ワールドトリガー ~ I will fight for you ~   作:ルーチェ

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180話

 

 

12月24日、クリスマスイヴ。

第一次近界民(ネイバー)侵攻と正式に名付けられた先の戦い以来、近界民(ネイバー)による民間人への被害はゼロであるが、三門市民の脳裏からは半年前の惨劇の記憶はまだ消えていない。

それでも被害を受けなかった地域の駅前や商店街は色とりどりのイルミネーションで飾られていて、そこを歩く人々の群れはとても楽しそうである。

このひと時の平和はボーダーのおかげであると考える市民は多く、絶大な信頼を寄せているからこそ安心して街を歩くことができるのだ。

もちろんすべての市民が好意的であるわけではないが、怒りや憎しみの視線は減り、暴言を吐かれたり罵倒されることは格段に減ったとツグミは感じていた。

 

(きっと大切なものを失った人たちがボーダーを恨むことに疲れてしまったからかもしれない。頭ではボーダーが悪いわけじゃないって理解はしていても心がそれに追い付いていかない。だからすごく苦しい。怒りや憎しみといった負の感情も一時的には生きる気力になるけど、その気持ちを維持し続けるのはけっこう精神を消耗する。それはわたしが1年前に経験していることだから良くわかるもの)

 

ツグミは家族や友人を失ったことで生まれる怨恨や憎悪の感情を知っている。

それを完全に消し去る方法はなく、別の何かに置き換えることで一時的に忘れるしかないということも。

彼女の近界民(ネイバー)を憎む気持ちはほとんどないに等しいが、心の奥底に残り火のように燻っている。

その小さな火が燃え上がらないように、彼女は今と未来を一緒に生きる家族と仲間のためにできることを考え、そして「心と身体を両方とも鍛えて強くなる」と決めて日々精進しているのだ。

だから大切なものを失った人々の気持ちは良くわかるし彼らの行為にも理解はある。

 

(でもタダの小学生のわたしが彼らのためにできることはない。心の問題は自分自身で解決するしかないことだから。でも近界民(ネイバー)が彼らに襲いかかって来た時にはわたしは全力で戦う。だってそれがわたしのやるべきことで、また『キサマらが役立たずのせいでオレは家も家族も全部失ったんだ!』なんて二度と言われたくはないもの)

 

ツグミは()()に深く干渉しない。

特に心の問題は誰しも多かれ少なかれ抱えているもので、その心の問題は本人がどう受け止めるかだ。

彼女のように自身で解決してしまう人間もいれば、ずっと引き摺ったままで身を滅ぼしてしまう者もいる。

親身に寄り添おうとしたところで他人にできることなどなく、彼らの生命・財産の守護者として徹底しているところがツグミらしい。

そしてそんな彼女の今日の任務は市内巡回だけでなく、特別な仕事を忍田から与えられていたのだった。

 

 

 

 

ツグミと東が合流したのは()住宅地の中にある廃業したコンビニの駐車場である。

 

「東さん、こっちです!」

 

先に到着していたツグミが東の姿を見付けると大きく手を振りながら呼びかけた。

 

「やあ、早いね、霧科くん」

 

「10分前行動は当然ですから。それはそうと、これを忍田本部長から預かってきました。今回の任務の責任者は東さんにやってもらうようにとのことですので渡しておきます」

 

ツグミはそう言って上着のポケットから封筒を取り出して、それを東に手渡した。

それを東は受け取って自分の上着のポケットに入れた。

 

「今日は()の任務があるのか…」

 

「はい。これもボーダーの仕事ですから。それが終わったらいつもの市内巡回になります。コースはルートCで、警戒区域南エリアとそれに接する()()()()()が担当区域です」

 

「任務とはいえクリスマスイヴに仕事をしなければならないとはな…。きみはご家族と一緒にお祝いはしないのかい?」

 

東に訊かれ、ツグミは複雑な顔をして答えた。

 

「ウチはクリスチャンではありませんので、キリストの生誕を祝うような習慣はありません」

 

すると東は苦笑する。

 

「そういう意味ではなく、普通は小学生のいる家庭だとケーキやご馳走を用意してパーティーをするだろ?」

 

