ワールドトリガー ~ I will fight for you ~   作:ルーチェ

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18話

 

 

本部基地では「敵侵入」のアラートが鳴り響いていた。

風間隊を見失ったエネドラは次の標的を本部基地に定め、液状化した姿で通風孔から侵入したのだ。

エネドラは通信室に侵入し、通信員6人が犠牲となった。

続いて研究室方面へ移動。

研究室でキューブ化された諏訪の解析をしていた研究員たちは忍田から退避命令が出され、ギリギリのタイミングで最後の操作をして諏訪を元の姿に戻してから避難を開始した。

そのおかげで諏訪は堤・笹森のふたりと合流し、エネドラ迎撃に向かった。

 

「新型の次は(ブラック)トリガーかよ! 復帰早々クソめんどくせーのが来やがったな!」

 

「めんどくせー」と言いながらも楽しそうな諏訪。

それはエネドラも同じようだ。

これまで非戦闘員を追い立てていただけのエネドラは()()()()が現れたことで狂喜した。

諏訪と堤の銃手(ガンナー)ふたりによって通常弾(アステロイド)散弾銃(ショットガン)攻撃で畳み掛けるが、いくら撃ってもエネドラにはまったく効果がない。

エネドラの泥の王(ボルボロス)は自らの身体を固体・液体・気体に変化させるもので、風間隊を翻弄したように液状化してそれをブレードとして攻撃したり、受けた攻撃を無力化したりと超チートなトリガーなのだ。

しかしトリオン体である以上は伝達脳と供給機関はある。

常に体内を移動させて的を絞らせないようにしているだけであるから、端から端まで虱つぶしにいけという風間の指示に従い、諏訪たちは散弾銃(ショットガン)型トリガーを撃ちまくっていった。

さらにエネドラを誘うように通路を走って行くと、訓練室のひとつに逃げ込んだ。

そしてエネドラが入ったところで扉を閉じ、同時に仮想戦闘モードを起動する。

するとその直前にエネドラのブレード切り落とされた諏訪の腕が復活し、それを見たエネドラは困惑。

そんなエネドラを諏訪が挑発する。

 

「来いよ、ミスター(ブラック)トリガー。お望みどおり遊んでやるぜ」

 

「『遊んでやる』だぁ…!? 猿が満足に口利いてんじゃねーぞ!!」

 

たった今自分が斬った男がダメージを受けた様子も見せずに煽り立てるようなことをするのだから逆上するのは当然だ。

その感情をそのままぶつけたかのように液状化のブレードが諏訪に襲いかかる。

攻撃を受けて戦闘体が切り裂かれるが、一瞬にして元通りとなった。

 

「おーおーナイスな攻撃だな。もっかいやってみろよ、ほれ」

 

ノーダメージの諏訪におちょくられ、ますますエネドラは激昂する。

諏訪隊がエネドラを訓練室に閉じ込めたのにはふたつ理由がある。

ひとつは仮想戦闘モードであればトリオン切れはないので、傷付いた戦闘体も復活できるという点。

もっとも敵の攻撃に効果がないのと同時にこちら側の攻撃も通じないのだから、延々と戦闘が続くことになるのだが。

そしてふたつめは訓練室なら敵のトリガーの解析ができるということ。

だから戦闘が長引けばこちらにとって都合が良い。

本部作戦室では上層部が諏訪隊の賢い判断を評価していた。

そしてとうとう忍田が動く。

 

「城戸司令、しばらく指揮をお願いします」

 

「…いいだろう」

 

城戸が表情を変えず静かに言う。

エネドラ(ブラックトリガー)に対抗しうる戦闘員は忍田において他になく、このタイミングで彼を投入するのは最善の策だと判断したのだ。

 

 

◆◆◆

 

 

