ワールドトリガー ~ I will fight for you ~   作:ルーチェ

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ツグミにとって狙撃と戦術の師匠である東春秋についてのエピソードです。
初代狙撃手(スナイパー)で、元A級1位部隊(チーム)の隊長。
卓越した狙撃の腕前、研ぎ澄まされた頭脳から生まれる戦術、上司・同僚・部下、そして読者にも慕われる人望を持つ理想の大人として描かれている彼によってツグミは才能を開花させることになります。

()()()()()()()()、彼は高校時代にライフル射撃部に所属して県大会で優勝するほどの腕前を持っているという設定にしてあります。
ライフル射撃の未経験者で師匠がいないということですと、彼が初代狙撃手(スナイパー)となって弟子を指導するようになるまで時間がかかるからという理由です。
よって大学生の彼は高校時代にライフル射撃の経験があり、その関係で新トリガーの開発にも携わっているということにしました。
第一次近界民(ネイバー)侵攻以前に忍田や林藤が彼と接触し、ボーダーが遠距離攻撃のできるトリガーを考案中であるということで技術的な面をサポートしながらそのまま防衛隊員として正式入隊することになるという設定です。
そして完成したトリガー「イーグレット」を使用する初代狙撃手(スナイパー)となり、忍田からツグミを預かって彼女の師匠となります。
原作開始以前の時系列について詳しい資料はありませんので、なるべく原作と矛盾が出ないように進めたいと思います。




177話

 

 

第一次近界民(ネイバー)侵攻より約半年を経て、ボーダーの新組織は始動した。

しかし本部基地が完成したとはいえ防衛隊員の数は20人にも満たず、新入隊員のほどんとが戦闘未体験の()()であるから、最上たちがいた旧ボーダー時代のレベルには達していない。

それでも人員が増えたことで旧ボーダー時代からの隊員の負担は減り、部隊(チーム)を組んでの行動も可能となる。

そして部隊(チーム)を組むということで、近距離・中距離の攻撃に加えて遠距離からの攻撃が可能となるトリガーの開発が急がれた。

その結果生まれたのが「イーグレット」で、このボーダー初の狙撃手(スナイパー)用トリガーは防衛隊員たちの活動の幅を広げ、さらに射程距離を優先したイーグレットを元にして、速射性を重視し軽量化した「ライトニング」と重量過多ではあるものの威力に特化した対大型トリオン兵用の「アイビス」が開発される。

その開発に携わった初代狙撃手(スナイパー)・東春秋と彼によって多大な影響を与えられることになるツグミの出会いは新本部基地の完成パーティーの席であった。

 

パーティーといっても内輪だけのささやかなものであったから、大会議室に軽食と飲み物をデリバリーしてもらうというレベルで、参加者は防衛隊員・技術者(エンジニア)・職員、そして城戸たち上層部のメンバー全部合わせても50人に満たない。

もっとも本部基地の完成パーティーというよりも旧ボーダーメンバーと新メンバーの顔合わせ的な意味が強いものである。

城戸と忍田の挨拶の後、総務部、開発室、防衛部という順でひとりずつ自己紹介をすることになり、それぞれ年功序列で仮設舞台に上がって挨拶を始めた。

その様子を会場の隅で眺めていたツグミのそばに忍田がやって来て声をかける。

 

「ツグミ、これで組織を1年前のレベルにかなり近付けることができたと思うが、おまえはどう思う?」

 

忍田の問いにツグミは即答した。

 

「たしかに人員は増えましたし、今後も隊員や職員はどんどん増えていくでしょうからあまり不安はないです。でもまたいつこの前みたいな大侵攻があるかわかりません。それに()()()のような悲劇が二度と起こらないよう防衛隊員の訓練を強化するのはもちろんですけど、トリオン体での戦いであっても死ぬ可能性がゼロではないことを教えなければいけません」

 

「楽観はできない、か…」

 

「もちろんです。わたし自身はこれからも自己の鍛錬は続け、いざという時には全力で戦います。しかし人の生き死には本人の意思でどうすることもできない場合があります。ならばできるだけリスクを減らすためのシステムの構築を急務とし、安全に…とまでは言えなくても親御さんが安心して自分たちの子供をボーダーに送り出せるようにしなければなりませんね」

 

ツグミが小学生とは思えない辛辣な意見を言うものだから、忍田は少々面食らってしまった。

なにしろ自分や城戸が最優先で考えていたことをツグミも同じように考えており、その計画は既に始まっていたのだ。

 

「防衛隊員たちのリスクの軽減に関しては現在開発室に依頼してある。戦闘中に換装が解けてしまった際には任意の安全地帯に自動的に生身の身体を転送できるシステムだ」

 

