来視(サイドエフェクト)がそう言っている」

 

「やれやれ…玄界(ミデン)はなかなかに曲者ぞろいだ」

 

ヴィザは星の杖(オルガノン)『鎖』印(チェイン)を斬る。

 

「ヒュース殿、作戦を切り替えましょう。このお二方をどうにかせねば我々は雛鳥を追えないようです」

 

迅は遊真と、ヴィザはヒュースとそれぞれ「内部通話」で作戦を練ることにした。

 

[レイジさんの情報によれば、このふたりは組ませるとヤバイ。磁力で相手を捕らえるトリガーと、特殊な斬撃の(ブラック)トリガーの連携だ]

 

[じゃあ、バラして戦えばいいでしょ。おれ、迅さんの戦い方知らないし、連携の勝負だと分が悪い。おれたちが爺さんの方だな。さっきつけた印があるし、磁力とやらはようわからん]

 

[OK、それでいこう]

 

迅はヒュースと、遊真はヴィザと戦うことにした。

 

[さあ、どう仕掛けますかな? このまま二対二か、それとも分断か]

 

[どちらでも問題はありません。すでに次善の手は打ってあります]

 

人型は迅たちのことよりも千佳たちのことの方に重点を置いているから流れに任せるようだ。

 

「行くぞ、レプリカ」

 

〔心得た〕

 

『強』印(ブースト)二重(ダブル)

 

多重印によって強化された『鎖』印(チェイン)がヴィザの星の杖(オルガノン)に絡まった。

 

「っせーのっ!!」

 

遊真は全力でヴィザを宙に放り投げる。

 

『弾』印(バウンド)二重(ダブル)

 

遊真は印をジャンプ台にして大きく飛び上がった。

 

「力任せとはなんとも豪快な。しかし空中ならこちらも気兼ねなく全力を振るえる」

 

そう言ってヴィザは星の杖(オルガノン)を起動するが、すぐに違和感を覚えた。

 

「重い…! いつの間に…!?」

 

星の杖(オルガノン)(ブレード)部分に『錨』印(アンカー)が撃ち込まれている。

『錨』印(アンカー)とはボーダーのトリガーでいう鉛弾(レッドバレット)である。

旧弓手町駅で三輪隊に襲われた時に三輪の鉛弾(レッドバレット)からコピーしたものだ。

 

〔伸ばした円の軌道上を(ブレード)が走る作りのようだ〕

 

「レイジさんの予測で大体合ってたな」

 

『錨』印(アンカー)『射』印(ボルト)四重(クワドラ)

 

『射』印(ボルト)で射程兵器にすることで『錨』印(アンカー)を離れた敵に撃ち込む。

三輪が鉛弾(レッドバレット)拳銃(ハンドガン)で撃ち込むのと同じ原理で、ヴィザは全身に重石を食らったことで身動きができず、遊真の蹴りで地上に落下した。

 

「うーむ…先ほど斬った鎖にもこの重石の仕掛けが…。玄界(ミデン)のトリガーはなかなかに多彩ですな」

 

遊真はヴィザに訊く。

 

「ひとつ訊きたいんだけどさ、なんでわざわざこちら側の世界を狙うの? トリオン使える人間がほしいなら、近くの国から捕まえてくればいいじゃん」

 

「…ええ、無論そのようにしておりますよ。近隣の国すべてに精鋭が派兵されております。ここ玄界(ミデン)もそのひとつです」

 

つまり同じような規模で他の国にも侵攻しているということ。

そうなると完全に本国を留守にしている可能性もある。

 

「以前は玄界(ミデン)の民を捕らえるのはたやすかったが、このところそうもいかなくなっている。他の国を攻めるのと同じように準備と戦力が必要になったというわけですな」

 

そんなことを話している間に撃ち込まれた重石が地面に落ちていく。

どうやら身につけているマントで『錨』印(アンカー)は防がれていたようだ。

 

「なんでそんなにあちこちから人を集めてんの?」

 

「それはお答えしても栓のないことでしょう。仮に事情をキチンとお話ししたとすれば、我らの『任務』に目をつぶっていただけますかな?」

 

「いや、全然」

 

会話は穏やかだが、双方の戦意はMAXまで達しようとしていた。

 

一方、迅はヒュースを相手に激しい戦闘を繰り広げていた。

ヒュースは蝶の盾(ランビリス)で防御しながら迅に破片を撃ち込もうとするがなかなか当たらずにイライラしてきた。

迅は未来視(サイドエフェクト)でヒュースの次の攻撃が見えるのだから、それを回避するのは雑作もないこと。

しかしここで人型ふたりを食い止めているにも関わらず、修や千佳の最悪の未来が消えないでいる。

 

「やれやれ…一筋縄じゃいかなそうだな」

 

迅は地下道にヒュースを誘い込むと対峙した。

この頃にはヒュースも迅が攻撃を見切る能力を持っていると推測していた。

地下道の暗さは彼にとって有利な状況でもあり、迅に対して一気に攻撃を仕掛けてきた。

 

「うおっ、弾が見えん!」

 

蝶の盾(ランビリス)の破片は保護色となり、それを集めて身に纏うと姿がまったく見えなくなってしまう。

それでも迅はヒュースの攻撃を避けながら後方へ脱しようとするのだが、ついに右腕に破片が撃ち込まれた。

さらに磁力で壁に引き寄せられて動けなくなる。

 

「思いのほか楽に捕らえられたな。貴様の仲間は迷わずに自分の腕を斬ったぞ」

 

「ふーむ…『磁力』に『反射』…。凝ったトリガーだな。いろいろ便利だし、使い手のウデもいい」

 

「…!?」

 

この状況で何を言っているのだという顔のヒュース。

迅は続けた。

 

「大事な戦力だろうになんで…おまえはここで見捨てられるんだ?」

 

「…? 何を…」

 

ヒュースの様相が変わる。

迅の言葉に動揺の色が見えた。

 

「き…貴様!! ふざけたことを…」

 

「はい、予測確定」

 

迅は両側の壁からエスクードを生やし、ヒュースの身体を挟み込んだ。

 

「ふざけてなんかいないよ。俺にはおまえの未来が見えるんだ」

 

「何…!?」

 

迅の言葉にヒュースはショックを受けたようだ。

そして思い当たるフシがあるのか、黙り込んでしまった。

 

 

 

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