ワールドトリガー ~ I will fight for you ~   作:ルーチェ

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187話

 

 

「定刻になりましたので『ボーダー新入隊員披露記者会見』を始めます。本日の司会はボーダーメディア対策室長の根付がさせていただきます」

 

ここは「三門市民会館」の小ホール。

根付の挨拶で記者会見は始まった。

 

続いて嵐山と柿崎のふたりが登場すると、マスコミのカメラのシャッター音が会場内に鳴り響いた。

 

「ボーダー本部基地完成から3ヶ月、このたび新しく正隊員に加わった若者たちです!」

 

当時の嵐山と柿崎はふたりとも15歳で、来月から高校生になる将来有望な新入隊員の代表ということでこの会見に臨んでいた。

この頃から根付は彼らをボーダーの広報を担う隊員として期待していたようで、この後嵐山を中心とした部隊がテレビ出演やイベント参加などの広報活動を役目とすることになる。

そのため根付は「正義の味方」として相応しいキャラクターを選んだのだが、彼の目は正しかった。

 

「街と市民の皆さんを精一杯守ります!」

 

自己紹介の後、柿崎が真っ直ぐに前を見ながら言うと会場内から大きな拍手が湧き上がった。

そして「今の気分は?」「ご家族の反対はありましたか?」「学校では普段どんなことを?」「彼女はいますか?」といった当たり障りのない質問が続き、嵐山と柿崎もそれらの質問に無難に答えていたのだが、ひとりの男性記者が手を挙げたことで会場の雰囲気は一変した。

 

「次に大規模な近界民(ネイバー)の襲撃があったら、街の人と自分の家族、どっちを守りますか?」

 

この質問を聞いた柿崎は絶句した。

街の人、つまり市民と自分の家族を秤にかけてどちらを選ぶかという即答しにくい質問をぶつけられたからだ。

ボーダーの存在理由が「市民の生命と財産を守る」ことで、言うまでもなく答えは「街の人」となるはずなのだが、この場合はそれが()()とは言えないのである。

前もって想定される質問の答えは準備をしてきたのでスラスラと答えられたが、さすがにこれは答えに詰まってしまう。

しかし嵐山は迷いもせずに真っ直ぐな目で答えた。

 

「それはもちろん家族です。家族を守るためにボーダーに入ったので」

 

すると会場内はざわめき始めた。

 

「じゃあ、いざって時は街を守らないってことかい?」

 

さっきの男性記者が訊く。

さらに彼の同僚と思われる別の男性記者が意地の悪いことを言った。

 

「先の侵攻で親やきょうだいを亡くした人もいる。そういう言い方は良くないんじゃないかな?」

 

このふたりはボーダーに批判的な記者であり、わざとボーダーのイメージを悪くするためにこんな質問をしたのだ。

下手に言い訳すればさらに揚げ足を取られ、状況は悪化するだろう。

よって柿崎は何も言えずにいたが、嵐山は慌てずに自分の気持ちを口にした。

 

「家族が大丈夫だと確認ができたら戦場に引き返して戦います。家族を亡くされた方もそうでない方も、ここにいる皆さんの家族もこの身がある限り全力で守ります。家族が無事なら何の心配もないので、()()()()思いっきり戦えると思います」

 

「……」

 

会場内には嵐山の言葉に何か言い返すことのできる人間はいなかった。

彼の言葉には嘘偽りは一片もなく、本心であったからだ。

そして彼は最後に付け加えた。

 

「その時に仲間がいると心強いので、たくさんの人にボーダーを応援してもらえるとうれしいです。ご支援よろしくお願いします!」

 

嵐山がそう言って頭を下げると、それに合わせて柿崎も頭を下げた。

 

その様子をツグミは会場の隅で黙って見守っていた。

 

