ワールドトリガー ~ I will fight for you ~   作:ルーチェ

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178話

 

 

新本部基地には目的別に数種類の訓練室があり、狙撃手(スナイパー)用トリガーの導入を見据えて専用の訓練室も造られた。

10フロアぶち抜きの360メートルという長さを持つこの部屋は本部基地内で最大の広さである。

現在その部屋にいるのは東とツグミとレイジの3人だけなので余計にガランとしていて広く感じられた。

いずれここも多くの狙撃手(スナイパー)たちが訓練をするために賑わうことになるのだが、まだしばらく先のことである。

 

 

「改めて挨拶をするのもおかしいが、俺が教官の東だ。俺の役目はきみたちを一人前の狙撃手(スナイパー)にすること。ボーダー隊員としてはきみたちの方が先輩だろうが、射撃に関することは俺の方が先輩であるということで少々厳しく指導する」

 

東の心の中は複雑である。

ツグミとレイジは年下ではあるがボーダー隊員としては先輩で、また自分より少々背が高く鍛えられた身体を持つレイジと、背が自分の腰くらいまでの高さしかない明らかにライフル銃を持つには幼すぎるツグミという年齢も体格も凸凹なコンビに同時に指導するのだから前途多難だと感じるのは無理もない。

そして初めが肝心だということで厳しく接することにしたのだ。

 

「ここでの訓練の際には()()訓練生用トリガーを使用してもらう」

 

そう言って東はレイジとツグミにトリガーを手渡すとふたりは換装し、訓練生用の隊服姿となった。

ツグミは太刀川との模擬戦の時に使用していたものだからこの隊服に慣れているし似合ってもいるのだが、レイジは身長が190センチ近くもある高校生だから何とも違和感があってしっくりとこない。

とはいえ隊服なんてものは訓練の内容や技術的な面を左右されるものではないのでこのまま続けるしかないのだ。

 

「まずは構え方からだ。イーグレットを起動してくれ」

 

ツグミとレイジはイーグレットを起動して両手で抱えた。

 

「基本の姿勢、つまり構えは3種類ある。『立射(りっしゃ)』『膝射(しっしゃ)』『伏射(ふくしゃ)』だ。まずは立射で、俺が手本を見せる」

 

東はふたりに良く見えるように右手で銃把(グリップ)を握り、左手で被筒(ハンドガード)を持って「立射」の構えをした。

 

「標的に対して右に90度の横向き、右利きの場合は自分の左側面を標的に向けるように立つ。両足は肩幅くらいに開き、銃口を標的に向けて被筒(ハンドガード)を左手だけで保持。銃床(ストック)をアゴの高さまで来るようにこうして持ち上げる。この時、銃を身体から離して持つのではなく、銃床(ストック)部分が胸元にくっ付くくらいの位置で保持すること。この体勢で銃床(ストック)の底を右肩に当てる。その際、こうして右腕を挙げてから肩に当てて、それから腕を下ろすと良いだろう」

 

「「……」」

 

「そしてこう銃を構えた後は肩から肘はあまり動かさない。きちんと銃床(ストック)がホールドされている状態であることを確認する。頭を傾けると平衡感覚がずれるから、できるだけ立てるようにしろ。続いて照準器(スコープ)を覗く時だが、顔を左右に傾けるのではなく、顔を真っ直ぐの状態にしてその目線に合う位置に銃を持っていく。銃を支える手はなるべく垂直に立て、肘は腰骨か脇腹で支えるように。脇が開いていると腕に反動や衝撃を受けやすくなるからしっかりと締めておけ。…ああ、被筒(ハンドガード)をに添えた左手の手首の力は抜け。支えるというよりも添えるといった感じだ。身体はいくらか後ろに反らして銃とのバランスをとること。身体の重心線を意識して、その重心線上に銃本体の重心を乗せるような感じだ」

 

東は説明を続ける。

 

「こうして銃床(ストック)を肩に当てることを『肩付け』、さらに頬に密着させることを『頬付け』という。両者とも狙いを定める時のもので、この姿勢が正しくできると狙いが正確になり、安定した弾道を得ることができるようになる。基本中の基本だ。さあ、俺の格好を見て真似してみろ」