「わたしは普通の小学生じゃありませんから。それよりも東さんこそこんな小学生と一緒に過ごすクリスマスイヴなんて寂しくありませんか? 小学生のいる家庭でクリスマスパーティーをするのが普通なら、大学生の男性なら恋人と一緒にふたりきりで過ごしたいって思うのが普通ですよね?」

 

「いや…俺も普通の大学生じゃないからな」

 

「ボーダー隊員なんてやっているんですから普通じゃないのが普通なんです。…あ、()()()が来たようですよ」

 

ツグミの視線の先には50代の夫婦と20代の兄妹の4人がいる。

ツグミたちがボーダーの隊服を着ているので彼女が声をかけずとも彼女たちのそばへ歩いて来た。

 

「あの、ボーダーの人ですよね?」

 

50代男性が東に声をかけた。

 

「はい。あなたが依頼人の広尾さんですね?」

 

「はい、そうです。今日はよろしくお願いします」

 

そう言って広尾は頭を下げた。

 

「いえ、これもボーダーの仕事ですから。あまり時間がありませんので早速行きましょう」

 

 

 

 

第一次近界民(ネイバー)侵攻の後、家屋は破壊されていないものの警戒区域内にあって自由に出入りできなくなったという被災者は大勢いる。

そういった人々はボーダーや三門市が用意した仮設住宅に住んでいて、必要最低限の荷物だけは事前に運び出しをしているのだが、後になって家に取りに戻りたいものがあると市とボーダーの許可を得てボーダー隊員の監視のもとで一時帰宅ができるようになっている。

この広尾という男性とその家族も冬物の衣類やまだ使えるはずの暖房器具などを取りに戻りたいという希望を市役所に申請してひと月以上待ってやっと許可が下りたのだった。

広尾家は警戒区域の南端にあり、彼らの家屋はまったくの無傷であった。

しかしその2軒隣りの家は玄関周辺がトリオン兵によって踏み潰されたようになっていて、辛うじて広尾家は災難を免れたといった感がある。

 

「滞在時間は1時間です。それまでに荷物を運び出してください。重たい荷物や運び出しに困難なものがあれば我々がお手伝いしますので声をかけてください」

 

「わかりました」

 

東の指示に対して一礼すると、広尾一家は半年ぶりの我が家に感慨深げに入って行った。

 

「申請書類によると荷物はそこの駐車場に置いてある軽ワゴン車に積むということらしいですね。念のために復路の別ルートを調べておきます。ついでに周囲の様子も見回って20分で戻ります。何かあったら連絡ください」

 

「いいだろう。気を付けて行って来い」

 

「了解です」

 

ツグミは広尾家の向かいの民家の屋根の上に大きくジャンプし、さらにその隣りの二階建ての家へと移動しながら周囲の様子を確認する。

 

「視界の範囲内にトリオン兵及びトリオン体に換装した近界民(ネイバー)の反応はなし…か」

 

ツグミは通常よりもはるかに優れた視力とトリオン体の反応を察知できるという能力があるから、こういう時には非常に便利である。

もっと高いところへ上れば見える範囲は広がるため、100メートルほど離れた場所にある6階建てのマンションに向かうことにした。

 

(被害を受けていない家を見ていると半年前の惨劇が嘘だったみたい…。今にも玄関から人が出て来てもおかしくない。でも現実にはこの街は人の温もりの欠片も感じられない無機物が並んでいるだけのゴーストタウン。まだ建物があるだけマシ。いずれここも戦場になって瓦礫だらけの街とはいえない場所になるんだ…)

 

ツグミは歩きながらそんなことを考えていた。

ボーダーでは三門市内のどこに開くかわからない(ゲート)を本部基地周辺の警戒区域内に誘導するシステムを開発中であった。

それが完成すればトリオン兵の出現を本部基地のすぐ近くに限定できることになり、民間人への危険度が格段に減ることとなる。

警戒区域及びその周辺の放棄区域と呼ばれるエリアは無人となっているため、ボーダー隊員と近界民(ネイバー)との戦闘エリアとなるのは明らかで、ツグミにはその先が()()()いるのだ。

 

目的のマンション ── ここも当然無人である ── に到着したツグミは外階段を使って屋上まで行く。

 

「うわぁ…本部基地が良く見える」

 