「安全地帯に生身の身体を転送する…ですか? 換装中は生身の身体はトリガーホルダーの中に収納されていて別次元にあるということですから、安全な場所で元の身体に戻すというのはさほど難しいことではなさそうですね」

 

「ああ。そして鬼怒田さんがもうひとつ面白いものを作ってくれそうだぞ」

 

「面白いもの?」

 

「これはまだオフレコだが、訓練の際にトリガーとコンピューターをリンクさせてトリオンの働きを擬似的に再現し、実際にはトリオンを消費せずに継続的に戦闘訓練を行えるシステムを開発中なんだ。これが完成すると戦闘体が破壊されることもなくなるから訓練を続けられるだけでなく、その後に任務や緊急出動があっても大丈夫というわけさ」

 

「それが完成したら隊員の戦闘レベルの上昇はこれまでと比べものになりませんね。なにしろ無限に訓練ができるようなものですから」

 

ツグミと忍田の話しているものが後の「緊急脱出(ベイルアウト)システム」と「仮想訓練モード」である。

現在のボーダーでは当たり前のシステムであるが、それがなかった時代は換装が解けてしまった時の対処とトリオンの消耗による訓練の制限の2点で非常に苦労していたし、これらの問題点を解決しなければ組織の維持は難しいと考えられていた。

新本部基地の完成と大口のスポンサーの獲得、そして新たな人材の確保によって「新生ボーダー」はこの問題を解決する手段を得て、組織を一層拡大していくことになる。

 

(無限に戦闘ができるとなったら、太刀川さんなんてますます勉強しなくなるんだろうな…)

 

ツグミがそんなことを考えていると、そばに近付いて来た迅に呼びかけられた。

 

「ツグミ、そろそろ俺たちの番だぞ」

 

「あ、はい。今行きます」

 

挨拶の順番が近くなってきたようで、ツグミは迅の後を追ってトコトコと歩いて行く。

その後ろ姿を見つめながら、忍田は複雑な心境でいる。

 

(まだ小学生だというのにあの子は周囲の大人たちの影響を多分に受けて年相応の少女らしい部分があまり見られない。家に友達を連れて来たことは一度もなく、暇があればいつもひとりで本を読んでいるような子だ。本人の強い意思でボーダーに入隊させたが、それは正しい選択だったのだろうか?)

 

ツグミは7歳の時にボーダーへ入りたいと言い出した。

忍田を含め彼女の周りの人間はほとんどがボーダーの人間であったから、その影響を受けているのは間違いない。

そして忍田は自分がそばにいれば彼女を守ってやれると考えて剣術を教え、2年後には忍田の想定以上に成長しており仮入隊いう形で受け入れた。

ツグミ本人は仲間の足でまといになりたくないという一心であったが、一緒にいるうちに家族同然の付き合いをしてもらえるようになっていて、それが嬉しかった。

それが例の同盟国に協力する形での遠征で半数の隊員を失い、ツグミは心に大きな傷を負った。

さらに先の近界民(ネイバー)による侵攻では彼女は死にかけた上に、人を殺してしまったという11歳の少女には重すぎる十字架を背負わせることになってしまったのだった。

 

(あの子がボーダーに入りたいと言った時、私が絶対に許さずに近界民(ネイバー)などとは無関係な世界で生きられるようにすべきだったのではないだろうか。そうすれば今頃あの子は普通の12歳の少女で、大勢の友達に囲まれて笑顔で暮らしていたい違いない。私はこの手であの子を幸せにすると美琴姉さんたちに約束したというのに、この私があの子の普通の幸せを壊しているのか? …今更悔いたところで意味はないが、せめてあの子には美琴姉さんや織羽義兄さんの分も幸せになってもらいたい。そのために必要なことであればボーダーを辞めさせることもやむをえないだろう)

 

戦力として欠かせないツグミであるからボーダー本部長としての忍田は彼女を手放したくはない。

しかし彼女の()()としての忍田はそんなことよりも彼女の幸せを最優先したい。

その板挟みになって苦悩している忍田であるが、ツグミ本人は現状を真摯に受け止めている。

平和な世界で安穏と暮らすことを求める気持ちは当然あるが、彼女はそれを他人から与えられるのを待つのではなく、自分の手で掴み取ることに意義を見出しているのだから、ボーダー隊員として戦うことはなんら不幸などではないのだ。

もちろん数々の不幸に見舞われ苦しんだり自らの生命の危機に接したりしているが、本人に訊けば「それくらい大したことじゃない。これまで乗り越えてきたのだから、これからだって大丈夫」と笑顔で答えるだろう。