 

「「はい!」」

 

ツグミとレイジは2メートルほど離れてそれぞれイーグレットを構えた。

レイジは普通にできるのだが、ツグミの方はそう簡単にはいかない。

なにしろ一般の小学生にも普及している小型・軽量のビームライフルと違い、標準重量が4-5キロのエアライフルをモデルにしているイーグレットであるからトリオン体とはいえ軽々と構えることはできず、サイズも大人向けのものであるから銃床(ストック)を右肩に当てるとか、その状態で照準器(スコープ)を覗くといった姿勢を維持するのも困難だ。

 

「やはり小学生には無理か…」

 

東がふと呟いた言葉がツグミの耳に入ったものだから、彼女は威勢良く言い放った。

 

「小学生だからという理由には納得がいきません! 生まれて初めて見たライフル銃なんですよ、取り扱いに苦労しているからといって『無理』のひと言で片付けないでください!」

 

人一倍負けず嫌いのツグミであるから「小学生には無理」の言葉はもっとも腹立たしいものだ。

 

「小学生といっても6年なんですから、4ヶ月後には中学生になってます。それまでにちゃんと撃てるようになってみせます!」

 

それは彼女が自分自身を奮い立たせるための言葉で、実際ひと月足らずで東に認められて正規のトリガーにイーグレットを加えたことで証明して見せることになる。

 

東は素直に謝罪した。

 

「すまなかった。だがさすがにこのサイズはちょっとキツイようだ。今後もきみのような子供…いや小柄な隊員が狙撃手(スナイパー)志望で入隊するかもしれない。鬼怒田さんたちと相談して軽量化を図ってみよう。とはいえすぐにできるものじゃないが」

 

「平気です。わたしはこのままでマスターしてみせます」

 

やる気満々のツグミのやる気を削ぐのは心苦しいと、東は彼女の肩と腰に手を置いて姿勢を維持できるようにする。

 

「じゃあ、俺がこうして支えてやるからこの状態でもう一度さっき俺の見せたように構えてみろ」

 

「はい!」

 

「そう、両足の開きはそれくらいで良い。きみは片手だと無理だから両手を使って持ち上げた方が良いな」

 

ツグミは言われたように足を開き、右手で銃把(グリップ)を握り、左手で被筒(ハンドガード)を支えた。

そして銃床(ストック)を肩に当てる。

イーグレット自体が大きいのでツグミには少し無理な姿勢になるが、それでも東が支えていることでなんとか形になっている。

 

「うん、まあまあだな。そして照準器(スコープ)を覗いて狙った標的が中心に来るようにして引き金(トリガー)を引く。…どうだ、やれそうか?」

 

東に訊かれると、ツグミは強気で答えた。

 

「やれるか、ではなく、やらなくてはならないんです」

 

「……」

 

「たしかに()()わたしには無理に見えるでしょう。ですが必ずマスターしてみせます。ひとまず東さんの身体の動きや姿勢はこの目にしっかりと焼き付けましたから、できるようになるまで自主練習します。さあ、次の構えを教えてください」

 

不安そうな東に対してツグミは「次」を要求した。

訓練を受けられる時間は限られており、ここで自分に時間を取られてレイジの訓練に遅れが出てはいけないという彼女なりの気配りである。

もっとも一度見たり聞いたりしたことは忘れないという()()があるから、できない部分は自主練習で補うことは可能だ。

 

「わかった。では次の構え『膝射』に移る。これも俺が手本を見せるから、その後きみたちにやってもらう。良く見ていたまえ」

 

東は説明をしながら構える。

 

「基本的な姿勢は、まず利き足側の膝を床につけ、片膝立ちの状態を作る。次に立射の時と同様に利き手は銃把(グリップ)を握り、もう片方の手で被筒(ハンドガード)を握って、この時銃把(グリップ)を握らない方の手は肘を膝に付けると、銃を安定させることができる。そして後方の足を折り曲げ足首の上に座る。この場合も頭はなるべく垂直に立てた方が良い。…さあ、やってみろ」

 