(コナミ先輩に紹介されて嵐山さんと話をした時に感じていたけど、この人のイメージがボーダーのイメージに繋がるのは間違いない。根付さんですらあの意地悪な質問に顔を引きつらせていたというのに、嵐山さんは全然動じなかった。自分の正直な気持ちを堂々と言える度胸はすごい。柿崎さんは正解がない質問の答えを探して戸惑っていた様子が見えたけど、嵐山さんはそんなことは全然なかったもの)

 

ここでツグミは嵐山に対して絶大な信頼感を抱き、以後ずっとふたりの関係は良好なものとなる。

 

(でもあの記者には腹が立つ。まだ15歳の新入隊員に向かってあんな嫌がらせをするんだから。ボーダーのことが気に入らないからって子供にあんな意地の悪い質問するなんてひどい。同じ目に遭わせてやらないとと()()()()気が収まらない!)

 

ツグミが憤慨している間にも会見は進んでいた。

 

「ボーダーでは常に新しい隊員・職員を募集しております。つきましては先ほどお渡しした資料の中に詳細が書かれたプリントが入っておりますので、各メディアでPRしていただきたいと思います。…他に質問はありませんか?」

 

ツグミは右手を大きく挙げて立ち上がると司会の根付に声をかけた。

 

「メディア対策室の根付室長、質問がありますけどよろしいでしょうか?」

 

市民席から声が上がり、それが()()()()10代半ばの少女であったものだから、根付は胡散臭そうな顔をしたがすぐに()()()()の笑顔に戻って答えた。

 

「今日はマスコミ向けの記者会見だから一般市民の質問や意見は求めていないんだよ。そういう機会があったらその時にお願いできるかな?」

 

子供を諭すように言う根付だが、ツグミは引き下がらなかった。

 

「いいえ、わたしはボーダー隊員のおふたりではなく『次に大規模な近界民(ネイバー)の襲撃があったら、街の人と自分の家族、どっちを守りますか?』などと意地の悪い質問をした記者さんに質問したいんです」

 

ツグミがそう言うと、会場にいた人々の視線はさっきの男性記者に一斉に向けられた。

男性記者は子供に「意地の悪い質問をした記者」などとこき下ろされたものだから不機嫌極まりないといった顔でツグミを睨みつける。

 

「このように公衆の面前であからさまに批判されたのは初めてだ。きみがいくら子供だといっても他人を誹謗中傷することは簡単に許されることじゃない。きみはどこの誰だ? きみの親御さんは何をしている人なんだ? ここに連れて来い。親子共々謝罪をしろ」

 

男性記者はツグミに向かって乱暴なことを言うが、ツグミは涼しい顔をして答える。

 

「わたしの両親は既に他界しており連れて来ることはできません」

 

そう言うと急に男性記者は勢いを失くした。

 

「きみの親御さんは近界民(ネイバー)に殺されたのか?」

 

「いいえ、5年前に交通事故で。現在は母方の叔父に引き取られ、祖母と3人で暮らしています。…それよりもわたしはあなたのことを批判したのではなく、名前を知らない個人を特定するために『意地の悪い質問をした』という事実を()()()として使っただけです。あなたのことを意地の悪い記者だと言った覚えはありません」

 

「くっ…」

 

男性記者は反論はできない。

ツグミは「意地の悪い質問をした」記者と言ったのであり、「意地の悪い記者」とはひと言も言っていないのだから。

しかし男性記者の怒りは収まらない。

 

「そんな細かいことはどうでもいい! ならば私にどんな質問があると言うんだ?」

 

「簡単なことです。ちなみにあなたにはお子さんがいますか?」

 

「あ、ああ…来年小学校に上がる息子がいるが、それがどうした?」

 

「お子さんがいるのなら、これからわたしが質問する内容を想像するのが楽だと思って。…では質問します。あなたは自分の息子さんとその同級生の男の子を連れて3人で河原に遊びに行きました。しかしあなたがちょっと目を離した隙にふたりとも川に流されてしまったとします。そこにいるのはあなたひとりきりで、子供たちを助けようとしても一度にふたりは助けられません。ひとりを助けている間にもうひとりの子は下流へと流されてしまい助けるのは難しい。この状況であなたはどちらの子供を先に助けますか?」