完成してから約ひと月の真新しいボーダー本部基地が彼女の視界に入ってきた。

周囲が更地と低層階の住宅ばかりだから巨大な建物が余計に大きく見える。

 

「これだけ大きいとどこからでも見えるだろうな。それが市民の安心感に繋がればいいんだけど…」

 

第一次近界民(ネイバー)侵攻の数週間後には建設が始まり、わずか4ヶ月という突貫工事で完成した巨大な三門市守護の砦。

天文学的な資金が投入されているだろうが、その出処はツグミのようなボーダー関係者にすら知らされていない。

さらにこの短期間で政府の各省庁や三門市及び近隣の自治体との様々な折衝を行って、世界に類を見ない界境防衛に特化した民間組織となったボーダー。

元々謎の多い組織であったボーダーだが、これでますます得体の知れない連中の集まりだと思う輩もいるはず。

そういったことで第一次近界民(ネイバー)侵攻すらもボーダーを名乗る者たちの自作自演ではないかという噂まで流れた。

しかしその噂は一時的なもので、デマの発信源を()()()しまうとすぐに騒ぎは沈静化した。

これらはすべて霧科文蔵、すなわちツグミの祖父の力によるもの。

死後何年も経っているというのにその影響力は大きく、ボーダー創設時から関わってきた警察を始めとした官公庁の幹部や財界の大物たちの後ろ盾あって現在のボーダーという組織が存在するのである。

その象徴が新本部基地であり、ハード面において市民の希望と安心の拠り所となる存在でなければならないのだ。

 

ツグミは屋上にある給水タンクの上に飛び乗ると360度ぐるりと周囲を見渡した。

 

「うん、問題なし。そろそろ戻ろうかな」

 

 

 

 

ツグミが広尾家に戻って来ると、家の中から大きなキャリーケースやダンボール箱をいくつも運び出している広尾一家の様子を見付けた。

東は要請があれば手伝うと言っていたが、原則として立ち会うボーダー隊員は民間人の手伝いをしてはならないことになっている。

なにしろ立ち会うのは危険な地域に民間人だけで立ち入りさせてはならないからで、隊員の仕事は()()であるのだから仕方がないのだ。

もっとも手伝ったからといって罰則はないので、手伝いが必要であれば手を貸すのは人として当然のことである。

 

「東さん、周囲に異常はありません。相変わらず無人で、こっそり侵入している民間人もいませんでした」

 

「ご苦労さん」

 

ツグミは東の隣りに並んで広尾家の方を見る。

 

「一斉避難の時にはひとりにつきキャリーケース1個までと荷物の量が限定されていましたからね。今月になって寒さも増してきましたから冬物衣料や暖房器具は必須です。三門市とボーダーが用意した仮設住宅にはテレビとか冷蔵庫とかエアコンといった最低限の家電は備え付けられていますけど、年越しをするにあたってはコタツとかストーブとか欲しいですよね」

 

ツグミは広尾家のプロフィールを事前に調べている。

それは単に興味本位というのではなく、依頼人がどのような人間か調べておくことで彼らにどのような対応をすべきか判断する材料にするためである。

彼らは4人家族で、第一次近界民(ネイバー)侵攻時に家族全員が無事に避難をしたことで人命と財産は被害を受けることはなかった。

しかしこの家に住めなくなったことにより仮設住宅で暮らさなければならなくなったのである。

だから普通に引越しをしているような感じであまり悲壮感はない。

以前にツグミは忍田と一緒に両親を亡くした中学生の兄弟の担当をしたことがあった。

彼らの時は他人に深く干渉しないツグミですら積極的に手を貸さなければ荷物の運び出しができないほどで、彼らの心情を察してツグミは精神的に参ってしまったのだった。

その時、彼女は「この兄弟もトリオン能力があるとわかれば両親の仇討ちをするという理由でボーダーに入るかもしれない」などと感じていた。

実際、ツグミは翌年3月に中学を卒業した兄の方とボーダー本部基地、攻撃手(アタッカー)となるための訓練を受けている訓練場で再会することになる。

よって事前に情報を仕入れておくことで心の準備ができるというもので、そういった点ではこの広尾家のケースは気が楽であった。

 

「そうだな。家族全員が無事であったなら普通に正月を迎えられるだろうからコタツは欲しい。日本人なら誰でもこの時期はコタツに入って鍋料理や年越しそばを楽しみたいと思うものだ」