立射の時と同様にツグミとレイジは各々言われたようにイーグレットを構える。

ツグミにとっては立射よりも膝射の方が安定感を得られるようで、それなりの形にはなった。

 

「最後に『伏射』を見せる」

 

そう言って東は床に伏臥した状態でイーグレットを構えて説明をする。

 

「伏射はあらゆる姿勢の中で最も安定した姿勢で、他の姿勢と違って重心が低く接地面積も大きいので身体の支持に苦労することはほとんどない。伏射姿勢をとる時はまず左肘の位置を決めてからうつ伏せる。位置決めはポジションに入る前に射座と標的の線上に肘がくるイメージで決めると決めやすいし、弾道の延長線上に銃を置いても良い。基本的には背骨は真っ直ぐにする。左脚は背骨と平行に置いてつま先は立てるか身体の内側に向け、右脚はやや外側に開いて右膝を引き上げるのが一般的だが、基本をマスターした後は個人の好みでもかまわないだろう」

 

伏射姿勢のままの東の左右でツグミとレイジは見よう見まねで構えをしてみた。

 

「うん、初めてにしては上等だ。この3つが俺のやっていた()()()()()()ライフル射撃の基本となる銃の構え方だ。剣道もそうだが、競技としての技術がそのまま実戦で通用するというものではないが基本は大事だぞ。これらの構えを正しく身に付けることで応用も効くようになるし、実際に射撃した時の的中率のアップが期待できる。…うん、ここで10分休憩。その後、木崎くんは実際に的を撃ってみようか。霧科くんはこの3つの姿勢を()()()できるようになるまで自主練習だ」

 

東はそう言い残して訓練室を出て行った。

 

 

 

 

廊下に出ると、東は携帯電話で忍田に状況の報告をする。

 

「忍田さん、あなたの言っていたとおりでしたよ」

 

「ツグミのことだな?」

 

「そうです。彼女には重量やサイズ的に無理な部分があることは予めわかっていたことですけど、ひとまずやらせてみました」

 

「それでまだ全然狙撃訓練ができるレベルではないだろ?」

 

「それは仕方がありません。木崎くんの方はさすがに普段の鍛錬で筋肉が鍛えられていて、初見でもなかなか様になっていますから、この後の訓練で実際に的当てさせてみようと思っています。霧科くんは構えを完璧にできるようになるまでお預けですね」

 

「まあ、そうなるだろうな。しかし次の訓練日にはおまえもあの子に狙撃訓練をさせることになる。晩メシを賭けてもいいぞ」

 

「ハハハ…彼女は忍田さんの愛弟子ですからね。信じたくなる気持ちもわかります。でもその賭けは成立しませんよ」

 

「なぜだ?」

 

「俺も次の訓練日には彼女に射撃技術を指南することになると確信してますから」

 

「フッ…たしかに同じ側に張っては賭けにならんか。…とにかくあの子は幼い頃から大人たちに囲まれてきたから子供扱いされることを嫌う。だから木崎と同じように扱ってかまわない。そして時々生意気な口を利くことはあるが、それは自分の信念を持っていてそれに反することをしたくないという頑固さからくるものだ。その点は怒らないで目を瞑ってほしい」

 

「わかっています。それにもう彼女に叱られましたから」

 

「もう何かやったのか?」

 

「ええ。立射の構えを教えていた時ですが、小学生には無理だと呟いたのを聞かれてしまって。でもそのとおりですよ。年齢や体格といった本人にはどうしようもない理由で門戸を閉ざされるのは腹立たしいですからね」

 

「それで?」

 

「小学生には無理だと言ったものですから、4ヶ月後の中学生になるまでにはちゃんと撃てるようになってみせると彼女に宣言されてしまいました」

 