 

「……」

 

この質問はさっきの「次に大規模な近界民(ネイバー)の襲撃があったら、街の人と自分の家族、どっちを守るか?」という質問と立場や状況こそ違うが同じ内容である。

つまり生命の危機が迫っている二者がいて、家族と赤の他人のどちらを選ぶかというもの。

当然自分の息子を助けたいと思うのだろうが、それを言ってしまえば「他人の子供は死んでもかまわないのか?」とか「監督不行届で子供たちを危険に晒したあなたの責任はどうとるのか?」など周囲からブーイングや質問の声が上がるだろう。

逆に息子の同級生と答えれば「偽善者」とか「あなたのせいで子供を喪った奥さんの気持ちを考えられないのか?」などと言われるに決まっている。

この質問もさっきの男性記者の質問も、答えがどうであっても悪意のある者にからは反感を持たれるようにできているのだ。

なにしろ彼は新聞記者という世間に影響力を与えることのできる立場の人間であるから、彼の答えはどちらであっても反響を呼ぶ。

特にこの会場には彼のライバルである新聞社の記者も多いのだから、返答によっては彼を糾弾することもできる。

彼がどんな答えを出すのか、会場にいたすべての人間が彼を注視していた。

しかし男性記者は青ざめた顔で無言のまま立ちすくんでいるものだから、ツグミはあからさまに「やれやれ」といった顔をして言った。

 

「答えられるはずがありませんよね? この二択の答えはどちらを選んだとしても悪意ある者から揚げ足を取られるようになっているんです。あなたは新聞記者という立場ですから不用意な発言はできません。答えられないとわかっていてわざとこの質問をしました。あなたも嵐山さんたちがボーダー隊員として答えにくい質問をしたんですから同じことです」

 

「……」

 

「あなたは嵐山さんの『自分の家族』という答えに対して『いざって時は街を守らないってことかい?』と言い、別の方はそれに同調して『先の侵攻で親やきょうだいを亡くした人もいる。そういう言い方は良くないんじゃないかな?』と言いました。でも嵐山さんは街を守らないなんて言っていませんし、先の侵攻で親しい人を亡くした方に対して失礼な言い方をしたとも思えません。これは明らかにボーダーの信用を失墜させるための嫌がらせだったのではありませんか?」

 

「そんなことはない!」

 

怒鳴りつける男性記者にツグミはひるむことなく続けた。

 

「もし優先順を『街の人』と答えたら、きっとあなたは『そんな綺麗事ではなく本心を言え』とか言いがかりをつけたのではないかとわたしは思います。そもそも意地悪とは自分がされたら嫌なことであり、自分が答えられない質問をするということは意地悪であるとしか言いようがありません」

 

「ならばきみはさっきの質問にどう答えるんだ?」

 

「ではわたしは()()()()()()()()()()()()()()という仮定でお答えします。わたしはこの二択の質問に『どちらでもない』と答えます。近界民(ネイバー)の襲撃があったら、わたしはそれが誰であっても目の前で助けを求めている人間を助けるでしょう」

 

ツグミの答えの真意がわからない男性記者は怒りの表情で彼女を睨み返しながら言った。

 

「それは答えになっていないぞ。私は街の人と自分の家族のどちらかと訊いたはずだが」

 

「そうですね。しかしこの質問は本来ならわたしがあなたに出した質問と同じで二択では答えられないものなんです。さっき嵐山さんは自分の家族だと答えましたが、実際に近界民(ネイバー)の襲撃があって家族の安否が確認されていない状況でも目の前に要救助者がいたらその人を見捨てることなく助けるはずです」

 

「……」

 