遊真とヴィザの戦いは苛烈なものとなっていた。

さすがの遊真も国宝級の(ブラック)トリガーを扱うヴィザには手をこまねいていて、なかなか優位に立つことができない。

せっかく撃ち込んだ『錨』印(アンカー)の重石もほとんどが削ぎ落とされてしまう

『弾』印(バウンド)『鎖』印(チェイン) でヴィザの動きを一時的に拘束し、『射』印(ボルト)『強』印(ブースト)をプラスして攻撃を加えた。

しかし星の杖(オルガノン)によって拘束は解かれ、逆に遊真は左腕を斬り落とされてしまう。

それもレイジがヴィザの脚を削ってくれたおかげで左腕だけで済んだともいえる状況だ。

 

「どうやらその左手が()()をするらしい」

 

老獪なヴィザには独特な攻撃をする遊真のトリガーの秘密が左腕(レプリカ)にあるとわかってしまったのだ。

遊真の左腕に同化していたレプリカが切り離されて、その姿をヴィザの前に晒してしまった

 

「これは珍しい。トロポイの自律トリオン兵とは…。道理で…多彩で複雑な攻撃に合点がいきました。若さに似合わぬ周到な戦いぶりもお見事。後学のためにじっくりお手合せ願いたいところですが…、もたもたしていては雛鳥に逃げられてしまう」

 

「…?」

 

遊真はヴィザの言葉に嘘を見つけた。

 

「レプリカ、()()()()囮だ。オサムとチカを守れ」

 

〔心得た〕

 

レプリカは自分のコピーを残してフルパワーで修たちを追った。

 

「二手に分かれてよろしいのですかな?」

 

遊真の判断に疑問を持ったヴィザが言う。

 

「…おまえ、つまんないウソつくね」

 

遊真は自分の役目が目の前の老人を足止めすることだと認識し、自分の代わりにレプリカを修たちのもとへと送ったのだ。

レプリカがいないと多重印や複合印を使うたびに自分で設定をしなければならず不利になるのは当然わかっている。

しかしそれでも遊真は修たちのために自分が不利になる道を選んだ。

それが後に修()()を救う重要な選択となる。

 

 

◆◆◆

 

 

修たちの前にラービット7体が出現した。

その直前、遠征艇内のハイレインが戦いを長引かせる必要はないと、残りのラービットをすべて投入して一気にカタをつけようとしたからだ。

すでに雛鳥の群れ、すなわちC級隊員たちを護衛する修にはヒュースによってマーカーが撃ち込まれており、マーカーの反応を追うことで居場所がわかるようになっている。

よって修たちは突然敵が現れたことでパニックとなり、特にC級隊員たちは逃げ惑うばかりだ。

 

「新型だ。凌ぐぞ、修」

 

「はい!!」

 

京介はエスクードで道を塞ぐが、それを乗り越えて追いかけて来る。

 

「この道はダメだ! 迂回して別の道から基地へ向かえ!」

 

全速力で逃げる修たちだが、数が多すぎて追いつかれたらおしまいとなる。

その危機一髪の状況で、上空から出水の通常弾(アステロイド)の雨がラービットに降り注ぎ、ダメージを与えたところに米屋と緑川がそれぞれ槍型弧月とスコーピオンで攻撃を加えた。

南部地区でB級合同部隊と共にランバネインを倒したA級トリオが駆けつけてくれたのだ。

しかしラービットにトドメを刺すことはできなかった。

 

「三雲先輩、お待たせっす!」

「ウワサの新型がウジャウジャいんなー」

 

「緑川!! 米屋先輩!!」

 

援軍の登場に修は喜びの表情となる。

 

「遊真先輩は?」

 

「空閑はむこうで(ブラック)トリガーと…」

 

「マジか! いいなー!」

 

米屋は羨ましがるが、それどころではない。

そこに出水が追いついた。

 

「よー、京介。先輩が助太刀してやるぜ。泣いて感謝しろよ」

 

「泣かないすけど、感謝しますよ。C級を基地まで逃がします。迅さんの指示です。敵を引きつけてください」

 

「了解。…通常弾(アステロイド)

 

出水は両手にトリオンキューブを出すとラービットを攻撃する。

修は出水の隊服のエンブレムを見て思い出した。

 

射手(シューター)…! この人が霧科先輩の言っていたA級1位太刀川隊の出水先輩か…!?)

 

出水のトリオンキューブの大きさや弾数に息を呑む修。

 

(あれがトップクラスの射手(シューター)…! ぼくの何倍あるんだ…!?)

