ワールドトリガー ~ I will fight for you ~ 作:ルーチェ
わたしが本部から玉狛支部へ転属したのは今から約2年前のことです。
当時のわたしは
この頃には遠征参加の資格を与えられるだけの十分な実力を身に付けていましたから、数回
5年前の遠征に参加できなかったことが悔しかったという気持ちもありますが、何より「
基本的には戦闘をせず、現地の
現地で出会った人たちは友好的な人ばかりではありませんが、トリオン兵を送り込んで人をさらったり街を壊した連中と同じ
ところが2年前の遠征では目的地の国が第三国との戦闘状態に突入し、そこに居合わせたボーダー隊員も戦闘に巻き込まれそうになったのです。
幸い本格的な戦闘になる前に脱出することができましたので、全員無事に帰還しました。
ですが現地で少々トラブルが発生し、その原因となったのがわたしの行動だったのです。
その時の目的地は「メノエイデス」という国で、
そこに潜入し、その国の人間に接触してトリガーを手に入れるだけの遠征でしたが、メノエイデスは他国の侵略を受けて戦闘状態に入りました。
これではトリガーの入手は困難だと判断して予定を繰り上げて帰還することに決まったのですが、わたしたちが出発する直前にメノエイデスの兵士がボーダーを敵国の別働隊だと勘違いして強襲してきたのです。
こうなれば身を守るために戦わざるをえません。
そして数時間の戦闘ののちに敵兵の多くを撃退しました。
もちろん双方どちらも人命を失うようなことはなく、ボーダーの遠征艇も無傷で航行に問題はありません。
そして若い兵士をひとり捕虜にしました。
この時の遠征の責任者がこの捕虜から情報を引き出すことができればトリガーを入手できなかった分の埋め合わせができると考えたものですから、出発を延期して取り調べをすることになったのです。
その捕虜 ── ウェルスさんはトリガーの情報だけでなく何ひとつ話をしようとはしませんでした。
取り調べは数日間に及び、その間の彼の世話はわたしの役目でしたので、わたしは彼と何とかコミュニケーションを取りたいと努力しました。
3日目にやっと口を利いてくれて初めて名前を知り、その次の日には彼の個人的な話を聞くことができるようになり、次第に親しくなっていくことがわたしはとても嬉しかったです。
ウェルスさんは18歳で、彼には祖父と両親と妹がいて一緒に暮らしているということでした。
彼は一家の大黒柱的存在で、一番稼ぎが良いのは軍隊に入って戦争をすることなのだと言っていましたが、彼の表情から察するに「戦いたくはないが兵士になることでしか家族を養うことができない」という意味だと思われるものでした。
当然ですよね。誰だって人殺しをしたり自分が殺されそうになる戦争をやっているよりも、家族や親しい友人と一緒に穏やかで平和な日々を過ごしたいと思うものです。
そういった個人的な話題の会話からわたしと彼は交流を始めましたが、相変わらずトリガーや国の情報は教えてくれませんでした。
機密事項ですからおいそれと話してくれるはずがありませんよね。
そして5日間掛けても何の成果も得られなかったものですから城戸さんの指示を仰ぎ、彼の命令でウェルスさんを
ボーダー本部で時間をかけてじっくり聞き出そうということなのです。
ですがそんなことをすれば彼は家族と引き離され、最悪の場合は二度と会えなくなってしまうことでしょう。
会えなくなるだけでなく稼ぎ頭の彼がいなくなれば残された家族の暮らしは困窮し、想像をしたくない結果が待っています。
わたしは城戸さんの命令に逆らってウェルスさんをこっそり逃がしました。
城戸さん、いえ城戸司令の命令に逆らうということは隊務規定違反を犯すことであり、それ相応の処分を受けることはわかっていましたが、それでもなおわたしは彼と彼の家族のために
遠征部隊が帰還するとわたしは即刻本部内にある牢屋に放り込まれました。
本来ならウェルスさんが入れられるはずだった場所です。
そこでわたしは丸一日放置され、翌日に城戸さんを含めた上層部の面々の前に引き出されました。