 

「そうですね。東さんのご家族も例年どおりに正月を迎えられるんですよね?」

 

「ああ。ありがたいことに俺の家と家族は無事だったからな。被災した市民には申し訳ないが、ウチではいつもどおりの正月になりそうだ」

 

「あら、別に気にすることはないと思いますよ。誰も彼もが喪に服してしまったら三門市全体が落ち込んでしまいます。生き残った人たちはここで生き続けなければならないんですから、明るく振る舞える人はいつも以上に明るく希望を持って生きていくことが必要だと思います。もちろん大切な人を亡くした人に対する配慮は必要ですけど」

 

ツグミの実年齢以上に利発であることに何度も驚かされている東だが、この言葉にも彼女の敏い部分が表れていると感じていた。

 

(たしかに不幸のあった家では喪に服して正月どころではない。しかしすべての市民が同様であったら経済活動も停滞するし、なによりもこれ以上の人口流出を防がなければ自治体としての三門市が破綻してしまうかもしれない。彼女はそんなことまで考えているんだろうな、きっと…)

 

東は自分の隣にいる小さな少女は大人である自分よりも考え方が大人であると改めて気付かされた。

 

(彼女は好き好んで大人のような達観した考え方を持つようになったはずはない。俺には想像できないがこれまで経験してきた出来事が彼女をそうさせてしまったに違いない。ボーダー隊員は10代という多感な時期を戦場で過ごすことになるが、それが彼らの長い人生の中で大きく影響することになるだろう。トリオン器官の成長が10代の間だけだということでやむをえないのだが、果たして彼らを戦わせるのは正しいことなのだろうか?)

 

心の中で自問自答する東だが、この問いをツグミにぶつけたら一気に解決する。

彼女なら「周囲の大人に強制されて無理やり戦わされているのではなく、子供といっても善悪の分別のつく年齢なんですから、自分で選んだ道を後になって悔やんだとしてもそれは本人の責任です。誰かに文句を言うようなヤツはいませんよ」と笑って言うはずだ。

東もツグミに問えば的確な回答を得られるとわかっている。

しかしそれをしないのは、彼なりにプライドがあるからだ。

 

(そんなことまで小学生の女の子に訊かなければ答えを得られないなんて大人として不甲斐なさすぎる。俺は彼女と一緒にいることで自分自身で答えを見付けなければいけないんだ)

 

東がそんなことを考えている一方で、ツグミは別のことを考えていた。

 

(冬休みになったから訓練時間を増やせると思ったけど、こうして市民の()()任務の回数が増えただけ。1家族につきひとりかふたりの隊員が付き添うなんて効率が悪過ぎる。いっそ地区単位で一斉にやってしまえばいいのに。いろいろ事情はあるんだろうけどこんなことを続けていたらいつまで経っても終わらない。真史叔父さんに提案してみようかな?)

 

たしかにツグミが考えるようにこのやり方では効率が悪い。

だから申請してもなかなか許可が下りないし、ボーダー隊員にとっても負担が大きい。

そこで町内会ごとに期日を決めて一斉に荷物の運び出しをしてしまうことにすれば良いと考えるのは当然だ。

1家族1時間などと言わず、午前・午後という単位にすれば時間も十分に取れる。

さらに付き添うボーダー隊員も4-5人いれば万が一そのエリアにトリオン兵が出現してもすぐに対応できるし、なによりも回数を減らすことができるのは彼らにとってありがたいことでもある。

 

 

ツグミたちが屋外で待機している間ずっと広尾一家はせっせと荷物の運び出しをしていた。

衣料品や家電だけでなく男性ふたりがかりで大きな仏壇を運んで来た様子を見たツグミは胸が一瞬締め付けられて顔を歪めた。

忍田家の仏壇には先祖代々のものはもちろんだが織羽と美琴の位牌も置いてあり、そしてそれとは別に戒名のない高さが10センチほどの小さな位牌がある。

それは彼女が死なせてしまった近界民(ネイバー)のもので、彼の月命日にも必ず手を合わせている。

仏壇を見て半年前の出来事を思い出してしまったのだ。

 