「だろうな。あの子は12歳という年齢としては標準だが、ボーダーという組織の中では体力や体格の面で他の隊員よりも劣る。だからできないことは多いが、それを仕方がないと諦めてしまうことはない。もちろん高いところにあるものに背が届かないとか重たいものが持ち上げられないといった物理的に不可能な時もあり、その時に誰かに手伝ってもらうのはかまわないようだが、代わりにやってもらうというのが性格上ダメなんだ。そこが子供らしくないと周囲の人間は感じるらしいが、トラブルが発生してもあの子は頭を使ったり努力をして自力で解決しようと努力することができるから認められているし可愛がられてもいる。何でも誰かにやってもらえば楽だしすぐに問題は解決するだろうが、あの子は楽な方に流されないよう常に自分を律して行動をしているんだ。大人が教えなくても見守っていればそのうちに手の届かない場所にあるものを取りたいなら脚立を探して持って来るだろうし、重いものを持ち上げたいならテコを使って持ち上げるはずだ」

 

「つまり子供扱いせず、本人に任せておけば時間がかかっても自分の力でなんとかするということですね?」

 

「そのとおりだ。そして目の前に立ち塞がる壁が高ければ高いほどあの子は成長する。途中で腐って投げ出すようなことは絶対にないからな」

 

「ということは、俺は彼女に正しい指導をしていれば、彼女は正しく成長するということですね。責任重大です」

 

「だが弟子が成長していく姿を見ているのは楽しいぞ。たぶんあの子は木崎と違ったタイプの狙撃手(スナイパー)になると思う。苦労はするだろうが、その分達成感が得られるだろうからその苦労も報われるというものだ。よろしく頼んだぞ、東」

 

「はい、必ず一人前の狙撃手(スナイパー)にしてみせますよ。じゃあ、また後でご報告します」

 

そう言って東は電話を切った。

 

(弟子が成長していく姿を見ているのは楽しいぞ、か…。俺に指導者としての才能があるかどうかわからないのに、忍田さんは俺に()期待しているんだな。木崎くんは比較的年齢は近いし同じ男だから扱いはそう難しくないが、一回り近く歳が下の少女への接し方はなかなか難しい。下手をすればセクハラだとかパワハラとか言われるかもしれないし。俺にやれるのだろうか…?)

 

そう不安になった時、ふと東の脳裏にツグミの言葉が浮かんだ。

 

「やれるか、ではなく、やらなくてはならないんです」

 

その言葉を思い出した東は自嘲気味に笑う。

 

(そうだよな…。ここで俺が自分自身に不安を抱くということは、忍田さんの期待を裏切ることとなり、俺に師事してくれる霧科くんに対しても失礼だ。これじゃ俺よりも彼女の方がずっと大人な考え方を持っていると認めざるをえないぞ)

 

東は気合いを入れ直してから訓練室に戻って行った。

 

 

訓練の後半は東の言ったようにレイジは的当て、そしてツグミは立射の構えを何度も繰り返して()()()()できるように練習した。

初めのうちはまだ覚束無い様子のツグミであったが、生来の物覚えの良さと負けず嫌いの性格から同じ失敗はせず徐々にコツを覚えていく。

そもそも剣術を学んでいたから姿勢は正しいしバランスの取り方は上手い。

彼女が黙々と練習をしている様子を東は遠目に見ながら思い出した。

 

(そういえば俺が高一で初めてエアライフルを握った時も似たようなものだった…。俺の場合はその重さよりも正しい姿勢に苦労させられた。脇の締めが甘かったり照準器(スコープ)を覗く時に顔を傾けてしまって、そのことを先輩に散々叱られたくせに彼女には偉そうなことを言ってしまった。体格の違いがあるというのに俺が初日で彼女にダメ出しするとは恥知らずなことをしたものだ。…急いては事を仕損じると言う。特に人間を育てるのは時間がかかるものなのだからな)

 

東の視線を感じながらも、ツグミは気にせずにマイペースを貫いている。

 

(焦っている様子はない。自分のペースでひとつひとつ確実に自分のものにしていこうという地道に努力する姿勢は好ましいな。これなら次回とは言わずにこの後すぐ的当てさせてもそれなりに形にはなるだろうが、やはりここは彼女の頑張りを見守るだけにしておこう。今日は初日、何も急ぐことはない。彼女には最低限のことだけを教え、自分で考えさせるようにする指導が良さそうだ)

 