 

射手(シューター)のトリオンキューブの大きさは本人のトリオン量に比例する。

したがってトリオン能力の高いツグミや出水のキューブは一般の射手(シューター)のそれと比べるとはるかに大きい。

トリオン能力の低い修にとってはその圧倒的な差にただ驚くしかない。

 

「気を抜くな修! まだ数で負けてる!」

 

京介の言葉で修は現状を意識する。

援軍が3人いてもラービットの数の方が多いのだ。

 

「3人が足止めしてくれても何匹かは抜けてくるぞ!」

 

その言葉どおり、ラービットが逃げるC級隊員を追ってきた。

そして京介も抜かれ、1体のラービットが修に向けて蝶の盾(ランビリス)の破片を撃ってきた。

ラービットのプレーン体でも手こずるというのに、様々なトリガーの性能を付加したモッド体では太刀打ちできるものではない。

蝶の盾(ランビリス)の破片を撃ち込まれた修は磁力で身動きができなくなってしまい、かろうじて通常弾(アステロイド)を撃つがラービットは正面からその攻撃を受けた。

彼の(トリオン)なら避けるまでもないというのだ。

事実、装甲にはかすり傷ひとつ付けられなかった。

すると千佳と出穂が戻ってきて修の援護をしようと、出穂はアイビスの銃口をラービットに向ける。

 

「何をしてるんだ、ふたりとも! ぼくは大丈夫だ! 緊急脱出(ベイルアウト)が…」

 

「修くん、わたしのトリオンを使って!」

 

千佳がそう言って両手で修の左手を掴んだ。

 

[トリガー臨時接続]

 

千佳のトリオン量と修のトリガーなら効果的な攻撃も可能だ。

しかし学習能力のあるラービットは先の千佳のアイビスの威力を警戒して距離をとる。

警戒している敵に当てるのは容易なことではない。

そこで修は京介との訓練での教えを思い出した。

「チームで戦う時は仲間の火力に自分の火力を合わせることを意識しろ。それをできるのが射程武器の強みだ」

そして出た結論は「今やるべきことは敵の数を減らすこと。狙うのは他の人と戦ってるやつだ」…ということで、出水が戦っているラービットを標的に決めた。

 

通常弾(アステロイド)!」

 

普段の修の何倍もある大きさの(トリオンキューブ)を撃ち出すと、それは出水の相手をしていた2体のうちの1体に直撃した。

 

「うおっ!? なんだこりゃあ!?」

 

出水でさえも驚くほどの強力な通常弾(アステロイド)はラービットを木っ端微塵にした。

 

 

 

 

その様子を見ていた遠征艇内のハイレインはとうとう自ら出陣することに決めた。

 

「期待以上だな。窓を開けてくれ、ミラ。出るつもりはなかったが…『金の雛鳥』は俺が捕らえよう」

 

 

 

 

まず1体倒すことができたが、まだ6体残っている。

 

「次は正面のやつだ! 来るぞ!」

 

蝶の盾(ランビリス)の能力を持つラービットが修たちに向かって来るが、今度はその側面から出水が徹甲弾(ギムレット)で攻撃。

ラービットの動きが止まったところで修が通常弾(アステロイド)を撃つとラービットは大破し、修を拘束していた磁力は消えた。

 

「おい、メガネくん。おまえ、何者だ? トリオン半端ねーな!」

 

驚く出水に答える修。

 

「玉狛支部の三雲修です。こっちは同じ玉狛の雨取千佳と本部所属の夏目さん。さっきのはぼくのトリオンじゃなくて、千佳のトリオンをぼくのトリガーで撃っただけです」

 

「あまとりちか…? 『玉狛のトリオン怪獣(モンスター)』か!」

 

千佳の名は本部のA級にまで知れ渡っているのだ。

 

「おれは出水。おれらで新型を片付けようぜ。撤退戦のつもりだったけど、うまくやりゃ全部殺せそうだ」

 

「はい!!」

 

希望が見えてきた修たちであったが、その直後にはそれが虚しいものであったことを知る。

 

 

 

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