「世の中の出来事は二択で答えられるものばかりではありません。言葉遊びならともかく、現実には二択で答えられないものは多いです。あなたはわたしの出した質問に答えることができなかったのに、『誰であっても助ける』と言う答えを出したわたしを責めるんですか? それじゃあなたは自分の期待する答えを得られなかったとダダをこねている子供と一緒です」

 

挑発をするようなことを言うものだから、男性記者はますます怒りを増す。

 

「なんだと!?」

 

「なぜ怒るんですか? ボーダー隊員であったなら自分の目の前にいて助けを求めている人が街の人、つまり市民であろうと自分の家族であろうと、偶然そこに居合わせただけの運の悪い観光客であっても助けるのが当然なんじゃありませんか? 緊急で助けなければならない人間の氏素性を詮索して、それを理由に助けるとか助けないなんて判断している暇なんてありません。誰であってもわたしは助けます。そしてその結果救助した人がわたしの家族であったとして、あなたは家族を優先して助けたと言ってわたしを批難しますか?」

 

「……」

 

「ちなみにわたしは三門市民で祖母も叔父も三門市民です。三門市民であってもボーダー隊員の家族であれば救助を後回しにしなければならないという規則はないと思いますが、その点はいかがでしょうか、根付室長?」

 

ツグミが根付に訊くと、根付は答えた。

 

「ボーダーの規則に隊員の家族は優先すべきともそうでないとも書かれてはいない」

 

「だそうですよ、新聞記者さん。…もしわたしがボーダーに入りたいと言い出せば、叔父や祖母はきっと反対するでしょう。『なぜあなたが危険なことをしなければならないのか?』と訊かれ、『あなたじゃなくて誰かがやってくれるのだから、その人たちに任せておけばいい』とも言われると思います。そこにいらっしゃる嵐山さんも柿崎さんも家族に反対されたと答えていらっしゃいました。でもおふたりは自分の意思を曲げずに家族を説得して入隊しました。彼らは誰かから近界民(ネイバー)と戦うことを強制されているのではなく、戦う力がある者が戦うのは当然であるという自己犠牲にも似た義務感でこの苦難が想像できる道を選んだんです。来月から高校生になるということですが、きっと普通の高校生活は送れないでしょう。部活動はもちろんのこと、放課後にクラスメイトと一緒にファストフード店やカラオケボックスに行くこともできないと思います。そういった楽しい想い出を作る機会を自ら捨てて三門市民のために戦おうという強い志のある若い隊員を批難するようなことをして大人として恥ずかしくはありませんか? ボーダーに対して批判的な立場であっても末端の防衛隊員への嫌がらせなんてケチくさいことをしないで、堂々とトップの総司令に直接噛み付いたらどうです? まあ、それができないからペンの力でボーダーに攻撃しようというんでしょうけど」

 

「……」

 

「でもいくら『ペンは剣より強し』という言葉があっても、ペンでは近界民(ネイバー)に勝てませんよ。なにしろ自衛隊の最新鋭の兵器がまったく通用しないだけでなく、奴らはこちらの言葉や気持ちなんて理解できないんですから。…ちょっと想像してみてください。あなたがボーダーに対して悪意ある記事を書いて、それが原因でボーダーという組織がなくなってしまい、先の大侵攻のような近界民(ネイバー)の襲撃があったらどうなるかを。ペン1本でボーダーを潰した極悪人として世間からハブられることになるかもしれませんよ。…いえ、あなた自身が近界民(ネイバー)に襲われても助けてくれる人がいないんですから、死んでしまったら後の心配なんて不要ですね。もしボーダーがなくなったらわたしは安心してこの街に住むことはできませんから、さっさと別の街に引越ししますけど、皆さんはどうしますか?」

 