東は自分が指導者として向いているかどうか不安になっていたが、こんなことを考えているということは即ち指導者向きの性格であるということである。

誰にとっても、またどんなことでも必ず「初めて」はある。

彼にとっては後進の指導に当たること、ツグミにとってはイーグレットという新しい武器(トリガー)を手にすること。

戸惑いや不安があるのは当然だが、それを「ダメだ」と諦めてしまえばそこでおしまいとなる。

未知・未経験のものに怖じ気付くことなく前に進むことができる者にだけ世界は広がっていくのだ。

 

 

 

 

イーグレットの訓練初日はこうして無事に終わった。

レイジは巡回任務があるということなので先に訓練室を出て行き、残ったツグミは東と一緒に軽く掃除をしてから退出する。

ここで解散するはずなのだが、東はもう少しツグミのことを知りたいと考えてお茶に誘った。

もっともお茶するといっても当時の本部基地には食堂やラウンジといった施設はまだ完備されておらず、ロビーに置いてあるベンチで自販機の飲み物を飲むだけのものである。

 

「霧科くん、時間があるなら少しお茶しないか?」

 

東の誘いに対し、ツグミは申し訳なさそうな顔をして返事をした。

 

「すみません。これからすぐに帰らなきゃならないんです。スーパーマーケットに寄って夕食の材料を買って、叔父が帰宅するまでに料理を作っておきたいのでのんびりはしていられないんです」

 

「叔父さんというのはきみのご両親が亡くなった時に引き取ってくれた方だね?」

 

「はい。今は叔父と祖母と3人で暮らしているんですけど、祖母は身体が弱い人なので家事はほとんどわたしがやっているんです。わたしを育ててくれている大事な人たちです。なので自分のことは自分でやるのは当然ですが、ふたりのためにできることはやってあげたいと思っています」

 

「…そうか、それは感心なことだ。忍田さんからの話だと学校にも真面目に行って成績は良好。ボーダー隊員としても主力として戦い、家では家族のために働く。きみは偉いな」

 

東が褒めるとツグミは首を横に振った。

 

「偉くはありません。学校、ボーダー、家族…これらは霧科ツグミという人間を構成する要素ですからどれも疎かにはできません。小学生が学校へ行くのは当然のこと。ボーダーは自分の意思で入ると決めたのですから、途中で投げ出すことはできません。そして家族はわたしにとってかけがえのない温かくて心地の良い居場所。もちろんこの他にも大事なものはありますけど、そのどれも欠くことができないものです。もしどれか欠けてしまったらわたしは今のわたしではなく別のわたしになってしまうでしょう。そう考えたらどんなことでも全力投球。手を抜くのはなんとなく気持ちが悪いので何にでも頑張ってしまうんですが、そこを叔父に無理をするなって窘められます。別に無理をしているんじゃないんですけどね」

 

そう言って笑うツグミ。

 

「東さんも大学生ですからわたしと似たようなものではありませんか? ボーダーに入ったからといって大学はサボっていいなんて考えませんよね。それに家に帰ればご家族がいて、その人たちの笑顔があるから頑張ろうって気になる。…ですが困ったことにわたしの剣術の弟弟子は学校と勉強が大嫌いで、ボーダー隊員として戦う場を与えられたものだから、ますます勉強しなくなるでしょう。そのせいで忍田さんがストレス性胃腸炎とかになりそうな気がします」

 

「ハハハ…本部長がそれではマズイな。…じゃあ、きみの貴重な時間を少し奪ってしまったお詫びに車で家まで送って行ってあげようか?」

 

「いえ、遠慮します。わたしは家から自転車で通っていますので、自転車をここに置いていくと次が面倒ですから。それに生身の身体を鍛えるためにも自転車()()はこれからも続けるつもりです」

 

自分と忍田の関係を知られたくないからという理由はあるが、それ以上に今日の訓練で身体を鍛えなければいけないと身に染みたからである。

 

「そうか、でもあまり無理をするなよ」

 

「もう、東さんまで叔父と同じことを…。わたしは無理なんてしていませんから。では、これで失礼します」

 

ツグミは東に30度の角度でお辞儀をした。

師匠である東に対しての敬意と訓練に対するお礼、そして自分のことを心配してくれることへの感謝の気持ちを込めて。

 

 

 

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