まるで裁判…ではなく軍法会議にかけられる被告人のような気持ちになりました。
わたしは自分の判断と行動が間違っていないと訴えましたが、結局わたしは隊務規定違反により除隊させられることに決まりました。
しかしわたしのこれまでの功績や防衛隊員として欠かせない人材であることなどから、親しい隊員の中から除隊命令撤回を求める署名活動が始まり、全隊員の約3分の1の署名が集まったということで除隊だけは免れたのです。
そしてA級からB級への降格とポイント10000点剥奪、そして1ヶ月の謹慎という処分を受けることになり、わたしは自らの行為の責任を果たすことになりました。
その罰に見合うだけの罪を犯したのですから何の不満もありませんでした。
ただそれだけですべてが元通りになるわけではありません。
わたしは城戸さんの信頼を失い、ボーダー内での立場も微妙なものになってしまいました。
なぜなら本部所属の隊員の半数以上は城戸さんが掲げる「
そこで林藤さんは「本部では肩身が狭いだろう」と言って、自分が支部長をやっている玉狛支部へと誘ってくれました。
当時の玉狛支部には旧ボーダー時代からの仲間でありわたしにとっては家族同様のジンさん、レイジさん、コナミ先輩たちがいましたから、本部にいるよりもずっと居心地が良さそうだと思って転属を決心したのです。
当時はまだ中学生でしたから実家で生活して玉狛支部へは通いという形になり、中学卒業と同時に引越しをして生活の基盤が玉狛支部になったのは今からちょうど1年前のことです。
玉狛支部というのはボーダーにいくつかある支部の中でも異色な存在です。
なにしろ支部ひとつが丸ごと「
特に
ただ「城戸派」「忍田派」「玉狛支部」という3つの派閥のそれぞれの考え方はどれが正しいとか間違っているといったものではありませんから、個人的に不和や仲違いがあってもボーダー活動に特に影響はありませんでした。
昨年の12月にひとりの少年が
◆
ボーダー本部の誘導装置によって
そのシステムが正常に作動することで市民の安全が守られているので、三門市から転出する民間人は思いのほか少ないです。
しかしその誘導装置が効かないイレギュラー
彼も
そこで出会ったオサムくんと一緒に行動しているうちにふたりは事情があって警戒区域内でバムスターと遭遇。
しかし当時C級隊員だったオサムくんでは手も足も出せず、ユーマくんが自分の
なにしろボーダーが関知しないうちに
さらに翌日には第三中学校の校庭にイレギュラー
本来ならボーダー隊員の到着まで避難して待つべきでしたがこの時は急を要する状態でしたので、校内にいたオサムくんが
しかし彼は訓練生ですから彼の持つトリガーでモールモッドの硬い装甲を破ることはほぼ不可能。
事実、彼は倒すどころか一方的にやられるばかりで換装も解けてしまって危機一髪のところをユーマくんに助けられました。
ユーマくんは
バムスターがボーダーの管理外のトリガーで倒され、その現場にいた第三中学校の生徒を保護した事件があり、その翌日には第三中学校の生徒でC級のオサムくんがモールモッド2体を単独で倒した
このふたつの事件によってユーマくんの存在がボーダーに知られることとなりました。
ユーマくんはボーダー創設の功労者である有吾さんの息子さんで、有吾さんが
有吾さんのことは城戸さんも当然知っており世話になったという過去があるというのに、ユーマくんが
理由はバカバカしい、本当にバカバカしいものです。
本部には
ああ、ミリアムの
城戸さんは本部と玉狛支部の力関係が逆転してしまうことを危惧したものですから、こんなくだらない内部抗争になったわけです。
だからバカバカしいと言うのです。
しかしジンさんと忍田派の嵐山隊によって計画は阻止され、
真史叔父さんは城戸さんのやり方に反対していましたから、ジンさんに協力するという意味で嵐山隊に出撃を命じたのでした。
そして勝利したジンさんは城戸さんに自分の風刃を本部に渡すという条件でユーマくんを玉狛支部所属の隊員として認めるように申し出ました。
もし城戸さんがもう一度ユーマくんの
それにジンさんが風刃を本部に渡すことで