ツグミは会場にいたすべての人間に問いかけたが、誰からも声は上がらなかった。

世界で唯一近界民(ネイバー)に対抗しうる組織「界境防衛機関ボーダー」がない状態で近界民(ネイバー)の襲撃に遭ったら、今度こそ三門市は全滅し近隣の市町村にも被害が及ぶことになるだろう。

この場にいる人間は多かれ少なかれ先の大侵攻を経験して大切なものを失っていて、これ以上何も失いたくはないと思っている。

三門市からどこか遠くの街へ引っ越してしまえば済むことだが、生活の基盤を変えることは容易なことではない。

誰もが心の中で「ボーダーに守ってもらい、このまま三門市で暮らしたい」と思っていても、それを口に出さないだけなのだ。

 

ツグミは男性記者が反論する意欲を失くしたのを確認すると、続いて根付に呼びかける。

 

「今度は質問じゃなくてそこにいる嵐山さんに感想を言いたいんですけどいいですか?」

 

「あ、ああ…手短にな」

 

「ありがとうございます。…嵐山さん、さっきの難しい質問に迷うことなく『自分の家族』と答えたことに胸が震えました。この場合、正直に答えればさっきのように揚げ足を取られてしまいますから普通の人なら答えに迷うと思うんです。でも躊躇せずに言った度胸はすごいなって感じました。そしてわたしも家族のことが大好きですから、あなたの気持ちが痛いほどわかります」

 

「ありがとう…」

 

嵐山は困ったような笑顔で答えた。

 

「それでさっきの言葉の中にあった『()()()()思いっきり戦える』ですが、間違っても()()()()にならないようにお願いします。三門市民はボーダーを頼りにしていますが、あなた方の犠牲は望んでいませんから」

 

「ああ、わかった。約束するよ、絶対に()()()()にはしないって」

 

「ありがとうございました。これで安心してわたしはボーダーを信頼して三門市に住み続けることができそうです。…わたしの用件はこれでおしまいです。たかが小娘のために貴重なお時間を割いていただき誠にありがとうございました。これで失礼させていただきます。お騒がせして申し訳ございませんでした」

 

ツグミはそう言って深くお辞儀をすると、呆気にとられているマスコミや招待客を残してひとり会場を出て行った。

このまま長居をして正体がバレてしまうことを恐れたためである。

なにしろ現役ボーダー隊員であることを隠して一般市民のフリをしていたのがバレてしまったら、さっきの男性記者のようにボーダーに批判的な人間にこのことを利用されてボーダーに不利益を生じさせることになるかもしれない。

だからごく自然に見えるように()()()のだ。

幸い彼女を追いかけて来る人間はおらず、この()()はこれでおしまいとなると本人は楽観的に考えていた。

実際、彼女のことは新聞やテレビといったメディアにはまったく登場せず、あの会場にいた人間だけが遭遇した()()()()となったのだが、それは「大人の事情」による。

この事実が公になるとツグミに批難された男性記者は立場上困ることになるものだから、今後一切ボーダーに対して批判的な記事は書かないという誓約をして、その代わりにツグミの発言をなかったことにしてくれと根付に申し出た。

たしかに彼の質問は嵐山と柿崎に対して悪意あるものだったから、この様子が新聞に載ったりテレビで放映されてしまえば「前途ある若者に対して嫌がらせをした」と市民が思うのも無理はない。

三門市民の大多数はボーダーに期待をしており、反ボーダー思想を持つ新聞社の新聞を買おうとは思わないから販売部数は一気に下降するに決まっている。

さらに彼の新聞社と対立する新聞社はこれ幸いと彼と彼の新聞社を叩くことができる。

もしこの嫌がらせが成功していれば市民の一部を反ボーダー派に引き込むことができただろうが、失敗したのだから社内での彼の立場は微妙なものとなるだろう。

よってこの男性記者は不本意ながらこんな取引を申し出たわけだ。

他社への根回しや招待客への口止めなど面倒なことは多かったが、ボーダー批判をする新聞社がひとつ減ったことは根付にとって歓迎すべきことであったのである。

ツグミ自身もマスコミに騒がれたくてやったわけではなく、自分の()姿()がテレビ放映されなかったと言って憤慨することはない。

むしろ後になって迅から事情を聞いてその影響の大きさに驚き、そして安堵したのだった。

ただしこの()()が城戸たち上層部にバレてしまったものだから、試作トリガーの件は一時凍結ということになり冬島ら開発室の技術者(エンジニア)らに無駄な骨折りをさせてしまったことになる。