 

忍田が愛娘の将来についていろいろ考えていると、ツグミが舞台に上がった。

 

「霧科ツグミ、12歳の小学6年生です」

 

ツグミが小学生であることを知った人間たちからどよめきが起きた。

防衛隊員に中学生や高校生がいることは承知していたのだろうが、さすがに彼女が小学生であると知り驚いたのだろう。

トリオン器官の成長が若い間に限るという性質があるから成人よりも子供が戦闘員として用いられるのは仕方がないことだ。

しかしその事実を知らない者からすれば「子供を危険な戦場に送り込む非人道的な組織」だと勘違いされるかもしれない。

トリオン器官の性質を知っていてなお小学生の登場は衝撃的なものだったのだ。

ツグミもそんなに驚かれるとは思ってもいなかったものだから、舞台の上で戸惑ってしまった。

 

「えっと…でも来年の4月からは中学生になります。みなさんと一緒に戦えることを光栄に思い、足を引っ張らないように頑張りますのでよろしくお願いします」

 

と、それだけ言って早々に舞台を降りた。

そして視線を向けられるのが苦手なツグミはトイレに行くフリをして会場の外に出て行ったのだった。

 

 

 

 

ツグミが会場に戻って来ると、忍田の隣には東がいた。

ふたりが歓談しているので邪魔をしないようにと、気を利かして別の場所に行こうとしたところ忍田に呼び止められた。

 

「ツグミ、こっちに来なさい」

 

呼ばれたら行かないわけにはいかず、忍田のもとへと歩いて行く。

そして忍田よりも少し背の高い黒い長髪の男性が自分を訝しげに見下ろしていることに緊張しながら会釈をした。

 

「彼女が忍田さんの秘蔵っ子ですね?」

 

この様子だと東が自分のことを忍田から聞かされているのだろうと察し、ツグミはこの人物に少々警戒をしながら()()()をした。

 

(真史叔父さんから聞いていた技術者(エンジニア)と一緒に新しいトリガーの開発をしている大学生の隊員候補って人はこの人かな? なんだかちょっと想像していた人とイメージが違うけど…。技術者(エンジニア)というより学校の先生のような雰囲気が漂っていて、実年齢の21歳よりも大人っぽい。眠たそうな目をしているけどそれは見てくれだけでかなりの切れ者って感がある。初めて会った時の太刀川さんみたいにわたしに対して敵意はないみたいだけど、好意的ってカンジでもない。やっぱ小学生が防衛隊員なんてやってるのは一般に受け入れがたいのかな…?)

 

この時ツグミが感じていた「敵意はないが好意的でもない」という感覚は間違っていなかった。

東は忍田から聞かされていた話と実物の印象が大きく違っていたものだから、忍田の話を鵜呑みにしても良いのか疑いの目で見ていたのだ。

しかしすぐにお互いの疑念は消えることになる。

 

「東、私はこの子に例のトリガーを使わせてみたいと思っているんだが、おまえから見てどう思う?」

 

忍田が東に訊く。

 

「さすがに見ただけではわかりませんよ。でも()()()が本当なら、訓練によっては()()になるでしょうね。ちょっと彼女と話をさせてもらっていいですか?」

 

「ああ、もちろんだ」

 

忍田の許しを得た東は背を屈めてツグミの背の高さに合わせると、視線を真っ直ぐ向けて訊いた。

 

「忍田さんの話だときみは通常の数倍を超える視力を持っているそうだけど、それは本当かい?」

 

東の態度には「何らかの疑いをかけられた児童を問い質す担任教師」といった感があり、ツグミは東にあまり良い印象が持てなかった。

 

「何でそんなことを訊くんですか?」

 

逆に質問された東は静かに言う。

 

「忍田さんから聞いたと言っただろ?」

 

「じゃあ、忍田さんの言葉を信用していないってことですか?」

 

本人に本当かどうか尋ねているということは、忍田の話を半信半疑でいるか、もしくは自分自身で確かめたいかのどちらかである。

もちろんツグミは東が忍田の話を信用していないとは思っていない。

後者であることは間違いなのだが、あえてそんな言い方をして()()をした。

ここで東が面白がるか怒るかを試してみたいという好奇心がツグミを駆り立てたのだった。

 

「いや、言い方が悪かったね。俺はきみのその能力に非常に興味がある。だから本人に確認したかっただけなんだよ」

 

「失礼しました。わかっていてわざと言ってみただけです。たしかにわたしは普通の人よりもはるかに目が良いです。具体的に言うと一般の視力の基準の20.0くらいあるそうです」