これと同時にオサムくんも玉狛支部に転属することに決まりました。
なにしろユーマくんはオサムくんを絶対的に信頼していますから、ふたりを一緒にしておけば無用なトラブルも防げるというもの。
もっともオサムくん自身も上層部から目を付けられていましたから、本部に残しておくのはジンさんにとって不安でしょうし。
さらに同時期にオサムくんの友人のチカちゃんも入隊することになります。
彼女は並外れたトリオン量を持つ能力者で、ボーダーが民間人に認知される以前からトリオン兵に狙われ続けたということでした。
その彼女は
B級ランク戦を経て遠征部隊参加を目指す戦いを開始したのでした。
◆
B級ランク戦というのはボーダーの防衛隊員の主力であるB級隊員が心技体を磨き合う模擬戦のようなものです。
ボーダーの戦いは基本的に
ですがそのランク戦の開始前に大事件が起こりました。
アフトクラトルによる侵攻です。
アフトクラトルの四大領主のひとつであるベルティストン家の当主ハイレインとその一派が次の「神」となる人柱候補とトリガー使いを攫うために大量のトリオン兵と共に三門市を蹂躙し始めました。
詳しいことは割愛しますが、ボーダーの活躍によって民間人への被害は最小限に抑えられ、負傷者は90人ほど出ましたが死者はゼロで済みました。
しかしボーダー隊員には死者6人とC級隊員32人が連れ去られるという被害が出てしまったのです。
後日、この侵攻に関する記者会見の場において極秘で進められていた
こうなると城戸さんも公式に認めざるをえなくなり、近いうちにアフトクラトルへ行って連れ去られたC級隊員を連れ戻すことを宣言したのです。
ひとまずアフトクラトルによる大規模侵攻が終結してボーダーは再び
B級ランク戦に話を戻します。
わたしはB級隊員ですから参加しようと思えばできるのですが、ずっと
ところがある事情によって
ひとりで3-4人の
初参加で最下位から始まりましたが4戦目にして全22
ですが大規模侵攻からB級ランク戦にかけての無理がたたり、トリオン切れで倒れてしまったんです。
そこでリタイヤすることになり、S級になった今はもうB級ランク戦に参加することはできなくなりました。
もっともこれは自分が選んだ道ですから後悔はありません。
◆
アフトクラトルによる大規模侵攻の騒ぎに紛れてキオンの諜報員が3人
ジンさんの
ゼノン隊長たちはひと月以上の時間をかけてミリアムの
大規模侵攻でのわたしの戦い方に注目したらしく、さらにわたしにはエウクラートンの人間特有の人並み外れた視力があったものですからオリバの娘だと判断されたということでした。
わたしがボーダー隊員でなかったら彼らはわたしを見つけ出すのにもっと苦労したことでしょうね。
とにかくわたしは自分が知らない間にゼノン隊長たちの
それからいろいろありましたが、今では彼らと友人として接しています。
彼らにはキオンの諜報員としての任務がありましたからわたしたちは敵同士として出会ってしまいましたが、彼らから任務を取り上げてしまったことで個人対個人の付き合いができるようになったわけです。
わたしのせいで任務に失敗したのですから彼らに恨まれて当然なんですけど、彼らはわたしへの鬱憤はないようで良好な関係を築くことができました。
この事件のせいでわたしや玉狛支部の仲間たちはこれまで城戸さんが隠していた20年前のボーダー創設の経緯からわたしの父親が
わたし自身の出生の秘密など驚くことは多かったですが、城戸さんが隠していたのには正当な理由がありますから怒りは湧きませんでした。
しかしミリアムの
ミリアムさんもわたしの考えに賛同してくれたようですから、これからわたしはこれまでのように
もちろんこれから進む道が平坦なものではないと覚悟はしていますが、わたしには不可能と思われることでも可能にしてしまうだけの意思の強さがありますからきっと大丈夫ですよ。
だから心配しないで見守っていてください。
ツグミはミリアムに語り終えると、深い海に沈んでいくように眠りに就いたのだった。
次回からはツグミと特に深く関わることとなった隊員たちとの話になります。