そこで彼らに1週間の手作り弁当の差し入れと研究室(ラボ)の掃除をすることで許しを請うこととなったのだが、この事実を知るのはツグミと一部の関係者のみで、ボーダーの正式な書類に記録は残されていない。

 

 

 






前回に続いて今回の話も原作の第142話「柿崎国治」の中で柿崎が回想した4年前の記者会見のエピソードを元にしています。
嵐山が男性記者の底意地の悪い二択の質問に対して「自分の家族」と答えた姿を見て、オリ主は彼が自分と同じ考えの持ち主であることを知って好感度と信頼度が一気に増すことになり、今後の行動にも影響することになります。
オリ主がボーダーで戦う理由は「自分と家族と仲間が一緒にいる日常を守るため」で、7歳の時からずっとその考えは変わらず、彼女の発言や行動のすべてこの理由によるものです。
迅や忍田といった家族や仲間にずっと一緒に笑顔でいたいという自分の願いを叶えるために彼女は行動しています。
彼女がボーダーや三門市民のためにやっているように見えることでもすべては「自分と家族と仲間のため」という彼女を中心とした小さな世界の平穏を守るためのエゴでしかありません。
彼女は嵐山に対して失礼な質問をした男性記者のことが許せなくて、大衆の目の前で恥をかかすようなことをしてしまいました。
ですがオリ主にはまったく悪意はありません。
男性記者がしたものと同じ質問をぶつけ、彼がそれに答えられなかっただけですから。
そして描かれてはいませんが、彼女は()()を知った忍田()()()からこってりと叱られました。
考慮すべき事情はありますがこれは「トリガーの私的利用」であり、直属の上司である本部長から叱られるのは仕方がありません。
しかし叔父としての忍田からは褒められることになります。
以前からボーダーに対して批判的な記事を書いてきたこの男性記者にいろいろ含む所があったもので、オリ主の胸のすく行動で忍田は溜飲を下げることができたのですから。
なお186話と187話は本編には深く関わってこない番外編的なものですが、原作を読んでいて感じたことをオリ主の口を借りて言いたかったものですからあえて本編の過去編として描きました。
嵐山が「家族が無事なら何の心配もないので、()()()()思いっきり戦えると思います」と言った言葉ですが、彼の性格ですと最悪の場合「最後まで」が「最期まで」になってしまいそうで、危うい感じがしたのです。
なのでオリ主に「間違っても『最期まで』にならないようにお願いします。三門市民はボーダーを頼りにしていますが、あなた方の犠牲は望んでいませんから」と言わせることにしました。
嵐山が家族のことを誰よりも深く愛しているのと同様に、彼の家族も彼のことを愛しているのだから無茶をして命を落とすようなことがないようにという注意喚起をしています。
「大切なもの・人のために戦って死ぬことは尊い行為で賛美すべきものである」という()()()()認識を隊員・市民双方に植え付けてしまうのは非常に危険なことです。
よってボーダー隊員には「大切なものを守るために死ぬのは本望である」ではなく「死んだら哀しむ人がいるのだから絶対に死んではいけない」、市民には「ボーダー隊員は市民を守るためなら死んでも仕方がない」ではなく「ボーダー隊員は自分の家族であり友人であり仲間であるのだから彼らに犠牲を強いてはいけない」と認識させる必要があり、それをオリ主の口を借りて言わせたのです。


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