 

「……」

 

「信じられないという顔ですけど、百聞は一見に如かずです。言葉だけでは信じ難いなら試してみませんか?」

 

ツグミが提案すると、東は乗ってきた。

 

「いいとも。それでどうするんだい?」

 

「簡単なものです。ちょっとお時間をください」

 

ツグミは東を連れて廊下に出た。

その後を忍田も付いて行く。

 

「東さん、小銭入れはありますか?」

 

「あ、ああ」

 

東はジャケットの内ポケットからコインケースを取り出した。

 

「じゃあ、わたしはこれから向こうの端っこまで行って準備ができたら手を振ります。そうしたらあなたは適当なコインをこうやって指で挟んでわたしに見せてください」

 

ツグミが右手の親指と人差し指でコインを持つようにジェスチャーをした。

 

「向こうの端って…ここからだと100メートル以上はあるぞ」

 

「大丈夫です。わたしには見えますから。そして確認したらもう一度手を振ってから戻ります」

 

自信満々のツグミはそう言い残して小走りに駆けて行った。

そして廊下の端に着くと東たちに見えるように大きく手を振る。

すると東はコインケースの中から100円硬貨を取り出して()()をツグミに見えるように持って掲げた。

 

「100メートルも離れていて、本当にこんな小さなコインが見えるんでしょうかね?」

 

まだ信じられないという顔の東に忍田が言う。

 

「問題ない。ほら、見えたという合図の手を振っているぞ。戻って来ないうちにそれを手の中に隠しておけ」

 

忍田に言われたように、東は硬貨を握って見えないようにすると、ツグミがさっきと同じように小走りで戻って来た。

 

「東さん、ちゃんと見えましたよ。答えは100円硬貨で、わたしの方には桜の花の絵が書いてある表を向けていました」

 

「…!」

 

東は握っていた手のひらを開いて硬貨をツグミに見せた。

 

「いや…驚いたな。あんな場所からコインの柄まで見えるなんて信じられない」

 

「でも正解だったでしょ? この能力はサイドエフェクトという超感覚の一種だそうです。…それで質問なんですけど、さっき忍田さんとの話の中でわたしに例のトリガーを使わせてみたいとか、あの話が本当なら訓練によってはものになると言ってましたけど、それはどういうことですか? 本人の意思を確認せずに大人たちだけで何か企んでるようで気分が悪いです。怒ったりしませんから、正直に話してみなさい」

 

さっき東にやられたものだから、ツグミはわざと「何らかの疑いをかけられた児童を問い質す担任教師」な言い方で訊き返した。

すると忍田と東は顔を見合わせて吹き出し、ふたりだけで通じるような意味深な笑みを浮かべた。

 

「失敬、きみが聞いていた話よりも興味深いキャラクターだなと思ったものだからつい笑ってしまった。たしかに当人の意思を聞かずに話を進められるのは不愉快だ。まあ、隠しておかなければならない話ではないので正直に話すよ。…実は遠距離攻撃用トリガーの試作品があって、俺はその開発にも携わっていた。高校時代にエアライフルの選手をやっていて、そこを忍田さんたちに見込まれて技術者(エンジニア)の真似事なんてことをしてさ、やっと満足のいくものが完成した。トリガーの名前は『イーグレット』、英語で白鷺って意味だ」

 

「イーグレット…素敵な名前ですね。そういえば弾丸トリガーにも『アステロイド』という正式名称が付けられたと聞いています。戦う道具であっても名称が付くとなんとなく身近に感じて大事に使いたくなってきます」

 

「うん、そういう感覚、いいね。それで忍田さんから是非きみに射撃の技術を教授してやってくれと頼まれたんだ」

 

それを聞いてツグミは忍田の顔を見て訊いた。

 

「トリオン体だと生身の時の身体能力によって個々の差はあまり出ません。近視の人でも普通の人のように見えるように矯正されたり、普通の筋力しか持ち合わせていなくてもウエイトリフティングの選手のように重いものを持ち上げられたり。でもわたしの場合はサイドエフェクトですから、戦闘体に換装していてもしていなくてもその能力は発揮し、誰よりも遠くのものや小さいものを見分けることができます。そう言った意味でわたしに狙撃が向いていると判断したんですね?」

 

「それもあるが、おまえは誰よりも忍耐強く、物事をコツコツとやるタイプだ。おまけにトリオンも多い。狙撃手(スナイパー)はじっと身を隠しながら、いざという時に必殺必中の銃弾を撃つポジション。忍耐強くなければ務まらない。私はおまえに向いていると思うのだが、どうだやってみないか?」

 