(人を殺めたという事実を忘れてはいけない。戦争中に敵の命を奪ってしまうことは罪ではないが、罪でなければやっても良いということでもないんだから)

 

このツグミの信条はこれから先の彼女の行動に大きく影響をすることになる。

 

 

 

 

軽ワゴン車の後部座席を倒して空間を広げたものの、そこに積みきれないほどの荷物を運び出した広尾一家。

運転は父親がするのだが、助手席にまで荷物が置いてあるので残りの3人は徒歩で帰宅するしかないようだ。

その3人も背中にリュックサックを背負い、キャリーケースをそれぞれ持っている。

 

「お待たせしました。おかげさまでとりあえず持ち出せる分だけ全部運び出しました」

 

広尾一家は4人で並んでツグミと東に頭を下げた。

 

「それでお願いがあるんですけどよろしいでしょうか?」

 

父親が東に遠慮がちに頼む。

 

「こうして目いっぱい荷物を積んだものですから、私以外の家族が乗るスペースがなくなってしまいました。そこで安全な場所まで3人を誘導してもらえないでしょうか?」

 

「別にかまいませんよ。では私が車を誘導しますので、あなたは私に付いて来てください。ご家族はこちらの霧科隊員が同行しますので問題はありません」

 

「……」

 

広尾一家4人の視線が一斉にツグミに向けられた。

何も言わないが「こんな子供で大丈夫なのか?」という心の声が聞こえてきそうな目だ。

 

「ご心配には及びません。彼女は先の近界民(ネイバー)侵攻を食い止めたメンバーのひとりです。私よりも戦力はずっと上ですよ」

 

東が苦笑しながら言う。

 

「そうですか? それならあなたの言うことを信じてお任せします。それともうひとつお願いがあって…」

 

父親はコートのポケットからデジタルカメラを取り出した。

 

「これで家族と家の写真を撮ってもらいたいんです、もうここには戻って来られないかもしれませんから」

 

「わかりました。では皆さん、家の前に並んでください」

 

東が広尾家の玄関に家族4人を並ばせて記念写真を撮る様子をツグミは黙って見守っていた。

 

(ここには戻って来られないかもしれないというあの人の言葉はあの人だけのものじゃなくて三門市民すべての気持ちだと思う。またあの時のような近界民(ネイバー)の侵攻があれば、今度こそおしまいだと考えるのは無理もないもの。それに人なんていつ死んでしまうかわからない。もしかしたら彼らにとってこれが4人揃って写真を撮る最後のチャンスになるかもしれないんだ。…だけどそんなことにさせない。それがボーダー隊員としてのわたしの使命なんだから!)

 

写真撮影が終わると東は車を誘導するために先に出発し、後にはツグミと広尾家の3人が残された。

 

「さあ、わたしたちも出発しましょう。頼りないかもしれませんが、万が一の時には何があっても皆さんのことをお守りしますので安心してください」

 

ツグミはそう言うと東たちの行った道を歩き始めた。

 

「この先に歩行者のみが通れる安全確認済みの路地があります。そこを通ればさっき歩いて来た道を戻るよりもかなり近道になりますから、わたしのことを信じて付いて来てください」

 

彼女が東に「念のため」と言って別ルートを調べておいたのは「車にたくさんの荷物を積み過ぎて全員が車に乗れなくなった時」のためで、車だと500メートルほど遠回りをしなければならないのだが、徒歩なら80メートルほどで済むのだ。

そしてツグミが3人を先導し、廃業したコンビニの駐車場まで戻って来ると東と広尾が待っていた。

 

「これで我々の任務は終了です。この書類にサインか認印をお願いします」

 

東はそう言って封筒から書類を取り出した。

 

「…はい、けっこうです。ではお気を付けてお帰りください」

 

「今日はどうもありがとうございました」

 

広尾一家の4人は東とツグミに頭を下げ、ツグミたちは敬礼で返した。

車に乗れない3人はこれから何らかの手段で仮設住宅まで帰宅しなければならないのだが、ここから先はツグミにはまったく関係のないこと。

彼女の()()()()()()()()()()()()()()はここでおしまいなのだ。

それにこの後は本来の巡回任務があるのだから、これ以上広尾家に関わることはできない。

東も気にはなるようだが、黙ってその場を後にした。

 

 

 

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