忍田の言う「おまえに向いている」という言葉には、ツグミが未知のものに対して怖じ気付くことはなく、むしろ積極的に知ろうとする性格のことも含まれている。

以前に通常弾(アステロイド)が完成した時にも「中距離攻撃ができれば攻撃手(アタッカー)の援護もできるようになる。トリガーの選択肢が多い方が状況に応じて使い分けることで戦況を変化させるのも可能」だと言って誰よりも早く訓練を開始した。

だから射手(シューター)としての師匠はおらず、すべてが本人のセンスによるものである。

よってイーグレットという遠距離攻撃用のトリガーがあると知れば絶対に乗ってくるという思惑が忍田にはあったのだ。

 

「興味はあります。今期の新入隊員の全員が攻撃手(アタッカー)ですから、彼らの中に狙撃をマスターしようという余裕のある人なんてないでしょう。狙撃手(スナイパー)近界民(ネイバー)との戦いにおいて戦況を一変させるだけの効果を生む重要なポジションです。わたしにその才能があるかどうかわかりませんがやってみたいと思います。東さんは学校の先生みたいなので、教えるのが上手そうですからね。期間限定で弟子入りし、そこで見込みがなければその場で辞める。見込みありならそのまま()()()()となるまでお世話になりたいと考えていますが、どうでしょうか?」

 

忍田の想像どおり、ツグミはやる気満々である。

彼女が言うように今期の防衛隊員はすべて攻撃手(アタッカー)として入隊している。

後に射手(シューター)から派生した銃手(ガンナー)用トリガーが完成するとそちらに転向したり攻撃手(アタッカー)用トリガーと併用して万能手(オールラウンダー)となる隊員はいるが、この時の入隊で狙撃手(スナイパー)となったのは東だけであった。

だから今後狙撃手(スナイパー)を募集するにしても指導できる隊員が彼しかいないのであれば、新入隊員の訓練にも支障が出る。

そこで東と彼の指導を受けた隊員が教官となって訓練できるようにと忍田は考え、その白羽の矢に当たったのがツグミなのであった。

 

「おまえならそう言うと思っていた。もう巡回任務の調整をして、明日の午後から訓練を受けられるようにセッティングしてある」

 

「さすがは忍田本部長ですね。お仕事が早いです」

 

「ハハハ…。なお木崎も一緒に訓練を受けることになっているからな、ワガママを言ってふたりに迷惑をかけないようにするんだぞ」

 

「はい、わかってます。…そうか、レイジさんも一緒ならなんか頑張れそうな気がします」

 

ツグミと忍田が親しげに話している様子を見て、東は含み笑いする。

 

(忍田さんの愛弟子だということだが、まるで父親が娘に接するような雰囲気だな。やっぱり小さな女の子だと娘みたいに思えるのかな? 霧科くんの方は上司である忍田さんに対して親しげではあるがきちんと一線を引いている。初対面である俺に対して警戒心はあったがすぐにその警戒を解き、接し方も目上の人間に対しての礼儀をきちんと弁えている。会話をしていても言葉使いや考え方が小学生のそれではないと感じられるところがあってちょっと子供らしくないところもあるが、それはそれで悪くいない。きっと彼女を育てている親戚という人の影響を多分に受けているのだろう)

 

この時の東はこのふたりの関係を知らないものだからそんな風に感じたのだ。

 

(こんな小さい女の子まで戦場へ送り込む…。現在の三門市はそこまでしなければ市民の生命や財産を守ることができないというところまで追い込まれており、現状を打開するためにはもっと大勢の防衛隊員が必要だ。特に狙撃手(スナイパー)がいるかいないかでは戦術の幅が大きく変わってくる。それをこの少女は理解し、自ら先陣を切って学ぼうとする意欲は素晴らしい。こうなると俺に与えられた役目は重要だな。しかし俺なんかに師匠が務まるものなのか…?)

 

東本人は自信なさげだが、彼を師匠と仰ぐ弟子たちがボーダーの主力となりこの4年後に起きたアフトクラトルの大侵攻を退けることになる。

指導力はもちろんだが、彼の薫陶を受けた()()()たちが後にA級部隊(チーム)の隊長となるのだから、彼の人徳による部分が大きいのは誰の目にも明らかだ。

つまりこの大規模侵攻の被害を最小限に抑え、民間人に犠牲者を出さずに済んだのは彼のおかげであると言っても過言ではない。

上司・同僚・部下すべてからの人望を集める東であるが、この時の彼はまだ自分の秘めたる才能に気付かずにいた。

そしてこの翌日から、ツグミは新たな一歩を踏み出すのだった。

 

 

 

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